時間かかった割りに、今回かなり短いですが投稿させていただきます。
「桃……香?」
「ディバルさん!? 大丈夫!?」
桃香はうずくまっているディバルの元に駆け寄る。
「桃香……どうしてここに?」
「さっき、ディバルさんが報告に来てくれたとき、凄く顔色が悪そうだったから様子を見に来たんだよ!」
桃香の答えを聞き、ディバルはしまったと思った。桃香に余計な心労をかけてしまったと悔いた。
「それよりもどうしたの? 凄い汗だし、顔色も報告に来てくれたときよりさらに悪くなっているし。まってて、いま衛生兵の人を連れてくるから!」
桃香はそう言うと天幕から出ようと立ち上がるが。
「待ってくれ……」
「!? ディバルさん!?」
ディバルが桃香の手を掴み引き止めた。
「大丈夫だ。……ちょっと気分が悪かったが、何も問題無い」
「で、でも……」
ディバルは大丈夫だというが、どう見てもただ事ではないと桃香は思った。未だに顔が青く、掴んでいる手も弱々しい。これで大丈夫といわれて納得など出来るわけ無い。
「桃香……大丈夫だから、な?体調も良くなってきたし……」
しかし、ディバルはそれでも体調も回復したから大丈夫だと言い張る。
「ディバルさん……曹操さんと話して、何かあったの?」
桃香はディバルに何があったのか聞く。あのタイミングからして、曹操と何かあったのだと察する。
「……いや、何も無かったよ」
しかし、ディバルは何も無かったという。
「ディバルさん……話せないことなの?」
「いや、話すも何も……本当に何も無かったよ」
「そう……」
ディバルは出来る限り明るい口調でそういうが、声が少し震えていた。その言葉を聞き桃香はディバルが話す気が無いと理解し顔を暗くする。
「桃香?」
「ディバルさん、私じゃやっぱり頼りないよね?話せないのは……私じゃディバルさんの力になれないなんだよね?」
「なっ! ち、ちがっ」
桃香の言葉にディバルは否定の言葉をかけようとするが……
「じゃあ、どうして話してくれないの?」
桃香の声がそれをさえぎる。ディバルを見つめるその目は少し潤み、悲しそうな表情をしていた。
「そ、それは……」
ディバルは桃香のその顔を見て言葉を詰まらせる。桃香の悲しそうな顔をにたじろぐもののディバルは話そうとしない。
「ディバルさん……私が吐きそうなとき、ディバルさんは私の話を聞いてくれたよね? 私はあの時、悩みを聞いてくれるだけでも、助かったんだよ……一人で抱え込んで、苦しんでいた私を助けてくれたのはディバルさんなんだよ。私じゃ、ディバルさんの力になれないの?」
桃香は広宗で自分が苦しんでいた時、その悩みをディバルに話しただけだったが、それが救いでもあったのだと話す。桃香は今度は自分がディバルの苦しみを和らげたいと想い、話してほしいという。だが
「ごめん桃香。……へんな心配をかけてしまったな。大丈夫だよ、曹操殿と幾らか話したけど、何も無かったから」
それでもディバルは話さない。笑みを浮かべ大丈夫だというその姿は、桃香には無理をしているようにしか見えなかった。何も話そうとしないディバルに桃香は・・・・・
「どうして……何も、言ってくれないの」
桃香はポツリとそう口にする。
「え……」
「どうして何も言ってくれないの! 私が頼りないから?私が信用できないから!?」
「と、桃香?」
桃香は子供が癇癪を起こすかのように叫ぶ。ディバルは桃香が戦場以外でここまで感情を爆発させるのを始めて目にし驚く。桃香の目にためていた涙がこぼれ頬を伝う。しかし、桃香は止まらない。
「確かに私は弱いし賢いわけでもないよ! でも、私はディバルさんの仲間なんだよ! 広宗でディバルさんが私を支えてくれてたように、私もディバルさんと星さんの力になりたいんだよ? どうして一人で抱え込もうとするの!? そんなに私は頼りない? 力不足!?」
まるでダムが決壊したかのように桃香の叫びは止まらなかった。そして流れる涙も、それと比例するかのように流れ出す。ディバルは唖然としながらそれを聞く。
「ディバルさんは私が信用……出来ないの? 私じゃ……何もできないの?」
だが、その勢いは弱まり声が小さくなっていく。
「……」
そして、ついに言葉は出なくなり、桃香は顔を俯かせる。しかし涙は止まることなくあふれていた。
「桃香……その……」
暫く沈黙が続いていたが、ディバルが桃香に声をかけようとするが
「ごめんなさい……心配で見に来たのに、一方的に怒鳴って。……これじゃ、ディバルさんも話せないよね」
顔を俯かせたまま桃香はそういって立ち上がり、ディバルに背を向け離れていく。
「話せないことだって……あるよね。ごめんね、無理矢理聞こうとして……」
「ま、待ってくれ! これは俺が……」
ディバルが言い終わる前に桃香は天幕から飛び出していってしまった。
「桃香!」
ディバルは唖然とそれを見送ってしまう。
「何やってるんだよ、俺は………」
一人残った天幕の中でディバルは小さく呟く。
「桃香を悲しませて……泣かせて…………ちくしょう……」
ディバルは再び自己嫌悪に陥ってしまう。ここで追いかけるべきかもしれないが、結局のところ何も話せないのは変わらない。むしろ今追いかけても桃香に辛い思いをさせてしまうのではないかと悩む。
(どうしたらいいんだ……)
ディバルは転生前、記憶こそ無いが、余り積極的に人と関わる人間では無かった。それは転生後も、いや、転生後のほうが人との接触が極端に少なくなっていた。そのためどうしたら良いか分からずそのまま悩んでしまうのだった。
「ハァ……ハァ……」
一方、天幕から飛び出した桃香は走って自分の天幕へと向かっていた。普段ならこんな短時間で息が切れることなどありはしないのだが、先程のディバルに対し怒鳴ってしまったことで気が動転してしまったらしく、呼吸が乱れてしまったらしい。
(最低だ……)
うまく息を整えられないにもかかわらず、桃香はディバルに怒鳴ってしまったことで罪悪感や自身の不甲斐なさを痛感し、こちらもまた自己嫌悪に陥っていた。
桃香はディバルの天幕から大分離れたところで一旦止まり、呼吸を整える。
(私は何をやってるんだろう……)
桃香は先程のことを思い出す。
(ディバルさんが心配で見に行っていたのに、怒鳴っちゃった……)
ディバルの様子を見に行って、苦しんでいたのにもかかわらず何も言わないディバルに怒鳴ってしまったことに桃香はただひたすら後悔していた。
(話したくないことだってあるのに、それを強要して……あまつにさえ、愚痴みたいなこと言ったりして……)
「これじゃあ、ディバルさんが話したくないのも・・・・・あたりまえだよ・・・」
流れる涙が止まらない。ディバルが自分を頼ってくれないこということは、自分がそれだけ頼りないのだと。桃香は自分の不甲斐なさに怒りと情けなさを感じた。
「嫌われ……ちゃったよね。こんな自分勝手な私が……上に立つなんて相応しくないって……」
桃香はディバルに怒鳴り、自分の不満を吐き出してしまったことでディバルに見放されてしまったのではないかと思い込んでしまう。
ディバルが桃香を見限ることなどありはしないのだが、桃香は過去に転生者によって、友人を作ることが出来ず、多少仲がよかった者にも見限られてしまうといったことがある。結果、彼女のトラウマとして心の奥底に根付いており、ディバルもそうなってしまうのではないかと恐怖していた。
「私……ディバルさんに……」
呼吸は完全に整えることが出来たが、桃香は中々その場から動くことができない。そこに・・・
「桃香様」
「!」
一人の女性の声。
「星さん……」
いつの間にか星が桃香の傍に駆け寄っており、桃香の背中をなでていた。
「あ、あの星さん……その」
「まったく。不注意ですぞ。少数とはいえ、一群を率いるものが傍まで近づいていることに気づかぬとは」
星は注意するも、その顔は柔らかな笑みを浮かべ桃香の背中をさすり続ける。
「ご、ごめんね星さん……」
桃香は星の言葉に素直に謝罪する。
「いえ、私も出すぎた事を言ってしまいましたな。……それよりも桃香様、そのお顔ですとディバル殿と痴話喧嘩でもしてしまったのですかな?」
今度はそんな冗談を言い始めた。星の痴話喧嘩の言葉を聞き桃香は顔を赤くする。
「ち、違うよ! そうじゃなくて、その……」
しかし、すぐに表情を暗くする。星はそんな桃香の表情を見て優しい声で話しかけた。
「桃香様、よろしければ何があったか話していただけますかな?微力ながら、力になります」
「……」
星の言葉を聞き桃香は少し考える。
「……星さん。……少し話を聞いてくれるかな?」
「私でよければいくらでも」
「なるほど、そのようなことに……」
桃香は星を自分の天幕の中へまねき、先程のことを話していた。
「私、ディバルさんの力になれないことが悲しくて。それどころかディバルさんにあんなことを……嫌われても何も言えないよ……」
桃香は自分言葉でディバルを傷つけ、嫌われたのではないかと口にする。
「桃香様……。私もディバル殿も桃香様をそんな簡単に見放したりなどしませんから大丈夫でしょう」
「でも……」
「ディバル殿も私も、桃香様がどれだけ優しいか理解しております。それ故に力になれないと不安に思う桃香様の心も理解しているつもりです……」
星は桃香が安心出来るよう言葉をだす。
「桃香様はディバル殿の助けにならないとかと感じてしまい、そのようなことをいってしまったのかもしれませんが、それは何よりも私たちのことを想っていてくている証ではありませんか」
「でも、私は結局ディバルさんの助けにならなかった。それどころかディバルさんに……」
星の言葉を聞くも桃香はただひたすら自分の行動を悔いる。だが、星の考えは違うものだった。
(何をやっておるのだディバル殿は)
内心、ディバルの行動に頭を抱えていた。
星は実際のところ、桃香は自分をここまで責める必要は無いと思わっている。むしろこの件にかんしてはディバルのほうが悪いと考えている。
(言えぬに事であるにし、もう少しやりようがあったでしょうに)
星はディバルの桃香への対応がかなりの悪手だと感じた。
確かに桃香もディバルの悩みを聞きたいと視野が狭まっていたかもしれないが、その原因である彼自身もいっこうに話そうとしないというのも問題だ。
(しかし、ディバル殿がこうまでして桃香様に話さぬというのは一体……まさか)
星はディバルが何故桃香に話さなかったのか、一つの理由を思いつく。
(だとしてもこれは無いでしょうに)
その理由が正解だとしても、目の前の桃香が悲しんでいるのなら明らかにディバルの不手際だある。
「桃香様、いくつか申し上げさせてもらいますと、今回ばかりは桃香様の責ではございませぬ。これはディバル殿の自身の失敗と思います」
「でも……」
「桃香様。言っては何ですが、桃香様は少々責任感が強すぎます。本来このようなことで主たる桃香様のてを煩わせる訳にはいかないのです。厳しい言い方かもしれませぬが、ディバル殿の自業自得といえます。むしろ、桃香様はもっと文句を言っても良いと思います」
「……」
星の真剣な表情に桃香は黙ってしまう。星の言い分も分かるのだが、桃香は割り切ることが出来なかった。
「それでも私は、ディバルさんをほっとくことなんて出来ないよ」
桃香は辛そうな顔をし、俯く。そんな桃香をみて星はやれやれといった感じで苦笑する。
(やれやれ、世話の焼ける)
「桃香様、それでしたら私に一旦任せていただけませんかな?」
「星さん?」
「桃香様に言えぬ事でも、同僚である私ならば話すかもしれません」
「………」
桃香は少し考える。本当は自分が力になりたいという想いがあるものの、何時までもディバルをあのまま辛そうな顔にしておきたくは無い。そう思い桃香は口を開く。
「うん。それじゃあ、星さんお願いしてもいいかな?」
「御意」
星はそういうと立ち上がり、天幕から出ようとする。しかし、出口の前で一旦止まり桃香へと振り返る。
「桃香様。あなたはきっと自分の力不足でディバル殿の支えることが出来ないと思いでしょうが、それは違います」
「!」
「前にも言ったとおり、私もディバル殿も桃香様の優しいその志に惹かれてついていくことを決めたのです。そして桃香様のその優しい心こそが我々を支えてくれているのです。ですから余り悩まないで下され」
「星さん……」
星の言葉に桃香は少し表情が柔らくなった。それを確認し、星は天幕から出てディバルの下へと向かう。
「さて、ディバル殿との話は骨が折れそうですが、うまくせねば……。取り敢えず桃香様に土下座するよう渇を入れませんとな」
いい笑顔でそんな言葉を口にし早足で向かっていった。