一打席目 輝かしい過去
ホームランとはいい響きだった。相手の自信に満ち溢れた一球を完膚無きまで叩きのめす。それがホームラン。
相手チームは放物線を描くボールを見つめることしかできない。外野手さえも捕球不可能、それがホームラン。
打者は高揚感に満ち溢れて、一種の超越した気持ちをも抱かせる。それがホームラン。
この日もホームランしか考えてなかった。なぜならホームランしか打つ気がしなかったからだ。
あの時の試合…全国大会の決勝戦。
八回裏2アウト満塁。スコアは0ー3。3点はすべて俺のソロアーチ。味方のピッチャーも良いピッチングもあり、勝利が見えてくる。それに対し相手は無援護。ここで駄目押しと行きたいところだ。
相手投手は……確か……鋼という奴だったか。球威はあるが変化球が全然曲がらないゆえに、俺の敵ではなかった。
鋼は堂々と振りかぶり、自慢の速球で勝負してきた。
この時、俺はボールが奴の指から離れた瞬間からスタンドに入るところまでの軌跡が見えた。この軌道はホームランの軌道。俺はそれをなぞるだけ。それでおしまいだ。
打ったボールは当然ながらスタンドに入る。
満塁ホームラン。スコアは0ー7。
鋼は涙を浮かべ、膝をついた。俺はそれを鼻で笑いながらダイヤモンドを一周する。そしてチームメイトとハイタッチ。試合はそのまま決着がつき、俺たちは見事優勝した。
そう……
そこまでは…そこまでは良かった。何もかもうまくいっていた。この後が悪夢の始まりだったのかもしれない。
俺は試合後、交通事故に巻き込まれた。トラックと正面衝突。当たる直前、「もう死んだ」と思った。
だが、生きていた。
奇跡的に俺だけ生還したらしい。
その生還の代償か……俺の身体にはある異変が起きていた。
その異変は事故後の初練習で顕著になった。
打球が飛ばないのだ。
そして足が遅くなり、肩は弱くなり、守備も下手になっていた。
俺の得意なケースバッティングの時もそうだ。
状況はランナー2.3塁。
打球は遥か彼方に飛んでいかず、空振り。左手投手にもなにか違和感を感じ、今までに味わったことのない重圧に押しつぶされ、結局打球は一ミリも前に飛ばなかった。
そして追い打ちをかけるかのように俺の足は突如、悲鳴を上げ出した。俺はまた、病院に運ばれ検査。
すると身体の至るところで爆弾が爆発していたことがわかった。肩、肘、足等、ありとあらゆるところがダメになった。俺はすぐに治療に移った。しかし、医療関係者たちからは「前のようなパフォーマンスはできない」と告げられた。そこで俺の心は引き裂かれ、その中で野球という文字も一緒に引き裂かれた。
それから俺は野球から離れた。
高校はスカウトがこないように俺の野球とは違う傾向がある激闘第ニ高校に進学した。ここなら野球に誘われることはないと思った。
ボールが飛ばないならもう野球はしなくてもいい。いや、むしろしない。ここで時を過ごそう。
そう俺は決心した。
この主人公はホームランの軌跡が見えるという(金)特集能力を持っています。
ですが、それだけです。
矢部君その他、メガネ族の出番もあります。
ですが、「やんす」「やんす」言いそうなのでどうしようか……