桃香たちが配置された戦場は、曹操が言ったとおり、最前線であった。
「くそ! ふざけやがって!」
設置した天幕の中でディバルが悪態をつく。戦場以外でここまで感情的なるのは珍しかったが、ディバルは曹操の近くにいた青年―――」一刀が転生者であると推測していた。そしてこの状況も一刀の入れ知恵だと考えた。だが、実際には曹操の考えであり、囮の役割もあるが、曹操は桃香に英雄の素質を僅かながらに感じ取り、乗り越えられるかどうかを試す意味合いがあるのだが、ディバルに知る由は無いもで割合とさせてもらう。
「荒れてるなディバル。少しは落ち着いたらどうだ?」
星が荒れているディバルを落ち着かせようとするが、星自身も少し怒りの表情をあらわにしていた。だが、それも仕方がないことやも知れない。なにせ明らかに自分たちに生きた囮役を与えられたようなものだ。捨石扱いされれば、誰とて嫌な顔をするだろう。しかし、それでもディバルは苛つきを隠せないようだが
「落ち着いてディバルさん。これから作戦を考えないといけないんだから」
「う……」
「やれやれ、桃香様の一言で静まるとは」
桃香の言葉でおとなしくなるディバルに星は呆れる。
「それで?これからどうする?いくら何でも数が違いすぎるぞ」
ディバルの言うとおり、たった五百の兵で真正面から戦えば敗北は必須。だが、桃香は
「ねえ、二人ともこの地の黄巾賊は手強いのは分かるよね。前任の朱儁将軍が撃退できず、曹操さんが赴任するぐらいに」
「ん? そりゃそうだが。どうした? そんな分かりきったこと聞いて? 何か策が?」
「うん、一応はね。ある考えはあるんだけど……」
桃香は少々答えにくそうにする。
「そりゃあ一体?」
「いかなる策で?」
ディバルと星がどんな作戦なのかきく。
「この地にはかなりの長い草が多く茂っているでしょう? だから夜襲をかけて火攻めにすれば一気に火の手が回ると思うんだ」
「なるほど、確かにここいら一帯、凄い草が多く茂っているからな」
「しかし、いくら夜襲といっても自分たちより圧倒的に数が少ないのが分かれば、黄巾賊の連中は襲い掛かってくるのでは?」
この頴川は広大な原野が広がっており、黄巾賊が陣を張っている場所の周りにも、丈の長い草が生えている。ディバルはなるほどとうなずくが星はいくらなんでも自分たちより圧倒的に少ない部隊に気づき逆襲するのではと言う。
「うん、それに対しては一人約十把ずつ松明を持たせるつもり。そうすれば例え黄巾賊の人たちが見ても、まさか五百そこいらの人数での仕業と思わず、官軍の総攻撃と勘違いするんじゃないかと思うんだ。そうなれば彼らは慌てて指揮とかそれどころじゃなくなって、総崩れすると思う」
「ふむ」
桃香の説明を聞き、星も納得する。これなら数が少なくても勝機を見出せるだろう。
「なるほどな、これなら圧倒的な兵力差でも勝てるかも知れんな」
桃香の説明にディバルも理解する。
「うん、そこでディバルさんには何名か工作が得意な人と共に、多くの松明をもてるように
「任せてくれ」
「星さんは直ちに兵たちに準備させてください。敵も最前線に陣を張ったのが私たちのような少数勢力であることが分かればすぐさま攻めて来る可能性があります。ですから出来るだけ」
「承知しました。兵たちに説明しいつでも動けるように準備いたします」
星も桃香の指示に了解する。
「見てろ曹操。俺たちの底力見せてやる」
ディバルは曹操に囮役としてここに配置されたことに思うことがあるのか、嫌悪を表しながら天幕からでていく。星もそれに続くように出て行く。
「………」
桃香は策の詳細をつめるため天幕に残り、先に放っていた斥候の報告によりてにいれた地形の情報(といっても大まかなもの)を確認していたが、あることが気になった。
(どうして曹操さんは私たちを最前線に配置させたんだろう?)
桃香の疑問は、自分たちをこのような最前線にたたせたことに疑問を感じた。
(確かに囮として配置させたとは思うんだけど、どうして活躍できる機会を与えてくれたんだろう?)
桃香の疑問は尤もである。いくら廬植からの紹介状があったといえど戦う機会を与える必要などない。今まで桃香が会った官軍は人の良い人物が多かったが、本来ほとんどの官軍は桃香たちのような義勇軍が活躍されることを快く思わない。最前線に立たせるより、重要ではあるが余り評価されない輜重の攻撃。悪ければ撤退する時に、殿として使われたりする可能性もある。
だが、曹操は危険ではあるが、最前線で戦うことを許可したのだ。無論、囮として見られているかもしれないが、曹操なら別の指示を出してもおかしくない。確かに常識的に考えて桃香たちが勝てる確立は少ないことに変わりはないだろうが
(それでも曹操さんのあの目は、明らかに私たちが勝てるかのように見ていた気がするし……)
桃香は気のせいかもしれないと思いつつも、曹操が自分たちに何か期待しているかのように感じた。
(まあ、私たち義勇軍が敗走しても曹操さんたちには損なんてないしね。とにかく今はこっちに集中しないと)
桃香は策の詳細をつめることにした。
そして、夜になった。
桃香たちは作戦通りに改造された背負子に詰まれた、まだ火をつけていない松明をつみ静かに寝静まったであろう黄巾賊の陣地に近づいていく。そして陣地が視認できる距離まで近づくと、桃香は足元の草を幾らか引き抜き上えと投げる。これは敵に気づかれないかどうかの実際に行われたことのある確認方法である。
そして、特に反応も無かったため桃香は剣を抜き、挙げる。これは松明に火をつける合図だ。そして背負子に積まれている松明に火をつけていく。全ての松明に火をつけ終えるの確認すると、桃香は掲げていた剣を振り下ろした。そして
ジャーン! ジャーン! ジャーン!
銅鑼が鳴り響く。寝静まっていた黄巾賊は慌てて飛び起き何事かと出てみると、
「ぎゃぁぁ!? 官軍だ!?」「それもかなりの数だぞ!!」「逃げろ! 皆殺しにされちまう!」
黄巾賊は松明の明かりを見て大軍での夜襲と思い慌てふためく。
「今です! 松明を投げ込み、攻撃を仕掛けてください!!」
そして、桃香も指示で義勇軍たちは松明を投げ込み攻撃を仕掛けていく。投げ込まれた松明は黄巾賊の天幕、そして周りの草に瞬く間に燃え移っていく。黄巾賊たちは我先にと逃げ出し、戦う気を完全になくしていた。中には槍や剣をとり応戦しようとするものもいたが、不意をつかれたためか完全に立ち直れておらず、ことごとく討ち取られていく。
「! そう、始めたのね」
曹操は突然の銅鑼の音にも驚かず冷静である。まるで知っていたかのように。そして
「華琳様!」
「どうしたの秋蘭?」
夏候淵が曹操の天幕に、慌ててはいる。
「はっ! そ、それが……」
「何?」
「その、劉備率いる義勇軍が黄巾賊相手に、火攻めによる奇襲をかけた模様です」
「そう……」
夏候淵は言いづらそうにしながらも、劉備が奇襲をかけたことを報告するも、曹操はいたって冷静だった。
「それで、状況は?」
「はっ! 夜襲は成功したらしく、黄巾賊はうまく連携が取れないらしく、義勇軍に一方的に討たれています」
夏候淵は冷静に勤めようとしているが、義勇軍の何倍もの戦力を有する黄巾賊が、夜襲を受けたとはいえここまでほぼ一方的にやられている事実に驚いているらしく、声が少し震えている。
「そう、」劉備はうまくやったようね」
「華琳様?」
曹操はどこか嬉しそうな顔をしていた。
「ならば、我らもこの機に乗じるぞ。ほかの者たちに連絡をまわし、急ぎ戦の準備をさせよ! 秋蘭は皆に連絡した後、劉備の援護に向かいなさい。いくら火計を成功させたとはいえ、義勇軍の数は遥かに少ない。急ぎ救援に向かいなさい」
「は!!」
夏候淵は曹操の命令で天幕から急ぎ出て行く。
「さて、私も急がないとね」
曹操は小さく笑みを浮かべ、自身も戦場に出るため天幕から出る。
曹操軍の陣営から多くの部隊が出て行く。桃香の策に乗じ、黄巾賊を討つためだ。
「くそ!!」
その中の一人、北郷一刀は悪態をついていた。
(こんなの原作にはなかったぞ! というよりも魏ルートでこのタイミングで劉備と会うなんてなかったはずだ!)
北郷は原作と違うことに苛立ちを隠せないでいた。そもそも、関羽と張飛を引抜した形で桃香から離れかせ、自分と共に曹操の下に来ている時点でかなりの改変だというのにそのことを全然理解していないようだ。
(劉備の近くにいた男。アイツも転生者か? ……なら納得いくか?)
ディバルの行動で桃香が来たのかと北郷は考える。
(何にせよ、華琳の邪魔はさせない!)
「お兄ちゃん! 黄巾賊の陣と劉備のお姉ちゃんの部隊が見えてきたのだ!」
「何!」
張飛が北郷に呼びかける。張費の言うとおり、黄巾賊と義勇軍が戦っている(といってもほとんど義勇軍が黄巾賊を討っているだけだが)のが見えた。
「よし! 皆いくぞ! 義勇軍なんぞに遅れをとるな! 戦についてはほとんど素人のような奴らに遅れるんじゃないぞ!! 突撃!!」
北郷はそう抜刀し突撃の号令をかける。北郷は先陣を切り兵士たちはそれの後についていく。
「……」
ただ、その中で、関羽は難しい顔をしていた。
「どうしたのだ愛紗? もうすぐで敵陣なのだ」
「ああ、すまん鈴々。なんでもない。気を引きしねばな」
関羽は張飛に謝罪し、大混乱の黄巾賊へと切り込んでいく。
翌日
結果は、桃香の火攻めの計は成功し、後から来た曹操軍も加わり頴川の黄巾賊を撃退することに成功した。
そして、桃香、星とディバルは曹操軍本陣まで来ていた。
「劉備、此度は良くやったわね。見事な火計だったわ」
「ありがとうございます」
曹操は、桃香に今回の火計を褒める。
「だけど、できれば奇襲することに対して報告はほしかったわね。そうすればもう少しうまくいったはずよ。幾らか逃げ出した黄巾賊もいたみたいだしね」
「それは……申し訳ございません。私の配慮が足りませんでした」
だが、曹操の言うとおり、夜襲についての計画は報告しておいたほうが良かっただろう。そうすれば黄巾賊を殲滅できたかもしれない。
「まあ、貴方たちは正規の軍ではないし、この功績を考えればこれ以上何か言うのも野暮ね」
が、曹操は笑ってそれを許す。
「さて、昼間から酒をというのはどうかと思うけど、義勇軍の者たちに酒を振舞うよう指示したわ。よく味わって頂戴」
「ありがとうございます」
曹操は義勇軍に酒を振舞い労をねぎらう。
「貴方たちも馳走を用意しているわ。といってもこんな前線だからそこまでたいしたものは用意できなかったけどね」
「いえ、そのお心だけでも嬉しく思います」
「そう? まあ、ゆっくりしなさい」
曹操は劉備たちにも馳走を用意しねぎらう。曹操軍の幾らかの面々も参加していた。
「劉備」
「はい?」
軽い宴会が終わり、自分たちの陣地へと戻ろうとしたとき、桃香は曹操に呼び止められた。
「少し話しをしたいのだけれど、いいかしら?」
「ここではダメなのですか?」
「ええ、二人で話しをしたいの」
「分かりました。ディバルさん、星さん。先に戻っててくれないかな」
桃香はそれを了承し、ディバルと星に先に帰るよう言う。
「わかりました。しかし、桃香様いくら味方の陣地内とはいえお気をつけください」
「もう、大丈夫だよ。心配要らないって」
星は了承するも、少々心配しながらも、桃香に戻るよう促される。
「……」
「ほらディバルさんも」
桃香はディバルにも戻るよういうが
「いや、俺は残らせてもらいたい」
そう断った。
「ディバルさん? 私は大丈夫だよ?」
桃香は心配要らないと伝えるが、それでもディバルは桃香を待つと言う。
「・構わないでしょう劉備。その者はただ純粋にあなたの事が心配なのよ。ここは自分たちの陣地じゃないからね」
「……」
曹操はディバルが自分を警戒しているのだと暗につげる。
「安心なさい。この曹孟徳、そのような真似はしないわ」
「信用できると?」
「ディバルさん!!」「ディバル殿!!」
曹操を信用できないらしく険しい表情を見せ、にらみつけるディバルに桃香と星は声を上げる。
「我が誇りに誓うわ」
「………わかった」
やっとディバルが了承し桃香も星もホッとする。曹操は気にした様子はないがディバルの行動は問題だ。
「申し訳ありません曹操さん。ディバルにつきましては後ほど罰を……」
「気にしなくて良いわ。その者の態度は、少々行き過ぎていたにしても余り間違いとはいえないもの。いくら今は味方とはいえ、よく知らぬ者に自分の主人と二人きりにしたくはないでしょうしね。だから劉備。別に罰せなくても構わないわ」
「……寛大な処置に感謝します」
そして、桃香と曹操はその場から移動し、ディバルと星が残された。
「まったく、先ほどは肝が冷えたぞ」
「……すまん」
星の言葉にディバルは素直に謝罪する。
「ディバル殿、何故あのような態度とった。確かに警戒することに越したことはないが、あれはやりすぎだ。下手をすれば桃香様にも迷惑がかかっていたところだぞ」
「う……」
ディバルの行動を星は咎める。だが星の言うとおり、下手をすれば桃香にも迷惑がかかってしまうところだったのだ。多少言葉がきつくなったとしてもこれはしっかりと言い聞かせなければいけないだろう。
「すまない」
「まったく。……しかし、らしくないな。確かにディバル殿は気が短いほうではあるが、時と場合は分かっているはずであろう?」
星はディバルの行動に疑問を投げかける。星の言うとおり、ディバルは気が短くはあるが、だからといって桃香の迷惑になるようなことをすることはない。先ほどのことにしても、桃香が注意したのに曹操をにらむのをやめなかったことに星は驚きを隠せない。
「すまん、最初に曹操から囮として最前線に立つように言われたことで、警戒しすぎていたようだ」
「ふむ、そうか」
ディバルがまだ何か隠しているように思えたが、星はそれ以上追求するのをやめた。
「星、すまんが先に戻っていてくれんか?少し頭をスッキリさせたい。散歩にいってくる」
「ふう……わかった。余り遅くならないようにな」
「ああ」
そういって、星は先に戻っていく。
「……」
ディバルは星が見えなくなるのを待ち、天幕の後ろを見るかのように振り向く。
「隠れてないで出てきたらどうだ?」
ディバルがそう言うと
「………」
一人の男―――北郷一刀が天幕の後ろから現れた。
「何か話したらどうだ。用があるんだろう」
「……まあ、な」
ディバルと北郷はそのままにらみ合うように立っていた。
「さて、二人とも心配だが何時までも部隊から離れるわけにもいかんからな……」
星は桃香とディバルを心配しながらも、何時までも義勇軍から離れている訳にもいかないので、自分たちの陣へと戻っていた。すると・・・
「趙雲殿」
「?」
呼び止められた。星は誰かと確認しようと振り向く。そこには
「関羽殿?」
「少し話があるのだが良いだろうか?」
関羽が話したいと声をかけてきていた。
「ふむ、話とは一体なんでしょうかな?」
「うむ……話というよりも相談に近いのだが」
「相談? ……それでしたら余所者である私よりも、同じ部隊である者たちに……」
「いや、そういうわけにもいかんのだ。頼む……」
関羽が頭まで下げる。星はため息を吐きそうになった。
(はあ……面倒ごとになりそうだな)
同じ部隊のものではダメと言う事は、この曹操軍の者にとって面白くない内容である。それを察し、星は頭を抱える。ただでさえ自分たちのことでいっぱいいっぱいなのに、他所の者のことまで相手しきれないと断ろうとしたが・・・
「頼む!!」
「…………」
真剣な声色で頭を下げ続け頼む関羽の姿を見ると断りづらい。
(まいりましたな)
星は仕方がなさそうに関羽と話すことに決めるた。
何度言いますが、本作は横山三国志も影響が大きいです。これどっかで見たなというシーンは、たぶん横山三国志やアニメ映画の三国志などのものが多いと思います。ご了承ください。