ぼっちちゃんを雌にするつもりが雌にされた元男(♀)の話   作:樽薫る

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☆後日談Ⅲ

※アニメ以降のネタバレがあります


♯かおすがきわまる

 

 一月も半ば。

 雲一つない青天というところだが、いかんせん寒いものは寒い。

 早朝なので仕方ないとはいえ吐き出した息は白いし、マフラー外せない、タイツはもはや焼け石に水。

 むき出しの両手を摩りながら、“大張ねこみ(オレ)”は慣れた道を歩いて目的地へとやってきた。

 

 二階建ての立派な一軒家。

 自然な流れで、その門扉前のインターホンを押せば、声が聞こえるより早くにドアが開いた。

 そこから飛びだすのは、“アイツと同じ”ピンク色の髪。

 

「おはよーねこみちゃん!」

「おはよう、ふたり」

 

 妹同然と言っていい少女の元気な挨拶に自然と頬が綻ぶ。

 門扉をくぐって、ドアまで行くと出迎えてくれた少女こと後藤ふたりの頭を撫で、一緒に家に入る。

 

「おじゃましまーす」

 

 玄関で声を出しつつ靴を脱いで、整えてから廊下を歩く。

 ふたりが先にかけてリビングに入るので、まずそちらに顔を出した。

 

「ねこみちゃんおはよう」

「おはよう美智代さん、直樹さんも」

「ああ、ねこみちゃんおはよう!」

 

 スーツ姿の直樹さんと、いつも通りの美智代さんに軽く挨拶をするなり見渡して頷く。

 そこに“一人”足りないが、まぁ別に珍しいことじゃない。

 

「起こしてきますね」

「ありがとう、ねこみちゃん」

「いいですよ。世話焼くの嫌いじゃないですし」

 

 本心だが、さらっと言ってからもしや恥ずかしいことを言ったのではと訝しむ。

 

「ねこみちゃんがお嫁さんになってくれれば安心ねぇ~」

「あ、あはは~」

 

 ―――(オレ)は嫁じゃないけどね!

 

 それを言うなら(オレ)男役(婿)であると、心の中で何度も頷きながら二階へと向かった。

 

 

 

 

 ―――眠い……。

 

 昨晩、遅くまで配信用動画撮ってたせいかも……いや絶対それだ。あれ、今何時だっけ、お母さん起こしに来たっけ?

 来たような来てないような……。

 

 なんだかふんわりした、良い匂い。

 

 慣れたその匂いに、“後藤ひとり()”の意識がゆっくりと覚醒していく。

 

「ひとりー?」

「んぇあ……」

 

 聞きなれた“彼女”のかわいらしい声と反対に、素っ頓狂な声が私の口から出る。

 肩に手が置かれて軽く揺すられるので、私は素直に、ゆっくりと目を開く。

 

「……」

 

 ―――デッッッ!!?

 

「ひとり、起きた?」

「あっ、ごめんなさい」

「なんで謝罪?」

 

 素直に謝って視線を上げれば、まるで御伽話から出てきたみたいな女の子。

 大きな眼に、すらっとした鼻に輪郭、白銀の髪が揺れている。

 

 そんな女の子が、私に柔らかな笑顔を向けた。

 

「ん……おはよ、ひとり♪」

 

 

 ―――わ、私に天使が舞い降りた。

 

 

「……来世は対パリピ用決戦兵器に生まれ変われますように」

「どうした急に」

 

 

 

 

 ひとりを起こしてから、着替えもあるだろうしと(オレ)は下のリビングへと降りた。

 あれから三度寝ってこともないだろうしと、私が心置きなくソファに座ってテレビを見ていれば、予想通りすぐに降りてきたひとり。

 ドタバタしているのはいつも通りなので特になにも言わないで、美智代さんが淹れてくれた紅茶を啜る。

 

「ごめんねねこみちゃんっ」

「ひとりちゃん、朝ご飯は?」

「時間にまだ余裕あるし、ちゃんと食べてきなね」

「あ、うん」

 

 私の言葉に頷いたひとりが、ソファから少し離れたテーブルについた。

 ティーカップをソファの前の低いテーブルに置いて、隣へとやってきていた(ジミヘン)の首を掻けば、気持ちよさそうにしながら腹を出すのでまたそこも掻く。

 嬉しそうにはしゃぐジミヘンと戯れていると、ふたりが軽く駆けてきて私の膝の上に座った。

 

 なんで一人と一匹は私の方に、すぐ近くに直樹さんもいるんですよ?

 

「ねこみちゃん、ふたりの中の家族ヒエラルキーでねこみちゃんは恐らく上から二番目」

 

 ―――どうした急に。

 

「ひとりと父さんには遥か上の存在なんだ……!」

「直樹さんェ……」

 

「お父さんなに言ってるの?」

「ワン!」

 

 直樹さんは『なんでもない』とだけ言うと黙って新聞に視線を移す。

 

 なんというか、うん……直樹さんが頑張ってるのは知ってるよ。

 今年のSTARRYクリスマスライブまで出番そんなないけど……。

 

 いたたまれないのでとりあえず思考をずらすことにした。

 気づけばふたりが私の方を向いて座っている。

 そういえば“前に”喜多ちゃんにもやっていたけど、好きねそれ……。

 

「ねぇねぇねこみちゃん!」

「ん?」

「おねーちゃんのどこがよかったの?」

「うぇっ!!?」

 

 ───っぶねぇ! 危うく汚い声で反応するとこだったぜ……って、いやいやいや、なんで? ふたりちゃんもお気づきになってるのはどうして?

 

 ふたりを見るが、小首を傾げて私を見るのみ。

 

 最近の幼稚園児はこんなませてるのか、ぬかった。

 ああいや、もしかして『どうしてお友達やってるの?』的なことかもしれない。

 

 それはそれで酷いけど……ふたりなら言いかねない!

 

「あ~えっと」

「なんでおねーちゃんの彼女になったの?」

「だよね」

 

 うん、そういうことね。なんでバレてるの? ひとりが喋った? ワンチャンある……。

 

「えっと、どこで聞いたの?」

「見てればわかるけど……」

 

 幼稚園児こえぇ!

 

「うぅ、えっと……」

 

 ―――くっ、ひとりのいいとこなんて山ほどあるわっ!

 

「ねこみちゃん、真っ赤になってちゃわかんないよぉ」

「い、いやそのねっ」

 

「父さんトイレ」

 

 お父さんフォローしてよ!? ……くっ、私に逃げ場無しッ!

 

 膝の上で私の胸に顔を埋めるふたり……姉妹揃ってそれ好きね。という言葉は飲みこむ。

 

 なにはともあれ少し不満そうなふたりに、なんか返答しようにもどうにもと言った感じだ。

 ちゃんと言うと長くなりそうだし……子供に聞かせるような簡単な内容でもないし……。

 

「ねーねーねこみちゃーん!」

「えっと、そのぉ」

 

 ひとりと美智代さんの援護も期待できないともなれば、なんとか切り抜けるしかっ。

 

「ねこみちゃんだったら、おねーちゃんよりカッコ良かったりかわいかったりする人、見つかりそうなのに」

 

「……えっと、ね。ふたり」

「んー?」

 

 小声で言うと、ふたりに軽く笑みを浮かべて想ったまま言う。

 

 

「ふたりのお姉ちゃんは、ひとりは……世界一、カッコいいよ」

 

 

 めっちゃ恥ずかしいこと言ったのでは? とも思うが、それよりそれを言うなら『かわいい』だった気がする。

 私がひとりの“カッコいい”ところに惚れたみたいになってしまう。

 だが訂正するよりも前に、ふたりは満面の笑みを私に向ける。

 

「ねこみちゃん、おねーちゃんと同じこと言ってるね」

「え……っ!」

 

 ―――ひとりも私のこと『カッコいい』って言ってたんですか、ヤッター!

 

「ねこみちゃんは、世界一かわいいって!」

 

 ―――“かわいい”じゃないですかヤダー!

 

 

 いや、そのっ、いやじゃ、ないけどっ……♡

 

 

 

 

 なんだか、ねこみちゃんが変だ。

 御飯を食べて家を出てから、やけに上機嫌だし、いつもは手を繋ぐぐらいなのに“腕を組んでた”し、いつもなら下北に着く頃には手を離すのに、駅前ぐらいまでずっとギュッと腕と指を絡ませてたし……。

 別にねこみちゃんがいいなら私もいいかなって思ってたけど、さすがに学校についてからは手を繋いでは無いけど……やけにニコニコしている。

 

 ―――まぁ、後藤ひとり(わたし)としては、その、とってもいいんだけど……えへへへっ。

 

 ついつい承認欲求が満たされてしまう。

 

 なにはともあれ、私達は教室でお互いの席に着く。

 ねこみちゃんは人気者なのですぐに話しかけられたりするけど、隣の私に気を遣ってわざわざ離れた席で話したりなんかもしてくれる。

 本当に細かいところまで気を回してくれて……私には勿体ないなぁ、なんて思う。

 

 私は横目で少し遠くのねこみちゃんを見て……。

 

「ねぇ後藤さん」

「ぴゃぁっ!?」

 

 ───なななっ!? なんで!? 私!?

 

「ふ、ふぇい」

「なにその返事」

「あ、すみません」

「いや、良いんだけど」

 

 えっと、クラスメイトの子だ。

 

 ───なんで私に話しかけて……?

 

「いやぁ、なんかねこみがやけに元気だからなにかあったのかなぁって」

「えっ、あ、いやそんな……今日もいつも通りだったと、思います」

 

 ねこみちゃんとよく遊んでるクラスメイトの子もそう思うんだから、ねこみちゃんはやっぱり上機嫌らしい。

 理由はわからないけれど、それはそれでいいことだと思う。

 

「彼氏、彼女? いや、彼氏でいいか……そんな後藤さんに聞いてみたんだけど、わからないかぁ」

「あ、いや、でも、こっ、心当たりあるかもぉ~って感じですよ、はい」

 

 しまった! つい見栄をはってしまった!

 

「え、ホント? なになになにあったの!?」

「あ、えとっ、そ、そそそそのっ」

「え~秘密~? もしかして恋人同士だけの~?」

 

 凄い笑顔で聞かれて、私はもちろんタジタジで……。

 

「後藤さんと、どうしたの?」

「あ、大張さんとのこと聞いてるんでしょ~」

「俺も気になる!」

「男子はあっち行ってて~」

 

 ───うわわっ! ひひ、人が集まって! えへへ、こういうのもいいかもぉ……。

 

 なんだか頬が緩む。

 私がふとねこみちゃんの方を見れば、離れたところでクラスメイトと喋っていたねこみちゃんと、しっかりと目が合った。

 

 ―――えっ、なんかちょっと不機嫌!?

 

 

 

 

 ほんとなんとなく、お手洗いから戻る道中に……ふとひとりちゃんとねこみちゃんのクラスを覗いてみる。

 すると、喜多郁代(わたし)の目に信じられないものが跳び込んだ。

 

 ───ひとりちゃんが囲まれてるわ……!?

 

 文化祭から数ヶ月、なんだかんだで一度も見たこと無かったので私も驚く。

 文化祭ライブでは凄いテクニックで演奏を披露したひとりちゃんだったけれど、ほとんどの人は“ねこみちゃんとの事故チュー”のインパクトにやられてしまったものね。

 それにひとりちゃんも『ロックで女を落とした奴』とか『ロックのヤベー奴』とか『百合栽培師』とか呼ばれて……。

 今はすっかり『ねこみちゃんの彼氏(彼女)』というイメージが強いけれど……。

 

 ともあれ、隣のねこみちゃんとセットで、ということなら数度あったけれどひとりちゃん単独で囲まれている。これはとてもレア。

 そういえば隣のねこみちゃんはどうしたのかと、ふと教室を見渡せば、ねこみちゃんが少し離れた席から少し不満そうにひとりちゃんを見ていた。

 

 ───嫉妬……嫉妬なのね!?

 

「健康になるわぁ……!」

 

「喜多ちゃんだ。どうしたんだろう」

「バンドはじめてからやっぱり変だよね、喜多ちゃん」

 

 

 

 

 そろそろホームルームの時間ということで、ねこみちゃんが後藤ひとり(わたし)の隣に戻ってくる。

 机の上に肘をついて頬杖をつきながら、私を見るねこみちゃんは、やっぱりなんだか不機嫌そうで……いや、本当に不機嫌な時はもっとこう、違うはずだからたぶんそういうのじゃない。

 どちらかというと“拗ねてる”に近い感じが……?

 

 でもなんだろう。なんかしちゃったかな……なんて思いながらねこみちゃんの眼を見る。

 

 ―――やっぱり、拗ねてる?

 

 なんて思ってたら、ねこみちゃんが先に目を逸らした。

 

「う゛っ、いやいや、(わたし)が、違っ……“こういう”のはさせる方でっ……」

 

 なんだか悩み中。

 私が原因かもしれないと思えば、なんとかしなきゃって思う。

 でもやっぱり理由がわからないので、やっぱりねこみちゃんに聞くのがベストな気がする……うん、ねこみちゃん相手なら聞ける。

 

「わ、私は、こう、もっと余裕な感じで、窘めたりする立場っ、そう、それが男たる……」

 

 そっと手を伸ばして、ねこみちゃんの肩に触れた。

 

「っ、ひ、ひとり……な、なに?」

 

 さっきまでの拗ねた様子もなく、戸惑いながら小声で私に聞くねこみちゃん。

 

「どうしたの……?」

「え、あ、いやっ……」

「えっと、私、なにかしちゃった……?」

 

 そう言うと、少し驚いた顔をしてから、ねこみちゃんが赤い顔で俯く。

 

「その、い、いや……」

「ご、ごめんね……あまりその、わ、私、わかってあげられなくて」

「そ、そういうんじゃなくてそのっ……ひ、ひとりさっき、囲まれてて」

 

 やっぱりさっきの、でもどうして?

 

「うん……」

「べ、別にそれは、良いんだけど……で、デレデレしてたから……」

 

 ───え?

 

「……え、それって」

「も、モヤモヤって……うっ、お、重い女みたいじゃんかぁっ……」

「そ、そんなこと、でも……」

 

 ―――も、もしかして……嫉妬!? ねねね、ねこみちゃんが!? 嫉妬してくれた!?

 

「っ……!」

 

 ででで、でもどうして!? そ、そんなデレデレしてたの私!?

 

「い、いやそのっ、今日……ひとりが私のこと『世界一かわいい』とか、言ってたって、聞いたから……」

「……!!?」

 

 ───ふ、ふたり!!?

 

 まさかの妹の暴露に私は混乱した。

 いやでも、なんというか……私もなんで言っちゃったんだろう。

 思ってることだけど、常々思っていることだけれども、やっぱり人に言うのは違う、かも……。

 

 ───でも……それを聞いた今日、私が……いやデレデレはしてない!

 

 ねこみちゃん以外じゃデレデレなんてしない! ……はず!

 

「うっ、い、いやひとりは悪くない、からっ……ご、ごめ」

「ねこみちゃん以外、見てないから……」

「へ?」

 

 私はもう少しだけ手を伸ばして、ねこみちゃんの髪に触れる。

 首元で結われた髪をそっとひきよせて、長い銀髪に触れながら、私はねこみちゃんの眼をしっかり見た。

 赤い顔で、少しばかり申し訳なさそうに眉を顰めて私を見るねこみちゃんをしっかりと見かえす。

 

 

「世界一かわいい、ねこみちゃんがいる……から」

 

 

「あぅっ……♡」

 

 小さく、ねこみちゃんが狼狽えるような声を出して、視線を泳がせる。

 少し赤かった顔は真っ赤になって、瞳は潤んでて……。

 

 ───ここが教室じゃなかったら危なかった。教室じゃな……。

 

「あ」

 

 ハッとして、ギギギ……と首を鳴らして視線を動かす。

 

 私とねこみちゃんの前の席の二人が、振り返っていたようで、眼が合う。

 前の席の女子二人は顔を真っ赤にしてて……

 

「ふ、二人とも、そういうのは別の場所で……」

「ご、後藤さん、しゅごい……」

 

 ―――あ、あ、あ……。

 

 離れた席のクラスメイトたちは気づいてないみたい、だけどもう一つ前のクラスメイトも、チラチラこっちを見てて……。

 ねこみちゃんの隣の席の子も、同じくで……。

 私達が見えるであろう先生の方を見れば、一瞬だけ眼があったけど、すぐに逸らされた……。

 

「……っっっ!!!?」

 

「きゃあ後藤さんが倒れた!?」

「ダイナミック自殺……!」

「隣の大張さんも熱あるんじゃないってぐらい真っ赤だけど!?」

「それは放っておいてやれ!」

 

 ───ごとうひとり は めのまえ が まっくらになった。

 

 

 






後藤ひとりが「女誑しのヤベーロッカー」と呼ばれるようになるきっかけである


あとがき

後日談は三話に決めたって言ったじゃないですかヤダー!
はい、すみません、膨らんで長くなる気がしたので切りました
あと一話やります

ま、まぁ書きたかった後藤家とクラスメイト周りをちょっと書けたのでオッケーです

今度の今度こそ本当の本当にラスト……毎回言ってるなこれ
毎日閉店セール状態

では次回、後日談ラストをお楽しみいただければです
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