「
「矢部先輩?俺になんかようか?」
こいつは確か…矢部っていう3年生の野球部。
オタク要素ありのリードオフマンだったか?中学は無名の学校にいたらしい。
「大南君。実はお願いがあるでやんす」
「答えはNOだ」
「なんででやんすか?まだ何も…」
「あんたが俺に尋ねるといったら、好みの女性に告白するための仲介役になれもしくは野球がらみのお誘いぐらいだからだ。で、どちらも俺はNOだ」
「なんででやんすか?大波君のことを知らない高校球児なんてほとんどいないほど大波君は名のある選手でやんすよ?」
「…なるほど。じゃあ、なんでここに第ニにいるんだ?普通なら俺は第一にいるはずだろ?そこのところは察してくれよ」
そういって俺は矢部に背を向けて去ろうとする。
「だから、待つでやんす!大波君!」
そう言って矢部は俺の手首を掴んだ。
「だから、うるせ……」
俺は掴まれた矢部の手に違和感を覚えた。リードオフマン。つまり俊足な奴がこんなゴツゴツとした腕をしているはずがない。
「お前、その体どうした?」
「野球部のピンチでやんす!このままじゃあ、試合に出れないでやんす!」
俺の心の中で野球という言葉が浮かんでくる。
「俺と……試合は関係ない!」
「そうでやんす!関係は…関係はないでやんすが…これでは…オイラたちの夏が…夏が……でやんす」
「とにかく、俺はパスだ。他をあたれ!」
「あっ!待つでやんす!」
俺はそれから走って下校した。
***
「はぁ、はぁ。はぁ、はぁ、はぁ」
走ってすぐ息切れしている。これは衰えというか、運動不足だな。
多少、空腹感があり近くにコンビニがあった。
「パンでも買うか」
と近くのパワマートによろうとした。
すると、一本の着信がきた。
電話に出るとたまにつるむ後輩からの電話だった。
「先輩、今…大丈夫すか?」
「どうした?」
「猪狩さんが……今晩、
「猪狩……まだやってるのか……分かった。すぐいく」
パンを買って食いながら俺は携帯を切り、裏路地を目指した。
路地を抜けたところには地方球場並みの広さがあった。
ここはもともと球場が建設される予定だったのだが。アクシデントにより予定破棄されなんだかんだで解放スペースとなった。その後有志により多少のアレンジが加わった。球速表示をつけ、周りをフェンスで囲むことでボールが出ることはない。
強引かと思われるが、野球が盛んなこの地域であるからこそ許されたらしい。それほどみんな野球にアツイのだ。
今日は猪狩の登板だからかギャラリーの数が違う。
「あっ、いたいた。先輩!チャッス!」
「おう、猪狩は?」
「もう…あっ、あれです!」
指をさした方向から猪狩が出てきた。
「そういえば、猪狩はなんで野良にいるんだ?」
「そりゃ、先輩をグラウンドに戻すためってこの前、言ってたじゃないですか」
猪狩は俺なんかのためにこの
「猪狩の今回の球種は?」
「高速スライダーと真っ直ぐのみです」
①球種の制限がある。
ストレートを含め、2球種までしか使えない。
猪狩はストレート、スライダー、カーブとフォーク持っているが、ルール上、この中で2つしか使えない。
②デッドボールがない。
その代わり各打者、全打席で累計6回までなら許されている。
6回を超えると、行った側のデッドボール規制がなくなる。つまり、当て放題となる。
③投手は1人だけ。
交代が許されないことだ。
これは人数上の問題でもあるし、この野良はもともと喧嘩の延長線上にあるらしく、タイマン。ということらしい。
殴ったり、蹴ったりよりかはこういう勝負の方がいいという人もいるとのこと。
後は野球と大差ない。と言ってもこれは野球ではない。中には
この
となんだかんだ思っていると野良が始まった。
猪狩のチームは後攻。猪狩がマウンドに立つ。そしてプレイの声がかかる。
猪狩は大きく降りかぶり…思いっきりボールを放った!
ボールは……打者の顔面スレスレ。思わず、バッターは尻餅をついた。
観客はブーイングではなく大歓声!すごい盛り上がりだ。
球速表示は141キロ。
なるほど、またこれか……
「先輩、これって……」
「あれだな。さすが猪狩といったところか」
第二球目。またしてもボール。球速は141キロ。ストレート。
三球目、今度は外角から中に入ってくるスライダー。バッターは外角を振っていた。
4球目、外角のボール球に手をだして、ピッチャーゴロ。
相変わらず、大歓声が収まらない。
この調子で1回のオモテが終わり、猪狩は無失点。球数は10球。
球速は
1番141、141、141、141。
2番141、141、141。
3番141、141、141、147。
猪狩はほぼ141キロのボールを放っている。猪狩の最高球速は151キロ。変化球も混ざっている。
これが猪狩の編み出した投球術。
変化球と直球の差がないのだ。これだと直ぐさま判断することが困難になる。当てたとしても真にあたることはまずない。
二回も無失点。
そして、9回2アウト。
カウント2-3。
猪狩はセットポジションからラストボールを投げた。
しかし、ボールは内角に曲がってボール。ここでフォアボール。完全野良はなくなった。
「猪狩さん。またスタミナ切れですかね……」
猪狩はボールの球速差をなくすためにかなり神経を研ぎ澄まして投げている。したがって通常よりも体力を消耗しやすいみたいで、たいてい、直前に今回のようなケースに陥りやすい。
それでもフォアボールもこれのみ、次の打者を内野ゴロに抑え、ゲームセット。
試合が終わるとギャラリーは散って人がいなくなる。
マウンドにいる猪狩はこちらを見ながら近づいて来た。
「やぁ、また来ていたのかい?毎回僕の野良を見にくるなんて。まさかボクのファンになったのかい?」
「んなわけねぇだろ?アホ。お前の炎上を楽しみに来ているだけだ」
「ボクが炎上?フフッ、ありえないね。あのレベルでボクのボールをまともに打てる人なんてここにはいないよ」
「なら、とっとと高校野球に帰れよ」
「再三言うがキミが戻ってこないとボクは戻らないと決めているんでね」
「お前…やはり…ホモ。なんだな」
「ホモ……ホモサピエンスのことか?」
こいつ……マジで言ってるのか?
「まぁ、そんなことより、戻るつもりはないのか?」
「だから、ねぇよ。鬱陶しい!矢部もそうだし猪狩!お前もなんなんだよ!どうして俺なんかにつきまとう?」
「キミはわからないのかい?自分の魅力に」
「わかってるなら野球をしている」
「わからないからここにいるということか。才能を腐らせているにすぎないなそれは」
「お前…知ったような口調をするな!エリート気取りが!」
「人はボクをエリートと呼ぶ。気取っていて何が悪い。だか、そもそもボクは気取ってさえもいないがね」
言い方がいちいちムカつくよなコイツ……なんか腹が立ってきた。
「ご立腹のようだな。ならこいつで決めるか?」
猪狩はボールをこちらに向けてくる。
「イヤだね。勝算がない」
「…………分かった」
猪狩はボールをポケットにいれて背を向ける。
「気が変わったらいつでもきてくれ」
そのまま猪狩は背を向けグラウンドから消えた。
「大南さん…野球…やっぱ…」
「お前…シメられたいか?」
「す、すいません!!」
なんだよ!意味わかんねぇ。今の俺に野球をやる価値なんてねえよ!軌跡が…軌跡が見えない俺なんかグラウンドに立てるはずがない!
俺はもう……ダメなんだ。取り柄が打つことだけなんだから…その打つことさえも満足いかない。
そう、体が壊れて軌跡も見えない。力みも生まれた。
野球が楽しくなくなった。辛いだけだ。
この先、野球はただのお荷物。重たい荷物はおいた方がマシ。
だから、俺は荷物をおいたんだ。
キャラ紹介
大南小浪(おおみなみ・こなみ)左投げ左打ち。高校2年生
この物語の主人公。元未来の和製大砲と呼ばれていた。広角に長打を打て、選球眼も良かった。中学の時点ではナンバー1スラッガーだった。しかしとある出来事の際、野球をやめてしまうことに……
守備位置ファースト、サード、外野
フォームオリジナル(タフィー・ローズ)
弾道1ミートG(14)パワーD(50)走力G(6)肩力G(10)守備G(10)捕球G(2)
特集能力
ホームランの軌跡(金).チャンスG.対左投手G.走塁G.盗塁G.ケガF.安定感G.悪球打ち.三振.併殺.エラー.強振多用.積極守備
※ホームランの軌跡(金)…大波君特有の金能力。弾道が高ければ高いほど長打になりやすい。