危険極まりないダンジョンでソロを強いられるのは間違っているにちがいない   作:深夜そん

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本気なのか、あなたは

 

 

 先日の激動の怪物祭モンスターフィリアもといオッタル襲撃事件より幾日か経った。

 その間、ベルの教導を彼の異様な成長速度に若干ビビりつつ教導官の尊厳を賭けながらやったり、ある日ベルがエイナさんとデートに出かけて何だか置いてけぼりを食らった気分になったのでひとりでダンジョンアタックしてたらまたぞろ魔物に囲まれボコられてボコり殺し返したり、またある日魔物に追われて辿り着いた深層で「こんなところで奇遇だなロン・アライネス。共にどうだ」などとワケのわからないことを抜かすたくましい猪人に話しかけられたのをダンジョンアタックに狂ってるフリをすることでスルーしたりと、いつもとほんの少し違うソロ冒険者街道を邁進していた。うん、日常が戻ってきた気分だね。

 

 じゃねェわ!

 

 あんただよあんた、オッタルあんたコラァ!!

 奇遇だなじゃねンだわかれこれ3回目くらいなんだわ昨日で!!

 スルーしてんのに「ところでこの武器を見てくれ。こいつをどう思う?」とか訊いてこないでくれよ反応に困るっつーか反応できねェんだよ!?

 

 奇遇でも偶然でもない、間違いなく必然的に彼と遭遇している。

 どういうわけか彼は俺に目をつけている。

 身の危険を、感じる。

 

 ギルドでも時々妙な噂を耳にする。

 やれ「"武鬼バトラ"さんが遂に"猛者おうじゃ"と矛を交えたらしい」だの「三日三晩の決闘の末決着着かずふたりの間には友情が芽生えた」だの「それがいつしか愛へ......」だの何故か女性冒険者を中心に尾鰭背鰭がこれでもかと付きまくった事実無根極まりない妄想の旋風が吹き荒れている。

 それにより俺の精神がゴリゴリ削られている。いっそ大暴れしてギルドを恐怖のどん底に陥れてやろうかと物騒なことまで考えてしまったくらいだ。

 

 何がどうしてこうなっちまったんだ。

 俺がいったい何をしたというのだ、神よ......いや女神さまのことじゃないですあなたはそろそろニヤけるのやめないとオヤツ抜きにしますよマジで。

 

 ともかくだ。

 これは非常に危険な事態だ。

 そんじょそこらの木端冒険者......などと言ってしまうと失礼だが今の俺の精神状態的にこれくらいの暴言は許せ、いや違う脱線した。つまり並の冒険者に目をつけられるのならまだ許容できる。

 俺や女神さまに因縁つけてちょっかいかけてくるヤツはどこのどいつであろうがあえて俺の悪評通りの振る舞いでもってして二度とナメた真似ができねェようにしてやるともさ。

 

 しかしあんたはダメだ。

 あんただけはダメだよオッタルさんよ。

 ちょっかいも因縁もなく、むしろどういうわけか友好的な態度で来てくれてんのはなんとなくわかるんだが、あんたはちょっと強すぎるし好戦的すぎる。

 

 ヒトが獅子にじゃれつかれて無事で済むか?ネコじゃねンだぞ甘噛みで死ねるわ。

 挨拶がてら「手合わせしよう」などと言い出しかねないあの超危険人物は俺と住む世界が違いすぎるのだ。

 俺のモットーは安心安全。バイオレンスの極地のような戦闘狂の都市最強との絡みなどこれっぽっちも望んでいないのである。

 

 対策が必要だ。

 と言っても敵対関係となるのは無論最悪手である。

 本当に何故だかわからないがせっかく友好的なのにこちらからそれを崩すなどもってのほかである。

 ではどうする?決まりきったことだ。

 

 結論。

 獅子にじゃれつかれても平気なように鍛えるしかない。

 

 やってやろうじゃねェかよ!

 

 イヤだけど!超イヤだけどな!

 

 俺は覚悟を決めた。

 甚だ不本意ながら決めざるを得なかった。

 グッバイ日常。

 いや俺の日常がそもそもバイオレンス寄りなのだが、それはそれとして。

 

 こうなってはもう楽な階層でいい塩梅に稼ごうなどと生温いことは言っていられない。

 今一度、自分を鍛え直す必要がある。

 それも不幸に巻き込まれて仕方なく陥る窮地とかではなく、正しい意味での窮地、冒険をする必要があるのだ。

 

 そんな俺に朗報が舞い込んできた。

 ロキさまが代金を肩代わりしてくれたヘファイストスファミリアブランドの超高級武器が完成したとの報せを受け取ったのである。 

 

 なんともまあ渡りに船とでも言うべきか。

 修行のため自ら進んで深層へのダンジョンアタックに繰り出そうとしていた俺にとっては朗報も朗報である。

 武器をダメにする魔物共(確定)と武器をダメにする猪人(予定)との交戦の可能性がある今、不壊属性デュランダルほど頼りになるものはあるまいよ。

 

 そんなこんなで。

 

「新武装楽しみねー」

 

「ッス」

 

「あらどしたの。テンション低いわよー?」

 

「覚悟の後押しをされてる気分で素直に喜べないッス」

 

「ウケる」

 

「ウケねェッス」

 

 完成した武器を受け取りに、女神さまを伴ってバベルへと向かうのであった。

 

 

「これが完成した武器よ」

 

 屈強な冒険者数名により運び込まれたそれを前に、ヘファイストスさまが言った。

 

 全長およそ3.6Mってところか。

 手にかけ、持ち上げてみる。

 

「ウソでしょ。それを片手で軽々と」

 

 ヘファイストスさまが目を丸くした。

 確かに、ズシリと重い。それなりにな。

 

「振り回すことも想定しているのでこれくらいは」

 

「そうなんだけどさぁ......」

 

 呆れたような顔をなさっている。

 どれだけ重くなろうと構わないと注文したのは俺だ。

 その俺が重くて持てませんなどと抜かせば笑い話にもなるまいよ。

 

 軽く素振りしてみたら怒られた。

 あぶねェからやめろって。

 ごもっともですごめんなさい。

 

 それにしても、良い出来だ。

 さすがとしか言いようがない。

 

「注文の通りにしたわ。

 前提としてまず不壊属性。

 あなたの戦闘スタイルに合わせたマルチウェポン。

 先端は槍。両側面に半月刃と鉤爪。

 いわゆるハルバードね。

 大型化していてかつ重量も従来のものよりも随分あるけれど」

 

 そう。

 俺が注文して鍛っていただいたのはハルバード、斧槍である。

 何か1本不壊属性を持つとしたら、こいつと決めていた。

 

 理由は至極単純である。

 1本の武器であらゆる局面に対応するならその1本にあらゆる機能を備わらせてしまえばいい。

 突いてよし、薙いでよし、叩いてよしの斧槍はまさしく俺が理想とする武器である。

 

 斧槍というのは扱いが難しい武器である。

 用途が非常に広いため状況に応じて打つ手を取捨選択せねばならないこと、そもそも長く重いため熟練を要するということなどがその理由だ。

 

 俺にとってはわけないことだ。

 あらゆる武器を使いあらゆる敵を叩きのめしてきたこの俺に取り扱うことのできない武器などありはしない。

 使いこなしてみせようじゃないか、このじゃじゃ馬も。

 

「さて鍛冶屋泣かせソードブレイカーくん?

 とても大事なことを決めましょうか」

 

 斧槍を見ながら密かに胸を弾ませていた俺に、ヘファイストスさまが凛々しい笑顔を浮かべつつ言った。

 

 大事なこと、とは?

 

 俺がピンと来ていない様子を察したか、ヘファイストスさまは諭すようにおっしゃる。

 

「わからないかしら。

 大事なことというのはね。

 あなたの、あなたのためのその武器の、銘よ」

 

「銘、ですか......」

 

「そ」

 

 今まで気にしたことのなかったものである。

 俺にとって武器は使い潰すものであったからして。

 ひとつの武器にこだわりなど持たず、多くを携えて戦い、時によりそれを投げ捨てることも厭わないものであったからして。

 

「武器には打ち手と使い手の魂が宿る。

 その武器はね、今日からあなたの半身のようなものなのよ。

 というか今まであなたはその半身をたくさん抱えてたくさん使ってたくさん散らせてきたのよその辺わかってるかしら」

 

「あ、すんません」

 

 ヘファイストスさまはちょっとお怒りのようであった。

 鍛治の神としては俺の武器に対する扱いに思うところもあるのだろう。

 

「ま、いいのよ。

 今のは冗談。ごめんなさいね?」

 

 そうかと思えば、悪戯っぽく笑った。

 続けておっしゃる。

 

「あなたは別に雑に使っていて壊したわけではない。

 むしろあなたのメンテナンス技術については鍛冶士としても見習うべきところも多いわ。

 あなたは武器を愛しているし、愛されている。

 あなたと共に壊れるまで戦った武器はきっと本望だったでしょうね」

 

「ヘファイストスさま......」

 

 意外であった。

 そんな風に、思ってくださっていたのか。

 俺に一定の評価をお持ちになってくださっていたのか。

 このうえなく光栄なことだ。

 

「それで、よ。

 その子は決して壊れないわ。

 あなたの生涯の相棒と言ってもいい。

 だからね?

 名前、つけてあげない?」

 

 ヘファイストスさまはとても優しいお顔でおっしゃった。

 

 さすがは鍛治の神である。

 武具は我が子同然、いやさ自分自身と同然とも言わんばかりか。

 武具に対してかけるその思い、いち武器の使い手として尊敬に値する。

 

 しかし、な。

 

「名前、ねェ。

 急に言われましてもね」

 

 これである。

 俺にとって今まで発想すらなかったことなので、急に言われても困り果ててしまうばかりなのだ。

 

「えー、男の子なんだからカッコいい銘の装備に憧れたりしなかったのあなた。しなかったんでしょうねぇ」

 

 なにせカッコ良さもへったくれもなく日々必死だったものですから。

 苦笑しか出てこないです、はい。

 

 いざ銘をつけろと言われてもどうしたらいいやらわからない。

 斧槍をじっと眺めてみるが何も浮かんではこない。

 どうしたものか。

 

「クベーラ。あんたは何かない?」

 

 ヘファイストスさまはぼやーっとしていた女神さまに振った。

 なるほど、いいかもしれない。

 

「いいですね。

 女神さま、俺の命を預けるこの武器に、是非とも名を与えてやっていただけませんか」

 

 俺の命は女神さまのもの。

 この武器は俺の命を預けるもの。

 すなわち、女神さまこそがこの武器の名付け親にふさわしい。

 完璧な三段論法である。

 

 振られた女神さまはというと、キョトンとしておられる。

 非常に愛らしいお姿であるが、このお方はこう見えて財宝神。

 きっと数多の名のある宝具のこともご存知であろう。

 あやかるにふさわしいだけの引き出しには事欠かないはずである。

 そういう意味でもこのお方は名付け親として抜群に優れていると言えるであろう。

 

 しばし黙考する女神さま。

 真剣に考えてくださっているようで嬉しい。

 こいつもきっと喜んでいることであろう。

 

 やがて、閃いたとばかりに手を打たれた。

 

 おお、決まりましたか!

 

 神妙に待つ。

 1秒か1分か、はたまた1時間なのか。

 あやふやな時間が流れた。

 

 女神さまがその形の良い唇をわずか湿らせた。

 ゆっくり、口を開く。

 

 我が最愛の女神が名付ける、俺の武器の名は......

 

 

「クベーラちゃん大好き棒」

 

 

 名、は......

 

「......」

 

「......ンフッ」

 

 おい笑ってんじゃねェぞヘファイストスさま。

 

 いや、冗談だろ?

 ねえ。

 

「め、女神さ」

 

「クベーラちゃん大好き棒」

 

「ンッフ!フハ!」

 

 

 もうやめてくれェ!!

 

 

 なんだその恥ずかしい名前は!?

 好きですよ、大好きですよ!?

 でもありえない、それはありえないですよ女神さま!?

 

 え、なに?

 オッタルと今度遭遇したとき

「ほう、良い武器だな。銘は何というのだ?」

「クベーラちゃん大好き棒です」

「お、おう」

などという会話に興じろとでもおっしゃるおつもりか!?

 ベルに「これが俺の新武装クベーラちゃん大好き棒だ」って真面目くさった顔で紹介してみせろってのか!?

 

 ドンッッッ引きだよ!!

 

 眼前のクベーラちゃん大好き棒(仮)が鈍い光を放っている。

 その姿はどこか誇らしげに見えた。

 ダメだよ!?

 君が納得してても俺が納得してないよ!?しないよ!?

 

「し、承知ンフッしたわ。

 く、く、クク、クべーラッちゃん、大好......アッハもうダメ!!」

 

 ヘファイストスさまがとうとう腹を抱えて笑い出した。

 さらっと承知しようとしないでほしい。

 

 女神さまは何故か胸を張っている。

 もしかして冗談じゃないんかこれ。

 本気なのか、あなたは。

 正気なのか、あなたは。

 

 ヘファイストスさまはそれこそ正気を失ったように笑っている。

 このお方のこんなお姿を見るのは初めてだ。

 見たくなかった。

 

 ひとしきり笑ったヘファイストスさまが落ち着きを取り戻すのには数分を要した。

 俺は地獄のようなその数分でこれまでの人生を振り返っており、今はちょうど女神さまと出会ったところあたりであった。

 当時のこのお方はここまでアレではなかったように思うのだがはたして。

 時間が彼女を狂わせたのか、あるいは狂わせたのは俺なのか。

 そもそも俺が狂っているのか、狂っているのはこの世界なのか。

 

 ああそうだ、もうすべてダンジョンが悪い。

 ダンジョンなんて存在するからいけないのだ。

 そうに違いないのだ。

 

 俺が現実逃避をしていると、ヘファイストスさまがプルプル震えながら口を開く。

 

「うふ、ウフフ、特に異論がないなら決定で、い、いいのかしらッ」

 

 まだツボっている様子でとんでもないことをおっしゃった。

 

 待て。待ってくれ。

 

「ありますあります超あります!」

 

 ここで異論を挟まねばこいつはクベーラちゃん大好き棒だ。

 それだけはダメだ。

 絶対に阻止せねばならない。

 

「なによ、文句あるの」

 

 ないと思ってるの女神さま!?

 

 いやしかしどうやら本気らしいからあからさまに否定して機嫌を損ねられるわけにもいかぬ。

 あくまで。あくまでもやんわりと、修正をはかるのだ。

 今こそ、クベーラファミリア唯一の眷属たるこのロン・アライネスの真価が問われるときなのだ。

 

「め、滅相もない。

 俺の武器なのですからやはり俺がつけたほうがいいんじゃないかと思い直した次第でして。いやほんとに。

 女神さまに文句などあろうはずもございません」

 

「ロン。神の前で嘘はつけないって知ってた?」

 

 速攻で瓦解しました。

 そうでしたね、つけませんでしたね、嘘。

 

「ふーん。

 ロンはわたしのこと好きじゃないんだ。ふーん」

 

 やべェぞ不機嫌だ!

 ちゃうねん、好きなのはほんまやねん!

 いやなんでロキさまになってんだ落ち着け俺。

 

 さらっと論点がすり替わっているのも問題だ。

 俺が不服を申し立てているのはあくまでそのありえないネーミングセンスに対してであって、女神さまのことをお慕いしているか否かということではないのだ。

 

 しかし、やや......いやかなりメンドクサイところのあるこのお方のことなので嘘でも冗談でも嫌いだなんて言おうものならマジでどれだけ機嫌を損ねるやらわかったものではない。

 そもそも俺は女神さまを本気でお慕いしているので嘘でも嫌いだなんて言うはずがないのである。そこだけは履き違えていただいてはならない。

 

 俺が女神さまを大切に思っているのは本心だ。

 考えろ、大切な女神さまをお守りするための俺の新武装、その名を考えるんだ。

 

 ん?

 

 大、切......。

 大切、か。

 

 

「『大切プレシアス』」

 

 

 口をついて出た。

 

「え?」

 

 女神さまが目を剥いた。

 

「この武器の、銘です。

 『大切』がいいと、思いました」

 

 しっくりときた。

 女神さまを見ていると、自然と浮かんできた言葉だったのだ。

 

「大事なもの、って意味よ」

 

 ヘファイストスさまが言った。

 その顔には揶揄うような、どこか子供っぽいような、しかし慈愛に満ちた笑顔が浮かんでいた。

 先程腹抱えて笑っていたのと同一神物とは思えない。

 

「し、知ってるわよそれくらい」

 

 女神さまは頬を赤らめた。

 

 小っ恥ずかしいが、しかし。

 

 そう、大切なのだ。

 大事なものなのだ。

 女神さまは。

 その女神さまをお守りするための、こいつは。

 

 だからこいつの銘は、これがいい。

 これしか、ない。

 

 女神さまが挙動不審になり始める。

 普段はあれだけ俺に対しての好意を開けっぴろげにしているわりに、意外とこういうのには弱いらしい。

 

「ろ、ロン?

 別のにしない?

 カリヴァーンとかフラガラッハとかティルファングとかカッコよくない?」

 

「全部剣よそれ」

 

「黙ってなさいヘファイストス!」

 

 いつも女神さまには困らされてばかりであるが。

 本当にマジで色々と困らせてくださるお方ではあるが。

 これは意趣返しになっているのかな。

 

 そういうつもりでは、なかったのだが。

 

「女神さま。ヘファイストスさま。

 こいつの銘は『大切』です。

 もう、決めました」

 

 俺の思いが覆らないことを悟ったのであろう。

 

 女神さまは顔を赤くしたまま押し黙り、ヘファイストスさまは優しげに笑った。

 

「いい銘よ。ロン・アライネス。

 あなたの冒険はこれから、『大切』と共にある。

 どう?

 その子の使い手に、なれそうかしら?」

 

 手に取り、肩に担いだ。

 それなりに軽いと思ったが、しかし。

 

「無論」

 

 思いの外、重いものなのかもしれないな。

 

 いつもより小さく見える女神さまを眺めながら、そう、思った。

 

 

 帰り道、ホームへの道すがら。

 いつもならば俺に組みつくなりなんなり、とにかくへばりついている女神さまであるが、今日は一歩下がってついてきている。

 

「怒っていますか?」

 

 問いかけてみると、頬を膨らませた。

 

「怒ってると言ったらどうやって機嫌をとってくれるのかしらね」

 

 拗ねたようにおっしゃるその姿がおかしくて笑ってしまった。

 それでまたヘソを曲げてしまわれる。

 

「......ズルいわ。ロン、あんたはズルい」

 

 いっそ耳に心地良いものだ。

 なんとでもおっしゃればよろしい。

 そう目で言って差し上げると、駆け寄ってきた。

 

「生意気」

 

 そうしてそのまま腕に組みついてくる。

 

 結局、こうなった。

 

「生意気にもなりますとも。

 10年も共に生きているのですから」

 

 当時の俺がこうなると。

 いや、あなたがこうなるとは、あなた自身が思っていなかったことでしょうけれどね。

 

「わたしたちにとって10年なんてあっという間のことよ。

 これから先も、そう」

 

 そう、でしょうね。

 なにせあなた方は永遠なのですから。

 

「女神さま。

 俺をあなたの眷属にしていただいたこと、感謝しています」

 

「なによ。改まって」

 

 腕に顔を埋めて言うその声はくぐもっていた。

 

「この先何があろうとも、俺はこの『大切』と共に、そしてあなたと共にあります。

 死ぬまで。

 いいや、死したその後であろうとも、必ず」

 

 びくりと震えた気がした。

 

「気安く言うわね。

 あんたにわかるのかしら。永遠が」

 

 その声には棘がある。

 腕に爪を立てられている。

 

 覚悟ならとうに済ませているというのに。

 俺が嘘をついていないことなど、お見通しでしょうに。

 あなたは、神なのですから。

 

 それでもあえて口にすべきこともある。

 

「わかるわけがないでしょう。

 

 でもね、誓うだけならタダなんですよ。

 好きでしょう?タダって」

 

 震えが止まった。

 

「......ほんと、生意気」

 

 なんとでも、おっしゃればよろしい。

 

 不敬であるが、頭を撫でて差し上げたくなった。

 しかし、生憎と手には『大切』。

 両腕共に、ふさがっていた。

 

 家路は遠く道は長く。

 

 肩に担いだ『大切』と、腕にしがみつく『大切』が、どちらもとても重くなった気がした。

 





 フツノミタマ。
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