危険極まりないダンジョンでソロを強いられるのは間違っているにちがいない 作:深夜そん
◇
「不服を申し立てます」
あれ。ポーションどこやったっけ。
先日のミッションで半ば暴走状態の俺が湯水のように使っていたようであるとはいえまだ在庫はあったはずなんだが。
「女神さまはちょっとむかついています」
あーあったあった。
なんでこんなとこにあんだよ。
箱の上に変な人形立ってんじゃん。お立ち台じゃないんだぞ。
女神さまの仕業だなこれは。
「ロン。こっちを見なさい」
「女神さま」
「なに」
「いいですか、ポーションの箱の上に人形を立たせてはいけません。
せめてポーションを抜いて箱だけを使ってください」
「わかった。次からそうする」
うむ、できたら次はやらないで欲しいのだがなんだか聞き分けがいいので今回はこれでよしとしよう。
さて次は縄と鉤爪を......
「ロン。話を聞いて。
ちゃんとこっち見て」
裾を引かれる。
手を止め振り向いた。
なんスか。
今日も今日とてダンジョンに潜るための準備で忙しいのですが。
いつもとは違って時間にもうるさいのですが、俺。
なにせ今日はひとりではないのだからな。
エイナさんとの仲違いとも言えぬ妙なすれ違いが解消された昨日あの後、俺のベルへの教導は再開の運びとなった。
特にベル本人と今日約束したわけではないのだが、ギルドに行けば会えるだろう。
俺が先に着けば彼を待っていればいいし、彼が先に着いたならエイナさんが俺との教導の話をしたうえで彼を留めておいてくれるという手筈になっている。
とはいえ時間は有限であるからして、だらだらと準備しているわけにもいくまいよ。
俺ひとりが窮地に陥る分には派手に暴れればなんとかなるかもしれないしなんとかしてきたわけだが、パーティを組むとなるとそうも言っていられない。
なにせ教導中の俺はめちゃくちゃ弱いのである。
準備はいつも通り入念に。心はいつも以上に厳粛に、だ。
さあて今日はどんなことをベルに教えようかな。
ここ最近はクビになっていたからまずは彼の成長具合を確かめるところからかな。
下手したらもうデバフ状態の俺より強くなってたりするんじゃないかなあの子。
「ロン。あなた浮かれてないかしら」
なんですと。
この俺が浮かれている?
「たしかに言ったわ。
交友関係を広めるようにしてみたらいいと」
「ええ、女神さまのおっしゃったよう俺なりに努力していますよ。
ベルへの教導は俺にもいい刺激になっていますし、エイナさんは数少ない気軽に話せるひとになりつつあります」
「そうね。だからこそ」
だからこそ?
「めっちゃさみしい。
そりゃあんたが生き生きしてるのを見るのは嬉しい。
でもそれとこれとは話が別。
わたしは蚊帳の外でめっちゃさみしい。
あの新米クンにあんたがとられたみたいでめっちゃくやしい。
よくもそんなわたしの前でノリノリで楽しそうに準備してくれていやがるわね」
理不尽すぎません?
「受付嬢の子とも仲が良さそうね。
美人らしいわね。このわたしとどちらが美しいのかしら。
ああいま思い出した。あんたその子をさらって手籠にしたとか噂立ってるわよ何やらかしたの。
まさか事実じゃないわよねあんたのことだから周りが勝手に勘違いしたのよねでもね火のないところに煙は立たないの。
それに順ずる何かを、その子と、したの?」
いやこわいこわいこわい。
女神さま、目が据わっていらっしゃいます。
無論事実とは異なりますし。
なに。
あなた財宝神ですよね?
実は嫉妬を司る女神だったりもするんですか?
これはよろしくない。
非常におだやかではない。
ゆえに。
「ちょっと失礼」
そっと女神さまを抱きしめた。
「......質問の答えになっていないようだけど」
「エイナさんはちょっと事情あって申し訳なくも小脇に抱えさせてもらったので、あなたのことはしかとこの腕に抱きしめようかと」
「なるほど、事情はだいたいわかった。
しかしこれでわたしが満足するほど安いとでも?」
「安いと思っていませんし値がつけられるものとも思っていませんが、わかりやすくはありませんか?」
「......これから毎日ね」
おおせの、ままに。
◇
ひとしきり女神さまを撫でくりまわした後、ようやくのこと準備を整えギルドへ向けて発つ。
ちゃっかりと夕飯は豪華にせよとのおねだりも拝命することとなったが、まあ、ギルドからの報酬もあるしたまには良いだろう。
この頃のあの方の不安定な様子は、おそらく環境の変化によるものであろう。
俺自身戸惑いがないというと嘘になる。
なにせ、こんなにも急に俺の交友関係が変わった。
一昔前の俺、否俺たちからすれば想像もできなかった......しなかったことである。
ベルは友ではない。教え子だ。
エイナさんは友ではない。共にベルを見守る協力者だ。
しかしもう無関係ではない。
あの日女神さまがおっしゃったこと。
この俺が女神さま以外に心を配る。
ありえないこととはもう言えないであろうな、今となっては。
それでも変わらないものがあるのもまた確かであるということ。
女神さまに伝わっていれば、いいのだが。
それはそうと落ち着かない。
何故かと言えばそれはもう装備のことである。
長剣1本に短剣2本、フランキスカが2本。
そしてクロスボウ。
服装はといえば鋲打ちのレザーメイルにヘッドギア。
け、軽装すぎる......。
しかし、検証の結果デバフ状態の俺が機動力を損なわずになんとか運用できそうなのがこの程度の装備だったのである。
いずれも品質は良くレベル1相当の冒険者が持つような代物ではないとはいえ、不安なものは不安だ。
ああ鎧クン。どうして君はそんなに重いんだい。
どんだけ重くてもいいって注文したの俺だったわ。
教導初日からクビになるまでは逃走のことも考えとにかく身軽さと消音性を重視した格好をしていたが、どうやらエイナさんどころかベルからも不評であったことが判明したためあれはお蔵入りとなった。
顔含め全身を覆い隠せて気に入ってたんだけどな、あれ。
ベルが悪名高い俺とつるんでいることを隠すのにうってつけだったのだが。
いつもよりもとてつもなく軽く感じる身体に違和感をおぼえながら歩いていると、やがてギルドへと辿り着いた。
出がけに女神さまをあやすのにそこそこ時間を使ったが、ざっと見た感じではベルはまだ来ていない。実は今日は休日に設定していたりするのであろうか。
つい昨日ミノタウロスに襲われたというからそうであっても不思議はないことなので、しばらく待っても来なければさっさと引き返して完全武装で出直し通常通りダンジョンアタックすることとしよう。
その時は俺も休日にすればいいじゃんって?
バカ言っちゃいけねェ教導という大事な用事があるならともかく特に用事がないなら四の五の言わずダンジョンだ。
女神さまのためにも労働を尊ぶべし。
適当な椅子に腰を下ろし頬杖をつく。
今日もギルドは盛況だ。ガヤガヤと賑わいを見せている。
「おい知ってるか"武鬼"さんのあの話」
おおっと早速始まりましたギルド名物ヒソヒソ話。
実況はこのわたくしロン・アライネス、解説はあの話とやらの当の本人である"武鬼"さん、合わせてひとりでお送りしたいと思います。
今日はどのような勘違いでロン選手をうんざりさせてくれやがろうというのでしょうか、見どころ満点ですお見逃しなく。
「この間"武鬼"さんにシメられた白髪のガキいるだろ」
ベルのことでしょうか。
シメてませんお礼をしようとしただけです。
「あのガキ、"武鬼"さんの舎弟にしてもらったらしいぞ」
舎弟じゃないです教え子です。
「この間からあのガキ、何度か黒装束のやつと一緒にいたろ」
それ俺のことですね。
「あれな、実は"武鬼"さんなんじゃねえかって話なんだ」
なんでうっすらバレてんだよ。
「191.8Cのあの高身にあの渋い声。
あの発達した広背筋と大臀筋のつき方。
おおよそ間違いねえんじゃねえかって話だ」
おおっと気色悪い!
ロン選手の精神に甚大なるダメージです!!
なんで俺の身長を小数点まで把握してんの!?
広背筋と大臀筋のつき方ってなに!?
俺の背中とケツじっくり眺めてたやつがいるってこと!?
誰なのそれ言い出したやつ!?
「ま、俺なんだけどな見抜いたのは」
お前かよ!!
「つまりだ。あのガキは中々根性据わってんのが"武鬼"さんに認められて舎弟にしてもらったから、直々に鍛えてもらってんじゃねえかって話になったわけよ」
事実とまったく異なる理由だけど教導してるのは確かです。
「おっと、噂のガキがきたぜ。まったくうらやましいやつだ」
うらやまないでくださいお願いだから。
話し相手のやつも同意するようにうんうん頷かないでください。
って、ベルが来たのか。
これ以上は俺の精神がもたない可能性が高いからさっさと合流してダンジョンに行ってしまおう。
いや待て。
この、なんか俺のプロフィールにやけに詳しいやつらがいる前でのこのこ出ていくの?
せっかく気づかれてないのに?
イヤなんだけど存在を認識されるの。
すまんベルよ。
俺のためにも少し待っててほしい。
この屈強な男たちが先にダンジョンに潜るまで俺はここを動けないのだ。
ベルは窓口のほうへと向かっていく。
エイナさんがそれに気づく。
話を始めた。たぶん俺の教導のことだろう。
おお、喜んでくれているなベルよ。
よかった、実は本音では俺の教導イヤがってて微妙な反応とかされたらどうしようかと思ってたわ。
おっと屈強な男たちがダンジョンに潜っていったな。これで一安心だ。
何の安心なんだよ"武鬼"ともあろうものがナニを恐れてたんだよ。
ともあれ危険は去ったので話しかけるとしよう。
「よう、ベル。来たか」
「あっ。ロンさん。
エイナさんから話は聞きました。
今日はよろしくお願いします!」
「おう、こちらこそだ」
身体が重くなる。スキルが発動したらしい。
「しっかりロンさんに教わってくるのよ、ベルくん。
あまり極端なのは真似しなくてもいいけど......」
「はい!」
すみませんどこからが極端なのか誰か俺に教導していただけませんかね。
まあいい。その辺はエイナさんと擦り合わせるなりしてフォローすることができるだろう。
「じゃ、行くか。
10分......いや30分後くらいに行くか」
「なんで30分後に!?」
先行してる屈強な男たちに絶対に追いつきたくないからですエイナさん。
◇
「へぇ、豊穣の女主人ントコの店員とね。
昨日の"剣姫"の件といい随分色気づいてんなベルよ」
「そ、そんなんじゃないですって」
教導を終えた俺たちは帰路にて雑談に興じていた。
昨日の5階層でのミノタウロスとの遭遇の件についてはエイナさんから聞いていた通りだ。
で、豊穣の女主人ってのはいわゆる冒険者向けの酒場である。
女将さんのミア・グランドはたしか元レベル6の冒険者だ。
店員についてもそこいらの冒険者より遥かにレベルの高い連中が多く在籍しており、仮にあそこを敵に回せば下手なファミリアなら壊滅させられるんじゃねェかってほどの戦力を誇る店である。
まあ怒らせなきゃ温厚だから、特に危険性もなくむしろ安全地帯なんだけどなあそこ。
ちなみに店員は揃いも揃って美人だし料理は美味くて量も多いが値段はお高め。
俺は女神さまと何度か行ったことがあるが、たまにする贅沢程度のモンなので常連というわけではない。
その豊穣の女主人に勤める店員と、ベルは今朝方お弁当もらっちゃうくらい仲良くなったらしい。
その店員、ちゃっかりしたことにお弁当あげたんだから夜はうちに食いにこいよとベルを誘ったらしく、律儀なこいつは今日行くことにしたそうな。
ふむ。これはちょうどいい機会かもしれんな。
「ベル。俺とうちの女神さまも行っていいか?」
「え?一緒にきてくれるんですか!?」
「おう。うちの女神さまが今日はご馳走をご所望でな。
あそこなら飯も酒も美味い。女神さまも満足なさるだろう」
「やったぁ!
あ、僕も神さま呼んでいいですか?」
「もちろんだとも。
俺としても是非ご挨拶したかったところだ」
「うわぁ楽しみだなあ!」
なんというか、懐いてくれているようでこちらも嬉しくなるな。
「店の場所を知ってるんなら現地で待ち合わせでいいだろ。
一旦帰ってまた合流な」
「わかりました!」
そんなこんなで、ベルとその主神.....ヘスティアさまだったな、との会食が決定した。
楽しみだなあ、はこっちのセリフだよ。
わずかに弾む胸のうちを悟られぬよう努めつつ雑談を続け、俺たちはダンジョンを後にし各々のホームへと帰還した。
◇
夕刻。
約束の通り、俺は豊穣の女主人にて女神さま、ベルと共に料理と酒に舌鼓を打っていた。
自己紹介に始まり簡単な雑談に興じる。
うちの女神さまはといえば俺とふたりきりでなかったのが若干不満であったのか最初はぶーたれていたものの、なんだかんだでベルのことは気に入った様子で適度に可愛がっている。
すごいなベル。女神さまが興味を示す人間はけっこう少ないというのに。
ベルが今朝ひっかけた.....ひっかけられた?店員はシルというらしい。
なにやらうちの席にへばりついてベルにお酌をしたりしている。
ちなみにベルのトコの主神は不在。
残念ながら、先約のあったバイト先の打ち上げに行ってしまったそうな。
聞きましたか女神さま。バイトですってよ?
「ロン。これも食べたいわ」
「お、美味そうですね。俺も頼みます。
ベルも食うか?」
「いえ、あまり持ち合わせがないので.....」
「何言ってんだ奢りに決まってんだろ。頼むぞ?」
「ええっそんな悪いですよ」
「すんませんシルさん、これ3つね」
「ありがとうございまーす!」
とまあこんな具合にまずまずの盛り上がり。
久々に食うこの店の料理の味には女神さまもご満悦。
俺ももちろん噛み締めるように食っている。
次いつ食えるかわからんからな。
そんな折であった。
「ご予約のお客さま、ご来店ニャ!」
団体客が店の扉をくぐってきた。
それを横目で見た俺は目を丸くしてしまう。
あの団体さんロキファミリアじゃねェか。
うわあすんごい偶然ですこと。
先頭を切るはロキさま。若干頬がこけている。
続いてフィンさん。若干頬がこけている。
たぶん遠征帰りの打ち上げなんだけど俺もとい女神さまに支払う金のことを気にしてああも憔悴しているのだろう。
申し訳ねェ、おおよそ俺は何も悪くないはずなんだが、なんだか申し訳ねェよ。
「よっしゃみんな、遠征ご苦労さん!
今夜は宴や!
思う存分.....いや多少セーブして飲めーい!」
小声だけど確かに聞こえてしまいました!
セーブさせちゃってごめんなさい!
ご挨拶しに行ったほうがいいんかな......。
いやしかし元凶とも言える俺が行くとあからさまな水差しになるよな......。
よし、ここは気づかないフリをしておこう。
女神さまも、いいですね?とアイコンタクト。
「なにあれ超ウケる」
女神さまは性格の悪さを爆発させていらっしゃる。
大丈夫です、俺はそんなあなたでも愛しております。
愛しておりますが絶対に絡みに行かないでくださいね。
「ア、アイズ・ヴァレンシュタイン......さん」
ベルはというと懸想しているらしい"剣姫"に目が釘付けだ。
ミッションのときはほとんど顔も合わせていなかったので気にしていなかったが、こうして見ると確かにすごい美人だ。
あんな美人に間一髪のところで命を救われたとあれば惚れちまうのもわかる。
痛ッ
女神さま、足を踏まないでください。
「減点よロン」
もともと何点あったんですかね。
と、ロキファミリアの登場でこちらの席もなんだかおかしな様子となってくる。
運ばれてくる料理と酒に手をつけながらも目と耳はどうもあちらの席に流されてしまう形である。
主神によるセーブしろ音頭は聞こえなかったらしい向こうの団員はといえばそりゃもう飲めや食えやの大騒ぎ。
ロキさまは酒を水で割って飲んでいる。
フィンさんはもはや水しか飲んでいない。
「ウケる」
女神さまマジで痛い目見ますよいつか。
その時は俺も一緒ですけど。
「よっしゃアイズ!
そろそろあの話をしてやろうぜ!」
トップふたりが盛り下がるなか、ひとりの狼人がハイテンションに話し始めた。
あれあいつ......以前俺に絡んできたやつじゃないか?
頬を赤らめてあからさまに酔った様子である狼人。
いつぞやもそうだったが彼は酒癖が悪かったりするのだろうか。
「あれだよあれ!
俺たちが17階層で逃したミノタウロス!
あれ、最後の一匹お前が5階層で始末したろ」
いや酔ってるにしてもとんでもねェこと言っちゃってるよ。
あんたらが逃したんかい逃さず始末しといてくれよあぶねェな。
「んでよ!
そん時その場にいたトマ......トマトやろ......いやなんでもねぇわりぃ酔ってるわ幻覚見えやがる水くれ水」
じっと様子を眺めていた俺と狼人の目が合った。
途端なんだかおとなしくなる彼。
あ、ごめん見すぎてたよな。
すまんな爆笑必至の確信決めた顔でのジョーク披露すんの邪魔しちまって。
「そうだぞ、酔いすぎだベート。
まったくお前ときたら......」
「いや、おう。
いつもわりぃな」
「なんだどうしたらしくないな」
「見えちゃいけねぇもんが見えて、な。トマト、トマトか......」
「??」
それにしてもあの豹変はいったいなんなんだ。
自分で言い出しといてトマトになんかイヤな思い出でもあるんか彼。
「ウケる」
女神さまも酔ってますねそんななんでもかんでもウケちゃって。
そろそろお開きにしたほうがよかろうか。
「ロンさん」
女神さまのお口に水のコップを押し当てていると、ベルが呟いた。
なんだか浮かない顔をしている。
「あの狼人のひとが言おうとしてたの、たぶん僕の話です」
まあ、察するわ。
他に上層でミノタウロスと遭遇する数奇な運命のやついないだろうし。
「情けないですよね、僕。
本当ならあの場に飛び込んで行ってでもアイズさんにお礼言わなきゃいけないなって思ってたけどぜんぜん踏ん切りつかなくて。
あの話をされそうになったら余計に足もすくんで。
弱い自分に嫌気が差しそうです」
俯いている。
手を握りしめている。
言わんとすることはわかる。
お礼言ったほうがいいのも事実だろう。
しかしまあ、今じゃなくてもいいんじゃねェかな。
大丈夫だ。
それは弱くて情けねェやつがする貌じゃねェよ。
「悔しそうに見えるぜ」
「え?」
「なに、嘲りも謗りも気にすることはない。
自分が正しいと思うことをやってりゃいい。
いつしか誰も何も言えなくなるくらい腕っぷしを磨くといい。
少なくとも俺はそうして生きてきた。
そのせいで評判はすこぶる悪いが......俺にはこのお方がいる。
それでいいと思ってるから、好きにやってる」
「ロンさん......」
「お前が大事にするモンが何かは知らん。
知らないが。
悲しみも怒りも、そして悔しささえも。
自分を罰するために使う必要はねェ。
そういう悪いモンは大事なモンを守り通すためのバネとして使ってやるといい。
そのほうが、スカッとする」
どうやら、俺も酔っているらしい。
女神さまがもういらないと飲むことを拒否しているコップを引き下げると、残りに口をつけ飲み干した。
「すまんな、しけた空気になっちまった。
腹もいっぱいになったろ。
そろそろ帰ろうぜ」
伝票を持って立ち上がる。
女神さまが、まだ呑むのーとかおほざきになっているが知らん。
俺は顔が熱いんだ、たぶんこれは風邪だから帰って寝たいのだ。
「ロンさん」
「なんだ」
ベルもまた立ち上がった。
女神さまは机にへばりついていたのを引き剥がして片手で抱き寄せた。
「ありがとうございます。
明日からも、よろしくお願いします。
僕。強くなりたいんです」
深々としたおじぎ。
その頭に手を置いた。
「おう」
当たり前だ任せとけ、と言ってやるには俺は弱すぎるし常識も知らねェけどもな。
まあ、全力は尽くすよ。
上げられたその顔はもう、強いやつのそれだった。
◆
「いた。
見間違いじゃねえ、確かにいた」
「えーベートそれほんと?
どう見ても酔ってたじゃん信用できなーい」
「マジなんだって!
お前をトマトにしてやろうかって顔でこっち見てたって!」
「ウッハなにそれウケる」
「ウケてたまるかバカゾネス!!」
「それは本当かいベート本当にあそこにロン・アライネスがいたのかいだとしたらなんの目的でいやさすがに偶然かいやしかしもしいたのなら接触してこなかった理由は」
「あーもうあんたがあいつの話するからまた団長がおかしくなっちゃったじゃないのよ!」
「知らねえよ!!」
ロンたちが立ち去った後、いつぞや彼と酒場で一悶着あった面々プラスちょっとお疲れ気味の顔をした小人族の間で、そんな会話がなされていたとか、いないとか。
あくまで個人的事情と申し上げたにも関わらず寛大なお言葉を多数いただけましたことを深く感謝致します。