ぼっちちゃんを雌にするつもりが雌にされた元男(♀)の話 作:樽薫る
多少出費はかさむが、STARRYでのバイトを経て私の経済力は上がっているのである。
ネイルさんと合体したピッコロさんの戦闘力ぐらい急激に上がったな!
ともあれ……当然、こういう日々の努力が私を人気者たらしめるのである。
「大張ちゃん、温泉いいな~」
「ねこみのスタイルなら堂々と浴場歩けそうだよね」
「あはは、シーズンオフだからお客さんいなくて貸切状態だったよ~」
友達と話をしながらお土産を配っていく。
「ねこみ一人で行ったの?」
「え~あ~……」
なんとも答えづらいことだ……とりあえず誤魔化すか!
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう、大張さんっ」
喜多ちゃんのように流行にガンガンに乗る努力はできない。
そのぶんこういうところでカバー!
それにここはきらら時空、なんとかなる!
「ほらほら、遠慮せずもらって?」
「え、大張さん俺たちにまで……」
「わ、私達も!?」
ふふふ、こうして陰キャたちにも配る。これが大事……!
てかこういうことしてるから、また勘違いさせてしまうんだが……すまん、それは自制してくれ。
他のクラスの友達に渡しに行くのはやめておく。個人的にあとで渡さないと角が立つ。
クラス中の生徒に配り、最後に自分の席に戻って……。
「ひとり……って寝てる」
「ホントだ」
「寝てるならまぁ」
突っ伏してやがる。涎垂らした寝顔もかわいいんだけどなぁ……。
「後藤さん~愛しのねこみだよ~」
「ちょっ、やめっ!」
一応、学祭であった“
しっかりとひとりと『幼馴染』であること、『前のめりになっていたから止めた』こと、そして『“どこぞの酔っ払い”のカップ酒のせい』ということをしっかりと説明はしたのだ。
ちゃんと他のクラスにも伝わっているようで、むしろ同情されたりする。
……別に同情とかいらんけどな!
ひとりと、そのっ、じ、事故で“ああ”なったけど……かわいそう扱いはむかつく!
ともあれ、私とひとりは“ただの幼馴染”ということで誤解は解いたはずなのだが、クラスでもそれなりに話す相手だと、こちらを揶揄ってきたりはする。
まぁ学祭のあとも一緒に帰ったり、バイトの話してたりするから仲良いのはわかるわけで、当然と言えば当然なんだけど……。
「ねこみ顔あか~い」
「もぉ、やめてよっ……!」
「ほら、後藤さ~ん!」
ちょ! まじで止めてやってください!
「へ……!!!?」
ほらぁ、起きたけどめっちゃビビッてんじゃんかよぉ。ごめんなひとりぃ。
「あ、後藤さん起きてくれた。ほら、ねこみ」
「え、ああ」
ビビってたもののやっぱり眠気眼、というか状況を掴めてない?
「ねこみちゃん……?」
まぁ起きちゃったならしょうがない。これも色々なことのカバーのためだ!
一緒に温泉に行ったとバレないためにも、ひとりも買った包装された饅頭を渡す。
「はい、ひとりにもお土産」
「……んぇ」
なにポケーッとしてんだかわいいなぁ……襲っちゃうぞ!
「……ねこみちゃん、これ一緒に買ったよ?」
「バッ!?」
黄色い歓声が響いた。そりゃ大いに……。
◇
「あ〜そういうことだったのね……」
私の前で苦笑する喜多ちゃん。
今は昼休み。昼御飯を食べる約束故に、階段の下ことひとりの秘密基地に喜多ちゃんとひとりと
そして、喜多ちゃんにことと次第を説明したわけだが……。
「ごめん喜多ちゃん、せっかく口止めお願いしたのに……」
むしろ騒ぎにしたくないから秘密にするって言ってたのひとりだったのに!
「で、その……」
うん、言いたいことはわかる。
「なんでひとりちゃん、こんなにニヤニヤしてるの?」
「えへ、えへへ、ふへへへっ」
「ひとりの想像よりもみんなが好意的だったというか、話題の中心だったせいだな」
話しかけられすぎた緊張で顔崩してたけど。
「へぇ……でもこれで大張さんとひとりちゃん、カップル扱いされちゃいそうだけど」
「かぁっ!?」
―――いやまぁ、事故でその、したけどっ……そ、そうだよなぁ、二人で温泉。
「ででで、でもわ、私とひとりだしっ、幼馴染だしっ」
「いいじゃない幼馴染でもっ!」
―――なんでこんなキターンってしてんの!?
「ひとり、どうするよこれからぁ」
キタキタしている喜多ちゃんをスルーして、
「……え、映画の舞台挨拶は任せるねっ」
「どこの世界線の話してんの……」
◇
お昼、
勿論目の前には幼馴染のリョウで……今日は白米だけのお弁当らしい、いや最近ずっとだけど。
裕福な家のくせに親に頼るのを嫌がるし、のくせにお金遣いは荒いので、まぁ自業自得と言えばそうなんだけど……。
「虹夏が幼馴染でよかったよ」
「現金な奴……」
おかずを分ければそんなことを言う。
まったく、私もねこみちゃんみたいな幼馴染がいれば……いやいや、ねこみちゃんが幼馴染とか性癖が破壊される気がする。
うん、よくない。リョウで良かった。
「なんか変な顔してるけど、STARRYの経営でも傾いてる?」
「不吉なこと言わないでくれる!?」
むしろ上がってるのは察しついてるでしょ!
まぁ、ねこみちゃんのナンパされ率が上がってるのは問題で、それを見るとぼっちちゃんがちょっと焦り出すのも問題かも……助けに行こうとするならさっさと助けちゃえばいいのに。
「ね、ぼっちがキリっとして『私の女になにか?』ぐらい言えば一発なのに」
「ナチュラルに心読む!?」
結局ぼっちちゃん的にはどうなんだろう。
ぼっちちゃんに聞いても『私なんかには勿体ない幼馴染です』ぐらいしか言わないし、ねこみちゃんに聞いても『幼馴染ですよ!』としか言わない。
いや、お互いにあんだけ意識しといてそれはない。うん。
「あ、喜多ちゃんからロイン」
「二人にイチャつかれて辛いとかかな、弱ってるとおもしろい」
「変わらないなぁ。ていうか二人がイチャつくと喜多ちゃんはキターンってするから」
あれ、写真だ―――って!
「……いやいやいや」
「ん、おお、ねこみがぼっち膝枕してる」
しかも見たことない顔で寝てるぼっちちゃんの頭撫でてるし……。
「あ、もう一枚……」
同じ角度からの写真だけど、ねこみちゃんが気づいたみたいで真っ赤な顔しながら喜多ちゃんのカメラ抑えようとしてる……ぼっちちゃんいるから動けてないけど。
「ていうかもう、なんだろうこう……もぉ」
「ねこみは弄られた方が輝く……私も鼻が高いよ」
なんで後方彼氏面……。
◇
喜多ちゃんが移動教室とのことで、お昼御飯を食べ終えたら10分もせず戻ってしまって、今はひとりと二人きり。
ひとりは私の膝枕で仮眠をとっている。
休み時間中も寝てたわけだが、やっぱりまだ眠かったらしい、『歌詞が~』とか言ってた気もするから夜更かしして色々と考えてるんだろう。
そのうちこいつ編曲とかもやって“即身仏”するわけだし……我が幼馴染ながら意味不明。
「バンドのことは、わかんないしなぁ」
楽器やればよかったかなぁと思わないでもないが、
「……いやいや、私はいいのよ。わかんなくて」
そうそう、そういう立場で良いかと思ってこうしてるんだから! うん!
でも少しモヤモヤっとしたので、仕返しにひとりの頬をつついておく。
「んぅ……へへっ」
そんな私の心のことなど知らず寝てるひとりがにへら、と表情を緩めた。
あんまりにも幸せそうに笑っているので、思わず私も笑ってしまう。
「もぉ……どんな夢みてんのさ」
「ねこ、みちゃん……」
―――私じゃん。
「えへへっ、だめだよぉ……」
―――これは、フフフッ私はどうやら夢の中でも攻め攻めなようだな!
「食べ過ぎ―――ってイタっ!?」
強めにほっぺを突く。
「ひとり起きろ~授業だぞ~」
「えっあっ、うっ」
たくコイツは本当におと───ひ、人の心がわからん奴だな!
起き上がったひとりが疑問符を浮かべるが、そりゃそうだろう。だが私は謝らない。
「……そんなに太ってるかなぁ」
気を付けてはいるつもりなんだけど……。
「あ、う、えっ……」
「なんだよ~」
お前が言ったんだぞ! 知らんと思うけど!
「……太ってないと、思うけど」
「本当かぁ?」
人が暴食する夢見といてぇ。
「わ、私……好きだよ?」
「……もぉ♡」
◇
五限目前に教室に戻ったはいいけど、ひとりと二人だったものでやはり好奇の目で見られた。
いや、そんなに煩わしいもんでもないけど、ただその……黄色い悲鳴が響くのはその、よくない。
まぁひとりと“そういう風”に見られるのが嫌なわけでもない。
むしろ本意なんだけど……。
「ねこみってさ……攻め?」
いや攻めに決まってんだろ! とは言えない。というか本人にそういうこと聞く!?
JKこえー……いや、私もJKだけど。
「え、ええ~! だ、だからただの幼馴染だって!」
「またまたぁ~温泉まで行っといてぇ」
くっ、別に二人きりの温泉ぐらい友達同士でも……いや、ないか? いや、ある!
ひとりに『好き』って言わせるまでは絶対に付き合わないって決めてんの!
これはそう、言わせた方が勝ちだから的な思考ではないけどこう……そういうもんよ!
「でも、後藤さんいいねって子もいるからなぁ」
―――はぁ? そんなん原作で聞いてないですけど!?
「あ、このクラスの子なんだけどさ……あの子」
む、あの顔はアンソロで見た気がする!
「……大張さん、不満そうな顔してるけど」
「え、いやしてないけどぉ!?」
くっ、私がそんな顔するわけないでしょうが!
「むぅ……」
「いやねこみ、顔……」
顔がなんだ。この長身スタイル抜群という“攻め要素”しかない“
「ギター良かったよねぇ、私も後藤さんと仲良くしてみようかなぁ」
「っ、ダメっ……!」
―――あっ。
「……え?」
い、いやいや、仲良くするのは良いことだ。
ひとりが同じクラスに友達作るのもいいことで……おい、それを言わなきゃなんだよ私、言え、言え……あ、やっぱ無理。
「うぁ……っ」
「あ、大張さんが顔覆って俯いてる」
「こんな大張ちゃん珍しいね……」
うるさいよお前!
「……ねこみ、受けだったかぁ」
―――!!?
◇
ねこみちゃんは、相変わらず囲まれていて、
午前中は少し話しかけてくれたクラスメイトもいたんだけど、すっかり午後にはいなくなってしまった。
休み時間も、いつも通り一人でねこみちゃんを見るだけで……。
クラスメイトはねこみちゃん相手にボディタッチとか……お、おっぱい触ったりしてて、その、それを見るたびに、胸がモヤモヤして……。
「ひとり?」
「どひゃっ!?」
突然声をかけられて驚く。
そうだった。ねこみちゃんと二人で帰ってるんだった。今日は私とねこみちゃんはシフトに入ってなかったから……。
帰り道、電車から降りてすっかり金沢八景で……。
呆れたようなねこみちゃんが、隣で笑う。
「もっとかわいい声で驚きなよ……まぁひとりって感じだけど」
「あ、えっと」
「ずーっとボーっとしてるけど、大丈夫?」
確かに、あんまり記憶がない気がする。
「まぁ、今日は沢山話しかけられてたし疲れるかぁ」
「えっと、その……ご、ごめんね。言っちゃって」
そう言うと、ねこみちゃんはクスッと笑って頷いた。
「私は別に良いって、そもそも秘密にしたいって言ったのひとりだし……どしたの~人気者になりたくなっちゃった~?」
いたずらっぽい顔で笑うねこみちゃんは……かわいい。
たぶん、学校のみんなは見たことないねこみちゃん。
私だけのねこみちゃん……だったんだけど、今は結束バンドのみんなも……。
「ん、どした?」
「う、ううん、なんでも……」
寝ぼけて思わずバラしちゃったけど、正直その……悪くないかなって。
前から廊下を歩いてたら『ロックなヤベー奴』とか『音楽で女を落とした女』とか言われてたけど……うん、やっぱり絶対いつか高校辞めてやる。
「まぁ私も別に良いっていうか、むしろこの方が良いっていうか」
「え?」
思わず立ち止まりそうになるけど、歩く。
ねこみちゃんが少し先を行く形になって、その白銀の髪が夕日の中揺れる。
「ほら、これで呼び出されたりしなくなるし……」
「あ……」
それはその、嬉しい、かも……。
「きらら時空だから妬まれるとかないのは良いけどねぇ」
なんて?
「ああいやっ、そのね……まぁひとりとそのさ、“そう言う風”に見られるの、嫌じゃないし……」
「ねこみちゃん……」
ほんのり赤い顔で、ねこみちゃんが振り返ってそう言う。
首元で結わいた銀色の髪をわっと舞わせて振り返るねこみちゃんを、みんなが好きになるのも、しょうがないかなぁ……って思う。
でも、やっぱり……。
「その、私……」
ねこみちゃんの右手を、左手で取る。
「え?」
「えっと、そのっ……私ねっ」
ねこみちゃんの手を、ギュッと握りしめる。
「う、うんっ……♡」
「私、ねこみちゃんを……」
「あ~! ぼっちちゃんとネコちゃん!」
「ぴぇ゛あ゛っ!!?」
◇
ひとりが倒れてビガビガ歪みだした……え、これってどういう原理?
―――相変わらず“おにころ”ちゅーちゅーしてんじゃあないよ!
「あれぇ、私ったら良い雰囲気お邪魔しちゃったぁ?」
「いや別に、良い雰囲気だったわけじゃ……」
「ひとりちゃんに手ぇ握られてたのにぃ?」
っ!?
「う、うっさいですよ……」
「ふふふ~顔赤いよぉ~?」
くっ、ここにいるってことはウチのシャワー使った癖にっ!
てかよくシャワーのためだけにウチ来るな、いや御飯も作りおきしてあるけど……。
「この借りはいずれ返すよぉ~」
「ミリも期待しないでおきます」
「えぇ~、ねこみちゃんはダメバンドマンを育てる素質あるよ~」
廣井きくりからお墨付きをもらった……。
「いらねぇ……!」
◇
目を覚ませば、今日見たばかりの光景。
大きな……ねこみちゃんの、おっぱい。
「デッッッ!!?」
「あ、ひとり起きた?」
記憶が飛ぶ直前確かお姉さんがいた気がするけど、気のせいかな……こっちにお姉さんがいるわけないし。
「ん……おは、よう?」
「はい、おはよう。ひとり」
ニコッと笑うねこみちゃんを見ると、酷く安心する。
「えっと……」
膝枕をしててくれたみたいで、ねこみちゃんは畳の上に座っていた。
窓の外はすっかり暗くて、部屋の時計を見れば時刻は20時を回ってる……。
「あ、ごめんねっ」
そう言うけど、ねこみちゃんは首を左右に振る。
少し赤い顔をしながら、両手の指を胸の前で合わせて、ねこみちゃんは少し照れながら笑う。
「んっ、ひとりのお世話……嫌いじゃないし、なんていうか……」
「……ねこみ、ちゃん」
本当に、ねこみちゃんは私には勿体ない幼馴染だなぁって思う。
アニメから出てきたみたいに容姿端麗でスタイルよくって、気遣いもできて……うん、モテる。
「……その、世話っていうかさ、ひとりを支えるの、好きなんだよね」
「え……」
「私が好きなんだ。勝手だけど、なにかあっても支えてあげたいと思う……ひとりが迷惑でなきゃぁ」
銀色の髪を揺らしながら、赤らんだ顔でねこみちゃんは続ける。
迷惑なわけない。
私はねこみちゃんがそこにいてくれるだけで勇気が出て、元気が出て、すごく……嬉しい。
「この先たぶん、色々と“挫けそう”だったり“思い通りにいかない”ことだったりが多いとは思うんだよね」
やけに、熱がこもった言い方……。
「でも、そういう時さ、結束バンドの……ひとりのちょっと休憩できる場所でありたいなぁって」
―――あぁ……。
「……ねこみちゃん」
「ん?」
───ホント、ねこみちゃん……。
「……好き」
「……え?」
あとがき
大幅に進みました
学校編だけで一話組むつもりだったんですが、ちょっと話を進めてこんな感じに
どうなる次回……あまり言ってもネタバレになりそうなのでここらで
なんか見たい回みたいなアンケートやりたいけど候補が思いつかないのでやめときます
ともあれ、次回をお楽しみいただければと思います
PS
お気に入りがいつのまにやら3500を超えて感想も150を超えました
応援ありがとうございます
なんだかんだもうちょっとだけ続くと思われる短編集……
これからも応援いただければと思います