雨の後には虹模様   作:桜ノ宮雨

5 / 5
第5話 相棒VS相棒

 一方の右側広場、茜達の戦いは、人数が増えてさらに苛烈になっていた。

 ルリの援護に来たボールドマーカー(以下ボールド)を追って再度茜に合流したシャプネオのガール。そして相手にはもう一人プライムシューター(以下プライム)も相手の後ろの高台から撃ってくる。3対2。さっきと違い、圧倒的に不利になっていた。

 

「くそったれ!あのプライムウゼェな!長距離とか不公平やろ!!」

「仕方がない、こうなったら……!」

 シャプネオの頭が水滴を受け、太陽の光を浴びる桃のように輝く。

「『キューバンボムピッチャー』!くらいなさい!!」

「「っ!?」」

 彼女が手当り次第にキューバンボムを投げまくる。そしてルリと相手のボールドを、キューバンボムが取り囲む。キューバンボムはその名の通り、着弾するとそこから動かせなくなる。爆発のカウントダウン終了はすぐ目の前。逃げてももう、間に合わない。

 

「危ないっ!!」

 連鎖的に爆発音が響きかけたその時、相手のプライムの後ろから透明な、丸い物体がルリとボールドの前へ立ち塞がった。すると、

 

「………はぁ!?」

 

 爆発して、キューバンボムの爆風を弾き飛ばした。茜とシャプネオのガールはその光景に目を大きく見開く。

「橙、ナイス!!」

 ルリがイカスフィアで助けに来てくれたバケツのイカ──橙に礼を言う。そして、

「きゃっ!!」

一気に近づいて茜の味方、シャプネオのガールをキルした。

「お前もだ!!」

 驚く暇も無く、今度はボールドが茜に迫る。

「チッ……!」

 茜は苦し紛れにマニューバーをボールドに向ける。

 

「ぐぇっ!」

「ぎゃあ!」

「……………っ!」

 

 ボールドが茜を撃とうとした瞬間、突然大きなインクの弾が相手を襲った。ボールドと高台にいたプライムがスタート地点へ強制的に送られる。ルリにも弾は飛んできたが、ホクサイの機動力で間一髪で避けた。

 

「茜!大丈夫か!?」

「……!あぁ、リア!グッドタイミングや!!」

 

 金糸雀が茜の元へやってくる。さっきの弾はジェットパックの弾だったのだ。

 

 2対2。これで対等となった。残すはルリと橙のみ。

 

「……援護する。茜突っ込め!」

「あぁ、わかっとる!」

 威勢のいい返事と共に、茜はルリへと近づいた。

 

「いいよ!2対2、受けて立つ!トウ、お願いね!」

「いつものやつだね、わかったよ!」

 相手2人も同じように気合を入れた。

 近づいてくる茜に向かって、ルリはホクサイを振り上げる。すかさず金糸雀はそれに向かってラピデコを撃った。

(ラピデコの直撃は避けたい……!)

 ルリはホクサイを振るのを咄嗟にやめ、撃たれた箇所と反対方向へ避ける。

 避けた先に、すかさず茜はスライドをして先回りをして銃口を向ける。しかし、

 

「させないよ!」

 

 高台から橙がバケデコでインクを大量に降り注ぎ、

「チィッ……!」

 それを避けるために、茜は2回目のスライドを使わざるを得なくなる。

「もらったぁ!」

 その隙を見逃さず、ルリはバケデコで出来たインクの道を潜って茜に急接近した。だが、

「やらせない!」

 そこにまた、金糸雀が2人の間を阻むように爆風を撃つ。

 それを見た茜が近づく……のを牽制するように、橙もまたインクを上から降り注ぐ。そしてルリがインクの道を伝って間合いを詰める───。

 そうやって同じ攻防が何度も、何度も、何度も、何度も繰り返された。

「むぐぅ〜〜!アナタの相方、ウザイ爆風当ててくるね!」

「お前さんの相方もな!上からインクぶちまけられて、動きづらいったらありゃしないわ!」

「へっへーん!自慢の相棒だからね!でもアカネくん、なにか1つ、忘れてることないかな?」

「何がや!」

「ルリはね……まだスペシャルを使ってないんだよ!」

「っ!!」

 そう言った次の瞬間、ルリの頭はキラキラと輝き、上へ大きく飛び跳ねた。

 彼女の背中にタンクが現れ、両手にあった大きな筆はタンクに繋がれた大きい銃へと変化する。タンクから下方向へ発射されたインクによって、茜の弾が届かない位置に彼女は浮く。そしてニシシッと笑みを浮かべて、今度は逆に茜へ銃口を向けた。

 

「───待ってたよ、君がそれを使うその瞬間を」

 

 そう声が聞こえた瞬間、

「ギャッ!!」

 飛び上がったルリは一瞬にして、自身のインクで弾け飛んだ。

「なっ!?ルリさん!!なぜだ!?」

 橙が慌てて周りの状況を確認する。

 塗っては塗り替えされを繰り返した青と桃のインクの染み。真ん中には先程ルリがデスした桃色の痕。それに向かって銃を向け、サファリハット越しにこちらをニヤッと笑う金糸雀。そして─────

 

「お前だけかと思ったか?ワシも残ってんだよ!!」

 

 ルリよりも更に大きな銃を二丁構えた茜が、ミサイルを躊躇なく撃つ姿だった。

「うっ……!?」

 バトルでは一瞬の隙が命取り。反応が遅れたトウは飛んできたミサイルの波に飲まれ、リスポーン地点へと強制的に帰っていった。

 

「……よしっ!なんとかなったな!」

 撃ち終わったマルチミサイルを放り捨て、茜がガッツポーズをする。

「ったく、ホント調子良いんだから……オレがホクサイの彼女をキルしなかったら負けてたよ?もっと感謝してよね」

「なあに!お前さんならちゃーァんとキルしてくれるって信じとったからな!なあんも心配しとらんかったし、ここの戦いに負けててもまぁ何とかなったやろ!知らんけど!」

「っ!………はぁ、ホント後先考えないよね…」

 能天気な茜の発言に、照れ隠しで金糸雀はサファリハットを深く被る。それを見て茜は何も気づかずへへッと笑った。

 

「ちなみに、今やってるのナワバリバトルなんだけど───茜、覚えてる?」

「……………へ?」

 金糸雀の言葉に、笑顔で茜は固まる。そして、

 

「はああぁあぁああぁァァァァァ!?」

 

 一呼吸おいて絶叫が響き渡った。

「やっぱり忘れてたんだな……まぁさっきのが接戦すぎてオレも途中まで忘れてたんだけど」

「ど、どどどどどどうするんねん!?あと数秒でバトル終わんねんけど!?」

「ここから塗り替えしても焼け石に水だろうねぇ。やらないよりはいいけど」

「なんでお前さんはそんなノンキやねん!!どうすんねん!勝負が楽しいからってバトル忘れて、挙句に負けるやなんて……ハクを勝たせてあげることが出来ひんやんけ……!!」

(茜変わったなぁ。ここでハクちゃんが出てくるのか……)

「おまっ、なに生暖かい目しとんねん!気持ち悪いわ!!」

 頭を抱えてうずくまる茜を尻目に、金糸雀感慨深くうんうんと腕組みをして頷く。そこに、

 

「あれ?茜さん?リアさんも……どうしてここに?」

「「………え?」」

 

 目の前のちょっと低い高台から白練が姿を現した。

「は、はぁっ!?なっ、なんでハクが前から来て───」

 茜が何か言いかけた瞬間、バトル終了を告げるホイッスル音が高々と響き渡ったのだった。

 

 

「いやぁー初戦はキツかったが、楽しかったなぁー」

 赤く染まる一歩手前の空の下、茜は満足そうに呟いた。

「そうだね。あの後何戦かバトルしたけど、ほとんど快勝だったし」

「……私も、最初のバトルが一番お役に立てた気がします」

 金糸雀と白練が、茜の言葉に頷きながら言った。

 

 結局、ルリや橙と戦ったバトルでは皆が右側に集中している間に白練が敵陣に侵入し、ナワバリを塗っていた。そのため相手はいつの間にか桃色に塗られた自陣に驚くし、ナワバリを塗り替える暇も無いしで難なく勝利をおさめていた。

 

「でもハクちゃん、次回からはもう少しスペシャルを使った方がいいかな。スペシャルはインク回復にも繋がるし、わかばシューターのインクアーマーはいつ発動しても困らないものだから」

「はい。わかってはいるのですが……バトルをしていると、つい忘れてしまって……」

「もしかしたら、わかばシューターが合ってないのかもしれないね。これからどんどん練習してランク上げて、色々なブキを試していったらいいと思うよ」

「はい。わかりました」

「それから……」

「あーーーー!!そういえば!あの二人どこ行ったんやろーなー!ほら、初戦で会ったホクサイとバケデコ!チームに入れたかったんやけどなー!残念やなー!!」

 2人の会話を遮るように、茜はわざと大声で話しかけた。

 白練に金糸雀を会わせたのは自分自身だが、なぜか2人だけで仲良く話をしている姿に耐えられなかったのだ。なんだかモヤモヤするような、イライラするような……そんな初めての感情だった。

「あの2人か。一戦だけしたらどこかにいっちゃったね」

「ギアもぼんやりとしか覚えてへんからなぁ。できればチームに入れたかったんやが……」

「いや彼女たちが『入りたい』って言わない限りムリだからね?」

「そこはワシのかれーな説得で……」

「お前がしたらほとんど勢いでいく押し切り説得じゃん」

「でも、私はそれで……」

「ハクちゃんは特殊だったでしょ状況が。というか今は会話に入って来ないで!?ややこしくなるから!」

 

「────あーーーーーーー!!!!」

 

 いきなり3人の会話を阻む悲鳴が辺りに響き渡った。

 3人は同時にビクッと肩を飛び上がらせ、恐る恐る悲鳴の先を向いた。

 そこにはこちらを指差す青色のガールと、その隣に橙色のイカが立っていた。

 青色のガールはずんずんと茜へ近づくと、ガッと彼の両手を掴んでキラキラとした目で彼の目をまっすぐ見た。

 

「アカネくんでしょ!?良かったぁ〜。今日ずーーっと探してたんだよね!あなたと、あなたの相棒くんに話がしたくて!!」

「も、もしかして……ルリか?アマ美大で戦ったホクサイの………って揺らしすぎやねん!酔うわ!!」

 

 ガクガクと勢いよく肩を揺らされながらも、茜はかろうじて記憶を手繰る。

「そうっ!うわぁ感激!!覚えていてくれたなんて!!」

 まさに、彼女たちは噂をすれば、のイカたちだった。

「ルリ、落ち着いて。気持ちは分かるけど、皆さん唖然としているよ」

「あ、ごめん」

 ようやく彼女は茜から手を離す。少しホッとしながら、茜はルリに声をかけた。

「あーー……えっと、ワシたちを探してたってどういう……」

「あっ!まずは自己紹介だよね!わたしは瑠璃!使っているブキはホクサイ!よろしく!

 で、こっちが橙!使っているブキはバケットスロっシャーデコ!私たち親友なんだ〜」

「いや自分勢いスゴイな!?マイペース過ぎるやろ!ちっとはこっちにも話させろや!?」

「アハハ……皆さん、初めまして。どうかよろしくお願いいたします」

 あまりの勢いに茜は思わずツッコミをいれる。

 それに苦笑しながら、紹介を受けた橙は胸に手を当てて上品に挨拶をした。

 

 瑠璃は前ゲソはセンター分けにして耳の前に短いゲソを垂らし、後ろの長いゲソは三つ編みにして前に持ってきたものを縛っていた。瞳の色は黄金色。そしてそれを邪魔しないように下で繋がる形のヘッドフォン(エンペラフックHDP)を付け、フクはゆったりとしたライム色のボーダーシャツ(ゆとりボーダー ライム)、下はショートパンツ。そしてクツはスリッパのようなサンダルに靴下を履いていた(オイスタークロッグ)。いかにも元気ハツラツといった格好だ。

 

 一方、橙は上品で好青年といった格好をしていた。アタマはスポーティーな帽子のカモメッシュからポニーテール状に縛ったゲソを出し、フクはカッターシャツの上からゲソと同じような橙色のレタードカーディガンを上から着ていた(レタード オレンジ)。下は股下が大きいボトムスを履き、クツは縦に長くて黒い革靴(イカボウズジェットブラック)を身につけていた。そして瞳は深海のような深い青色だった。

 

「まぁええわ……とりあえずこっちも自己紹介やな。

 ワシは茜や。で、こっちは白練。こっちは金糸雀。ワシらチームで活動しとって、ワシがリーダーなんや」

「初めまして、金糸雀です。気軽にリアって呼んで」

「わ、私は白練と言います。ハクとお呼びください」

「ほぅ……白練さんとおっしゃるのですか。先程は失礼をしました。貴女もチームだったのですね」

「えっと……はい」

「は?ハク、コイツと知り合いやったんか?」

 親しげに話しかける橙に鋭い眼光を飛ばしながら、茜は白練に尋ねた。

「さっきのバトルの時、私転びそうになってしまって……そこを助けていただいたんです」

「いえいえ。あれは急に飛び出した僕が悪いのですから、白練さんは謝らないでください」

「ほーーーう?そっか、そっか。それはどうも。お礼しなあかんなぁ?ウチのハクがお世話になったようで?」

「こら茜。ハクちゃんが大事だからってガン飛ばさない。ごめんね、橙さん。コイツちょっとガラ悪くて」

 橙と白練の間に体を滑り込ませて威嚇する茜に、金糸雀は頭に軽くチョップを入れる。

「気にしていないので大丈夫ですよ。バトル中は敵同士だったわけですし、白練さんは初心者だったみたいなので大事にする理由も分かりますし。

 それにしてもチームメンバーのことを第一に考えられるなんて、良いリーダーさんですね」

「お?お前さん見る目あるやん!良いヤツやなぁ!」

「チョロ過ぎないお前……?」

「ねー!ねー!お話終わったー?ルリもお話したいことがあるんですけど!」

 ころっと手のひら返しをする茜に金糸雀は呆れた。

 

 一連の会話をしているところに、今まで蚊帳の外だった瑠璃が無理矢理割り込んだ。

「あ、そやった。で、話ってなんや?瑠璃?」

「たんとーちょくにゅーに言うとね、ルリ達はアナタ達とフレンドになりたいの!バトルすっっっっごい楽しかったから!まだまだいーーーーーっぱい一緒にしたいなーって!」

「おっ!別にいいで!なんならワシらのチームに入るか?ワシらもお前さんらと一緒にしたいしな!」

「オッケー!イイよー!じゃあもうこれから一緒のチームだねっ!楽しみー!」

「い、いやいやいやいやちょっと展開早くない!?もっとなんかこう……あるでしょ!?」

「なんでや!リアはなんか不満あるんか?」

「そーだそーだ!リガイがイッチしてるんだから別にいーでしょー!」

「それはそうなんだけども……!!」

「クッ、フフフ……!2人とも面白いですね。これから楽しくなりそうです!」

「あっ、あの……私もそう、思います」

 

 ガッと熱く手を組み、豪快に笑い合う茜と瑠璃。それを見て金糸雀はため息を、橙はクスクスと、白練は戸惑いながらも、皆楽しそうに微笑んだのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。