ぼっちちゃんを雌にするつもりが雌にされた元男(♀)の話   作:樽薫る

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旅館編:その3


♯くろくぬれ!

 

 朝日で目を覚ます。

 やけにすっきり目を覚ませたのは、昨日のおかげなのかなぁとか。

 家だったら二度寝三度寝して、それからふたりに起こされるところだけど……自然と上体を起こせた。

 

「ねこみちゃん……いない」

 

 隣の布団で寝ていたねこみちゃんがいなくなっている。

 

「どうしたんだろう……」

「うわっ、ひとり起きてたっ!?」

 

 突然の声にびっくりしてそちらを見れば、浴衣姿のねこみちゃんがいた。

 わたわたと、慌てるたようなねこみちゃんは少し湿っていて、たぶんシャワーを使ったんだろうとは思うけど、寝る前にお風呂入ったのに朝、個室のシャワーを使うなんて……そんなお風呂好きだったかなぁ、ねこみちゃん。

 とりあえず、頭を整理する。

 

「ううん、今起きたところで……」

「あ、そ、そっか……んんっ、おはよう、ひとり」

 

 咳払いをしてから、ねこみちゃんは見惚れるような笑顔を浮かべた。

 

 ―――な、慣れないなぁ私も。

 

「朝ご飯前に温泉入ってくる」

「え、シャワー浴びたばっかりなのに?」

「う゛っ……い、いいだろ別にっ」

 

 ほんのり赤い顔で、ねこみちゃんがそっぽを向く。

 

 ―――なんで?

 

「と、とりあえず行ってくるからっ……!」

 

 ―――あ!

 

「ままま、待ってねこみちゃん!」

「うおっ声でかっ!?」

 

 ぼ、ボリューム間違っちゃった……。

 

「ど、どした……?」

「えっと、わわ、私もっ……」

 

 ―――昨日の話が事実なら、事実ならっ……まだ、まだ……。

 

「私も一緒にゴフゥッ!」

「そんな無理しなくても!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 なんやかんやと(オレ)は一人で大浴場にいる。

 そしてキラキラしたものを垂れ流していたひとりだが……一応付いては来たものの、脱衣所で葛藤していて長くなりそうなので置いていくことにした。

 ……とてもこの戦いについてこれるとは思えない。

 

 さすがにひとりの前で脱ぐのは緊張し……いやいや余裕余裕!

 視線、全然向けてこなかったけど、別にみられててもそんな動揺はしねぇはず!

 (オレ)の均衡のとれた美しいボディに、動揺するのはひとりの方なはずだし!?

 

「……まぁ落ち着け(オレ)、“昨日同様”他に客もいないしゆっくりと」

 

 体を流してから、一人だけだが気分的にタオルで体を隠しつつ、露天風呂へと向かう。

 外へと通じる扉を開けて、冷たい空気に体を晒して震えながら爪先から温泉へと入ろうとする。

 熱さに驚きながらも、少しずつ慣らして浸かる。

 

「あ゛ぁ゛~」

 

 おっさんくさいな……いや、前世と合わせれば年齢的におっさんだけど、しかしまぁたぶん他の女の人が入ってきても動揺しないと思う。

 それぐらい女体にも慣れてしまった……悲しいことだなぁ。

 逆に見られても構わんしな、減るもんじゃあるまいし……。

 

 なんて思ってたら、扉が開く音がした。

 

「ひゃっ! ひ、ひとりっ!?」

「あ、ねこみちゃんだけだ……」

 

 ホッとしたように言いながら入ってくるひとり。

 私は思わず両手で身体を隠すようにしてしまったが、良くない。これは良くない。

 別に気にすることはない。

 

「ぐっぐぐっ……」

「ど、どうしたの?」

「い、いやぁ、べっつにぃ~?」

 

 体を隠さない。男らしく堂々としてろ(オレ)

 でもまさか本当に入ってくるとは思わなかったし、ひとりもタオルで流石に体を隠してるがやはり心臓に悪い……いやいや私が驚いてどうするよ!?

 堂々としろ男らしくぅ!

 

「来たんだひとり」

「あ、うん……へへっ、そ、その……お邪魔しま」

 

 ひとりが足を温泉へと突っ込む。

 

「あ゛づっ!?」

「いや、だろうな」

 

 すぐさま足を引っ込めるひとりに、私は視線を逸らして思わず笑う。

 ちなみに私も昨日、同じことをやった。

 寒かったので仕方ない。うん、仕方ない。

 

「ふぅ~」

 

 チラリとひとりに視線を向ければ、いつのまにやら隣にいて、惚けたような顔をしている。

 やっぱ温泉はいいよなぁ……ここの温泉、部屋と比べて景色はそんな良くないけど。

 そういやここ、高い部屋だと個室露天風呂もあるんだっけか、それもいいよなぁ。

 

「人が少なきゃいいでしょ?」

「あ、うん……落ち着く」

 

 やっぱり私としてもひとりと一緒の方が良いし……。

 てかチラチラ見るな恥ずかしぃっ……こっちは顔しか“見れない(見てない)”んだからっ。

 

 

 

 

 

 

 確かに、ねこみちゃんの言った通り良い。

 入って正解だったなぁとは思うんだけど……。

 

 ―――ねねね、ねこみちゃんが、裸のねこみちゃんが隣にっ!

 

 お、落ち着かない……。

 

「ひ、ひとり……顔赤いけど、逆上せてない?」

「え゛っ!? べべ、別にそんなことないですよ……!?」

「敬語、絶対冷静じゃねぇじゃんか」

 

 ねこみちゃんと目が合う、ほんのり赤い顔とアップにした髪、なんだか昨日のねこみちゃんを思い出して、胸の奥がバクバク音を立てる。

 ねこみちゃんのおっぱい、浮いてる……。

 

「ひ、ひとりぃ……み、見すぎかなって」

「ひぇあ!? すすす、すみましぇんっ!」

 

 あ、やっぱり逆上せてるかも……。

 と、とりあえず出よう。

 

「え、えとっ、さ、先出てますぅっ!」

「え、ちょ、ひゃっ! ま、待ってよ!?」

 

 勢いよくそっぽを向くねこみちゃんを気にする余裕もないまま、私はお風呂から上がって脱衣所へと戻る。

 

 まだ人が来てないみたいで、私は素早く拭いて着替えて、脱衣所に設置してある椅子に座った。

 なんだか最近、変だなって自覚はある。あるんだけど……。

 

 さっきの温泉に浸かってたねこみちゃん、色っぽかった……。

 

 ―――じゃなくてぇっ!

 

「うごごごごごっ!!」

 

 最近、ねこみちゃんでそういうことを考えがちだ。本当によくない。

 ねこみちゃんが、もし私がそういうこと考えてるなんて知っちゃったら……ねこみちゃんも、みんなも……。

 

 

『ぼっちちゃんをねこみちゃんをえっちな目で見たで罪で訴えます』

『ぼっち、理由はもちろんおわかりですね?』

『ひとり、私のことそんな眼で……』

『判決、ごひとりちゃんは死刑!』

 

『うわぁぁぁあぁぁ』

 

 

「お慈悲を~……」

「うわっ、なにやってんのひとり……」

「ふへぇっ!?」

 

 声のした方を見ればねこみちゃんがいて、既に髪をほどいて濡れた長い銀髪をそのままに……。

 

「また変な妄想してたんでしょ、世界はひとりが思うより優しいよ? 特にきらら時空だし」

 

 最後何を言ってるのかわからないけど……。

 

「……だ、だから見すぎだって、着替えるからあっち向いててよっ」

 

 タオルで身体を隠してるけど、濡れたタオルが体に張り付いて……ねこみちゃんの身体のラインを浮き上がらせてて……。

 

「ねこみちゃん、綺麗……」

 

 

 ……あ。

 

 

「……ふぇあっ!?」

 

 

 

 

 

 

 時刻はお昼。時計の針は12時ってところ。

 

「ぼっちちゃんとねこみちゃん、今日帰ってくるんだったか?」

 

 テーブルを挟んで向かいに座るお姉ちゃんが、野菜炒めを食べながらそう聞いてくる。

 伊地知虹夏(わたし)も口に入っていた野菜炒めと御飯を飲みこむなり、頷く。

 

「ん、ねこみちゃんからのロインだとそうかなぁ」

 

 お昼頃に向こうを出るっぽいけど、そろそろかな?

 まぁ会うのは明日の夕方になるだろうけど……。

 

「ぼっち、ちゃんとねこみとしっぽり夜を過ごしたかが問題だ」

「お昼御飯食べてる最中にそういうこと言わないで」

 

 想像しちゃうでしょ!

 

「ていうかなんで自然な流れでリョウも廣井さんもいるのさ」

 

 ベーシストって……!

 

「えぇ~先輩が御飯食べてけって言うからぁ~」

 

 鬼ころ片手に野菜炒めをつまむ廣井さん……別におつまみで作ったんじゃないけど!?

 

「言ってねぇ、出てけ」

「ひどいよ先輩~、妹ちゃんもそう思うよね?」

「……」

「無言で冷たい視線やめてぇ! 傷つくぅ!」

 

 いや知らないけど、でリョウもバクバク食べるね!

 まぁ作る直前ぐらいに来てたから多めに作りはしたけどさ!?

 

「虹夏の料理はいつだっておいしい……!」

 

 それ誰にでも言ってそう。

 

「君ぃそれねこみちゃん家で御飯食べた時も言ってたじゃぁん」

「ねこみの料理もおいしい……!」

 

 ……えっ!?

 

「なにそれ知らない情報なんだけど!?」

「お前ら……」

「なんか憐れな者を見る目で手を差し伸べてもらった。ねこみは優しい……食べれる雑草にも限界がある」

 

 リョウも廣井さんも……。

 

「普通に羨ましい!」

「なんでコイツらが……ねこみちゃんの料理かぁ……」

 

 お姉ちゃんもどっかイッちゃってるし!

 

「勿論ぼっちもいた」

「いやそりゃそうだろうけどっ!」

「ぼっちがいないのに流石にお邪魔しない」

「えっ」

 

 なに今の声……廣井さん……?

 

「あ~うん、セーフセーフ、なんならネコちゃんもいないから」

「……ちょっと待てどういうことだ」

 

 あ、お姉ちゃんが廣井さんの頭ロックしてる。

 ていうか酔ってる相手によくそういうことできるなぁ、私は二次災害がこわいよ。

 

「あ、待って待って先輩! 違うのっ、たまにシャワー使って良いって言って合鍵借りてて!」

「アウトだろぉがぁ!」

「あ゛ぁ゛あ゛っ! それ以上いけないぃ!」

 

 パロスペシャル……ていうかお昼御飯食べてる時にやめてほしいなぁ。仕方ない気もするけど。

 ていうか気になることが一つ。

 

「ぼっちちゃん、怒ったりしないよね……?」

「あのぼっちが? さすがにないとは思うけど……でも嫉妬するぼっちは見てみたいかも」

 

 ……確かに。

 

「ほらっ、私とぼっちちゃんは姉妹みたいなもんで! つまりねこみちゃんは義妹ってことだから」

「どう転んでもアウトだろうがぁ!」

「腕がっ、腕がもげるぅ! 脚はどうなっても良いので腕だけはぁっ!」

「確かに」

 

 あ、素直に組み替えて卍固めに……。

 

「あ゛あ゛~!」

「ご近所迷惑になるから程々にね」

「最速で折るわ」

「先輩!?」

 

 にしても、ねこみちゃんの家かぁ……私と喜多ちゃんは行ってないなぁ。

 

 ……え、喜多ちゃんも行ってないよね!?

 

 私だけ仲間外れとかじゃないよね!?

 

「あ、そういえばねこみちゃんの胸のサイズがブラから判明したよ」

「お前、探ったのか?」

「違うって、部屋に干してあったの!」

 

 ……き、気にならなくもないけどやめなよ!

 

「それ詳しく……!」

 

 山田ァ!

 

「えへへぇ~たまには役に立つでしょぉ~」

 

 廣井ィ!

 

「……ちょっとあっちで」

 

 お姉ちゃん!?

 

 

 

 

 

 

 帰り、(オレ)とひとりは、お父さん(直樹さん)の運転する車に乗っていた。

 日がだんだんと落ちてきて、赤みがかってくる空、後部座席で隣のひとりがうとうとしだす。

 お土産買うのに歩いたし、ひとりにとっては早起きだったししょうがないのかもしれない。

 

「ひとり、眠い?」

「んぅ……?」

 

 こりゃダメだな。眠気眼だし。

 

「寝ちゃいな……ほら」

 

 膝をポンポンと叩いてやると、ひとりは頷いて体を横に倒した。

 私の太腿にひとりの頭が乗る。

 柔らかな生地のズボンなので寝やすいことだろう。

 

「えへへ、ねこみちゃんの足、やらかい……ふとぃ……」

 

 ―――落とすぞ。

 

「……まぁ、ひとりがいいなら良いけど」

 

 そっと頭を撫でてやると、一分もしないうちにひとりの規則的な呼吸音が聞こえてくる。

 なんだかあったかい気持ちになるのは母性というやつだろうか……。

 

 ―――って父性じゃろがい!

 

 くそっ、雰囲気にまんまと飲まれるとこだったぜ……!

 

「ねこみちゃんはさ」

「へっ、あ、なんです?」

 

 直樹さんに突然話しかけられて驚く。

 

「ひとりのこと、ちゃんと見ててくれるから安心して任せられるよ」

「いや、私の方もその……ひとりに支えられてる部分、あるから」

 

 ……まぁ、実際にある。

 

「ありがとうね」

「へっ、ど、どうしたんですか改まって」

「いやぁ、最近は特にそう思うようになったからさ」

 

 ひとりの成長に感動してんのかなぁ、まぁ結束バンドもそうだし……。

 私がいなくてもこうなってはいるんだけどなぁ。

 

「ねこみちゃんがいてくれれば、ひとりは将来安泰だなぁ」

 

 なに、結婚させる気満々なの?

 ……別に、悪い気はせんけど。

 

「えへへ、ねこみちゃん……やらかぃ……かわぃい……」

 

 こいつなんつー寝言……。

 

「……冷房つける?」

「窓開けるんで」

 

 少しだけ窓を開けて涼しい空気を浴びる。

 

「ふとくて、やらかぁ……」

 

 うん、落とそう。乙女心をわからんやつめ……。

 

 

 ―――乙女ってなんだ!?

 

 





あとがき

旅館編完! とっちらかった気もしますが

次回からは短編らしくいきたいとこで
学祭以来の学校編というかなんというか……
トラブルがトラブルなだけに原作とまた違った感じになりそうです

ついでに別のトラブルの種がまかれた気もする

では次回もお楽しみいただければと思います

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