ぼっちちゃんを雌にするつもりが雌にされた元男(♀)の話 作:樽薫る
・1/2話
今日はいつも通りSTARRYでバイト! ……本当、ビックリするぐらいいつも通りだ。
幼馴染のひとりと“うんぬんかんぬん”あったわけだけど、一日明けたおかげか自分でもびっくりするぐらいいつも通りで……私の悩みはなんだったんだ!
ていうか、私も私でいつも通りに接し過ぎじゃね?
などと物思いにふけっていると、目の前にピンク色の髪。
「あ、ねこみちゃん、どうしたの?」
「ん? いやなんでも……そういやドリンクの立ち上げしないとだ」
私が手に持った掃除用具をひとりがさりげなく取る。
「虹夏ちゃんがやってるよ?」
「あ、マジかぁ」
ほとんどやることないなこれ、となるとあとは開店まで……。
「店長~今日の受付って私でしたっけ」
「ん、そうそう、ねこみちゃんだけど……いいの?」
いつも通り“
「全然良いですって、気にしすぎですよぉ……そこまでしつこい人いないし」
「まぁ店が明るくなるんであたしは良いけど」
ナンパもあるけど、まぁそこまで気にならない。
頑なに“彼氏いるんで”と言い続けてきてるし……。
それでも一定層ファンは付いているわけで私ってやっぱ美少女だなぁって……カッコいい系のな! 女性ファンもいるし! 間違いないね!
強く頷いていると、店長が“変なものを見る目”を向けてくるのでハッとする。
「あ~、あはは……お、お任せください!」
「えっと、それじゃおねがい」
店長さんに頷いてみせてからひとりの方を向くと、掃除用具を片付けてきた後のひとりがなんとも言えない表情を浮かべていた。
どこかで見たことある表情だけど、あまり私も見ないタイプの表情だ。
私があんま見たことない表情を“ココでは浮かべる”んだなって考えると、なんかこう……モヤモヤするけど。
「……どした?」
「あ、う、いっ……うぅん、な、なんでもない、です」
―――なして敬語?
なにか思うところがあれば言ってくれれば良いんだけども……ていうか、ひとりは私には言うタイプでしょうにぃ。
「ん~?」
「ぼっちちゃんもだけど、ねこみちゃんも大概だなぁ」
「え、なにがですか!?」
「……知りませんよぉ~?」
―――PAさんまで!?
◇
───また言えなかった……。
ねこみちゃんが受付をやるのは適当だし、ねこみちゃんも結構楽しそうだから良いとは思うけど……な、ナンパされてる時、モヤモヤする。
いつも助けに行こうとは思うんだけど……。
「きょ、今日こそ私が助けっ……!」
……ややや、やっぱり無理ぃっ!
「どうしたのひとりちゃん?」
「どふぇっ!? ききき、喜多ちゃんっ!?」
「そ、そんなに驚かなくても……」
あ、あぶないあぶない。不定形になるところだった……!
「ぼっち、情けないな」
「あ、リョウさんと虹夏ちゃんも……みみみ、見てましたっ?」
「あ~まぁ見てたけど、ハッキリ言っちゃえばいいのに……私から言うのは違うし言わないけど」
言ってくれてもいいのに……ねこみちゃん受付はよくないって、いや良くなくないんだけど……。
「お゛ぁ゛~……」
「ぼっちデスボイス? メタルに転身?」
「絶対違うでしょ」
喜多ちゃんは、私が『ねこみちゃんのことを好き』だと言ってた。
それが私にはわからなくて、でも誰も恋愛なんてしたことないみたいで……“特別な感情”を向ける相手って言われても、昔からねこみちゃんは私にとって“特別”で……。
その頃と今と、私の中でねこみちゃんへの感情が“変わった”気がしない。
だから、たぶんこの『好き』は違うんだと、そう思うんだけど……。
「学校と違って『ねこみちゃんにはひとりちゃんがいるから』とはみんなならないのよ?」
「ぼっち、ねこみが盗られるぞ……最近はやりの“
「不吉なこと言わないの」
た、確かにねこみちゃんへのナンパは多いわけで、私も防げなくてっ……!
「あ、いたいた……ひとりもいる?」
ねねね、ねっ、ねこみちゃんが……な、ナンパにホイホイついていって!? い、いやいやそれはないっ!
ないと言える。言えるはずっ、だってねこみちゃんはバスケ部のエースの人に告白されても即決で断ったような……で、でも学校の外、ここは井の中じゃなくて大海っ!
「ねこみちゃん、どしたの?」
「店長が練習してていいよーって」
「お~お姉ちゃん太っ腹!」
「今日、ライブもあるし助かりますねっ!」
だから、もしっ、
「虹夏……『太っ腹発言』店長に伝えてくる……!」
「練習時間がなくなるから!」
だ、ダメだどんどん悪い方にっ! ね、ねこみちゃんはそんなことしない、ねこみちゃんはっ……。
いやでも恋愛はねこみちゃんの自由、じゆっ……じ……。
「ひとり~? 大丈夫?」
「ね、ねこみちゃんはっ───」
「ん?」
「───だれにも、あげないっ……」
「え……」
あれ、ねこみちゃんがいる……。
「へぁっ!?」
「……ぁ、うっ」
「きゃ~! さすがよひとりちゃん!」
「ぼっち、見直した……!」
「なんかすれ違いが起きてる気がするんだけど……私だけ?」
遠くに聞こえる喜多ちゃんとリョウさんの声……。
目の前のねこみちゃんは、顔を真っ赤にして―――あ、かわいい。
「ぁ、そ、その……は、はぃ……」
……あっ。
「きゃぁ! ひとりちゃんが熔けた!?」
「耐えられなかったか……」
「その、ねこみちゃん大丈夫?」
「へひゃっ!? にゃなっ、なにがでしゅかっ!?」
「かわいいなぁ」
「あざと……あざとかわいい……」
「店長、重傷ですよ」
◇
ぼっちちゃんは熔け、ねこみちゃんが“
二人について、
喜多ちゃんの方はそれはそれで楽しみつつ、二人をくっつけようともしてるみたいだけど……。
ともあれ、STARRY開店。
それから少しして、もうすぐ出番ということで私はフロアに出てみる。
ぼっちちゃんのファン一号さん二号さんが手を振ってくれるので、振り返しつつお姉ちゃんを見つけてそっちへ行く。
「おねーちゃん」
「ん、どうした?」
「ぼっちちゃん知らない?」
そう言うと、お姉ちゃんはニヤニヤ笑いつつ“そちら”を指さす。
「あそこ」
「え、あ……」
そういえばお姉ちゃん、ねこみちゃんの休憩時間合わせてくれたんだった。
そちらを見れば、ねこみちゃんとぼっちちゃん。
さっきの雰囲気もどこへやら普通に話してるみたいだけど……いやいや、そんなんだからいつまで経っても進展しないんだって、いつも通りに戻ることが必ずしも良いことだなんて思わないことだよ。
「……お前、後方アドバイザー面してるぞ」
「なにそれ!?」
てかなんでお姉ちゃん若干引いてるのさ!?
「……あ、後藤さんがジャージ脱いでますよ」
「えっ?」
てか自然な流れで混ざってきますねPAさん。
ぼっちちゃんの方に視線を向ければ、結束バンドTシャツになっていて……。
「あ、ぼっちちゃんが」
「大張さんにジャージかけましたよ……!」
「おぉ~」
ピンク色のジャージを肩にかけてるねこみちゃん……いやぁ、美少女は特だなぁ。
「あんな恰好するとやっぱ胸すげぇなって思うな」
「ですねぇ、あれは男性が放っておかないはずです」
くっ……! って、セクハラだよ!
「てかあれさ……」
「はい」
「マーキングだねぇ~♪」
酒くさっ! てか廣井さん!?
「ぼっちちゃんったら独占欲ガンガンじゃぁん、かぁいいなぁ~」
「まぁぼっちちゃんがかわいいのはわかるが、突然湧くな」
「いやぁ~、ぼっちちゃんのライブだしぃ~」
いやまぁそれは嬉しいんですけど……あ、ぼっちちゃん来た。
「あ、お姉さん……!」
「ぼっちちゃんおはよ~!」
「あ、おはようございます……」
お姉ちゃんとPAさんが凄い微笑ましそうな顔でぼっちちゃん見てるけど……。
「なんか震えが」
「ですねぇ……」
身体が拒否反応起こしてる……。
◇
STARRYでのライブ、ようやく結束バンドの順番が回ってきた。
そう……なんか、ひとりの奴がジャージかけてった。
───ちょっとキュンとするようなことすんなよぉ……。
「ん?」
……って違う!
なんだキュンとするって、こういうことするのは
最近ペース乱されっぱなしじゃんかよぉ、なんも男らしいことできてない……こんなんだから、色々と情けない結果になるんだな、うん。
私がやるべきことはひとりにキュンとさせて雌顔させて、惚れさせることだろ! うむ!
「今日は大丈夫なんだねぇ~」
「へ、なにがです?」
突然のきくり姐さんの言葉に驚くが……すぐに言いたいことは理解した。
昨日に言われたことを思えば、なんとなくわかる。
「あ~、えっと、うん……大丈夫そう、です……っ」
恥ずかしいことを聞くなと思うけど、まぁとりあえず答える。
「へぇ~♪」
「なにニヤニヤしてるんっすかぁ……」
私は結束バンドの演奏を聴きながらも、きくり姐さんに抗議の眼を向ける。
「いやぁ、まぁぼっちちゃんも小慣れてきたからねぇ、君もそういう雰囲気に慣れたのかもねぇ」
「……よくわかんないですけど」
きくり姐さんが手に持ったハイボールを飲みながら笑う。
―――お、そろそろひとりのソロだ。
少しだけ、お腹の奥に違和感を感じる。
「ねぇねぇ、たぶんそれさ、ぼっちちゃんなりのマーキングなんだけどさ」
「え、ジャージが?」
どゆこと? マーキング? 飛雷神の術?
「まぁ悪くないけどねぇ、ねこちゃん相手だったらもうちょっとせめて良いと思うんだけど」
「え、どゆことですか? 酔ってます?」
いつも酔ってるわこの人。
「じゃ、ぼっちちゃんの演奏でも聴こうか」
そう言いながら、姐さんがハイボールを飲み欲してカップを床に置くと、
―――いや、ひとりの演奏を見なよ。カッコいいんだから……。
戸惑う私になにを言うでもなく、姐さんはそのまま左手でジャージを握る私の右手首を掴んで、右手を私の後頭部の方にもってくると、そのまま近づく。
いや、顔を近づけてくる。
驚いて左手で押そうとするけれど、この距離もあってそれほど力も出ない。
右手を動かそうとするけれど、きくり姐さんの力に敵わなくて……。
―――あ、タトゥーカッコいいなぁ。
「んっ!?」
なんて思ってたら、きくり姐さんの顔が真横にやってきた。
それから、首に柔らかな感触……そして、違和感。
「ひゃっ、ななな、なにしてんですかっ!?」
周囲の誰かがみている様子はない……“周囲の誰かは”だ。
「マーキングってのはこうするんだよ……ぼっちちゃん?」
「へ、ま、マーキングって……」
ちょっとずつ頭を整理する。
「今度からはちゃぁんとぼっちちゃんにおねだりしなよ、ねこちゃんもさぁ♪」
「まぁっ!!?」
顔が熱い。姐さんがやったことを理解した故に、それか―――ひとりと眼が合ったからか。
「~~~っっッッ!!」
瞬間―――ひとりのギターソロが始まる。
「あっ……」
凄まじい速弾きと、凄まじい音───鳴り響く、ギターヒーローの片鱗。
離れたきくり姐さんが、私を離してそのまま元の位置に戻って笑顔を浮かべているが、それに気づける
ただ、圧倒され、魅了されて、また体が“疼く”……。
「ッ~~~♡」
チカチカと視界が点滅するような感覚、ひとりのジャージをギュッと握ると、ひとりを感じる。
ひとりの匂いに身体が包まれてるみたいで、なんだかさらに変な感じがして……。
「ひぅっ♡」
ステージのひとりと眼が合う。
汗を散らしながら、ピンク色の髪の隙間から覗くいつもと違う細い眼が、私を見ていた。
鬼気迫るような演奏と表情が、
あっ───これ、やば……♡
◇
STARRYを閉店して、お店を閉めてみんなが帰った。
ただし、
―――たぶんお泊りコースだとは思うんだけど。
お姉ちゃんが凄い勢いで廣井さんに技をかけてる……。
「お・ま・えぇぇぇ!」
「いだだだだだ! 先輩ギブっぎぶっ!」
「あれ! ねねね、ねこみちゃんの首っ、おまっ、お前なぁ!?」
あ~そういうことかぁ、首にお姉ちゃんの“うさぎの絆創膏”つけてたのは、なるほど……。
「警察かな?」
「待って待って妹ちゃん! セーフ! セーフだいだだだだだっ!」
さすがにダメでしょ!
「ちがっ、ちがっ、だって聴いたでしょぼっちちゃんの演奏!」
「……まぁ」
「うん」
凄まじいの一言に尽きる。
あの瞬間は、ギターヒーローに迫るものがあって、ギターヒーローには無いモノがあった気もした。
「あれを聞きたくてつい……」
「つい、じゃねぇわ! 全然会話してなかったぞ二人ぃ!」
「あ゛ぁ゛! これ以上はまずい!」
でもぼっちちゃん、なんか雰囲気違った。
怒ってるとこ見たことないけど、怒ってる感じじゃなかったような……?
もしかして廣井さん、他に思惑ある……?
「ご、ごめんっ、白状するとネコちゃん無防備すぎるから悪戯してやろうって」
「お前なぁ!」
「いだだだだっ!」
「ふふふ、ぼねこのために死ねよやぁ!」
「ひぃ! 助けてねこちゃぁ~ん!」
……自業自得ということで。
◇
あれから、一言も話してねぇ……。
明日は私たちにとって休日だが、世間的には平日、ということもあってか……いや、にしたって人がほぼいない。
向かいのホームにも人は見えないし。
「なんか世界にひとりと二人って感じだね」
そう言って笑ってみると、隣のひとりは……。
「へっ、そ、そうだねっ……」
ようやく話したと思ったらめっちゃどもってる。
いやまぁ、アレを見たんだから当然と言えば当然で、見られた私だって恥ずかしさがあるってもんで……。
くそぉ、やってくれたなぁきくり姐さん! てかアレ見られた後でよくひとりと話に行ったな!?
首に触れれば違和感……きくり姐さんに付けられた“痕”を隠すために店長にもらった“ウサギの描かれた絆創膏”の感触。
「いやぁでも私だったら世界にふたりだけとか寂しくて死ぬね、ウサギなだけに!」
―――なに言ってんだ
あとウサギって寂しくて死なないらしいな。
「……私は、ね、ねこみちゃんと二人だけでも、いいよ」
「……へっ!?」
なに恥ずかしいこと言ってんのこの娘っ!? 顔あっつぅ!
てか赤くなってるわ絶対……そういうこと言えばよかったのか
「そ、そっかぁ……ひ、ひとりは私のこと大好きだなぁ」
あはは~、なんて笑ってみる。とりあえず戦況を立て直さなくては……油断してたぞまったく。
「ねこみちゃんは、私だけじゃ……いやだよね」
「へ……ひ、ひとり?」
あ、いや、ちょっと、なんで詰めてくるんです? てか壁っ、これ以上下がれな、ち、近いっ!
目の前に迫るひとり。後ろは壁、私を逃がさんとばかりに詰めてきたひとりが、きくり姐さんみたいに私の右手首を左手で掴んで、右手は……腰に回される。
ひとりの右脚が私の両足の間に挟まれて、逃げ場なく、私はひとりと至近距離で向き合う。
思わず息を呑む。
「えっと、その、どうし……」
「絆創膏、剥がれかけてるよ……」
え、あ、やばっ……でも、現場見てるんだよなぁ、ひとり……。
「私は、ねこみちゃんと二人でも、いいよ……」
「へっ、あ、いやそのっ……う、嘘でしょぉ~?」
「……嘘かも……虹夏ちゃんも、喜多ちゃんも、リョウさんも、いないと、ダメ、で……」
あ、待って、ちょっと胸が痛いです……。
「でも、やっぱりねこみちゃんは絶対必要で……」
「っ♡」
「ねこみちゃん、は……?」
ひとりの細まった目が、再び
「あっ、そのっ……わ、私もっ、お、同じでっ……」
ひとりがいなきゃダメだ。ダメにされかけてる……んだと思う。
「みんなが必要で……で、でも、ねこみちゃんは……だ、誰にもっ、あげたくないっ」
「ひぅ……っ♡」
「お、お姉さんに、だって……虹夏ちゃんや、喜多ちゃんや、リョウさんにだって……」
───ど、独占欲、だしてくんなよぉ……♡
「だから……」
ひとりの顔が、近づいてくる。
「ひ、とりっ……♡」
心臓が飛びだしそうっていう意味がわかる。
バクバクと音を鳴らして、視界に映るひとりから目を逸らさなきゃいけないって思ってるのに、眼を逸らせない。
そのままひとりが、吐息も感じるような至近距離で、私を真っ直ぐ見つめる。
「そのっ……うっ、上書きしても……いい?」
───そういうの、聞くなよぉ……
「……ん、いいよ……して……?」
―――あぁ、もぉ……♡
あとがき
そろそろラストかな? と見せかけてもうちょっとだけ続くんじゃな感じです
きくり姐さん、身体を張って発破をかけてくれました
危うくぼっちちゃんの脳が破壊されるところだったりしましたが、さすが猫背のまま虎になりたい女、ねこみを圧倒
ねこみ、総受け(ぼっちちゃん)相手に受けに回る女、勿論きくりにも勝てない
次は月曜の朝には更新できそうで……次回も、お楽しみいただければと思います