こちら魔法界ホームセンター 作:そこら辺に転がってる石
学生だった頃と違って、思った以上に教員生活は窮屈だ。
本業である授業を作るところから始まり、提出された課題の採点、必要な道具の貸出申請や購入手続き。他にも学校内の魔法の点検やらなんやら...休み時間というのは実は教師に仕事をさせるためにあるんだろうな、ということを悟る程度にはやることが盛りだくさんだった。
まぁ救いというか、思った以上に魔法というのは便利なもので、マグル社会だったら1日かけて終わるものが1時間で済んだりするので悲鳴を上げるほどにはなっていない。あくまで忙しいなぁ、と思える程度の業務だ。
だけどまぁ、少なくとも客足の少ない私の店にいた頃と比べたらめっちゃ忙しい。
ただそんな中にもいいことがいくつかあり...学生時代では入ることが厳しかった図書館の禁書の棚を自由にみることができたり、マグル学を選択していた生徒たちが楽しそうに質問してきたり。
忙しくはあるけど思った以上に充実した日常を送れてる。人との接触は多少なりとも精神的にもいい効果があるもんだなぁとしみじみ。ひとりぼっちより断然マシよ、マシ。
「とまぁ、思った以上に楽しんでるよ、私は」
「それはよかった」
髭を伸ばし始めた目の前の男性、アルバス・ダンブルドアがゆったりと紅茶を飲み、頷く。
妙に様になってんなぁ。英国紳士、というとアルバス君を知ってる身としては否定したい気持ちが少しあるけれど、まぁでも様になっているのは事実なわけで。
今もこうして、教員として悩む私の相談を受けてくれるというイケおじムーブをかましている。流石昔から人気者なだけあるぜ。
「んー、難しいなぁ。今のマグルって割と戦争とかが多いせいか娯楽に特化したものがないんだよね。目に見えて、こう、子供が受け入れられそうなものがない気がする」
「前の店に置いてあったものではだめだったかね」
「おかげさまで、あれは今や結構周知されたものなのよ。まぁいくつかストックはあるけど民族的なものが多いし、マグルという大きな括りとして語るには力不足な感じが否めないんよなぁ」
特定の民族や部族、小さな国で流行った面白いものを紹介してもいいんだけど、売買ならともかく授業としてマグルの製品と説明するのは...こう、少し違うというか。
難しい。こういう表現方法がもうちょっと豊かならやりようがあったんだけど、思ったより自分は教育という方面では馬鹿と言わざるを得ない。人に教えるのって難しいんだね。
「まぁ...なるようにはなるんだろうけど。今のところ教科書をあてにして、ほぼ全てにツッコミと補足を入れてなんとかしてる感じ」
「新人にしては十分やっていると思うよ」
「わーい、生徒教師に好かれてるアルバスくんのお墨付きもらえちゃ十分すぎらぁ」
とはいえ喜んではいられない。目的のため、ってのもあるけど一部生徒にこの学業が舐められてるのが気に食わん。
見てろよ、こちとら執念深いと言われた寮出身よ。お前らなんぞよりお前らのことを知り尽くしてる自信があるね!
...まぁ、こればっかりは時間と経験が生きていくだろうから、今はとやかくいうつもりはない。今こうしてアルバス君に話しているのも、私のストレス発散に近いようなものであって具体的なアドバイスを求めているわけではない。
このイケメンは...いやもうイケおじかな?どっちにしろ彼はそれを薄々察しているのか深く掘り下げもしないし具体的なアドバイスもしないで、ただ話を聞いて同意してくれた。さてはモテるなてめー。
「...時に。話は変わるんだが、君に会ったら聞きたいことがあったんだ」
「なにさ。答えられる範囲なら答えるよ」
「もしかしたら答えづらい内容かも知れないから答えたくないなら答えなくていいけれど...その姿は一体なんだ?」
姿?聞かれたので改めて自分の姿を見る。
白髪だ。あまり手入れはしてないが元気一杯に伸びたこの髪の毛は光を反射し艶々としている。もう直ぐ地面に届くかも知れないほどに伸びてはいるが、切るつもりは全くないのでヘアアレンジでも今度試してみようと思う。
体だ。身長に見合った慎ましい肉体だ。運動しているものの決して伸びないこの身長にも愛着が湧きつつある。当たり前だが太ってはいない。太ってはいないぞ。あらゆるところが太ってないからちょっとストンとしてるが...まぁ特に気にしない。
顔だ。
一通り確認してみたが、はて。
「なんか変?」
「...普通の人間は、私のように歳を取る。だが君の姿は...なんと言うか。あの頃のままだ」
「あぁ、その話」
もっと重要な話かと思った。目がないとか、骨格が変だとか。それなら割と焦ったんだけれど。
今の見た目の話か。そういえば職員になる際に校長とかに聞かれて答えたけど、アルバス君にはしっかりとした説明をしたことなかったんだっけ。
「結構簡単な話よ。私ってシユウの複製だから」
「複製、だって?」
「そう。双子呪文ってあるでしょ?あれを改良したの」
「それは...本気か?けど、どうやって」
双子呪文。双子の呪いとかも呼ばれるその呪文は、本来であればかけた物とそっくりで無価値なものを生み出す呪文だ。
例えば呪いのかかったカップにこの呪文をかけたとしても、出来上がるのは呪いのないただのカップ。ほぼ全てのものに呪いと魔法がかかっている魔法界では特に意味をなさないイタズラ呪文のようなものである。
無価値になるというのは何も呪いや道具だけでなく、人間にかけたり、かけられたりした場合であろうと同じだ。その人そっくりの木偶人形が出来上がるような感じ、といえばいいだろうか。
どこかの遠い国ではそれを身代わりとして使用する者もいるようだが...まぁそれは置いといて。ともかく本来の双子呪文では人の複製を作り動かすというのは不可能な話だということがわかればおっけー。
「どうやったかは内緒。魔法省にも報告してあるし、先輩にも相談済みで私以外に教えないよう固く言われてるのよ。見る人が見れば不老不死って勘違いされるからね、コレ」
「なら、昔に店番していたのも」
「そう複製。何個前だったかは忘れたけど...本体というか大元というか、最初の私はその時旅に出てたし」
この世界に私は...えー、現状店番2人教員1人旅人2人の計5人いる。魔法省に報告した時はもうちょっといたので、10人ぐらいまでなら増えても問題ないと許可が出てたりする。先輩が面白がって根回ししてくれたらしい。
アルバスは私の説明に対し、感心したような呆れたような複雑な顔をしていた。そら目の前の人間いっぱいいるって言われたらそういう顔するわな。
しかし気がつかないか。私確かに複製だけど増やされたの今年度初めだったんだけどね。あくまで複製だから、見た目を若くするって機能はないんだけど...。
まぁ、知らない方がいいこともある。多少はね
双子呪文っていうんだから人を増やした経験ありそうだよね。日本語訳だからと言われたら元も子もないけど。