危険極まりないダンジョンでソロを強いられるのは間違っているにちがいない 作:深夜そん
前話では「全然自分のことを好きでもなんでもない美人なメガネのお姉さんに罵られたうえそのお姉さんは怒りと興奮のあまり感情を制御することかなわず上擦った声でか細く罵声を繰り返しながら泣き出しちゃったりしてほしいなあ」という私の個人的な事情が文に滲み出てしまったがためにエイナさんに見るに耐えない罵詈雑言を吐かせてしまったことをここに深くお詫び申し上げます。
◇
ロキファミリアが深層から帰還したらしい。
アクシデントにこそ見舞われたものの、ひとりの犠牲もない帰還であったそうだ。なによりである。
ギルドづてにその連絡を受けた俺は、冒険者の正装として完全武装でかのファミリアのホームである黄昏の館に足を運んでいた。
大手のファミリアが相手であるから緊張してしまう。
救援要請を出した側と受けた側、立場のうえでは受けた側である俺のほうが上となるのが普通のことだとは思うのだが、そもファミリアとしての規模がまるで違うので、この緊張感もやむなしと言えるだろう。
かたや探索系トップ、数々の英傑が在籍する超がつくほどヒロイックなロキファミリア。
かたやファミリアっつーかもはや俺。俺そのもの。
ロキファミリア対ロン・アライネスの交渉が待ち受けているのである。
まあべつに、大それたこと要求するつもりなんて無いんだけどね。
終わってみれば楽な仕事であったことだし、最終的にはうちの女神さまがメチャクチャやってあちらの主神にゲロ吐きそうな顔させたりしてたことだしね。
なんならもううっかり脱ぎ捨てちゃったヘルムの分の補填だけでいいよ。不壊属性の武器買ってもらえるし。予備の武器まだたくさんあるし。
ロキファミリアとの交渉が終わればギルドとの交渉も待っている。
1日に2件も回るんだ、どちらかは手短にしないとな。
「おー、近くで見るとでけえな。城かよ。
何人いりゃ攻め落とせんだこれ」
そんなこんなで黄昏の館にたどり着いた俺は、その威容を見上げてつい独り言を呟いた。
こういうでかい建造物を見るとワクワクしちゃうね。
女神さまが戦記物の本を持っていたから借りて読んだことがあるんだけど、城を攻めたり守ったり、味方の将軍と敵の将軍は実はかつての盟友であり互いの考えがわかるからこそ熱い駆け引きがあったり......と、相当面白かったのを思い出した。
戦術の参考にでもなりゃいいかなって思って読んでみただけなんだけども、普通にハマっちゃったよね。
ソロに活用できそうな戦術は作中に登場しなかったけど。
黄昏の館はさすが大手のファミリアのホームなだけあって門からしてもうバカでかい。そのうえ門番まで立っているときたものだ。
うちのホームに門番立たせたら冒険に行くやついなくなっちまうよ。
こんにちは門番さん、今日もお勤めご苦労さまです。
「......!?え?え!?
"武鬼"殿!?」
あれ、どうしたん。
俺が来ること聞いてなかった?
「完全武装の、"武鬼"......。
せ、せ、攻め落とすゥ!?」
いや、待て。
聞こえてたのか。
俺が悪かった。
これは完全に俺が悪い。
迂闊なことを口走ってしまったのは謝る。
謝るから釈明をさせてほしい。
「て、敵襲!敵襲ーーー!」
違うんですーーー!
◆
「よ、よく来てくれたねロン。
先日はありがとう。
ようこそ黄昏の館へ。歓迎する。
いや、うん。歓迎させてほしい」
いつぞや見たときとまったく同じ爽やかスマイル......
をかなり引き攣らせたフィンさんと、俺は対面していた。
あやうく大騒動になるところであったが、何事かと槍持って飛び出してきたこのひとが一喝してくれたおかげでなんとかなったのであった。
鎮まれ!の一言でみんなピシッと止まるのな。
ほんとすげェわこの人。
んでもってマジでごめんなさい、フィンさん。
風邪治った?病み上がりに変な騒動に巻き込んでほんと申し訳ない。
「寛大な対応に感謝と謝罪を。
迂闊なことを口走った俺が全面的に悪い。
自分の評判なんてイヤというほど思い知ってるってのに。
カチコミだと思われちまったんだよなぁ......」
フィンさん、もう超苦笑い。
そろそろあんたに槍で突かれても文句は言えんよ俺。
「その、評判とは違って君が穏やかな好人物であるということは先日の件で僕はわかっているつもりだよ。
まあそう気に病むことはない。
ただ、まあ......少し驚きはしたかな」
そう思っていたらこれである。
なんなのこのひと現人神か何かなの。
大人とかいうレベルじゃないよ。人格レベル10くらいあるよ。
「重ね重ね、寛大な対応に感謝する」
「いいんだ。
こちらも君にとってはかなり面倒なことに巻き込んでしまったことだしね。
互いに水に流そうじゃないか。
というかもう忘れたほうがいい色々と」
最後のそれが本音ですねわかります。
「すまないがこちらも例の件の後始末で色々と立て込んでいてね。
さっそくなんだが、本題に入っても構わないかな」
「もちろんだ。
時間をとってもらえるだけでもありがたいよ」
すでに無駄な時間も相当食わせたことだしな。
そうさな、せめて少しでもこの人の負担を減らして差し上げるためにも、もう交渉とかめんどくせェことは無しにしてしまおう。
「ではまず報酬の件なんだが......」
いそいそと書類らしきものを用意し始めるフィンさん。
デキる男って素敵ね。
でもそれもう必要ねェんスよ。
さっさと切り上げようぜこの話。
「あ、いいっス」
「は?」
「報酬ならギルドから出るだろ。
補填だけでいいよ。ヘルム1個分の。
ああいや、なんならそれもいらんわ」
「な、なにを言っているんだ君は」
あれ。そんな驚くこと?
ははあ、さてはまだ知らんな。
おたくの主神がすでに俺に多大なるものを下賜してくださることを。
「あんたんトコの主神からなにか聞いてない?」
「ロキから?いや、なにも聞いていないが」
あー、やっぱりね。
っつーか、これもしかして言ったらやばいやつだったんかな。
やべえぞまたやらかしたかもしれん。
口は災いのもとと云う。口に出せば災いが起きるのはつい今し方実証されたばかりである。
なお俺は黙ってても何故か災いに見舞われることに定評がある男だ。
「アー......お互い忘れないか?今の」
「いやいやいや!それは無理があるだろう!
なに?なにを、いやどんなやりとりをしたんだロキと!?
僕がいない間にいったい何があったんだ!?」
気の毒なくらい取り乱し始めるフィンさん。
そっかぁ、無理かぁ......。
「いや、あのな?
おたくの主神。
俺に最低でも2億ヴァリスする武器奢ってくれるって。
実際いくらかかってんのか知らねェけど。
契約書もすでに交わしてある。
これ以上受け取るのはちょっと気が引けるかな、と。
だから報酬はもういらんかな、と......」
「に、に、におく?
さいてい、でも......?」
フィンさんは頭をふらつかせた。
そのまま真後ろにでも倒れ込みそうな様子である。
ステイタス全開で支えようかと思ったんだけど、どうにかご自分でこらえた。
無敵かよこのひと。
いや無敵じゃねェよな実際大ダメージだよな。
何も知らないところにいきなりそんな巨額の出費を知らされては、いくら天下のロキファミリアといえどこたえるよな。
しかし俺じゃないんです。うちの女神さまがやったことなんです。
あ。だったら俺の責任だわ文句あるならかかってきてください。
フィンさんは頭を押さえている。
なんかブツブツ言っている。
ついには震え始めた。
ごめん、ロキさま。
「ロキーーーーーー!!!」
フィンさんにはもっとごめん。
◇
フィンさんの絶叫とロキさまの悲鳴らしきものを背中に、俺は黄昏の館をあとにした。
次いでやってきたのはギルドだ。
報酬の本命はこちらである。
夕方ということもあり、帰り支度を始めている冒険者たちの姿が目立つ。
俺の顔を見た途端「こいつ今から潜るのか?」みたいな顔をするやつがほとんどなんだが、どんだけダンジョン好きだと思われてんだよ俺。
まあいい。
さっさと報酬ふんだくって帰るとしよう。
ロキファミリアとは違ってこちらには何の遠慮もいらない。
クエストのような文面のものを勝手に拡大解釈なりなんなりしてミッションという形にしてまで俺に投げ寄越してきたのはこいつらだからな。
まあ別に楽なミッションだったしそれで恨んだりしているわけではないのだが、うちの女神さまが不安な思いをお抱えになることになった原因とも言えることなのでやっぱ許さんわお前ら金払え。
さあて、どんだけむしり取ってやろうかな。
窓口はどこも空いている。
というよりはほぼ誰も立っておらず、ほぼすべての職員が奥の詰め所でデスクワークの真っ最中だ。
いつもお勤めご苦労さまです。
お、窓口にいるのエイナさんじゃん。
俺をベルの教導官からクビにしたエイナさん。
ベルくん大好きすぎて彼のためならこの悪名高き"武鬼"にもガチギレできちゃう肝の据わったベルくんガチ勢のエイナさん。
あれこのひと実は結構アブナイひとじゃね?
あんな幼なげな子にイイ大人が......。
ひそかに心の中でエイナさんの印象を真面目なギルド員からややアブナイひとにランクダウンさせつつも、今では気軽に話せる数少ない知り合いなので結局俺は声をかけることにした。
「よう、エイナさん。
暇そうだな」
絶賛仲違い中なのに気まずくないのかって?
とりあえず先日の件は俺の中では不幸な勘違いが生んだ悲劇、つまりいつものことということでカタがついているので、特に気にすることもなく笑顔で挨拶が出来てしまうね。
その辺のことに関して俺をみくびっていただいては困る。
向こうが勝手に俺を解釈するのならこっちも勘違いだの一点張りで解釈し返してやるだけなんだよ。
そんな悲しき宿命を背負う俺のもう一方で。
声をかけられた彼女はというと
ビッッックゥ!
って擬音と共に飛び跳ねて天井に突き刺さんじゃねェかってほど肩を震わせた。
あー、俺と違って向こうは普通のひとだからやっぱり気にしているようだな。
「ろ、アアアライネス氏!?」
「そーだよロン・アライネスだ。
どうしたそんなに挙動不審になっちまって」
「あ、ああいや、そのぉ......」
「先日の迷宮愛好家だの過剰安全対策委員会だのソロ製造機だののウィットに富んだ罵詈雑言の嵐のことなら別に気にしちゃいねェよ。
さすがにあの剣幕には驚いたがな。あんたもっと温厚だと思ってたから」
「そ、その節は本当にごめんなさい。
ちょっと気が動転してたんです私」
頭を下げられた。
シュンとしちゃってまあ。
根は真面目なんだろうね本当に。
可愛い子に狂わされちゃったんだね。
俺も女神さまに狂わされたからまあわかるよ。
仕方がねェ、ここは俺の小粋なジョークで和ませてやるとしよう。
「頭上げなよ。俺ら謝り合ってばっかだな。
ま、俺も俺で良かれと思ってベルに大方非常識であろうことまで教えちまったんだろうしな。常識というやつをそもそも知らんが。
にしてもミノタウロスはさすがにバカじゃねェのって自分でも思ったわ」
ほらどうよ。
上層の曲がり角にミノタウロス、だぜ?
あんときそこで一番声張り上げてたろあんた。
ツボだろ?
顔を上げたエイナさんは死んだ魚のような目をしていた。
え!?なんで!?
今のは「まったくもうそうですよーロンさんたらウフフ」ってなるトコとちゃうの!?
予想と違う反応過ぎてうっかりロキさまの口調になっちまったわ。
おーい、エイナさん?
秒毎に鮮度が落ちていますよ?
目の前で手を振ってやる。
すると彼女はぽつり。
「ロンさん。出たんです」
あ?なにがよ?
「ミノタウロス。5階層に」
「ブフッ」
おいおい、エイナさんも冗談とか言うんだね。
そういうの好きだぜ俺。
「本当です。ベルくんが遭遇しました」
......え?
「あなたの教えを守ったことで近くに居合わせた"剣姫"の救援が間に合い、九死に一生を得たそうです」
ーーこれはさっきの続きだがな、ベル。
ーーはい。どうしても勝てない強敵とやむを得ず対面してしまったときですね。
ーーそうだ。お前ならどうする?
ーーうーん、逃げますね。
ーー正解だ。じゃあ、行き止まりや隘路に追い込まれるなどして逃げられないときは?立ち向かっても決して勝ち目はないぞ。
ーーえっ!?それは......どうしたらいいんでしょう?ロンさんならどうするんですか?
ーー俺は未だそういう状況に出会したことはないんだが、そうさな。
命乞いでもして神の助けがくるのを待つしかねェんじゃねェか。
「ミノタウロスに平身低頭して命乞いしたら頭上を拳が通過していったそうです」
ウッソだろお前。
そんなことってある?
というかなに、そもそも何故5階層にミノタウロスが?
まさか口は災いのもとってやつか?
これも俺のせいなのかひょっとして!?
わけがわからず混乱する俺をよそに。
エイナさんはというとその目をさらに濁らせていた。
「ダンジョンでは何が起きるかわからない、か。
あなたの言う通りだったわね。
ぐうの音も出ないほどあなたが正しかったことが証明されました。
私、ただあなたを感情任せに罵倒したイヤな女なんです......。
ベルくんはあなたのおかげで命が助かったんですぅ......」
ああ待て泣くな泣くな。
ベルくんガチ勢だからってここで泣くんじゃない。
俺が泣かせてるみてェになるだろ。
ああほらもうざわつき始めた!
はやいよ、みんなの反応がよ!
ただでさえあんた、俺に小脇に抱えられたあの件で色々噂ンなってんだから!!
「ああ、おい、ほら!
そもそもこんな話をしに来たんじゃねェんだよ!
俺は先日のミッションの報酬の話をしに来たんだ!」
強引に軌道修正を図る。
俺の伝家の宝刀、力ずくである。
なお話術のアビリティに関して俺のスキルは一切バフを与えてはくれないので効くかどうかは自信がない。
「え、ああ。
それで来てたんだ。
完全武装だから今から潜る気かと......」
いやあんたもかよ。
荒くれ者の冒険者たちと思考回路が似通ってんだよ。
アドバイザーとはいえ非戦闘員だろうがよあんたは。
「というわけで上に話通してきてくんない?
あんたが一番頼みやすいんだよ。
まあなんだ、謝り合った仲ってやつだからな」
「ロンさん......」
「早めに頼むわ。女神さまが待ってるんでヨロシク」
「......はい。頼まれましたよロン・アライネス氏」
ひとまず仕事をするときの顔に軌道修正することに成功した。
もしかして俺の話術の熟練度、ぐんぐん伸びてるんじゃない?
IランクからHランクにそろそろ上がりそうかな?
まだそんなに低いのかよ。
まあ。
こと金がかかった大事な交渉においてチラつかせるのは舌じゃなく別のモンのほうが効果的だがな俺の場合。
遠慮する気がねェときは、特に。
◇
「おっかえりー。
ご飯にする?ご飯にする?
それとも」
ご・は・ん?じゃねンすわ。
お腹空いてるのはわかりましたのでおとなしくお待ちください。
帰宅と共に女神さまに抱きつかれた。
お食事をご所望なようである。
不敬ながら前だと邪魔になるので後ろにまわっていただいた。
「交渉は上手くいったのかしら。
お小遣いは期待していいのかしらね?」
調理に取り掛かる俺の背に張り付いたまま、女神さまは問うた。
「ロキファミリアからはさすがに何も。
ギルドからはたんまりと」
「そう、上々ね」
俺が女神さまのため金を稼ぐことに喜びや使命感を帯びるのに対し、女神さまは金を使うことに心血を注ぐ。
この黄金タッグを前にすれば如何なるものであろうと金蔓になってしまうこと間違いなしである。
あれ、タッグなのに俺の負担だけやたらとでかくない?
いや。女神さまは一発がでかいんだ。
10年に一発だけど。
「ときにロン。
極東にはタダより高いものはない、という言葉があるそうよ」
なにやら気になることを言いだす女神さま。
「どういう意味の言葉なんです?
タダはタダでしょうよ」
およそ女神さまに似合わない言葉である。
価値はあればあるほどいいしそれがタダで手に入るなら言うことなしね、みたいなお方であるからして。
俺もそうやって拾われたようなもんだしな。
「対価を求めないというのはね。
だったらなにを求めているのかわからなくてかえって怖くなってしまうものなんですって。
結果的に高くつくはめになりかねない、ってこと。
わたしにはわからない感覚だけれど。
強請られたらロンが強請り返してくれるでしょうし」
いや強請り返すのはどうかと思います。
たぶんやるけど。
「まあ。たしかに。
借りを作ったままで返さないとモヤモヤはしますね。
俺にはなんとなくわかりますよ」
しかしさすがは女神さまだ。
含蓄に富んだお言葉をよくご存知である。
あなたの眷属はまたひとつ賢くなりましたよ。
「わかっててやったの?
いつのまにか随分悪い子になってしまったのね」
女神さまはニヤニヤとしながら言った。
え、なにこわい。
「ロキファミリアの件」
ニヤけた顔のまま、おっしゃった。
ロキファミリア?それがどうしたというのだろうか。
「眷属に詰められて、ロキは釈明混じりに全部ゲロったでしょうね。
あくまでこのクベーラがロキに対して借金を取り立てただけであると」
まあ、それは事実かと思われます。
というかそうでしかなくない?
「だったらあんた自身は何も要求していないと捉えることも出来るのではないかしら?」
は?
いやいや。
「あそこの団長。
フィンて子だっけ。
あの子、頭が切れるんですってね?」
頭も切れるし人柄も良い。
俺はあのひとを尊敬していますよ。
あなたの次くらいには。
今のところ人類ではトップクラスです。
「ああいうタイプの子ってね。
あんたみたいなのが一番苦手なのよ」
おいおい女神さま、嫉妬ですか?
まったくお可愛らしいことで。
この俺の心がフィンさんに取られそうになっちゃって妬いておられるからと、そのように他人を貶めようとするものでは......
「普通の考えでは及ばないような、それこそ正気の沙汰とは思えないような行動を、特に悪意もなくやっちゃうヤツほど読めないものはないのよ、策士にとってはね」
......。
悪意、いつも特にありません。よく誤解はされますが。
正気の沙汰とは思えない行動、毎日してます。不本意ながら。
いや、俺のことじゃん。
フィンさん俺のこと苦手ってことになるじゃん。
俺はこんなに尊敬してるのに。
「深読みしてる可能性はわりと高いわよ。
あんた自身は見返りを求めず、あくまで神個人同士のやりとりで終わらせた。形の上ではそうしておいたうえで、あんたは主神であるわたしを介してちゃっかり実利まで得ている。誰が見ても困難なミッションを無償で達成したという確かな声望と共に、ね。
こうしてみるとすごい策士だわ、ロン。
今頃その子、戦々恐々としているんじゃないかしら」
「はは、またまた......」
それは過大評価しすぎってもんだぜ。
無いよな?フィンさん。
◆
「やってくれたものだね、ロン・アライネス。
君は一体何を目的としているんだ?
あの友好的な様子はとても演技には見えなかった。
しかしあれが本心だとすればまるでただの......
いや、これほどの策士だ。
よほど裏の顔を隠すのが上手いのか?
そうだとしたら厄介に過ぎる個人だと言わざるを得ないぞ。
深層へとただひとりで無傷かつ無疲労で到達するだけの勇。
新種の魔物を何の障害も感じさせることなくただひとりで捩じ伏せるだけの武。
それに加え僕の描いた絵図にあえて乗ることで結果的に自分ひとりだけが圧倒的な実利を貪ることとなるよう仕向けるだけの知。
そしてあまつさえ、対外的には無償奉仕と捉えられなくもない行為に見せて決着をつけたことで徳を得ようとすらもしている。
何がしたい。
いや、何をさせようと言うんだ僕たちに。
クソッ
わからない。わからないぞ。
恐ろしいものだな、理解できないというのは。
だが必ず君の尻尾を捕まえてみせようじゃあないか。
僕だってなかなか捨てたものじゃないんだよ。
これは僕と君との知恵比べというわけか。
いいだろう、いいだろう。
乗ってやるとも。
盤上にあげることができる駒はこちらの......」
「なにやってるの?」
「おおアイズたん。
あんな、フィンはな。
ちょっと疲れてしもとるんや。
もっと冷めた子やと思っててんけどな。
変な熱に浮かされてるみたいなんや。
ソーっとしといたり」
「わかった」
大有りであった。