危険極まりないダンジョンでソロを強いられるのは間違っているにちがいない   作:深夜そん

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神ってさ。もっとこう......

 

 

「すごい。惚れ惚れしちゃうわ」

 

 俺に馬乗りになった女神さまが言った。

 うりうり、と指でつついてくる。

 くすぐったいです。

 

「これが楽しみで女神やってると思うのわたし。

 朝からこんなの......今日一日元気でいられそう」

 

 それは幸いでございます。

 あ、そこ弱いとこなんですやめてください。

 

 俺は身を捩った。

 

「あ、こら。逃げちゃだめ。

 ローンー?

 わたし、昨日はさみしかったんだからねー?

 今日はわたしだけのロンなんだからねー?

 どこにも行っちゃダメだからねー?」

 

 ミッションだったんだから仕方ないじゃないスか。

 あとあなただけのロンっつーかそもそも、他にそのロンとかいうやつを欲しがるやついないんスよ悲しいことに。

 

「よりにもよってあのロキが絡んでるのが腹立たしいわ。

 文句言っても言っても言い足りないわ。

 わたしのロンにちょっかいかけないでよね」

 

 女神さまがしなだれかかってきた。

 柔らかな感触に安心感をおぼえる。

 

 今日は一段とすごいな。スキンシップが。

 

 なんだかんだで、ご心配をおかけしていたのかもしれない。

 

 

 ミッションを終えてホームへと帰還した俺が真っ先にしたことと言えば当然、女神さまへのご挨拶とご報告......

 といきたいところだったが、朝方であったためまだ惰眠をむさぼっていらっしゃったうえ、そもそも俺自身が血やら何やらよくわからない液体やらで汚れすぎていたので、身を清めることを最優先した。

 

 脱衣室に雑に脱ぎ捨てられた女神さまの下着を洗濯籠にきちんと入れ直し、ラックに置かれていたなんか飲みかけっぽい牛乳瓶を処分した。浴槽の湯......もとい水は張ったままになっていたので魔道具でまた沸かした。

 

 たった一日ホームを空けただけで細々としたところをよくもまあ散らかすものだ。

 

 と苦言を呈する気も起きない程度にはさして珍しいことでもないので、粛々と身を清めた。

 

 風呂から上がると女神さまは今日はちゃんと服を着て起きていた。

 ちなみにやはり俺のシャツを着ていた。

 

 あらおかえり、などと何らいつもと変わらぬ調子で言った女神さまは、半裸の俺を見るなり頬をうっすらと紅く染めてベッドを指差した。

 俺も察したので苦笑いだ。嫌いじゃないですけどね、俺も。

 

 そして冒頭に至る。

 

 女神さまは俺に、俺の背中に馬乗りだ。

 

 帰投後恒例、ステイタスの更新である。

 

 

力:A801

耐久:C645

器用:B720

敏捷:B797

 

 渡された羊皮紙に目を通す。

 なるほど確かに。

 女神さまがおっしゃるように、惚れ惚れするほどアビリティが伸びている。満遍なく高まっているな。

 スキルによるバフも加味すれば実際にはこの数値以上となるからこそ、俺はソロでもやれるほど強いのである。

 

 全て良く伸びているが、今回は特に敏捷の伸びが著しい。50階層への往復全力疾走によるものだろう。あれドーピングのおかげなんですけどいいんですかね。

 

 他の冒険者のステイタスがどんなものなのかは知らない。

 いやこれは別に俺がソロだからとかそういう話ではなく、一般常識の範疇として他人のステイタスの詮索は御法度であるからして知らないだけである。

 

 しかし、俺の成長が早いということはわかる。

 俺が冒険者になって10年。現在レベル6。レベル7も近いのではないかと巷では噂されている。

 俺と同じく10年冒険者をやってるやつでもレベル2で止まっているのがさほど珍しくない昨今の冒険者事情のなかで、異例とも言える成長速度と言えるだろう。

 

 毎日毎日敵に囲まれたり追われたり、運が悪いと追われるがまま階層主に突撃させられて大混戦の末にそれを撃破するはめになったりしてりゃ、そりゃアビリティも伸びるわな。

 

 唯一伸びないのは魔力くらいのものだ。

 まあ仕方がない。魔法が発現しなければ伸びない項目だからな。

 それに俺は0って字が好きだ。変わらずに安定しているものを見るとなんだか安心するんだよね。なんでだろうね。

 

「いよいよ魔力も伸び始めたのが良いわね。

 そこだけ数字が変わらなかったから気持ち悪いと思ってたのよねーわたし」

 

「は?」

 

「あれ。気づいてなかったの?」

 

魔力:I 32

 

 ああ!よく見たら変わっとる!俺の安定の0が!

 

 驚愕の心持ちのまま、さらに下へと目を滑らせていく。

 発展アビリティ、変わりなし。

 スキル、変わりなし。

 そして......

 

《魔法》

【パラディサス・サイン】

 

 は、発現しとる。魔法が。

 

 おお、おおおおお......!

 

 ごめんなさい0が好きとか嘘です。強がりでした。

 魔法の発現、感無量です。

 

 遂にこの時が来たか。

 ただ武器を叩き付けるか最悪拳で語るだけしか能の無かったこの俺に、新たなる力が加わる時が。

 

 やはりスタンダードな攻撃魔法だろうか。

 長文での詠唱を必要とする類のものであれば威力や攻撃範囲に期待が持てる。その場合は詠唱しながら戦えるよう訓練が必要だな。そういう技術も世の中にはあるというからな、ギルドの資料室でお勉強だ。

 逆に詠唱が短文ならばそれはそれで都合が良い。牽制として用いるのには小回りが効くほうが、むしろ良い。

 あくまで俺は近接ファイターだからな。魔法には絡め手としての役割を持たせるのも一興というやつだろう。

 

 補助系統の魔法というのも捨てがたい。

 回復魔法ならば上手く使えばポーションいらずで家計に優しい。

 付与魔法ならば俺の戦闘スタイルとも合致しており扱いに困らない。

 

 ともかく。

 この際どんな魔法でも嬉しい。

 戦術の幅が広がるのは大歓迎だ。

 

 この魔法は、俺の望みをどのように叶えてくれるんだ?

 

 魔法の発現を自覚すると、まるで頭の中にスッと紙が一枚差し込まれたかのように詠唱のことばが浮かんできた。

 なるほど、こういう感覚なのか魔法の世界の入り口に足をかけるというのは。

 

 ふむ。ふむ。

 なかなかの長文詠唱のようだな!

 

 これはさっそくダンジョンに赴いて、初お披露目と共に効果の検証と活用方法の模索が必要だ。

 いつもいつも好きでダンジョンに潜っているわけではない俺だが、今日は、まあ、あれだ。

 

 少しだけダンジョンのことを好きになってやってもいいかな?

 

 俺はスクと立ち上がった。

 女神さまはヒシと俺の腰にしがみついた。

 不満げに頬を膨らませていらっしゃる。

 

 え、なんですか?

 

「わかりやすいわねあんたは。はしゃぎすぎ。

 試し撃ちに行く気でしょ。

 だめよ。もう忘れたの?

 今日はわたしのために時間を使う日なのよ」

 

 さっきのは本気で言っていたのですか。

 

「竜の心臓の効力はまだあるようね。

 まだまだ元気そうに見えるわ。

 だったら少し行きたいところがあるから付き合いなさいな」

 

 おかげさまで元気は有り余っていますが後が怖いです。

 非常識な運動量をこなした後だというのにまったくもって疲労感がないのがことさら怖いです。

 あと、あなたの妖しい笑みも若干怖いです。

 

 しかしまあ、従うよりほかあるまい。

 俺のことを信頼してくださってはいるが、ひとりで過ごした昨夜にふと不安をおぼえられたのもまた確かなご様子なのだ。

 以前、俺が数日がかりで深層へアタックしたときもこうだった。

 少し依存体質のあるこのお方がこうして己が手の中に俺を納めようとするときは大抵、そういうときなのである。

 道楽以外での可愛らしいワガママはなんだか久しぶりに思えるな。

 

 「......おおせのままに、我が女神」

 

 無礼を承知で彼女の頭に掌を乗せた。

 ふわりとやわらかな髪の感触が心地良い。

 すみませんねこんなタコまみれの硬い手で。

 

 女神さまは目を細めており、特に文句を言うつもりはなさそうだった。

 

 

 夕暮れ時。

 ひとしきり買い物買い食いのぶらつきにさながら使用人のように付き従った俺は、ここで最後だとおっしゃる女神さまに連れられバベルへとやってきていた。

 

 俺は執事バトラーじゃなくて"武鬼バトラ"なんですがね。

 

「お邪魔するわよ、ヘファイストス」

 

「失礼致します。ヘファイストスさま」

 

 珍しいところに来たもんだと思っていたら、行き先は女神さまのご神友であるヘファイストスさまのところであったらしい。

 

 ヘファイストスさまのことは俺も知っている。

 そもそも俺が普段から身につけて使い潰している装備の数々はヘファイストスファミリアから購入しているものであり、自然、主神であるヘファイストスさまも俺のことはよくご存知だ。

 鍛冶屋泣かせソードブレイカー呼ばわりしてくるけどな!誰が櫛形の溝が入ったギザギザの短剣やねん。ギザギザしてんのはハートだけだわ。

 

「うげ。クベーラに、鍛冶屋泣かせの......」

 

 執務室で机と向かい合っていたヘファイストスさまは露骨に顔をしかめられた。

 あれ?女神さま、本当にご神友なんですよね?

 

「あんたね、アポ無しで来るのやめなさいよね。

 こっちはあんたと違って暇じゃないのよ?」

 

 ぐうの音も出ません。おっしゃる通りでございます。

 申し訳ございませんいつも暇な主神で。

 

「ごめーん。わたしとあんたの仲だから許して?」

 

「それ許す側が言うもんでしょ普通。

 で。どうしたのよ急に。眷属まで引き連れて、珍しいじゃないの」

 

 ひとの好いヘファイストスさまはなんだかんだで付き合ってくださるようだ。

 

「ちょっとさ、うちのロンが昨日やばい魔物と戦ったみたいでね?

 今後も見据えるとそろそろちゃんとした武器持ってたほうがいいんじゃないかと思って、その相談にきたの」

 

 そして女神さまはと言うと驚天動地なことをさらりとおっしゃった。

 

 この女神さま、今まで俺の冒険者としての活動方針には何も口出ししてくることはなかったのだ。

 養ってくれるなら何でもオッケー!くらいにしか考えていないものだと思っていたが、どうしたんだ急に。何か悪いモンでも食ったのか?竜の心臓か?あれは確かに頭がおかしくなるくらいマズいぞ。

 

「隣の眷属があからさまに動揺してるわよ。

 その様子だと寝耳に水ってところだったのかしらね。

 そういうのはちゃんと眷属にも考えを伝えておいてから私のところに来なさいよ」

 

「びっくりさせたかったから予定通りよ。サプライズってやつね」

 

 いやびっくりさせんでください。

 心臓に悪いです。脈は怖いくらい一定だけど。

 

「装備に関してド素人のあんた一柱で来なかったことは褒めてあげるわ。

 それで、鍛冶屋泣かせくん?

 あなたのところの主神はこう言ってるけど、あなた自身はどう思っているの?」

 

 ヘファイストスさまはこちらに振ってきた。

 当然だ。俺の装備品の話なのだから俺が黙っているわけにもいくまい。

 

「クベーラさまのおっしゃることはごもっともな話です。

 今日戦った魔物はまあ、相性が良かったので苦戦することはありませんでしたが、ちょっと色々あって武器が全損することになったのは事実ですので」

 

 全損、の部分でヘファイストスさまの眉がピクリと動いたのを俺は見逃していない。またかよお前、みたいなリアクションである。

 ほんとすみません。

 

「何か一振りだけでも。

 何があっても壊れないものが欲しい。

 そう、思いましたね」

 

 不壊属性デュランダルとか、不壊属性とか、不壊属性とかな。

 でも、お高いんでしょう?

 

「となると不壊属性ね。でも高いわよ?

 材料費込みで末端価格でも2億ヴァリスは下らないわ。

 あなたたちって実力のわりにはそんなにお金持ってないわよね?」

 

 うん知ってた。

 買えるもんならとっくに買ってますって。

 買えないから数打ち使い潰して貧乏の螺旋を巡ってるんですって。

 

「お金のことなら心配いらないわ」

 

 いや超心配なんですが女神さま。

 家計を圧迫している原因のひとつはあなたの衝動買いなんですが。

 

「あんた最近服装もなんかショボいのに説得力ないわよ」

 

 は、恥ずかしいッ

 女神さまったら、やっぱり他の神々からもドレス姿がショボくなったって思われてたんだ!

 その理由が遊ぶ金欲しさに一張羅を売りに出したからだなんて知られたらもう俺恥ずかしくて外歩けねェよ!

 

「わたしが払うんじゃないもの。

 もちろんロンでもないわ」

 

 女神さまは服装のことには一切触れず言い放った。

 

 え、どういうこと?

 不思議なことをおっしゃる方だ。

 ではいったいどこの誰がそんな大金を払ってくれるというのか。

 

「払うのはロキよ。

 あのスカポンタン、よくもわたしの可愛いロンを厄介ごとに巻き込んでくれたものだわ。

 天界にいたときあいつわたしに借金してたのよ。

 下界は下界だから天界の頃のことは忘れてやろうかと思ってたけど気が変わったわ。

 今回の件と併せて、そのツケを払ってもらうことにした。

 話ならもうついてるわ。もうすぐここに来る」

 

 とんでもないお方に肩代わりさせようとしていた!?

 オラリオ屈指の大派閥の主神だぞ、そんな強気に出て大丈夫なんですか!?

 

「あー......ロキか。

 あんたも派手な遊び癖あったけど、あいつも大概だったものね。

 その手の話を持ち出されたらあいつもあんたに頭上がらないわよねぇ」

 

 何があったんだよ天界で。

 あとロキさまのイメージが崩れるんだが。

 大派閥の主神なんだからさぞかし威厳に満ちたお方だと思っていたんだが、俺は。

 

「そういうことよ。

 ちょうど来たみたいね」

 

 ふいに部屋の入り口に目を向けると、そこには半身だけ出してそろっとこちらを伺い見る赤毛の神がおわした。

 赤々とした髪と対照的に顔色は青々としていらっしゃる。

 

「お、おーっす。

 クベーラ、言われた通り来たでー......」

 

 借金取りにおびえるような......というか実際その通りなのであろう様子でごますりしながらやってくるこの神がロキさまであるらしい。

 

「よく来たわねロキ。

 四の五の言わず耳揃えて払うもん払ってもらうわよ」

 

「ちょちょちょ、待ってぇな。

 ウチも子供たちからギルドからあんたからこの件の話はイヤっちゅうほど聞いてるで?

 けどな、あくまでこの話って冒険者同士の話とちゃう?

 ギルドを正式に通した依頼っちゅう形でもあったんやし、あんたんトコの子もそれを快く受理したんちゃうの?

 やったらウチら神が出張ってくるのはちょっとちゃうんとちゃうかなと思ったりしちゃうわけでやな」

 

「ちゃうちゃうウッセーのよ。

 借金ほっぽり出して下界に降りたのはどこのどいつだ。

 次の神の宴デナトゥスで赤裸々にあんたの恥ずかしい借金の理由ばらしてやろうか」

 

「あ、ハイ。すんません」

 

「うわ私それ気になるわ。めっちゃ聞きたい」

 

「ヘファイストスまで何言うてんねや!?

 待て待て、あんたまでそっち側につくな!

 おい青年!欲しいやろ、欲しいよな新しい武器!

 おいちゃんに任しときなんでも好きなもん買うたるから!なっ!

 1個だけやで!?なっ!?」

 

「あ、ハイ。お世話んなります」

 

 ロキさまは額に脂汗を浮かべ早口で捲し立てながら俺の腰をバシンバシン叩いた。

 初対面にして距離感がよくわからないことになっている。

 親戚のオジサンかよ。

 

 すでに厳格なイメージは崩壊していたが、それでもなお神聖さという名の株は下落の一途を辿っている。

 なんかもう遠慮はいらねェんじゃないかなって気分になっていた。

 

 あのさ。

 神ってさ。もっとこう......

 

 いや何も言うまい。

 悪い顔してふんぞりかえるうちの女神さまのお姿を見て、よこしまな考えを振り払った。

 

 親しみやすくて良いよね!

 

 

 話はまとまった。

 俺の新武装の鍛造には数週間はかかるそうで、完成したらギルドを通して連絡をよこしてくれるそうだ。

 

 ロキさまは契約書を握りしめ半泣きになりながら帰って行った。

 ヘファイストスさまは苦笑いしていた。

 

「大勝利ね!」

 

 うちの女神さまはホクホクだった。

 

 俺のためでもあったらしい今日のお出かけは、女神さまにとってもご満足いく結果となったようでなによりである。

 

 あたりはすでに暗くなりつつある。

 そんな中、俺たちは並んでゆったりと家路についていた。

 

 女神さまのお顔には寂寥?不安?

 あまり優れない色がほのかににじんでいる。

 

 ふいに手が握られた。

 

「ロン。わたしね、少し怖かったのよ」

 

 ぽつりと女神さまは言った。

 言うつもりはなかったけど、言わずにいられなかった。

 そんな調子だった。

 

「あんたは強いわ。身も心も。

 このわたしが見出したんだもの、当然ね」

 

 そりゃあ強いですとも。

 俺はあなたの宝剣なのですから。

 

「でもね、ひとりなの。

 仲間との冒険や英雄譚の主人公に憧れる普通の男の子とはちょっと違う。あんたは憧れに手を伸ばそうとしない。

 そうさせてしまっているのはわたしのせいでもあるし、あんた自身の心構えのせいでもある」

 

 今更な話だ。

 俺はそのことにはすでに折り合いをつけている。

 

「だから友達作ったらいいじゃないって言った。

 戦いの中以外でなら、あんたが楽しめるような何かがあればいいなって。これはあの日言った通りね」

 

 それを言う前提にそんな考えがあったのか。

 ほんの思いつき程度の、ただの雑談だと思っていたが。

 

「あんたはわたし以外を慮らない。

 あえてそうしていた節がある。

 けれど昨日はそうじゃない。

 あんたはあんたなりに他者を慮って動いた。

 少なくとも周りにはそう見える」

 

 ミッションとはいえ全力で動いたしな。

 少なくとも赤の他人でも求められれば助けに行くくらいには人間味のあるやつってアピールできたんじゃないかな。

 おっと?これはもしかして友達できちゃうかな?

 

「あんたの内面は本当はただのお人好し。

 いつかきっと、あんたの素敵なところに気づく子もいるわ。

 今はわたしのために戦うあんたも、わたし以外に大切なひとができたなら、きっとその子のためにも戦うでしょう。

 それが何者であれ、あんたはきっと守ろうとする。

 何か些細なボタンの掛け違いがあれば、いくらあんたでも命を落としてしまうこともあるかもしれない。

 ひとを後ろに追いやってでもひとりで戦えてしまうあんたなら。

 

 だからこそ怖くなった。

 わたし以外の誰かにも一生懸命になっちゃうんじゃないかって、あさましくはしたなく、妬いちゃいそうになった。

 

 自分で言ったことなのにバカみたい」

 

 珍しく心境を吐露した女神さまは寂しげに笑った。

 

 飄々とした振る舞いの裏であれこれ考えているのは知っていたが、こんなにも弱々しく、しかもそれを口にするお姿は初めてお目にかかる。

 俺にここまで執着し、独占欲のようなものをお持ちになっているとはさすがに思いもよらなかったことであるが、なに、眷属冥利に尽きるというものである。

 

「あなたは勘違いをしています」

 

 ゆったりとした歩みをさらに緩め、立ち止まった。

 

「友が出来たとしましょう。

 まかり間違って仲間ができたとしましょう。

 それでも、俺にとって最愛の神はあなただけだ。

 

 俺が力を示すのは、あなたのためだけだ。

 

 全力注いでミッションを手早く済ませたのはなんでだと思います?

 別にロキファミリアのためなんかじゃあない。

 あなたがホームを散らかす前に帰るんだ、って一心でのことだったんですよ?」

 

「ちょ、そんな散らかしてないし」

 

 一日にしちゃ散らかしたほうだったように思うが。

 

「あなたを支えられるのは俺だけだ。

 他のやつならとっくにあなたのぐーたらさに幻滅してファミリア崩壊してますって。

 

 だからね、女神さま。

 

 これからもこの俺に、ひとりであなたを支えさせおっふぅ」

 

「え、ちょ、ロン?ローン!?」

 

 なにこれすんごい身体が重いんだけど。

 俺の頭の上にゴライアス乗せたの誰?

 

「ああ!切れたか、切れちゃったのね!?」

 

 何がスか。

 

「竜の心臓、疲労の肩代わり!

 普通の冒険者なら三日はもつらしいんだけど、ロンには一日とちょっとしか効かなかったかー!

 使ってるエネルギーが違うものね、そうよね!」

 

 ああ、やっぱりあれそういう効果だったんですね。

 実は疑ってたんですよ。

 三日三晩 ※効能には個人差があります

 とかそういう代物なんじゃないかって。

 

「お、重い!鎧も着てないのに重い!

 筋肉つけすぎじゃないの!?

 

 ちょっと誰かー!誰か来てー!?」

 

 涙目で周囲に助けを呼びかける女神さま。

 遠のく俺の意識。

 

 せっかく決意新たに良いこと言おうとしたんだけどな。

 締まらねェよなぁ、お互いに。

 

 

「うわ、どうしたんですか!?」

 

 

「ああいいところに!君、冒険者よね?

 ちょっとこいつ運んでくれない?

 重くてわたしじゃとてもとても......!」

 

 

 女神さまの涙声に、何事かと白髪の少年が駆けつけてきてくれた。

 いや、すまんなほんと。見たところ新米だろ君。

 これが冒険者の先達、レベル7に最も近いレベル6とされる"武鬼"の晒す醜態かっての。

 

 大泣きする女神さまと、顔を耳まで真っ赤にして俺を担ごうとする少年の背中。

 

 それを最後に、俺の意識は闇に落ちた。

 





 依存系自堕落お姉さん女神と、共依存系ぼっち野郎の大まかな人物像はこれであらかた垂れ流せたと思います。
 原作キャラとの絡みも増やしていきたいところですね。

 さて、拙作をお読みいただきありがとうございます。
 思いの外ご好評いただいているようで大変ありがたく思っております。
 嬉しいことに感想もいただいているようですのでゆっくり返していきたいと思います。

 当方アニメ勢ですので知識は浅く、設定の齟齬などみられることかと思いますがご容赦ください。
 ご意見、ご指摘、ご感想などありましたら忌憚なくいただけますようお頼み申し上げます。
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