ぼっちちゃんを雌にするつもりが雌にされた元男(♀)の話 作:樽薫る
私とひとりが“云々かんぬん”あった日の翌日。
いや、もはや
……学校なくてよかったわ、タイツ履くタイプだけど体育あったら内腿とかマジヤバいっす。
ともあれ、
「おはようございま~す」
「あ、お、おはようございます……っ」
私達の挨拶に、既に来ていた面々がこちらを見る。
昨日と変わらず、喜多ちゃんに虹夏ちゃんさんに
最初の頃はテンション上がってたけど、人間は慣れの生き物ってもんよ……一抹の寂しさもあるな。
「お、おはよう二人とも!」
虹夏ちゃんからの挨拶。
ふぅ、季節が季節だったから厚着できて助かった……タートルネックだから“首”も見えないし。
喜多ちゃんと店長が目をキラキラさせてるのも気になるし、PAさんが『あらあらうふふ』してるのも気になるが、気にしないことにする。
なぜならこれは罠だ。動揺したらバレる。だから動揺しなければバレることは決して───。
「え、ヤッた?」
───ファッ!?
「山田ぁ!?」
◇
お姉ちゃんが『仕事人……』とか言ってるけどよくわからない、うん。
ふと見れば、真っ赤になっているぼっちちゃんとねこみちゃん……。
「ぼねこ、いい……」
「お姉ちゃんは黙ってて」
───いや、なぜバレてないと?
ねこみちゃんが厚着なのは、いつものことなので良いとして───恋人繋ぎで来ちゃってるし。
「あの、二人とも、その、大変言い辛いんだけど……」
「ひとりちゃん、ねこみちゃんと同じ匂いするのね~♪」
「どふぇあっ!?」
喜多ちゃんが目をキタキタ、じゃなくてキラキラさせてる。
まぁリョウよりはマシな感じだけど……いやどうだろう、マシかなぁ。
陽キャの風は陰キャには辛いものがあるよ。ましてや喜多ちゃんは劇物が過ぎるかも……。
「いいい、いやななな、なにもないどぅえすっ!」
「おいひとり動揺するなっ」
ねこみちゃんも動揺してるし。
「ふたりはその……」
「昨晩はお楽しみでしたね」
山田、なぜ山田がここに!? いつの間に脱出を!?
吊るしたにも関わらず脱出したリョウがねこみちゃんの隣にいた。
喜多ちゃんとリョウに挟まれるねこみちゃんとぼっちちゃん。
さすがになんとかしないと、とも思う……。
「ヤッたの?」
だからストレートに言うな山田!
「いいい、いやぜぜぜ、全然っ!? ねねね、ねこみちゃんと……そのっ、わわ、私が耐えられなくててっ!」
自爆したのかな? 容易に想像つく……。
「ひとりっ、落ち着かないと、ね?」
ねこみちゃんがひとりちゃんの背中を撫でれば、ひとりちゃんがビクッとして背中を逸らす。
「痛っ……!」
「あ、ど、どした?」
そんな強く叩いてないけど……。
「その、昨日ねこみちゃんが引っ掻いたとこ……あ」
―――あ。
「あぅっ……♡」
真っ赤になったねこみちゃんが、俯いた。
それはよくない。私でもくらっとくるぐらい……その、言葉を選ばないで表現するとすれば、“そそる”という奴だ。
リョウも少し顔赤いし、喜多ちゃんは……うん、なんかキターンってしてるね。
「ぼ、ぼねこっ!」
ひでぶっ! みたいに言うじゃん!
「店長が死にました! この人でなし!」
―――PAさんも壊れた!
◇
あっさりバレた……。
いや
ていうか、山田はマジでオブラートとかないんか? ないな。
まるで肝心な時にしか頼りにならない女だ……ん、その感覚どこかで?
「あ~おはよ~ぼっちちゃんとねこちゃ~ん!」
―――この人だわ。
相も変わらずおにころをチューチューしながら現れた廣井きくり。
昨日は
―――まぁ、もうひとりで上書きされてるけど。
「今日は店来るなって言った、だろうがッ!」
あ、店長が“
……まぁ良いか、昨日のことはその……まぁなんていうか、お、おかげさまで、というか、だし……。
「ねこみちゃん、顔、赤いよ?」
「へひゃっ!? べべ、別にっ!?」
くそっ、変なこと思い出しちまった!
まったく、“
「さぁ~バイトバイト! お仕事がんばろ~!」
「話題の変え方そんなにヘタだったかしらねこみちゃん」
喜多ちゃんキレッキレな物言いやめて。
「色々聞かせてほしいわねこみちゃんっ♪」
「お、お手柔らかに……」
まぁあんま話せることないけど……いやそりゃそうよ。
あんな私が“珍しく雌っぽい”感じとか、ほぼ情事の話とか聞かせらんねぇって……カッコ綺麗な大張ねこみ像が崩れる!
てか学校での振る舞いも気を付けなきゃな、いや今まで通りでワンチャン……?
でも学校でもすっかり私とひとりは“そう言う関係”扱いだし、他学年にも私のネームバリューを除いたって“学祭での事件”のせいで色々と広まって……。
ていうか“
くそっ、それ見て来る“
◇
喜多ちゃんを伴ったまま私は荷物を置いて掃除用具を取りに向かう。
「で、ひとりちゃんにどうやって告白されたの? ねこみちゃんからした?」
「あ、いや……」
朝もしっかり思い出してみたものの、やはりしっかりと告白されてはいない……いや、もういい歳した大人がハッキリと告白云々なんて……まだJKだったわ。
「その……されてない、けど」
「え、されてないのにえっちしたの?」
―――してねぇわ! あ、いや、したのか……? いや、してない、か……?
微妙なとこだなぁ……そりゃ何回かイッ……じゃなくて!
てか喜多ちゃん、顔がこえぇんですけど?
こんな時に限って虹夏ちゃんもリョウさんもひとりもいないしっ。
───ひぇっ! 瞬き一つもしないままジッと見んのやめてくださらないっ!?
「いや、その……ふ、雰囲気に流されて……というか、ひ、ひとりがちょっと押し強めだった、というか……」
あ、この言い方じゃまるで私が受けに回ったみたいじゃん、受けにまわったみたいじゃん! たいへん遺憾!
これじゃ喜多ちゃんに私が“
「……ごとりちゃん、そんなとこまでバンドマンしなくていいのに……!」
喜多ちゃんの中でのバンドマンのイメージがロクでもないことは確からしい。
◇
落ち着いた喜多ちゃんと一緒に床清掃をする。
リョウさんも掃除用具を渡したら素直にやってくれているようでなにより……さては金欠。
ん、いや違うなこれ!
「……リョウさん、首元覗き込もうとしないでください」
「え、なにが?」
「いやバレバレ」
首か、別にもう見られても気にしな……あ、やっぱ恥ずいわ。
「てか胸元見る男みたいになってますよ」
「……ねこみの胸なら見るかも」
「えー」
「胸!? 胸なんですかやっぱり!?」
ほら余計なこと言うからぁ!
瞳のハイライトが消え失せた喜多ちゃんに詰め寄られるリョウさんが冷や汗かいてるけど……うん、放っておこう。
これでなにか言おうものならこちらに飛び火する。私の勘は当たるんだ。
「~♪」
そういえばひとりの奴、告白はしてくるんだろうか……いやしてくるか、させる。
向こうから惚れた感を出させることによりイニシアチブをもう一度、
ひぃひぃ言わせてやらぁ!
「ねこちゃぁ~ん♪」
「ひぃっ!?」
◇
動揺する
「ちょっとぉ~そんなかぁいい声出されたらお姉さんがなんかしたと思われるじゃぁ~ん♪」
って廣井かい!
「い……いや、したんですけどね」
「えへへ~それもそっかぁ~」
てかもう酔ってる……。
まぁ感謝してないでもないんだけど、もうちょっとやり方あるでしょうに、不器用人め。
後ろから抱き着いてくるきくり姐さんだけど、ある程度の理性は効いてるのか全体重はかけてこないのでヨシ!
「てか離れてくださいよ」
「ん~その前にぃ~」
廣井さんが、私の襟を軽く抓んで引いてくる。
それに従うように前のめりになると、もちろん“ソコ”が見えるわけで……。
「うんうん、ぼっちちゃんしっかりお姉さんの言うことを守ったんだねぇ♪」
───お前の入れ知恵か!? おかしいと思ったよ! ひとりが“痕”のつけかた知ってるなんて!
「お姉さんに感謝してもいいよぉねこちゃん!」
「ねこちゃん言うなっ、てかそのせいで私は全身……~っ!」
「え、全身ってなに!?」
声がデカい!
「なになに!? どうしたのねこみちゃん!?」
喜多ちゃんさんの食いつきぃ!
「これじゃねこみの『my new gurabia』はできないか……」
やらせねぇよ!?
「ねぇねこちゃん教えてよ~!」
「店長、廣井が暴れてる!」
「ちょねこちゃん!?」
「廣井ぃ!」
「ひぇっ!」
───よっし勝った! ってうぉっ!?
突然引かれる。
きくり姐さんからも喜多ちゃんからもリョウさんからも離されてそのまま、“ひとり”に抱き寄せられる。
そう、ひとりに抱き寄せられた……。
「へひゃっ! にゃ、にゃにしてんのひとりっ!?」
「お、お姉さんにはその、か、感謝もしてるん、だけど……」
ギュッと、肩を掴まれる。
―――は、ハァッ!? こういうのは
「ね、ねこみちゃんはっ、わ、私の……ですっ」
「ひとりっ……♡」
◇
その後、姉妹の
あのアパートの部屋に霊が増えないことを祈ろう……。
てか、ひとりあの顔ずるいよなぁ……。
「私もなんとか耐性付けなきゃダメだなこりゃ」
「ていうかねこみの場合、耐性じゃなくて癖になってない?」
「へ?」
クセとな?
「……ぼっちのその顔見ると“スイッチ”入る癖」
リョウさん、こういう時なんか核心ついてくるからな、よくわからないが続けてどうぞ。
「スイッチってなんのです?」
「……ねこみが“雌モード”入るスイッチ」
「めっ!!!?」
なぁに言ってんだ山田!? わわわ、この、わ、
「は、ははははっ! なにを言うかと、思えば……」
「あ、でもねこみちゃん凄い乙女な顔になってますよね」
「えっ!?」
感覚が変になってるだけじゃなくて、見た目にもそんな影響するん?
「大丈夫、ぼっちはそんなねこみも好きだと思う」
私が大丈夫じゃねぇんですけど!?
くっ、本格的にひとりから告白させて、なんか上手いこと焦らしたりしつつイニシアチブを奪還し、勝利するしかない! そうだ、勝利の方程式は決まった!
……決まったよね?
「……ね?」
「ねこみちゃん、そんな懇願するような顔で見られても……」
◇
開店準備も終わって休憩中。
ねこみちゃんはリョウさんと一緒に、みんなの分の軽食を買いに行ったんだけど……あの二人、たまにやけに仲が良い。
良いことなんだけど、ねこみちゃんと結束バンドのみんなが仲良くなってくれるのは……。
―――うっ、なんかモヤモヤする……。
「にしても、とうとうかぁ~」
虹夏ちゃんの言葉に、私以外のみんなが頷く。
え、ハブ?
「ぼっちちゃん的にはどうするの? 今までとあまり変わらない感じ?」
「あ、そ、そっちですか……」
なんていうか、普通に話振られるんだこういうの……。
「あっ、いや、その……あ、あまりその……私生活とか、バイトに影響でない範囲でやっていけたらな、と」
「いいんだぼっちちゃん、ある程度イチャイチャしていいんだ」
「え、あ、は、はい」
店長さん、なんかキラキラしてて怖い。キラキラしてるのにたまに手が震えてるのがもっと怖い……。
というより、その前にその、ちゃんと……しなきゃだめだよね。“告白の返事”は……。
順番が逆になっちゃった。先にねこみちゃんの身体、たくさん触れちゃったし……あ、でもソレが先ってバンドマンっぽいかも。
「へへっ」
「と、突然笑い出しましたね」
でも、その、ほ……本格的なその、そういうことは、してないわけだから……まだ付き合うのが先って感じにできる、かな? できるよね?
ちゃ、ちゃんと来週以内に、い、いやできる限り近い内に返事しないと、ねこみちゃんに申し訳ないっ。
またなし崩しにその、私が我慢できなくてねこみちゃんのこと、その……お、押し倒したり的なことをしちゃう前に返事!
ねこみちゃん、結構乙女だから順序逆なの気にするかもしれないし……。
「聞いて良いかわかりませんが、どうして突然そんなことに?」
PAさんがそう聞くので、私は思い返す……。
「えっと、その……」
色々考えると、昨夜のねこみちゃんを思い出して頭が熱でショートしそうになる。
―――あ゛ぁ゛あ゛! ダメダメ!
「えっとしょのっ、わ、私が耐えられなかったといいますか!」
「ひとりちゃんから!?」
「がっつりいったの!?」
あ、凄い大胆なこと言った気がする! というかこれじゃ無理矢理っていうか、襲ったみたいになっちゃうんじゃ!?
え、あ、う、警察沙汰!? マズイマズイ! そうなんだけどそうじゃなくって!
「ね、ねこみちゃんがあのっ、そのっ、かわいくてっ、さ、誘ってたっていうか!? も、もはやなにもしない方が失礼っていうかっ!」
「落ち着いてぼっちちゃん! ヤバい発言してる!」
「へっ!? たたた、確かにっ!」
落ち着け! 落ち着けひとりぃ……!
「あぁ~なんとなく、わかりましたので……」
PAさんが、なんだろうあの表情……引かれた?
「……あべしっ!」
「お姉ちゃんが死んだ……」
◇
とりあえずお姉ちゃんの復帰を待つ間に、ひとりちゃんを落ち着かせよう。
PAさんも限界そうだけど……貧しい青春だったんだね。
私たちもそうなりつつあるけど、ぼっちちゃんを除いて……ぐふっ!
「でもひとりちゃん、しっかり告白しなきゃダメよ?」
「あ、はい……ん、告白?」
「そうよ。ねこみちゃんも待ってるわよ。しっかりリードして」
まぁ、そうだよね。告白は大事。
しっかり言葉にしないと伝わらない……知らないけど。
「ででで、でも告白ってどうすれば」
「そりゃもちろん夜景の綺麗な映えスポットで!」
「あばばばばばっ」
ああもう、せっかく落ち着いてたのに……。
「あっ! そ、そうよね。それじゃ夕方の河川敷で」
「ぐごごごごごっ」
「え~これもだめ!?」
青春コンプレックス……。
「じゃあ放課後の教し」
「ぴぎぃぃぃっ!」
あ、これはヤバいやつ。
「喜多ちゃんの攻撃は容赦ないなぁ……」
「攻撃なんてしてませんよ!?」
◇
再びぼっちちゃんが落ち着いたので再開。
そろそろあの二人戻ってきても良いころだけど……。
「せ、青春は無理です。無理なんです……っ」
「ご、ごめんねひとりちゃん」
……というよりぼっちちゃん。
「いつも通りで良いと思うよ」
「え?」
「うん、ぼっちちゃんのいつも通り。ぼっちちゃんの普段……普段からロックなんだから、そのまま突き進んじゃうのがぼっちちゃんらしいかも」
なんとなく、そんなことを思ってそんなことを言ってみる。
喜多ちゃんもなんだか落ち着いた様子で頷く……この感じからすると、喜多ちゃんも結構焦ってたのかも?
まぁ身近な二人の命運をこっちが左右しかねないわけだからなぁ。
「ぼっちちゃんの“
「……そうですね。ひとりちゃん、なんだかんだでねこみちゃんをしっかりリードできてるものね。普段通りで、いいのかも」
「あ、そう、ですか……?」
ねこみちゃん、普段は呆気らかんとしてるけど、なんだかんだ“ぼっちちゃんといると乙女”だからね。
「それに……」
「え?」
「ううん、なんでも……」
下校の時に学校から離れてから手を繋いで帰ったり、休みの日はお互いの部屋で過ごしたり、親抜きでどこかに泊まりに行ったり……。
この半年弱、色々な話聞いて、見てきたけど……。
―――十分、青春してると思うけどなぁ。
「どうしたんですか、廣井さんのライブ見に行った時のリョウ先輩と同じ顔してますよ」
「え゛っ!!」
「そんなに嫌でした?」
―――私達の青春は遠そうだけど、まぁ今は二人を見てるだけでお腹いっぱい、かな。
「ただいま~」
「ねこみ、重い、私の方が荷物多い」
「筋力が違うんで筋力が……たぶん私の方が疲労感は凄い自信ありますよ……?」
「非力だからか……そんなんだからぼっち相手に抵抗できな」
「ちょ! 山田!」
帰って来たけど、あの二人仲良いなぁ……いや、ねこみちゃんはわりと誰とでも仲良いか。
「あ、ねこみちゃん、持つよ」
「えっ、ありがと、ひとり♪」
え、ぼっちちゃんいつの間にあそこに!?
───いやこれ、お腹いっぱいどころか、胸焼けするやつ……。
あとがき
最終話の一話なのにこれで良いのかなとか悩んでました
結果そのままお出ししましたがこんな感じです
とりあえず結束バンドとねこみでしたが、あまり変わってないような変わったような
たぶん数日もすれば落ち着く……元々距離感がバグってたのでそれほど変わらない可能性
ねこみとぼっちの意見に食い違いがある気もしますがそれはそれでOKです
ヨヨコとかも出したいけど、蛇足でチラッと出すかもです
そろそろラスト、最後までお楽しみいただければです