ある異世界出身料理人の話   作:チキンうまうま

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ディシアさん来ますよやったー!


一皿目

 

 

 もしも、の話をしよう。

 

 もしも一度眠りに落ちて、それから目を覚ました時。この世界の全てが未知に溢れていたとしたらのならば。

 

 その時あなたはどうするのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「勘違いされてたら困るんでもう一度言っておきますが。」

 

 【勇者】、フィン・ディムナの目の前で鍋を振りながら、黒い髪に腰に真っ赤な色の宝玉をつけた青年は種族柄極めて小柄なフィンをチラリとも見ずに口を開いた。

 

「俺の料理は決して食べたからと言って強くなるわけではありませんよ。」

「…違うのかい?」

「全くもって違いますね。」

 

 鍋の中で程よく炒められた具材に辛味のついた特製のタレがかけられ、辺りに食欲を刺激する香りが立ち込める。その料理を目で追いながらも、彼の発言にフィンは首を傾げた。

 

「当たり前といえば当たり前ですがいくら俺の料理を食べようがステイタスには欠片ほどの影響もありませんし、経験値(エクセリア)が伸びるわけでもありません。変わるのは腹回りくらいでしょうね。」

「…でも、君の料理を食べたら普段より体が良く動くけど?」 

 

 食べると強くなる料理。巷ではこの店はそう言われているし、そのキャッチコピーに惹かれて料理を食べた彼自身もそれを実感している。だというのに調理者自体はそれを否定するのだから、フィンはそれが不思議でたまらなかった。

 

「…確かにそれはあるかもしれませんがね。ただそれは俺の料理が()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()に過ぎません。体調をベストコンディションにしている、とでもいえばいいんでしょうか。…逆に言えば俺の料理(バフ)に慣れてしまえば効果が切れた時に困りますよ。」

「なら君がずっと料理作ってくれたらいいんじゃないのかい?どうだろう、ロキ・ファミリア(うち)の専属料理人とか。」

「嫌ですよ。俺はどのファミリアにも入る気はありませんから。」

「そりゃ残念。」

 

 お互いに何度もしたやりとり。最初に料理の効能を知らぬままに食べた時から、フィンは正体不明ながらもかなりの腕を持つこの料理人を自身のファミリアへと勧誘していた。…結果は見ての通りだが。

 ただでさえ少年のような見た目のフィンが見せたしょんぼりした様子に、店主にほんの少しだけ罪悪感が生まれてしまった。

 

「…わかりきってて聞いてるのに、ちょっと悲しそうな顔をするのはやめてくれませんかね。心が痛む。」

「なら頷いてくれればいいんじゃないかい?」

「それとこれとは別ですよ。…さて、お待たせしました。」

 

 無駄口は叩きながらも手は休めない。出来上がった料理を手早く盛り付けると、定食用のお盆に乗せてフィンの方へと差し出した。

 

「『椒椒鶏定食』です。熱くなっておりますので、お気をつけください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 相変わらず刺激的な匂いだ。そう思いながらフィンは差し出されたお盆を受け取った。お盆にはメインである椒椒鶏以外にライスとスープ、それから小さな漬物。本来東の食器である『箸』を使うらしいが、この店はオラリオという立地上箸以外にもスプーン(厳密にいえばこれはレンゲ、と言うらしい)とフォーク、ナイフが置かれている。

 

 一度皿全体を目で見たのち、料理へと箸を伸ばす。まずは一口、鶏肉を口に運ぶとすぐに口の中全体に肉汁が広がった。そしてその後すぐに辛い、でも辛すぎないタレの味が襲いかかる。刺激的な味わいだが、決して忌避されるものではない。むしろ次の一口を、と思わざるを得ない味付けだった。

 

(だけど、ここでがっつくのは良くない。)

 

 今必要なのは肉の追加じゃない、口の中をリセットするためのライスだ。そう決めてフィンは今度はライスの盛られた皿へと手を伸ばす。白米を掬うと、店主こだわりの炊き方で炊き上げられた白米が光を受けて艶やかに輝いた。

 そしてそのまま一口。口に入れるとすぐに米の味が激しく主張してくる。普通の炊き方ではない、こだわりがある炊き方をされた証だった。

 

(タレに比べればライスの味は薄いはず。なのにここまで味が感じられるなんて…)

 

 気がつけばフィンは脇目も振らずに手を動かし続けていた。そのためにフィン以外誰もいない店内に響くのは食器同士が触れ合う音だけ。

 そして彼が食事に集中していた、と気がついたのは皿が空になってからだった。つまり最初から最後まで全身全霊で食事にのめり込んでいた、ということである。

 

「…美味しかったよ。本当に。」

「そいつは何より。」

 

 食べ終わってほっと一息をつく。そんなフィンからこぼれ落ちた一言に店主は律儀に反応すると、フィンへと一つの小皿を差し出した。

 

「…これは?」

「デザートですよ。今日は『杏仁豆腐』です。冷えてた方がいいんでこいつは最後にお渡ししてるんです。」

 

 小皿にのった白く艶やか、そして冷ややかなデザート。ただでさえ辛いものを食べて暑さを感じているフィンは、差し出したそれに迷うことなく手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうござっしたー。またおなっしゃーす。」

 

 食事を終え、店の外へと出ていったフィンを見送って店主は一度店内を見渡した。

 立地はオラリオのメインストリート…の端っこ。しかも半地下の店。座敷もないカウンターだけの店だが、今のところはそれなりにやれている。

 

「…いやー、あそこまで美味しそうに食べてくれると作り甲斐あるなあ。」

 

 フィンの食べっぷりを嬉しく思いながら後片付けへと動く。そろそろ昼食には遅い時間ということもあって店内は今店主以外誰もいなかった。そのために彼は一度思案すると、昼の部はここまでにしようと決めて看板を『休憩中』へと変えた。

 

 厨房へと戻ると故郷にはなかった魔石製品の蛇口、とやらを放って水を出し皿を洗う。1人分ということもあってすぐにそれを終えると彼は自分の昼食を取るべく小鍋へとスープを注ぎ、

 

「…あちちちちっ!」

 

 一度鍋のフチに手をやったかと思うと一瞬でスープを沸かしてみせた。それは誰かが見ていたら絶対にできない絶技。詠唱なしの魔法の行使、という()()()()()()()()()()の証明。紛れもないこの世界にとっての未知、なのだが。

 

「やべえ。沸かしすぎたかもしかして…。」

 

 『昼食用のスープを温める』という割としょうもないことにその力は使われていた。器に入れても食べれるほどまで冷え切らなかったのか、そのまま熱い熱いと嘆きながら彼はスープを口にする。

 

 

 

 『食事処 天衡山』。昼の営業は今日はここまで。また夕方、おいでください。




【店主】
 テイワット、璃月出身の男。元は故郷で冒険者をしていたのだがとある事情のもと今は料理屋をしている。得意料理はどちらかというと璃菜の方らしい。

【料理】
 ゲーム的には食べてから一定時間様々なバフがかかる。再現料理はかなり美味しそうなのでみんなもTwitterで『原神料理部』で検索。
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