悲惨な幼稚園・小中學生活を送ってきた主人公に、一人の男の子をぶつけてみた奴です。基本オリ主の一人称で、各キャラクターの固有名詞ではなく代名詞で書き綴っています。

 また、エレクトーン要素とギター要素はフレーバーなので、深くやりません。
ご了承ください。

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幼稚園時代と小学校時代

 

当時から不思議に思っていた。

あの子はなんでいっつも一人なんだろうと。

 

 

 幼いころまだ自我というものがあまりなかった時のころ、本能的というのだろうか。

同じコミュニティを作り上げ仲間内で会話や作業をこなし、たまには趣味や感情を共有する。そんな普通や当たり前といった社会形成生物の範疇の外。

 蚊帳の外と言った風に置いてけぼりにされたその女の子は、常にそこにいた。

誰にも話しかけられず。かといってそれを何とも思っていない孤高の存在。

孤高というよりも歩み寄れていない一人よがりなかわいそうな存在。

 

 僕はいっつも思っていた。

誰にでもいいところ悪いところはある。

だけどそれを誰にも見せない、あらわさない、内に閉じこもっている君はなんで独りぼっちなんだろう。

 うちに閉じこもっていても、表情をそれほどあらわさなくても、自分の本質を見せなくても付き合っていける

グループを作れたはずなのにその子は全く歩み寄ろうとしない。

 

 そんなのだから、皆から見放される。

それを何とも思っていない君がいる。

何とも思ってない。

 

 本当に?

 

 

 僕はその時不思議そうな顔をしてあの子を見ていた。

 

 

 なんで、そんなに空虚にいられるのか。

僕にはわからなかった。だから僕は歩み寄ってみたんだ。

君の心はどこにあるのかってね。

 

 幸い拒絶されるわけじゃなかったし、喜ばれることもなかった。

でも付き合っていくうちにわかったことがある。

それは誰かに自分を見てほしいという願望だ。

僕はそれにこたえることにした。

 だって最初に歩み寄ろう(友達になろう)と誘ったのは僕なんだから。

君の心を知れてよかった。ないている君を知れてよかった。

君と一緒に遊べてよかった。君の滿開の笑顔を見れてよかった。

 

 君は今ここにいるよ。大丈夫、大丈夫。君がどんなに後ろめたいことを抱えていても、僕はずっと君のみかただからさ。

その子は僕がどこかに行くまでずっと同じところを見て歩いて行ってくれた。

だけど別れはいつか来るものだ。

 小学校受験。

お父さんとお母さんは、僕をいいところに連れていきたいようで私立の学校の受験に臨ませたんだ。

僕も二人の愛情に応えたい。

一生懸命に勉学に励んで、無事に受かったんだ。

 

 お父さんたちはとても喜んでくれた。

僕も頑張ったかいがあった。でもこの時脳裏に浮かび上がるのは、君の虚空を眺める顔。

せっかくみんなと仲良くなれた君が、小学校で一人のけものにされるという予感だ。それは絶対にさせない。

 といっても、僕は将来とお父さんたちのために私立小学校へ行くんだ。

きっと君ならいけるさ。

僕がいなくてもなんとかなる。今まで何とかしてきたんだから。

 

 

 ちなみにだけど。理事長の汚職事件とか何とかと子供数が少ないとかで統廃合を繰り返した結果、僕はあの子がいる学校に行くことになった。

 

なんで!?

 

 

 

 僕は小学4年生で転入した。見知った顔と全然知らない顔。

そして確実に狙ったんだろうなっていう闇がひっそりと。

幼稚園の時一緒だった友達にやじを飛ばされながら、新しいクラスメイトに溶け込んだ。

それと一緒にあの子をどうにかしてほしいというお願いもその時された。

 僕はとても驚いたね。人は一度決まったことは変わることができないっていうけど、まさか君はもう社会からつまはじきにされるような子になってしまったのかと。

 

 お前に任せておけば万事解決だなと友達に背中を押されて、君と二人きりになる。

たまにあった胞子や液体、形而上生物に変化する君は今も火垂るの陽炎に包まれていた。なんでこうも命の灯火が消え入りそうになっているんだろって思ってる。

君は頑張ったじゃないか。苦手なプールも運動会も。秋の文化コンクールも、

皆と一緒に成し遂げたでしょ?

 君はなんだってできる。君が皆を気遣うことができる優しい子なんだって知ってるよ。

あともう一歩なんだ。君から歩み寄ってみようよ。

 

 火垂るの光が分散して一つの柱になった後、再構成し光の体にひびが入って光る欠片が周囲に飛び散る。

そこには暗いながらも、僕を見つめる君がいた。

 

 ひさしぶり。え、もう会えないと思ってたって?

そんなことはないよ。きっと中学校は会ってたと思うし。

それじゃ遅すぎる? しんじゃう?

あはは、君は本当に大げさだね。それに夏祭りだってあるんだよ?

その時にも会おうと思えば会えるよ。ライン?

ダメだよそんな自堕落なのは。しっかりと電話をして、僕の声を聴いて。

 君は本当に変わらないね。すぐに自己否定をして自分を卑下して。

限界まで自分を落とすことで、目の前のことに言い訳して逃げてきたんだろう?

わかってるよ。僕が君を一番わかってると思う。

うんうん、逃げたいでも見てほしい、ほめてほしい、すごいって言われたい。

 わかった。逃げ場所は作るよ。でも、立ち向かうことも大事だからさ。

あ、溶けた。

 

 先生から頼まれたのは、彼女をみんなの輪に参加させてほしいっていうこと。

ただそれだけ。うん、僕はその方法を知っている。

彼女の深層心理と承認欲求、無駄な思考をやめさせる突発的な行動で全部行うことができる。

大丈夫。覚悟が必要な時を見極めてやれば、君は無敵だ。

  

 君は昔よりも頑固になったみたいだ。あれもしたくないこれもしたくないって。

食わず嫌いはダメだよと言ってもきかん坊だ。

いや単純に君は昔よりも自分と正反対の人たちの洗礼をうけてきたんだろうね。

それは4年生にもなって男女一緒に遊ぶから、一緒になって遊べないでいるんだと思う。

 でもそれは女の子だけで遊ぶなんてこともできないかもしれない。

だって君の服装、僕と出かけるとき以外変わらないじゃん。

どんなに服装が自由って言ったって、ほとんどジャージじゃあ意味がないじゃないか。

え、制服もってるって? それは別だから。

せっかくかわいくなってきてるのにもったいない。

 

 さて君の中の自己否定をうまく方向性を変えられたら、きっと化けると思う。

体育や遠足、一泊二日の臨海學習、秋の文化コンクール、地域の史跡巡り。

どれもこれも緩急をつけてうまく調整して君をうまくクラスに馴染ませよう。

どんなタイミングで声をかけるのか、どんな会話をすればいいのか。

否定しても拒絶は絶対にしちゃいけない。

 そろそろ中学生になる頃合いだ。

修学旅行もそうだし、差別や部落といった学活・道徳も自己に根付かせていかないと。それと体育。特に水泳!

 

 水泳っていうのは本当に大事。

何時水難事故が発生するかわからないし、事前に泳ぐことができれば命をつなぐこともできる。

嫌な死に方上位に来る溺死なんて、絶対に味わってほしくない。

僕はそう説明しているのに、君はお腹が出てるとかほかの子よりも貧相とか言っている。

君の膨大な願望の方が、だれよりも凄まじいのは知ってるから。

 そんな些細なことで悩まないで、泳いでくるんだ。

大丈夫。僕は逃げない。君が逃げてるだけだからさ。さあ、立ち向かっておいで。

僕はここで待ってるから。

 

 僕は何か月ぶりに君と一緒にお買い物に来ている。イオンモールっていう大型商業施設っていう、

地元商店街の天敵らしい場所で、君の貧相な服装を何とか増やしたいんだ。

君はすぐに誰にも見せないとかかわいくないとか、そんな事を聞きたいわけじゃない。

やるときはやれるように。そのための外出用の服だ。

もしもドレスコードがある場所に出たら、その時ありませんでしたでは済まなくなるからね。

 え? 体験談っぽいって? そうだね。 これに関してはいつか話せたらいいな。今話すの? 画角崩れない? 秒間フレーム数落ちない? 

なら話すよ。きっと勉強になるからさ。

 と言ってもそこまで特別なことじゃない。

とある鍵盤系のコンクールで、特別な衣装が必要ととある用紙の下の方に書いてあって当日ただの私服で檀上へ上ったんだ。視線が痛かったね。

何? 僕がどんなコンクールに出てたか知りたいって? それなら今目の前にあるショッピングで、上下合わせて最低2組。合計予算4万円で済ましましょう。

 そんな青ざめないで。大丈夫だよ。今着ているよれたシャツじゃなくて、女の子らしい今時の子の服を選べばいいんだから。

店員さんは最終手段として、まずは君の感性に任せよう。

と思ったけど、即座にまずい奴を手に取ったので、お互いの利害を一致させることで難を凌いだ。

頼むからモヒカンスタイルとかハイカラさんスタイルはやめてください。

 

 四苦八苦して購入後ラベルや値札をはがして、着て帰ることになったとき聞いたことがある声が聞こえた。

それはクラスメイトだ。確かにここは子供たちが一番安心して遊べるアミューズメント施設だ。

迷子になりやすいけれど、それに関して目を光らせる警備員がいるから、すぐに店内放送からの応援で駆け付けてくれる。うん、すごくお客さんに親切だ。

それはそれとして、君は隠れてしまった。

せっかくなんだからその恰好を見せれば、一躍有名人になれるよ?

 そう言ったら君は、自分の服装選びにつき合わせた自分にふがいないと思っていて唯一考えた恩返しがこれだという。だから誰かには見られたくないんだって。

それなら仕方ない。まあ、僕も回避に賛成かな。

 この年齢になってくると、僕らの事を幼稚園から知っているクラスメイトはああまたかと哀れみと同情の目を向けてくるし、なんなら手伝ってくれる。

でもそれ以外の地域から来た子は、僕と君との関係を付き合っているのかとか好き同士の恋人同士といちゃもんを付けてくる。

それが結構効くんだよね。特に君のメンタルがダメになる。

 まさか君のメンタルブロックが9つに割れて、学校中を探し回ってメンタルコアにはめ込むまで元に戻らないなんておもわないじゃないか。

その時手伝ってくれた幼稚園からの腐れ縁の皆には感謝しかない。

 

 そうそう。帰りは普通に昼ごはんを食べて帰ったよ。

まさか注文させるとき、滅茶苦茶どもるなんて思いもしなかった。

ここも訓練させないと。上京した時とか、アルバイトの接客対応どうするんだろう?

 

 

 

 ふぅ……。今日も緊張する日々だった。君が7つの光る珠になってカラスに連れ去られ、さらに鷹に襲われてそのまま県外に連れ去られそうになった。

野鳥観察クラブや鴨狩の方の協力で、無事に7つの珠を集めたら君の形をしたドラゴンが出てきた。

何かお願いをすればいいらしいんだけど、僕が願ったのは君の安全とこの現世での固着だけだ。

それをかなえたピンクドラゴンは、君になって戻ってきた。

よかった。そのまま君が君でなくなったら、僕はきっと発狂してた。

 僕だって誰かに認めてもらいたいって思うときがある。

だから皆の輪に入ったり、いろんな習い事をして皆に認められるように頑張ったんだ。

 

でもそれは本当に自分何だろうか。

 

 僕が薄れてしまって、僕の知らない自分が増えていくみたいで嫌いになった。

唯一続けていたエレクトーンだけを残して、ほかはやめてしまった。怖かったんだ。息子が活躍して嬉しそうにするお父さんとお母さんの顔に、陰りが見えた。知らなかったんだ。

 何でもできるけど何もできなかった二人にとって、僕は希望だったらしい。

自分のことのように喜んでくれた。

ほめてくれた。持ち上げてくれた。誇ってくれた。

でもそれは僕のためじゃないんじゃないかって、ふとおもってしまった。

 

 だから逃げた。

こんなみじめな僕から目をそらすために、別の事に夢中になる。

その一つが君をまともにするための訓練だ。

これは僕を僕たらしめる行為として、僕に返ってくる。

だから好きだった。

 

 彼女を利用して僕を肯定するのが好きだった。

今でも好きだ。僕を頼ってくれる君が。

死にそうな顔で僕に縋ってくれる君が。

誰にも相手にしてくれなくて小動物のように、捨てられた子犬のように目を合わせてくる。

それを無視しようとすると、涙目になって絶望しそうになる君に。

 

 

 そして、僕は……こんな僕の事を知ってか知らずか、気遣い突き放そうとしない彼女の笑顔が好きだ。

その瞳も心も体も髪も声も、全部が好きだ。

 滅茶苦茶なのはわかってる。世間で放送している昼ドラマの泥濘な恋愛模様を見ても、ピンとこなかったけど。

 僕は君が好きだ。

声を大にして言いたい。でも言えない。

この関係性が一番心地がいいから。

 お互いに迷惑をかけたりかけられたりする、この友達の関係性こそ僕が求めていたものだから。

きっと君に知られたら嫌われるだろうな。でも大丈夫。

君が大人にならない限り、終わらないからさ。

 

 

 

 それはそれとして、あした修学旅行だけど安全のしおりよんだ?

読んでない???ふざけてるの? 修学旅行は遊びじゃないんだよ? 

学習の一環なんだから真面目にしないと、点数落ちるよ?

先生またこの班ですか? 管理しやすい? 管理するのは僕なんですが???

USJか夢のネズミーランドのどっちがいいかって? 夢の国だろ上等!

 暗い気持ちなんて吹き飛ぶくらいびっくりすることがある。

君の服だよ。制服とか下着とかはいいよ。でもね、同じジャージを下に着ていくのは、臭くなるのでダメ!! ニートじゃないんだし、ちゃんとおうちにお風呂あるんでしょ?

いやだってごねない!

 おいこら、そこの副委員長を含む女子共無用な化粧品持ってくな、バスの燃費が増えるだろうが!

男子共は何だ? 携帯はともかく携帯ゲームを持っていくんじゃない!

修学旅行の後に学んだことをまとめて提出するっていう崇高な目的があるんだが、わかっているのか!?

先生こいつら治めてください。治めるのは委員長の仕事?

教員として働いてください!!

 

 僕はその日の夜。君と電話をしていた。

明日の禁足事項とか、どうやって宿題をまとめて提出しようか同じ班で一番問題を起こす君だからこそ、こうやって夜に対策を立てているんだ。

分かっているのかね?

分かってる分かってるって、能く見るわかってない聞いてない奴の言い分じゃないか。

 ひとしきりツッコミとボケが交差していると、君が唐突に何かを言おうとした。

喉につっかえているようにどもる。

大丈夫。ゆっくり言っていいんだ。

ここには僕と君しかいない。心と頭で考えて口に出してみて。

僕は待つからさ。

 

 しばらく君が過呼吸気味になりながらも、言おうか言わないでおこうかどうしようか唾を飲み込む音も聞こえる。

何か言おうとしても決心が揺らいでしまうのか、私ごときがとか今でも思ってるのかな?

何年の付き合いなのか、理解していないね。

僕は君を否定しない。言ってごらんと誘導する。

君は変わってない。変わろうとしていないのかな。ううん。変わろうとしているんだけど、今に満足している感じがするね。

 でもこの環境は大人になったら終わるんだよ。

人生に永遠はないんだ。いつかは終わる。始まりがあるなら終わりがあるんだ。

この瞬間も終わりに向かっている。

それまでに君がもっと前を進めるようにするのが、僕に託された願いだ。

まあ押しつけもあるみたいだけど。

ほら変ににやにやしない。ちゃんと言葉として心の声を紡いでほしいな。

じゃないと僕にはなんにも伝わらない。

 ちょっとした妄想癖もあるけれど。これも君のおもしろいところ。

良いも悪いも予想できるのは、予行演習等をするときすごく役に立つね。

ただ君の場合極端に振り切れるのはよろしくないと思うな。

 結局君が僕に言うことはなかった。

言おうとしたんだろうけど、受話器越しに聞こえる吐息で寝落ちしてしまったんだなってわかった。

流石に明日遅刻とかしないよね? 迎えに行くか?

いや携帯のアラームかアプリで、目覚まし用の奴があるはずだからちゃんと起きるはず。

事前に電話すればいいや。

 

 委員長として最大のミッション。修学旅行当日だ。

最低限の荷物を事前に作っておき、あらゆる事態に対応するための資金や救急医療の薬等を用意した。

たぶんこれは必要ないと思うんだけど、レインコートと折り畳み傘も入れておく。

この三日間の京都と東京の天気は晴れだって言ってた。

でも単独峰?とか言われる富士山によって、急なゲリラ豪雨が発生するかもしれない。

だからちゃんと入れておく必要がある。

それとしおりを読み込んで時刻表通りに動けているかを頭に叩き込んで置く。

 奈良や京都・東京も日本でいう首都圏。結構な人込みが予想される。

それによって予定が遅れる可能性もあるから、それを考慮して活動しないといけない。

ホテルのチェックインだって忘れちゃいけない。事前に別の先生が先行して説明しに行くことがあるんだろうけど、万が一の事もあるからさ。

別にホテルに行くのが遅れるのは構わないんだけど、夕飯を自分達で用意しなければならないという状況に陥るのはよくない。

僕らはまだ小学6年生だ。そんなことになったら、君が外に出たくないってことで問答を繰り返すことになってしまう。

そのまま夜ごはんを食べずに過ごすなんて絶対に御免だね!

 

 さて予想通り電話をかき鳴らして君の寝ぼけを覚まさせて、親に自動車で送ってもらって集合時間数分前に到着。あとは大喰いのあの子と声優を目指しているあの子とアイドル雑誌に載っていると自慢しているあの子だね。

全員現着!よし乗り込め!教頭のよく見てよく遊んでよく学びなさいという言葉を頭に叩き込んだ奴だけ、バスの中で騒いでよろしい。

全員おとなしく寝たぞ。どういうことだよ。

 基本的に仲良しさんで隣同士になる。でも男女と組みあうのは、僕と君だけだ。

じゃあ任せた!と教導責務を放り投げた先生に嫌気がさしながらも、人の多さに酔い気味な君を皆の輪に入れていく。

おいこら逃げるな。角砂糖になるんじゃない。

バスの中ではしゃごうにも限界があるから近くの者同士で遊んだりバスの中でカラオケを歌ったりして大盛り上がりを見せるんだけど、小学生でも限界はある。

流石に一時間経過すると黙って席について、外の景色を眺めていた。

僕はというと君を窓際にしている。変に人に酔われて吐かれちゃ困るからね。

 最初は奈良の大仏を見に行き柱の穴をくぐることになるんだけど、君の場合は入るのはいいよ。

でもね出たくないのは許さないからね。ほら後ろの子、君を押し込んでくれ。

ところてんみたいに膨張しても許さないから。押し込め押し込め。

こんにゃくか寒天みたいだね。

 奈良公園で鹿と戯れて鹿に手のひらの餌をなめとられて臭いと悶絶する君をトイレに連れて行って手を洗わせたら、次の目的地へ移動するために乗り込む。

この後は京都で清水寺に行ってここの歴史を学ぶ。

そして何らかの御利益があるらしい水くみ場で水を飲んで、人の多さで吐いた君に水を飲ませた。

完全にダウンしたので僕が背負って、クラスのみんなとこの後自由行動になるために行動を開始する。

皆の分の交通費はのちに回収するということで、全員の分を僕が出して各場所に移動する。

 僕らの班の中で、金閣寺を見に行った人は一人だけいる。だけどあれは見ておくべき歴史的建造物だし、なにより銀閣寺も書院造で有名な場所だ。あの北条一族の繁栄の一端を見れるんだから、見ない手はないでしょ?

ほら君もいい加減起きなさい。いい匂い? ああ、売店があるからね。買ってく?

 全部を見終わってバスのある清水寺まで戻る。

一番最後に来たのは僕らみたいだ。さすがに君を原型に留めさせたままここに来させるのに骨が折れるよ。

途中溶けかけたし。なんなら作画崩壊みたいなこともやったから。

その作画崩壊は、外国人に話しかけられて君たちキュートだねって言われたことかな。

ここはECCジュニアでトップに輝いている外国志向のある子に任せた!

おお、流暢な英語。素晴らしいね。今彼女は輝いている。

君もあんな子にならないのかな?

なれない?なりたくない?やりたくないの間違いじゃない?

 

 さて趣のある宿屋についた。

流石に男女別なのはわかる。だから僕は班の子たちに、君のあいてを任せるといった。

責任重大だぞ。おいこら男子共楽しみだからって枕投げをするんじゃない。

破けたらどうするんだ。乗りと勢いだけのアンタらが羨ましいよ。

風呂は順番に入ることになっているから用意できた奴は入ってきなさい。

え、僕も?君に電話しなきゃいけないから。そんなに構って大丈夫なのかって?

 うん。副委員長や地元の中学校に進学する皆には話している。

それは僕が中学校は都会にいる父親の弟さんの家に住み込んで、音楽大付属高校に連なる中学校へ進学する事。

僕は小さい時から好きだったエレクトーンで、世界をまたにかける一人バンドをやってみせると誓った。

確かに構いすぎは毒かもしれないね。でも、その毒におぼれる程度で落ちていたらこの先どんな溝にもつまずくよ。

 だから今も構っているんだよ。君も成長しないといけないんだけど、成長しないからね。

千尋の谷に突き落として這い上がってくるか、ずっとそこでおびえているか。

多分おびえて外に出てこれないかもしれない。それはそれでいいと思う。

きみには君の人生があるから。そこまで面倒は見れないよ。

 出てくるなら歓迎するし、出てこないならそれでいい。

それは君らしいから。

そう話す僕に皆はドン引きする。優しい顔してえげつないってさ。そりゃそうだよ。

昨今の引きこもりを外に出そうとする母親の苦労が分かるね。

 この後女子共が殴りこんできた。ついでに君の管理を物理的に投げてきた。

アイドル雑誌の子が言うには、みんなと違う体になっててショックを受けたんだと。

体を拭いて色々つけてと人形かな?ってくらい苦労して連れてきたからあとは任せたんだってさ。

ふざけるんじゃない。男部屋に女一人。わかってんの?え、先生どうしたの?

特別に部屋を用意してあるからそっちで寝な。

いやおかしくない?お前なら安心して任せられる?僕が安心できないんですがそれは。

 人形になってた君をたたき起こしたら、渡された部屋に行く。

確かに格安の部屋であるのはわかるけどさ、布団が一つなのは悪意しかないだろ。

どういうことなんだよ。

え、何? 君が布団一つでいいから部屋代は安くしてくださいって?

よく気が利くね。でもそういうことじゃないんだよ。わかってる?

離れたくないってこんな短時間でホームシックになってるんじゃないよ。

抱き着いてよだれを垂らさない。変な笑顔を浮かべるんじゃない。

コアラかな?

 結局あの後寝落ちしてしまった。

おませなあの子は同衾してどうだった?とかシンクロユニゾンした?とか聞いてきた。

何かあるわけないだろう。君も訳も分からないからって後ろに隠れない。

二年前ならともかく今は同じ身長だから完全に隠れられるのが嫌だなぁ。

ほらほら全員起きた起きた!さっさと準備して顔洗って朝食取るぞ。

そして東京に行って、正式名称ドリームフューチャーディズニーランドで遊ぶんだ。

 朝食は人件費削減の名目の元デュッフェスタイルだ。

えぇ、雰囲気に合わないんだけど。

いやまあ好きな物取れるからいいんだけどさ。

で君たち良い感じに贅沢してるね。

僕は今日中に取れそうなビタミンを取っておこうと思ってる。

昼は暑いから水分と塩分はとっておくよ。でもパンよりかご飯派かな。

おっとパン派と全面戦争したいって?そんなきのこたけのこの闘争じゃないんだから。

 それで君はあんまりとってないと。最低でもヨーグルトと果物はとっておきなさい。

糖質・植物性脂肪・動物性脂肪・果糖で、いい感じにエネルギー配分されるから。

太り気味のあの子は、めっちゃ食ってる。

いやいやちょっと?BMI大丈夫?いけるって?なんかダメそうだね。

 じゃあみんな片付けて荷物をまとめたら、全員点呼して出発だ。

そして引きこもっている君はおませな子と物知りが過ぎる子と一緒に担ぎ出した。

暗闇こそが私の家って、ここ宿屋だから。

 ネズミーランドに到着したら、何時までこの駐車場に到着していなければならないかを確認したらさっさと行くぞ。

すでに回るところは決めてある。

結構人がいるからね、人の流れが速く子供でも行けるような場所にする。

それで僕はというと君を背負ってネズミのカチューシャを付けさせる。

日に当たってドロドロしだすな、人の行列に並んで腐海を作り出すな。

一部のアトラクション以外全部屋内だから、屋内に入った瞬間元気になるのは呆れたよ。

 朝早くに移動してから、夜の6時に到着するまでの制限時間ギリギリまで楽しむことに成功した。

なお君は半分光になって飛びそうになっていたよ。

でも手をつないで一緒に歩くと元に戻るのはなんだろうね。

おいこら観光客、あのカップルかわいいっていうんじゃない。要介護者の介護をしているだけだよ。

 あの後色々遊んだら、なんとクラスメイトの一人が迷子になってしまったという。

あほか!?クラスラインやっているからそこから場所を特定してもらって、ディズニーランドの警ら隊に連れてきてもらった。

よかった。誘拐も多いから連れ去られてなくてよかったよ。

全員点呼して全員の生存確認! 君も欠片を置いてきてないね。

乗り込んだらやっと帰路につける。

楽しかったし、いつも引きこもっている君に外の世界を見せることができた。

僕は満足だ。じゃあ、帰ったら学習内容をまとめようかな。うん。

 

 光陰矢の如しってよく言うけれど、本当にそうとしか言いようがない。

60*60*24=86400秒しかない。この限られた時間で何を成すのかを考え、僕の人生を順風満帆に過ごさないといけない。

生きて生き抜く。至上命題はそれしかない。

僕はどうやって生きていこうか。それは考えた。

実行するために必要な資金や練習のために費やす時間も、次に進むための確実な学力も必要だ。

応えの一つとして、君を捨てるしかない。

君には構うことができない。

僕は僕を肯定してくれる君を捨てなければならない。

 当たり前の事なのに、それを考慮せずに今までの行程を考えてしまっていた。

君がそこにいるのは当たり前の事と勘違いしていた。

君が僕に泥濘の想いを抱いていたのはわかるけど、まさか僕も君におぼれるほどのめりこんでいたなんて思ってもいなかった。

別れるのはつらいが、これを機に立ち上がって……くれそうもないかな。

考えている奴は全員中学校からいろんなコミュニティに向かう。

何も考えていない奴は、ながれて大学か高卒で地元のスーパーにでも就職するだろう。

そのままブラックな環境で給料も上がらず一生をごみのように過ごすんだろう。

 僕はそんな光のない世界にはいられない。僕は僕を見てほしいから。

作られた自分じゃない僕を見てほしいから。

こんなところで立ち止まっちゃいられない。次に向かって、意気揚々と進まないと。

だからこんな卒業式で、涙を流すクラスメイトを見ながらそう思った。

 

 中学校に言ったら君は独りぼっちになるかもしれない。

なんとなくいじめにならないようにフォローしてくれたらいいな。

と思ったけど、中学生になったら高校生になるための勉強を頑張らないといけないし自分のアイデンティティを見つけていくようになる。

赤の他人に割くリソースはないのかもね。

それはそれでいいよ。きっと人は見ていないところで成長していくからさ。

 僕はクラスメイトとその保護者で行う合同お別れ会で、一人バンドとして自作した曲を披露した。

エフェクトやドラムはMIDIで編集して、持ち込んだエレクトーンに流し込む。

たった2分弱の曲だけど、あまりながいのもあれだしね。

題名は、『あの場所で』。感動するもんじゃない。ただ、君に当てた嫌味と悪口とさっさと出てこいっていうやつだから。

言葉通りに受け取ったら、ラブソング。

事情を知っている副委員長たちは、察したような表情になっている。

それお別れ会でする曲じゃないよって突っ込まれたね。

えーいい曲だったでしょ?あまりにも技術が高くてピアニストを目指すのが揺らぎそうって?

大丈夫。生音と電子音じゃ方向性違うから。

 おっと君もほめてくれてありがとう。これ、君に向けたラブソングだから。

あ、ぽかんとしてる。 それが見たくて作ったまであった。

歌詞の意味?そのまま受け取ってくれていいよ。

独り舞台で踊るお姫様(独りよがりで自分の世界に閉じこもってる君)。

こんなに恋焦がれるなんて、空に誓うよ水面の月(こんなに依存してくれるなんて、絶対に変わろうと動じない君)。

たゆたう心が揺さぶられる、宵に浮かぶ帳の星(承認欲求を満たされる、引きこもって自分以外を見ようとしない君)。

 意訳を伝えると確かにラブソングだねと褒められるのと同時に、娘が迷惑をかけてごめんねって君のご両親が謝ってきた。そういうのが欲しいんじゃないんだよ。優しいだけじゃなくて、ちゃんと自立できるチャンスを与えてほしいな。

僕が言えた義理じゃないんだけどさ。

なお本人は照れるなあってほほを染めてたけど、これそこまでほめてないんだよなぁ。面倒くさい君に当てた手紙を書いて、そこからロック調のラブソングに変換しただけ。

ロックなのは反社会性の行動をしているからだよ。

もっと物事を簡単に考えていいんだ。

迷惑なんてかけてなんぼのものなんだからさ。

 

 そうそう修学旅行に行く前に何か言おうとしていたことがあったでしょ。

解散する前に君に聞いた。すぐに本人は目をそらしたけど、何か言おうと頑張っている。

だいじょうぶ。ゆっくりでいいんだ。

 君はいう。私なんかに時間を割いてもらってありがとうと。

いまさら何言ってんだこいつ。曲がりなりにも友達なんだから、時間を割くのは当然だろうが。

そう伝えると君は顔をほころばせて友達!?と騒ぎ立てる。君にとって友達というのは、天上の者だったみたいだ。

まさかクラスメイト達も、俺たちだって友達だと思ってたんだけどと文句言ってた。

それに君は限界突破したようで、気絶した。なんでだよ!!

 

 ちなみにクラスメイト達とはこれでほとんど合わなくなる。

後はお別れ会だけでなく、一緒に遊ぶということで同じ地区の子供会でボーリング場へ行ったり食べ放題を味わうことになる。

本来なら君は違う地区なんだけど、副委員長のご厚意で参加させたんだと。

副委員長、君いいお嫁さんになれるよ。

え、すでにお嫁さん? 副委員長は委員長の女房役だってあの先生が言ってたらしい。

だからってこのクラスだけ生徒も先生も人事異動させなかったのか?!

バカなのか生徒思いがすぎるのか。単純にいじめ問題が世間に浸透して、かなり目ざとくされているのか。

 とにかくいい人が見つかればいいなと言っておこう。

するとやっぱりあの子がいいの?と言われた。そりゃまあ、君の方が副委員長よりも刺激的だからね。

そう伝えると、浮気者って怒られた。意味の分からなさに驚きとともに、この誤解はまずいと思って副委員長のいいところを列挙していく。

実際にありがたいことがたくさんあった。君を連れ出すときや皆でイベントをやるときも、一緒に手伝ってくれたり副委員長が最初に賛同してくれたから皆が付いてきてくれた。副委員長なしじゃ、僕はこの場所にはいないよ。

 そういうと今度は女たらしと怒られた。

どうすりゃいいんだよ!やっぱり君の方が分かりやすい。複雑な心は、方向性を違える可能性があるからさ。

 この顛末を見ている君はというと、僕の裾を握ってきていうんだ。

で、デートでもしてきたら? 私の事はいいからさ、と。いやいやいや、君を放ってはおけないから。

それと親の方でも、まあ若い時から二股よやーねぇ、なんて悪ふざけも大概にしてくれ。

 

 結局この後近くの水族館に行って、イルカショーならぬシャチショーを見たりアシカやセイウチ・ペンギンのショーを見て遊んだ。また電気ウナギの発電量に勝てという変なイベントや逃げ出したアザラシを捕獲しろというイベントもやった。君と副委員長も少しだけ満足してくれたかな?

してほしいね、まったく。

 午後になってお母さんたちに帰りましょうかと告げられた時、副委員長に腕を組まれる。

あ、なんか嫌な予感がするなぁと悪寒に震えていると、君は僕の服の裾を掴んでくる。

無言でやってくるからなんだろうと思って二人に視線を向けるけれど、

何かを意図したような目線を向けてくるだけ。

いや、副委員長がいった。私、かわいい?って。君も、私の方がかわいいよね?となにやら食い気味に言ってくる。

その度胸をずいぶん前から発揮してくれたらいいんだけど。

 でも、副委員長が君の心を引っ張ってくれたおかげで、君もようやく自分の気持ちに素直になれたんだろう。

その気持ちをずっと持ち続けて、これからの中学生生活を充実させてほしい。

僕はもう君の隣には行けないから、あとは君の力に任せるよ。

気が強くてお互いに譲らない二人に、どちらもかわいいよと言い返すと君がはじけた。

はじけるんじゃないよ!? 欠片集めるの大変何なんだから。

 それを集めようとしたとき副委員長は、君の残滓を集める手伝いもせずに僕の手を引っ張ってくる。

僕はその手を振りほどけず、副委員長に向き直る。なにやら気に病んでいるようだけど、僕が副委員長に返す言葉はないよ。そこにいるのは僕じゃない。

まだ僕は君に目が行ってるからね。


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