異世界で生きたくて   作:自堕落無力

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二十二話

 

 

 本日、ミドガル魔剣士学園の敷地内にて特別に用意された会場で『ブシン祭』の学園枠を決めるための選抜大会が行われていた。

 

 『ブシン祭』へは出場するだけでも誉れ高いものであり、だからこそ魔剣士を志す学生はこの選抜大会に全てを懸けて挑んでいる。

 

 そうした、未熟ながらも懸命に鍛錬を積み、力に技、知恵を付けて試合で勝利を掴むために戦っている者の戦いであり、勇姿、闘志のぶつかり合いは誰にしても観客の目を惹き、気分を高揚させて、夢中にさせた。

 

 そもそもにして、『戦い』とは生物が生きる上で常に身近にある概念の一つだ。

 

 そうして、魔剣士たちの戦いに会場が沸き上がっている中で特に観客の目を惹き、高揚高まって逆に落ち着かせ、自分の戦いに夢中させる者が居る。

 

 この今、まさにその戦いの舞台を自分が主役の舞台に塗り替え続けている人物の戦いが行われていた。

 

 

「……っ、はあっ!!」

 

 薄がかった茶色の髪で前側をピンで留めている女性、現魔剣士団長の娘であるキシメ・ケンマが自然体で構える対戦相手のシドと対峙し、深呼吸すると一気に突進する。

 

 因みに彼女の実技科目は王都ブシン流であり、その教室は一部。現在は実質、シドが講師となってしまっていて、その教えを受けているとあって、彼女はシドの実力を十分過ぎる程に知っている。

 

 故にせめて、シドの教えを受けて自分がどこまで成長したかを見せようと彼女は自分の全力をシドへとぶつけた。

 

「ふっ!!」

 

 その一閃に対し、己の剣を添えながら勢いを利用するようにして相手の死角へと滑り込み、そのままシドは相手の首筋に剣を置く。

 

 その一連の動作自体はあくまで基礎の動きであり、魔剣士の誰でも模倣自体は出来る。しかし彼と同じ精度であり、同じ域でこなせる者は居ない。

 

 彼の繰り出す技の動作、一つ一つが尋常ない程に積み上げた基礎の塊であり、絶技の域に到達しているがゆえに……。

 

 だからこそシドの血と汗、努力の結晶による剣技に魔剣士の誰もが、更には学術学園の生徒までもがシドの戦いに魅了される。

 

 

 

 

「シド君、本当に凄い……お義父さんなら、なんて言ってたかな……」

 

 観客席で懸命に応援しているシェリーはシドの勇姿に見惚れながらも、現在はどこかへと旅立ってしまった義父であり、かつては『ブシン祭』の優勝者であるルスランの事を思いながらそんな事を呟いた。

 

「うふふ……シド君の剣はいつ見ても素晴らしいですね。もっと私も頑張らないと」

 

 一回戦で長年、自分の恩人であり、憧れであり、目標、もっと言えば慕い続けていた魔剣士であるシドと再会し、戦ったローズは負けこそしたが気分としては至福であった。

 

 ずっと思いを馳せていたのが再会したのを切っ掛けに爆発をしたとも言える。ともかく、彼女も観客席でシドに見惚れながら、応援している。

 

「ああ……例え、遊びのようなものと言えど……対峙する相手に全力で応じるシド様は本当に素晴らしいです」

 

 そして、ナンバーズとしては新米ながらもシドの連絡役という栄誉ある仕事を担っているニューもシドの勇姿の一つ、一つに感動し、心を高鳴らせながら『シャドウガーデン』の幹部構成員たちのために持ち込んでいるイータ作の超高性能カメラと映像を動画として撮る事の出来るアーティファクトでシドの戦いの一部始終を撮り続けていた。

 

 ともかく、シドは準決勝の試合に勝ち……

 

「あぅ……やっぱり、強いなぁシド君は……」

 

 対戦相手のキシメがシドと握手を交わしながら言う。

 

 

 

 「ありがとうございます……でも、キシメさんこそ先程の一撃は中々、鋭い一撃でしたよ」

 

「それはシド君の指導のお陰だよ。いつもありがとうね」

 

「いえいえ」

 

 

 そうしてキシメとの試合に勝ったシドは控室の方へと戻っていき、次に行われる準決勝の組み合わせは……。

 

「クレア・カゲノー対アレクシア・ミドガル」

 

 この組み合わせを聞いてシドとクレアが姉弟である事、少なくとも学園の生徒の殆どの認識では付き合っている関係であるシドとアレクシアの事から鑑みて……。

 

『恋人が相手の姉に自分を認めてもらう試練じゃん、これっ!?』みたいな場違いな事を思ったりした。

 

 当然、当事者である二人にしても……。

 

「ふふ、ちょうど良いわ……全てをぶつけて挑んできなさい、アレクシア王女。余すことなく、見定めてあげる」

 

「最初から、そのつもりです」

 

 クレアは暗にシドに相応しいかどうかを見る事を告げ、アレクシアは望むところだと応じる。

 

 

 お互い、剣を構え……。

 

「試合開始っ!!」

 

「はあああっ!!」

 

 試合の合図と共に全力全霊、シドに倣った魔力の圧縮と開放技術をも使い、まさしく閃光の矢の如く、駆け抜けてクレアへと向かっていく。

 

「ふっ!!」

 

 だがクレアも又、シドに魔力制御を習い、昇華し続けた者。ましてやアレクシアよりシドとは長年、腕を磨き続けた者である。

 

 よって、正面から叩き伏せるべく魔力の圧縮と開放による超高域の身体能力強化をしながら、壮絶なる剛剣へと高めた剣技を振るい迎撃する。

 

「ぐっ、う……」

 

 アレクシアの剣はクレアによって押し返され、そのままアレクシアを倒れさせようと迫る。努力と経験の差が勝利要因となってアレクシアを敗北させようとするが……。

 

「まだぁぁぁぁっ!!」

 

 しかし、敗北確定だからといって諦める事などアレクシアはしない。むしろだからこそ、それを覆そうと意思の炎を燃やし、原動力へと変える。

 

 本気という名の炎を燃やし、全てを懸けて物事へと挑む事の重要性――それをアレクシアはシドから教わっているのだから。

 

そして、意思の熱量が加わったアレクシアの剣は……。

 

()()()()()()()()()

 

「っ!?」

 

 確かにクレアの剣を押し返したが、クレアはシドと深く付き合うなら()()()()()()()だとそれを見越していた上で次なる剣を繰り出そうと備えていた。

 

 よって……。

 

 

 

「はあっ!!」

 

「っ、うくぁっ!!」

 

 無理やり剣を引き戻して盾にしたが、アレクシアはクレアの剣によりそのまま地面に切り伏せられた。

 

「勝者、クレア・カゲノー!!」

 

「及第点は上げるわ。アレクシア」

 

「はい、クレア姉様」

 

 そうして、クレアは倒れているアレクシアに手を差し伸べ、クレアの手を取り、アレクシアは立ち上がると二人、微笑み合いながら関係を深めたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 準決勝を終え、いよいよ始まるは『ブシン祭』への出場の座を賭けた決勝戦。

 

「いくわよ、シド」

 

「うん、姉さん」

 

 少し時間は置いたが今までのようにやってきた姉弟による決闘――どちらも勝者となるべく、構えを取った。

 

 そして、クレアはシドの構えを見て……。

 

 

 

「(……嬉しいわ、本当に本気で来てくれるのね)」

 

 今まで、王都ブシン流の構えであったが現在の構えはブシン流どころか他の剣技のそれとも違う構え。彼が自分の才覚で編み出した彼特有の剣技のそれだとクレアは気づく。

 

 

「(ちょっとは近づけたと思ったのになぁ……)」

 

 そして、だからこそ自分との実力差にも気づいてしまった。シドは剣士として遥かなる高みの、自分では到底、辿り着けない領域に居る事に……。

 

 とはいえ、だからこそクレアも又、全力全霊を超えた限界以上の力を持って挑む事を決めている。

 

「試合開始っ!!」

 

 クレアもだが、観客も皆が固唾をのむ中、その時は、決勝戦の開始は訪れる。

 

「しっ!!」

 

「ふっ!!」

 

 クレアとシドの姿がどちらも瞬時に消え、次の瞬間には中央で落雷の如く降り注ぐ二つの剣閃が交差する。

 

「……強くなり過ぎでしょ、本当に」

 

 シドの剣撃によって剣を折られながら、自分が切り伏せられるイメージすらも叩き込まれたクレアはその衝撃に地面へと倒れ伏す。

 

「姉さんと同じく、俺は負けず嫌いだからね」

 

 クレアとの約束通り、自分自身の剣技という本気によってクレアを下したシドはそう苦笑して言った。

 

「勝者、シド・カゲノーっ!!」

 

『うおおおおおっ!!』

 

 こうして、シドは学園選抜大会に優勝し、『ブシン祭』に学園枠としての出場が決まったのであった……。

 


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