ある異世界出身料理人の話   作:チキンうまうま

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フォンテーヌ実装おめでとう




2皿目

 

「…くっそ。」

 

 もうもうと耐えがたい程の熱気が立ち込める鍛冶場で、ヴェルフ・クロッゾは悔しげに呻いた。そんな彼の手には、今日打ち上がったばかりの一振りの片手剣が握られている。

 

「…また売れなかった。」

 

 ギリギリと歯を食いしばり、血が流れんばかりに拳を握りしめる。そんな彼の脳裏にあるのは、店頭に並べられた自分の作った武器たち。─そして、それは今日も、昨日も、一本たりとも売れていない。

 

 なんでだ、なんで俺の武器は認められないんだ。

 

 彼が作るのは『クロッゾ』の名の元に打つ魔剣ではなく、自分の武器。血ではなく、技術で打つ己の武器がまだまだ未熟なのは百も承知だが、それでもここまで見てすらもらえないと、心にくるものがある。

 

 何がダメなんだろうか。材料か、それとも作り方か。自分の主義とは離れるが、もっと装飾品を派手につけた方が良かったんだろうか。色々な思いが頭の中を駆け巡るなか、不意に腹からぐう、と音が鳴った。

 

「………。」

 

 今は腹の音なんぞに構ってられるかと、その音を無視して思考に沈もうとするも、一度鳴り出したら腹の音はたまらない。持ち主の空腹具合を示すかのように、ぐうぐうと音を立て続ける。

 

「ああもう!」

 

 ヴェルフはしばらくその音に耐え忍んでいたが、ついに我慢の限界が来たのか、勢いよく立ち上がった。そのまま机の上に転がっていた財布を手に取って、中身も見ずに扉を勢いよく開けた。そして火照った身体を冷ますかのように、春先の街へと歩いていく。

 

 目指す先はある飯屋。安くて、量が多くて、そして美味い。そんな最近できたある飯屋である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃーい…あれ、ヴェルフさんじゃないですか。」

 

 開店直後の『食事処 天衡山』。まだ客もまばらなその店に、ヴェルフはやってきていた。以前にもきたことがあるのだろうか、店主は彼の名前を知っていた。

 軽く挨拶をしながらも店主は冷えた水が注がれたコップと、熱々のおしぼりをヴェルフの前へと並べていく。

 

「こんな早くに来るなんて珍しい。何にします?」

「…安くて腹に溜まるやつを頼む。」

「若者の頼み方ですねえ。」

 

 ヴェルフのオーダーに、食べたいもので注文してくださいよ、なんて言いながら彼はすぐに調理に取り掛かった。魔石コンロに火をつけ、空の鍋に水を汲んでお湯を沸かす。魔石冷蔵庫と戸棚からいくつかの材料を取り出して、先程のとはまた別の鍋も火にかけて温める。すぐにふつふつと沸いたかと思えば、そこからすぐに食欲を刺激する香りが漂ってきた。

 

「…いい匂いだな。」

「そいつはどうも。にしてもヴェルフさん。」

「なんだ?」

「聞いちゃいけないのかもしれませんが…何かありましたか?」

 

 すぐに沸いたお湯に、麺を投入する。麺を茹でる時は、とにかく茹でムラを作らない。棒で混ぜながら、麺の硬さを確かめて茹でていく。

 

「…何も。何も無えよ。」

「そうでしたか。」

 

 そう返すと、触れられたく無いことだと察したのか店主はそれっきり黙り込んだ。2人の間には沈黙と、湯が沸く音だけが聞こえてくる。そのまましばらくして、麺が茹で上がったのか店主は麺を引き揚げると、湯切りして、皿へと盛りつけ始めた。

 

「お待たせしました。」

「おお…。」

 

 さらに待つこと1分ほど。ヴェルフの前には、湯気を立てる一皿の麺料理が並べられていた。透明感のあるスープに少々の野菜と煮られたキノコ、見たところは猪肉だろうか、謎の肉料理がトッピングされている。スープパスタともまた違う見たことない料理だが、なんと食欲をそそることか。少なくとも空腹のヴェルフには極上の逸品に感じられていた。

 

「『山幸の麺』です。もしライスがいるようでしたら、言ってください。2杯までならサービスですから。」

 

 彼の話もそこそこに、ヴェルフはまずはスプーン(れんげ)を手に取ると、スープを一口啜った。意外にも一切の音を立てずに味わうと、思わず彼の口から感嘆の声が漏れ出した。

 

「〜うめえ!」

「ありがとうございます。」

 

 ニヤリと笑う店主の反応も気にせず、もう一口。美味い。味はしっかりとあるのに、くどくない。出汁がしっかりと効いている。それも、これは何種類かの食材から出汁をとっているに違いない。この風味からするとおそらくはキノコと、猪肉からだろうか?一歩間違えたらアクが出て大惨事になるだろうに、良くここまで旨みのみを抽出できたものだ。育ちゆえにその手の知識も持つヴェルフは、その技術に唸らざるを得なかった。

 

 そのままスプーンをフォークに持ち替えて、麺を一口。これまた口から声が漏れ出そうになっていた。少し噛むだけで、口の中に小麦の味がいっぱいに広がる。しっかりと茹でられているのにコシは強く、その存在感ゆえにスープの味に一切負けていない。そもそも麺料理であれば麺が主役なのでそれは当然と言えるのだが…それにしてもこの完成度はそうそうお目にかかれない程だ。

 

「……!」

 

 無我夢中でさらに皿をつつく。トッピングに載せられた肉、これも煮込まれているのだろうか、少し触れただけでほろりと崩れそうなほどに柔らかかった。それを慎重に取り上げ、口に含むと口の中で肉汁が爆発する。鼻に抜けるほどの旨味が一斉に肉から放出された。その味わいを忘れないうちに、店主が出してくれていたライスを掻き込む。これだけで何杯でもいけそうだった。

 

「………うめえ。」

 

 気がつけば器は空になっていた。いつのまにかスープまで飲み干していたらしい。先程まで淋しかった腹は膨れ、全身には活力が溢れている。今ならいくらでも動けそうだった。

 

「なあ、店長。」

「なんです?」

 

 気付かない内に、店内の席はほとんど埋まっていた。ガヤガヤと喧騒が店を支配し、それに負けじと店主が火の側で鍋を振るう。そんな中で思わずヴェルフは彼に尋ねてしまった。

 

「どうしたら、俺は上へ行けるんだ?」

 

 それは漠然とした問いだった。ただ、店主はその問いに一切手を休めることなく、首だけを少し傾げた。

 

「さあ?俺は鍛治について何も知りませんから。」

「…だよなあ。」

「ただ、道は違えどヴェルフさんよりも先に暖簾分けした身として言わせてもらいますと。」

 

 店主は出来上がった料理を手早く盛りつけて客に差し出すと、すぐに次の品へと取り掛かった。その片手間ではあるが、ヴェルフの方をチラリと向いて、言った。

 

「なんだかんだ言っても、口動かすより手を動かした方が上達は早いですよ。まあヴェルフさんなら知ってるとは思いますが。」

「…だよなあ。店主、今のは聞かなかったことにしてくれ。」

「分かりました。…ヴェルフさん。」

「おう?」

 

 食べ終わったヴェルフは財布を手に持って席を立った。そんな彼に、店主が言葉を投げかける。

 

「もし、もしですが。頑張って頑張って、疲れちまって、それで腹が減ってどうしようもない、ってなったらいつでもうちに来てください。そうなったら、ヴェルフさんを腹一杯にしてやることくらいはできますから。」

「ああ。わかった。その時はよろしく頼むぜ。」

 

 ヴァリスを払い、軽くなった財布を着流しの胸に入れて歩き出す。昼までなら軽くなったのは財布だけだっただろうが、今は足取りも軽かった。身体中にエネルギーが満ち溢れ、頭の中に次から次にアイデアが浮かんでくる。

 

「次はどうすっか…あれがダメだったなら、今度はあの方法を試すか?」

 

 ぶつぶつと呟きながらバベルの方へと、自分の鍛冶場へと歩いていく。今からは夜の帳が下りる時だが、今燃え上がっているこの熱を少しでも冷ましたくなかった。

 

「ああくそ、まだやれてねえことばっかりだ!」

 

 口ではそう言いつつも晴れやかな表情でそう言って、未来の大鍛治師は夕暮れの雑踏を歩いて行った。

 

 




【山幸の麺】
 見るだけでかなり美味しそうな、リアルにありそうな麺料理。
 効果としては品質によって40/50/60スタミナを回復する。
 重雲が作れば一定確率でオリジナル料理になる。
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