「ミスター!!ミスター大南!!まちなさぁーーイ!!」
「ちっ、ボブ!俺は昼飯を買うのに忙しいんだよ!後にしろよ」
「ダメネ!早く出すんダ!」
俺は昼休み、一人の英語教師に追い回されていた。
彼の名はボブ・ジェット。
こいつは元プロ野球選手だが、高校では英語の教師をしている。野球のコーチ、監督ではない。本人曰く、教えるのがめんどくさいらしい。
元々、メジャーリーガーで33歳のとき、極悪ヤンキースに入団。半田、番堂、鷹野とともにヤンキースを支えた選手の一人。現在現役選手は番堂のみ。
現在48歳。筋肉はまだまだ隆々だ。
「キミ!英語、イングリッシュはどうしタ?」
「やってねぇよ」
「……困りましたネ。私のパッションがとどいてナイ」
結局、スタミナ切れでボブに捕まり、連行。職員室の隣の部屋に連れてこられた。
そんでもって宿題をやらされている。
「…………」
俺は仕方なく、宿題をしている中、ボブは黙って俺の文字を見ている。
俺は早く終われと思いながら鉛筆を走らせる。
「キミは……」
突然、ボブが話し始めた。
「あ?」
「キミは野球…スキか?ちなみにワタシはスキだ」
「知ってるよ。元プロなんだし。嫌いだよ」
「ナゼだ?」
「なぜって…カンケーないだろ!」
「キミは昔、有名だっタ。ちがうかネ?」
こいつ…昔話なんて……俺は昔が嫌いなんだよ。
「だからなんだって、お前もか?野球やらないのかとかいうのか?」
「キミ……やはり才能に気づいてナイ」
「だから、そんなものなくなったんだよ!もう、やめてくれよ!」
俺は机をドン!と思いっきり叩いた。
「キミは自分の打球を見たことあるカ?」
「はぁ?なに言ってんだ?」
「自覚ナシ…フム………君はコテツのキャッチャーフライを見たことがあるカ?」
「こてつ。半田小鉄か?元ヤンキースの?」
「ソウダ」
「見たことはねぇけど、聞いたことはある」
確か…太った体型に戻ったばかりのとき、43打席連続キャッチャーフライを打ったってやつだったか?
「あの年、コテツはホームランキングになっタ」
「ああ、俺の友達も驚いてたよ」
「あの年、コテツは言っていタ。ラインが見えた、と」
「ライン?」
「ソウ、ホームランの軌跡というものダ。コテツはその軌道に合わせた結果フライを打ち上げ続けた、と言っていタ」
「君にも見えていたのではないのかとおもってネ。軌跡ガ」
「……見えてたよ。中学まではな」
「ヤハリ……。また軌跡を見たいカ?」
「……見れないからいいわ。俺、もう見えないんだ。辞める間際でも軌道は消えていた」
「……軌跡が見えれば、野球をするカ?」
「はぁ?」
「どうなんダ?」
「いや、ムリだから」
「ムリなどない。ここには都合のイイ専門家がいる。パワーに特化したプロフェッショナルがネ!」
「誰だよ…そいつ」
「ここの野球部のボス、ダ」
「ボス……あぁ、オリバー・ドリトンか」
「ソウダ。彼ならキミを元に戻せるかもしれなイ」
「いや、いいわ。オリバー・ドリトンだろ?今、問題扱いされている監督って」
そう、ここの監督であるオリバー・ドリトンは去年の夏の地区大会初戦敗退後から監督に就任した元プロ野球選手。
就任当初からアメリカ流をチームに導入したが、上手くいってないのが現状だ。なんでも、パワーが足りない、ホームランが打てない。などなど、以前のチームと全く違う路線を歩み出したとか。
打撃関係だから昔の俺の事を嗅ぎつけて迫ってくると思いきや何のコンタクトもなく今に至った。
「確かにオリバーは偏っている。私もそう思う。しかしあの性格はプロの時からあまり変わっていイナイ。しかし、キミのその発言は部に入ってもよいとも聞こえル」
「いやいや、何言ってんだよ」
「……再度問う。キミは軌跡を見たいカ?」
「だから、無理だって」
「………オリバーには私から言っておこう」
「おい!なに勝手に……」
その瞬間、ボブの目つきが変わった
「キミ……そうやって無理無理ばかり……。体からそんな、野球をやりたいオーラを出して…」
ボブの目は細く、鋭利になる。その眼差しはプロ顔負けなのだろうか、今まで感じた事のない重圧感。なにも背負っていないのに押しつぶされそうな感じだ。
「わ、わかったから。わかったって!」
目の前の威圧感から逃れたいがために自然と言葉が出てしまった。
「そうか、では、放課後。グラウンドに来なさイ」
「……ちっ!」
面倒くさい…。まぁ、いい。ちょっとやって帰ればいいか。
***
で、ここがグラウンドか。
放課後になり、俺はグラウンドに足を運んだ。相変わらず、砂埃が舞っているというか、懐かしい匂いだ。
野球部はいつも通りに練習
している。
いきなり俺なんかが現れたら皆ビックリするよな。
まぁ、サプライズの一種として行くことにしよう。どうせ30分も満たないうちに下校しているはずだ。
***
「よく来たナ。オオミナミ。ミーがここのボス、オリバー・ドリトンだ」
「ど、どうも」
「早速だが、着替えて打撃の準備ダ」
ユニフォームは持っていなかったので、体操服に着替えた。
着替え終わり外へ出ると休憩中の部員は俺に注目していた。
『あれが、大南さんッスか』
「なぜ、この時期に?」
『さぁな、野球がしたくなったんじゃねぇの?』
「俺、大南の打撃真似してたんだよな〜」
ヒソヒソ声で話している部員たちの中で、メガネ、いや、矢部がこちらによって来た。
「大南君!どうしたんでやんすか!野球はもうしないって言ってたじゃないでやんすか!」
「あぁ、まぁ、な。なんていうか……強制?」
「???」
言葉が足らずで矢部に上手く伝わっていなかった。
「お、珍しいな!この時期に“すらっがー”のご登場か?」
矢部が?を浮かべている間にもう一人やって来た。
「タクさん、ひさしぶり!」
「小浪。野球しに来たのか?助かったぜ。ボスがメチャクチャで俺たちも困ってたんだ。お前のパワーでボスの機嫌をよくしてくれよ!」
この人は匠隼人さん。矢部と同級生。
俺とこの人はご近所で昔から知り合いだ。そういうことで俺はタクさん、と呼ばせてもらっている。
ただ、俺はその期待に応えられる気があまりしなかった。
「まぁ、ここで俺の実力を披露するよ」
そう言って、俺はバットを選びにその場を離れた。
久し振りに部活でバットを握った。けど、バットの重さが昔と違う。そりゃそうか、筋肉もすっかりなくなっちまったしな。
「大南!打席に入るんダ!」
「ああ」
駆け足で打席に向う。
こうして俺は数年ぶりに打席に立った。
しかし、その気持ちは懐かしいというよりむしろ違和感満載だった。
「あぁ、これだ……。気持ち悪い。ムズムズするなぁ」
久し振りな事ってだいたい高揚するって聞いたことがあるけど、そんなことはないに等しかった。
カラダから不安なオーラがただ漏れ、という言葉が合う。打てる気が全くしない。
中学の時となにひとつ変わってない。自然とそう思えてきた。
けど、こんな気持ちなのに俺は一体何を期待しているんだろうか?
『もう一度、軌跡を見たいカ?』
ボブの言葉が俺の中でグルグルと渦巻いている。
………やはり、あの快感は中毒性を帯びていると思う。
快感、つまりホームラン。
「やっぱり、俺は無意識に軌跡を求めているのだろうか?」
そうこう言っているうちに俺だけのフリーバッティングが始まった。
『ふぅ、やっと終わった。あれ?あそこにいるのは………大南君?』
3年
矢部、匠
2年
大南
ちなみに激闘第二高校は走塁と守備のチームです。