桃香とディバルのトラブルは何とかその日のうちに解決した。その後、桃香達は義勇軍参加者の選別を何とか行い、いよいよ明日、広宗へむかうこととなる。
しかし、桃香は広宗に向かうにあたり懸念していることがあった。それは桃香が密かに密偵などを放ち(密偵と言ううものの実際は本職には遠く及ばないものではあるが)集めた情報によれば……。
――広宗に張宝あり。
密偵の報告に桃香はどうしたものかと頭を悩ませる。
(どうして張角
桃香は疑問が尽きなかった。まず、張角三兄弟は一緒に行動しているはずなのだがどういう訳なのか持ってこられた報告によればどうも張宝は張角、張梁と別行動しているようだ。何故張宝だけ別行動しているのか理由がわからない。
その為本来ならばこのような話は根の葉もない噂話と済ますところなのだが、火の無いところに煙は立たぬ。
もしかしたら、張宝が他の兄弟二人と喧嘩別れしてしまったのではないかと桃香は高くない可能性をも考えてしまっている。
「桃香……。少々それは考えすぎじゃないか? 言っちゃあなんだが、桃香が放った密偵てのは
「私もディバル殿と同じ意見です。あまり難しく考えすぎぬほうがよろしいかと」
この情報をどう思うか、桃香はディバルと星に意見を求めたが二人は難しく考えすぎではないかと言うものだった。
「う~ん……。確かに考えすぎかもしれないけど、物事は常に最悪の状況を考えるべきだと思って……」
「言いたいことはわからんでもないが、低い可能性の事を気にしてもしょうがないと思うんだが……」
「それに、桃香様が密偵を放って情報を集めたと言っても短い時間でのこと。正確な情報を手に入れるのはいささか時間不足かと……」
しかし桃香は二人にそういわれても、この情報が気になってしょうがなかった。
桃香達の話し合いは中々前に進まなかった。
最初こそ考えすぎではないかとディバルと星が言っていたものの、桃香の言う通り最悪の事態は常に考えるべきだというのは理解できるため、最終的に張宝の事を考えどうするべきかとなったのだが……
「正直……張宝がいようがいまいが広宗に向かわなきゃいけないことに変わりはないしなぁ……」
「広宗に張宝さんがいるみたいだから救援に向かいませんなんて言えないもんね……」
ディバルのボヤキに桃香も苦笑気味に返す。敵が強大だから援軍を断るなど世情でどのような罵声を受けるか分かったもではない。それに桃香達の義勇軍は曹操の援助を受けているのに肝心の広宗への援護に向かわないというのも、より印象が悪い。
「……曹操殿に事情を話しもう少し義勇軍の兵の募集を多くできるようお願いしてみるのは?」
「う~ん……。それは無理かな。いくら何でも確かじゃない情報じゃあ、曹操さんだって首を縦に振ってくれそうにないと思うよ?」
「ついでに言うなら、時間も余りないだろうしな。指定してきた募集期間が一週間だったことを考えれば、出来るだけ急いで救援がほしい可能性だってある」
ああでもないこうでもないと三人は頭を悩ませる。何度言うが時間も少ない。早く何らかの案を出すべきなのだが、話がまとまらない。
そうして会議が硬直状態のところに、一人の義勇兵の声が聞こえてきた。
「会議中、申し訳ありません。少しよろしいでしょうか?」
「あ、はい。どうしたの?」
桃香は会議を一旦止め、報告に来た兵を天幕に入れる。
「は! 実は子供二人が義勇軍に入れてくれと余りにしつこく頼み込んできて……。我々では話にならぬと思い劉備様に直接断っていただければ子供たちも納得すると思い……」
「そんなことで会議中にも関わらず来たというのか?」
兵の報告内容に星は視線を鋭くし、にらみつける。軍議のさなかに持ってくるような内容ではない。重要案件でもないのに、会議を中途半端な形でいったん止められればいらだちもする。兵は怯えながらも話を続ける。
「ひっ…。し、しかし我々ではその子供をうまくなだめることができず、下手に追い返せば劉備様の名に泥を塗るのではないかとお、思い……まして……」
星の鋭い視線に最後の方は途切れ途切れになってしまったものの、理由を説明した。
「星、そうにらむなって。怯え切っちまってんじゃねえか」
報告に来た兵の怯えようを見てディバルは星を落ち着かせようと声をかける。
「それに、こいつだって会議中に持ってくる内容じゃないってのはわかってるはずだ。でも来たってことは本当にてに負えない状態だってことなんだろ?」
「は、はい。一度劉備様に合わせて話をさせてほしいと鬼気迫る勢いで頼み込んできて、会うまでは諦めないと涙目になってまで言うものですから我々もどうしようも……」
「そこまでか……」
兵の疲れ切った表情からよっぽどのことだとディバルはすぐ理解した。
「……わかりました。では、私から話をしたいと思います。案内してください」
「!? 桃香様! 何を……」
「星さんが言いたいことはわかるよ。でも、この人の顔を見れば自分たちの手に余ることだと判断して私を頼ってきたのだから、ちゃんとしたいの。それに結局、会議の方も中々進まない状態だったし、一度頭をスッキリさせよう」
桃香の言葉に星は溜息を吐きながらも了解の意を示した。
「……わかりました。しかし、本当に我々を呼ばねばならないほどの事か確認するため私も同行します」
「ありがとう星さん」
「……まあ、桃香が言ったとおり、どうせいい案も出なかったんだ。休憩代わりと考えていいだろ」
「ディバル殿……。それは流石にどうかと思うが」
ディバルの発言に星は少し呆れたかにように言う。
そして桃香達はトラブルの現場へと向かう。その道中ディバルは何か考え事をしており桃香と星は気になったが、ディバルの方がたいしたことではないと返す。
しかし、ディバルはあることを考えていた。
(子供二人ね……。普通に考えたらその子供って……。まあ、余り期待しないでおこう)
「つきました。こちらになります」
そうこうしているうちに現場へとたどり着いた。
「お、お願いします! どうかこの義勇軍の指揮官さんだけでも会わせてください!」
「おねがいしましゅ!」
「今、別の者が話を聞きに行ってるから少し落ち着いてくれ……」
今、兵が対応している二人の子供は今にも、というかすでに涙目になって懇願しており、兵の方も必死な顔をしている子供を無下にはできない。何とか穏便に事を済ませたかったようだが、。うまくいかなかったらしく疲れた顔をしている。その光景を見て、桃香はもちろん、星も兵たちが困るのがよく理解できた。
「なるほどな……。確かにあれは扱いに困るな」
「ええ。最初は下らんことで呼ぶなと思っておりましたが……。確かにこれでは桃香様のご助力を願いたくもありますな」
ディバルの率直な言葉に星が返す。桃香は一部を除き、相手に好印象を持たれやすいが特に子供からの受けが良い。警備の者が桃香に助けを求めるのも当然と言える。
「じゃあ、行こっか二人とも」
桃香の声にディバルと星はうなずき近づいていく。
「劉備様!」
「「!!」」
桃香が来たのに気づき兵は慌てて頭を下げた。
「ご苦労様。後は任せて」
「申し訳ありません! 大事な話し合いの最中だというのに…」
「気にしないでいいよ。自分で出来る限りの事をしようとしてくれてたのはわかるから。だから後は任せてね」
「はっ! ありがとうございます!」
桃香は兵にそう言って下がらせ騒動の原因である子供と向き合う。
「え~と……二人の名前は?」
桃香は優しく話しかけ名前を尋ねる。
「わ、私はしょ、諸葛孔明れしゅ!」
「私はあの、えと、その、ほほ、ほーとうでしゅ!」
「あはは。二人とも落ち着いてね?」
緊張しているのか下が回らなくなってる二人を桃香は落ち着くように話しかける。
「んーと……諸葛孔明ちゃんと……」
「ほ、鳳統でしゅ! あう……」
「大丈夫、ゆっくりでいいからね鳳統ちゃん」
「は、はい……」
孔明より緊張していたらしい鳳統も少し落ち着いてきたようだ。
「それで、二人はうちの義勇軍に入りたいって言ってたみたいだけどどうしてかな?」
「あ、あのですね、私たち二人は荊州の水鏡先生と言う方が開いている私塾で学んでいたんですけど、でも今この大陸を包み込んでいる危機的な状況を見るに見かねて……」
「力の無い人たちが悲しむのが許せなくて、その人たちを守るために私たちが学んだことを活かすべきだと思ったんですが、自分たちだけの力じゃどうしようもなくって……」
「そこで風の噂で聞いた広宗で戦っている劉備様達が率いる義勇軍の話を聞いて思ったんです。劉備様の考えていらっしゃることが私たちと同じだって思って。義勇軍なら常に人を欲しているだろうと思って広宗へと足を運んだんですけど……」
「ああ………ちょうどすれ違っちゃったんだ」
きっとその時には頴川に向かっていた時なのだろう。
「そ、それでこうして頴川に来てちょうど義勇軍募集の話を聞いて……」
「仲間に入れてもらえるなら今しかないと思い、急いできたのですが、義勇軍の募集も終わりだと言われたんですけど、それでも諦めきれなくて……」
それで今に至るというわけだ。桃香は二人の話を聞き、どうしようかと考える。
一方、ディバルは孔明と鳳統の話を聞きながらあることを考えていた。
(やはり諸葛亮と鳳統か……ここはまだ恋姫通りなのか)
子供二人と聞きディバルは原作での知識をおぼろげながらも思い出しこの二人であろうと思っていたが、実際考えてた通りでホッとする。
(なんだかんだで原作や演義とも大分違うところが多かったからな。全く違う可能性も考えていたが……二人で助かった)
北郷をはじめとした
(もう、
今いるのはゲームではないのだから当たり前の話であるが、この外史は今この時代に生きている人間によって紡がれるものだ。原作である恋姫無双とモデルである三国志演義と同じように進むわけではないのである。
ディバルもそのことは重々承知しているがやはりと言うべきか、原作知識や未来知識に思考が引っ張られやすい。知っているが故の弊害とも言うべきか、余り柔軟な考えができないでいた。そのため、ここで孔明たちが仲間になってくれるなら桃香だけでなく、ディバルとしても大変ありがたい。
ディバルがそうこう考えているうちに孔明と鳳統の話が終わり、桃香はどうしようかと考えている。
(う~ん……二人の気持ちは伝わったけど、チョット歳が幼すぎるようにも思えるしなぁ……)
桃香は二人の話を聞き、その熱意は伝わったものの、自分よりもさらに若い二人を連れていくのはどうだろうと悩む。そこに、
「桃香。別に仲間に加えてもいいんじゃないか?」
「? ディバルさん?」
ディバルが孔明たちを迎え入れるよう言ってきた。ディバルとしてはここは何とか孔明たちを仲間に迎えたいところなのである。
「確かに見たところ孔明たちは武に優れているわけでも、体力的な自慢もあるようには見えない。しかし、話しによれば私塾で学んでいたというじゃないか。戦で必要なのは何も腕っぷしだけじゃないだろ?」
「……軍師として仲間に入れたいってこと?」
ディバルの話を聞き桃香もその考えに納得する。
「ふむ、確かに……」
そしてディバルの言葉で星も孔明たちの義勇軍入りに肯定的なようだ。
「……」星さんも賛成ってことでいいのかな?」
「まあ、一応は……」
二人が孔明と鳳統を迎え入れるのに肯定的で、ディバルの意見も納得できるものだ。桃香としても不安要素こそあれど、だからと言ってここまで必死な想いで義勇軍に参加したいと言ってくれたものを無下になどしたくはない。
「……二人とも賛成なら孔明ちゃんたちを仲間に入れるってことでいいね?」
「桃香はいいのか?」
「……私としては幼い二人にはできるだけ争いごとに関わってほしくないって思うけど、孔明ちゃんと鳳統ちゃんは真剣にこの国の未来を憂いてここまで来てくれたんだもの。ならその意思を尊重したい」
そう言って桃香は孔明たちに向き直す。
「孔明ちゃん、鳳統ちゃん。私たちの軍は未だ弱小勢力だけど、それでも私たちの仲間になってくれる?」
桃香は真剣な目つきで二人の顔をじっと見つめる。
「はひっ!」
「がんばりましゅ!」
「あ、あはは……大丈夫かな?」
再び緊張してカミながら返事する二人にちょっと不安になった桃香だった。
昨日投稿するつもりが、思いのほか時間がかかってしまいました。今現在、次話を制作しているところなので、遅くとも今月中には投稿したいと思います。