ぼっちちゃんを雌にするつもりが雌にされた元男(♀)の話 作:樽薫る
※アニメ以降のネタバレがあります
ふと眼を覚ませば、知った天井が視界一杯に広がっていた。
真っ白な天井を見れば、そこが間違いなく保健室だと、頭が勝手に理解する。
たぶん“いつも通り”なんだろうとは思うけど、記憶が曖昧。
代わりに、少し前まで見ていた夢の記憶があった。
───なんだか妙な夢、見ちゃったなぁ。
「あ、ひとり起きたんだ」
「あ、ねこみちゃん……!」
上体を起こして、ベッド横のねこみちゃんを見る。
私の、少しだけ沈んでいた気分もすっかり戻った。
―――存在感が凄い。
「……胸、みてるでしょ」
「あっ、えっ、い、いや全然!」
「顔が口ほどにモノを言ってる……」
ジトっ、とした目で見られて、私は思わずはにかむ。
「なに笑ってんのさぁ、大変だったんだからあの後……」
「え、あ……あっ!」
―――うごごごごっ! また私の黒歴史がぁっ!
「たくもぉ……ばかっ」
「え、あ、ご、ごめん……」
あれ、そこまで嫌じゃなかった感じ……?
◇
即座に安心したという意のスタンプが送られてくるのでスタンプで返し、他の“ひとりを心配していた”クラスメイト数人にもひとりが無事とロインを送っておく。
ケータイをポケットに入れると、ひとりの方に視線を戻す。
「にしても、あとでまた色々聞かれるぞ~?」
「あっ、そ、それは困る、かも……」
まぁ、さっきも上手く受け答えできてなさそうだったもんなぁ……ていうか、そんなんなのに
いやいや、深く考えるのはやめよう。
うん、そのうちひとりの方に嫉妬させてやるからなぁ……。
「ってだから、これじゃ私が嫉妬してるみたいなっ……!」
「え、どうしたのねこみちゃん?」
「なんでもないからっ!」
勢いよく答えてから、私は立ち上がる。
ひとりもベッドから降りようとしてベッドに腰掛けるような形になるので、私はそんなひとりの正面に立つ。
驚くようなひとりを尻目に、私は両手を伸ばす。
「むぐぅっ」
そっとひとりの後頭部を撫でるけれど、一昨日に触った時と別段変わりないように思う。
少し思考しながら、もう少し撫でてみる。
「ん、腫れてもないし大丈夫、かな……?」
「む、ぐぐっ……」
「あ、ご、ごめんっ!」
正面からひとりの後頭部を撫でたということは、
顔が青いので、たぶん呼吸を我慢してたんだろう。
───いや、なぜ我慢?
「は、早く言えよぉ……私の胸で窒息とか勘弁してよ?」
「ねこみちゃんに埋もれて死ぬのもロックかなって……」
「絶対違うぞ」
◇
教室に戻るなり、
いや、もはや戻ってくる道中で充分視線は浴びた。すれ違う生徒からチラチラと視線向けられてたし、ヒソヒソとなにか聞こえてきてたし……悪意があるわけじゃないから良いんだけども。
まぁ私自身、注目を浴びる方だから……故にわかる。いつもと違う。
―――憧れの目とかその類じゃねぇ……。
「ぐ、ぐぐ……」
「ひとり大丈夫?」
隣のひとりを見れば、顔が崩れている。残念ながら当然。
「あ、あ、う、あ、あ」
「ジブリ感……」
やはり耐えられなかったようだが、そりゃそうか、と納得。
正直、私も慣れないタイプの視線で……とりあえずそれらを無視して、ひとりと一緒に自分の席に戻って座るなり、隣同士で二人同時に頭を抱えた。
とんでもないことをやった自覚はもちろんある。ないわけがない。
―――いや、やったのはひとりだけどね!?
「視線が、生温けぇ……」
しかしまぁ、この視線を浴びるのが一人じゃないだけマシ……なんて思いながら視線を少し上げてクラスをさりげなく見渡してみれば、ハッと気づく。
―――なんかひとりに向けられる視線、
「後藤さん……すげぇよなぁ」
「さすがっす後藤さん」
「あの誑しっぷりがなきゃ、あんな彼女は手に入らないのか……」
「あんな彼氏が欲しかった」
「ぼねこは健康にいい、ロッキングオン・ジャパンにも書いてある」
───なんで!?
◇
お昼、
喜多ちゃんも一緒に食べる時も珍しくはないけれど、今日は先約があるみたいで結果的にねこみちゃんと二人です。よりにもよって今日の今日だったから、クラスのみんなから視線が凄かったけど……。
それと、すれ違った喜多ちゃんには拝まれた。
「う、ぐ、ぎっ、ごごっ……」
「うわ、ひとりなんで崩れかけてんのっ」
私の両頬を、ねこみちゃんの両手がそっと撫でる。
「あ、ご、ごめんね、あぶなかった」
「まったくもぉ、崩れたいのは私だっての」
「だ、だよね」
私のせいで余計なことになったのは否めない。
やっぱり近頃はねこみちゃんといるとついつい“らしくない”ことをしてしまって、それでねこみちゃんが恥ずかしい思いしたり、ついつい私が暴走しちゃったり……。
やっぱりこれそのうち怒られるんじゃないかな、なんて思うんだけど……。
「……えっ、なに見つめてんだよぉ」
「あ、いやっ……」
ちょっと赤い顔で、ねこみちゃんが私にジト目を向ける―――うん、かわいい。
「あ、そういや今日、リョウさん休みだっけ……そろそろMV? 私もなんかするか……?」
たまに難しい顔でよくわからないことを言ってたりするけど……。
「うん、かわいい」
「……ハァッ!!?」
ねこみちゃんが一瞬で、茹蛸みたいに真っ赤になった。
「ととと、突然なに!?」
「あ、いやその、全然そのっ、え、あ、うっ」
なんだか最近、ブレーキが効かないというか……。
両手で顔を覆うねこみちゃんだけれど、時折、指の間から私に視線を向けてくる。
こういう仕草を自然とするんだから、やっぱりねこみちゃんは女の子だなぁと思うし、私には勿体ないと思う。けどさすがの私でも、勿体ないなんてそんなこと言ったら、ねこみちゃんが怒ることは簡単に予想がつくので言わないでおく。
「たくもぉさぁ、ひとりはさぁ、そういうとこホントよくない……っ!」
「え、え、よよよ、よくなかった……!?」
「よくなく、ないっ……」
───え……ど、どっち?
「で、でもっ、そういうのは……ふ、二人きりの時に、してよぉ……っ」
───なんかえっちだ……!
◇
お昼御飯を食べ終えて、ねこみちゃんと私は隣あって座る。
私はもってきたギターを弾いていて、ねこみちゃんはギターの音に耳を澄まして、穏やかな表情をしてて……。
学校でこうして、落ち着いて二人になれていると、本当に良い場所を見つけたな、なんて思う。
そんなことを思いながら演奏を続けていると、ねこみちゃんがふと私に視線を向けた。
「そういやひとり、人混みとか、もうちょっと慣れないとね」
ギターを弾く手が震えて妙な音が鳴る。
それに驚いて一瞬だけビクッとなるねこみちゃんだけど、すぐに私に視線を向けて“当たり前でしょ?”って感じの顔を浮かべた。
いや、言いたいことはわからないでもない、虹夏ちゃんも言ってたし……。
―――
「路上ライブとか、私も同行するからさ……」
「え、そ、そんなこと、するの……!?」
「するでしょ、バンドやってんだから織り込み済みであれ」
「……わ、私のみ録音でなんとか」
人混みと注目されるのは別だし、路上ライブも本当にやるかはわからないと思うんだけど、ねこみちゃんはなんだか確信を持っているかのような言い回しをする。
もしかして既に虹夏ちゃんたちと決めてたりもあるかもしれない。
……うん、ありえる。
「レコード会社の人に目ぇつけられるかもよ?」
「えっ!」
「即メジャーデビューかも」
───メジャーデビュー!? 高校中退!! そのままねこみちゃんとゴールイン!?
「えへっ、へへへへっ、いいかもっ……」
「うわぁ、チョロぉ……」
◇
ねこみちゃんに軽く頬を引っ張られて、私は妄想から戻ってきた
買った一軒家でねこみちゃんが『できちゃった……♡』と言った辺りで引き戻されたせいで、頭ごちゃごちゃになって、そのままねこみちゃんのお腹撫でたら真っ赤な顔で“げんこつ”された……。
なにはともあれ、今年は色々と大変そう。
「まぁわりと慣れてきたと思うけどね、成長みられてるぞ」
「え、そうかなぁ」
そう言われると、頬が緩む。
「マシになってるだけ、だからね?」
―――あ、はい。
「でもさ……今年の夏は、夏祭り行ったり海行ったりもしたいじゃん?」
隣で体育座りしているねこみちゃんが、両手の指を合わせて、はにかむような笑顔を浮かべて言う。
夏祭り、海……陰キャの辛いものトップ10にランクインしてくるイベントです。
―――うん……で、でもねこみちゃんも一緒だし……だ、大丈夫。大丈夫な、はず……。
「あ、そういや浴衣も水着も買わないとなぁ」
―――浴衣!? 水着!?
最後にねこみちゃんの浴衣や水着をみたのは小学生ぐらいだった気がする。
すっかり成長したねこみちゃんが、浴衣、水着……。
「その前にちょっと引き締めるか……?」
───ねこみちゃんの浴衣、水着……。
「ふへっ、えへへへっ」
「どうした急に!?」
◇
あたし廣井きくり! 誰よりもベースを愛する天才ベーシスト!
行くとこもないしとりあえず“降りてきた”よSTARRY!
「せんぱ~い! お酒おごって~!」
「飲みながら言うんじゃねぇよ」
相変わらず冷たい表情で私を見る“
「てかそろそろシャワー代とるぞ」
「……え?」
「なんでそこで『なんで?』って顔できんだ……」
だってねこちゃんのお家でシャワーとかもう絶対無理なのにっ!
「先輩が言うから、ねこみちゃんに合鍵だって返したのにぃ」
「てかそもそもなんで合鍵なんてもらってんだよ。ぼっちちゃんに知られる前に返して、トラブルもなかったからともかくなぁ」
「いやぁ~まぁバレたらバレたでおもしろ」
「おもしろくねぇよ!?」
おにころをチューチュー吸う私に、迫真の表情で迫る先輩。
今更、私がなにかしたところで問題があるとも思えないんだけどねぇ……あの二人に入る隙とか微塵も無いし、さすが幼馴染というかなんというか……
仲直りなんたらは良いって言うし……。
「あ~はやくぼっちちゃんとねこちゃん来ないかなぁ~」
「ん、そろそろ終わるころだし、もうすぐ来るか……ていうかお前、あんま弄るなよ?」
「でも、真っ赤になってるぼっちちゃんとねこちゃんかわいいし」
先輩は黙って顎に手を当てて、天井を仰ぎ見る。
しばらく沈黙が続いてから、ふと頷いた。
「……確かに」
同じ穴のなんたら……。
◇
ホームルームも終わって、下校の時刻。
茜色の夕日が差す道、他の生徒たちと同じように、私達は道を往く。
「それでさ、うちのクラスの~」
「……」
「えっと、ひとり大丈夫?」
立ち止まったねこみちゃんが、私の顔を覗き込んだ。
揺れる白銀の髪が、夕日に照らされて輝く。
「へ?」
「なんかポケーッとしてたから……」
「あ……」
あの時、夢を視た。
普段の、当たり前の“日常”だったんだと思う。
でも、大事なモノがあたりまえに無くって、すっぽり抜けてて、“私”にとってそれは、やっぱり悪夢の類で……。
家にも、学校にも、STARRYにも“ねこみちゃん”がいなくって……。
それが当たり前って風に、正常だって言う風に、世界は回っていて……。
でも、“
そんな世界、“私”はいらない……だから……。
「ううん、大丈夫」
「ん、ならよし……って、なにニヤニヤしてんの?」
だから……あまり気にしないで、すぐに忘れちゃうことにしました。
「ううん、その、やっぱり私には、ねこみちゃんが必要だな……って」
「なっ、なにそれ……っ♡」
「えへへっ」
はにかむように笑うと、ねこみちゃんは顔を赤くする。それは夕日の赤さだけ、ではないと思う。
そのまま不満そうな表情を浮かべると、ねこみちゃんは私の左手を右手で取って指を絡ませて繋ぐと、さらに左腕に右腕を絡ませて……。
「へっ、ねねね、ねこみちゃんっ!?」
「ん、なぁに~♪ 恥ずかしがっちゃってぇ~♪」
悪戯っぽい顔をするねこみちゃんだけど、やっぱり顔は赤い。
恋人がやるような腕組み……別に、それ自体は朝もやってたけど、下校時にこんな同じ学校の生徒が多い場所でやるとは思わなかったので、動揺する。
恥ずかしい、というのが大きいけれど、やっぱりビックリの方が大きくて……ねこみちゃんの柔らかさに、少し理性が軋む。
腕を少し引かれて、そのまま二人で歩き始める。
―――すごく恥ずかしい! ほほほ、他の生徒も見てるしっ、し、死にそうっ!
なんて思って左を見れば、たぶん私よりも真っ赤になっているねこみちゃんの顔があった。
恥ずかしがり屋なのに、相変わらず無理するな、なんて思うけど……素直にコレ自体は嬉しいので、黙っていることにする。
自分より恥ずかしがってるねこみちゃんを見たおかげで、少し冷静になれたし……。
「ねこみちゃん、かわいい……」
「はぅっ♡」
―――あぁ、ねこみちゃんは、ほんとカワイイ“女の子”だなぁ。
◇
二人でそのまま歩きながら雑談をしていれば、ねこみちゃんも少し慣れてきたのか、顔の赤みも引いてきたようで……生徒が少なくなってきたって言うのもあると思うけど。
STARRYへの道中、目の前の信号が赤になり、ねこみちゃんと一緒に止まる。
―――ここの信号、ちょっと長いんだよね。
「あのさ……たぶん、意味わかんないと思うんだけどさ、聞いて……ほしい」
「え、どうしたの?」
ねこみちゃんが、少しばかり神妙な面持ちで空を見上げた。
「ちょっと悩んでたけど……決めた」
「え、ど、どうしたの……?」
そう聞けば、私の方を向いて微笑を浮かべる。
「頑張ろっかなって、さ……“
「……?」
「精一杯あがいて、それでダメなら、ダメでもさ……“ひとりたち”と、頑張りたい」
なんだか、すっきりした表情。
「うん、……一緒に“結束バンド”で」
私の言葉に、少し驚いた様子を見せるねこみちゃん。
結束バンドのみんなにとっても、ねこみちゃんはねこみちゃんが思ってるよりずっと大切なんだよ。
そう言っても、ねこみちゃんには、たぶん照れ隠しかなにかで否定されるとは思うけど……。
「だから、もっと、ずっと聴いてて欲しいな。
ねこみちゃんの顔が、ほんのりと赤くなり、その瞳に涙が浮かぶ。
前までの私なら焦っていそうだったけど、それが悲しんでいたり怒っていたりな涙じゃないことぐらい、“今の
だからそのまま、私は“嬉しそうな”ねこみちゃんの、次の言葉を待つ。
「うん、聴かせてほしい、ひとりたちの音……っ」
私は絡めている左手と逆の右手を、ねこみちゃんの頬に添えると、親指でそっと、零れそうな涙を拭う。
どこか恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうにはにかむねこみちゃんに、私も無意識に頬が緩むのを感じる。口角が上がって、視界が狭まる。
通行する車が止まって、周囲の音も止まった。
至近距離のねこみちゃんの、少し震える呼吸も聞こえる。
「ずっと、傍で……“
結束バンドの音、私達の音。ねこみちゃんに聞いてほしい音楽。
それはもちろん本音で、ねこみちゃんがそう言ってくれたのは本当にうれしい。
……でも、やっぱりねこみちゃんが相手だと、欲が出てしまう。
ねこみちゃんにとって、私がいちばんであってほしいと願ってしまう。
「でも、やっぱり依怙贔屓しちゃう、かも」
―――え?
「でも許してほしいな、私……彼女、だからさっ」
そっと囁くように、噛みしめるようにねこみちゃんは言葉を続ける。
「大好きな
ねこみちゃんは、私の音楽をいちばん聴きたいって言ってくれて……。
私にとってやっぱり、いちばん聴いてほしいのはねこみちゃんで……。
色々と、それだけですっきりしてしまった。
「いちばん傍で、ずっと傍で、聴いてほしい」
信号が、青に変わる。
「
「……んっ♪」
―――もちろん、“私達の音楽”も。
それから私たちは二人で一緒に、“その一歩”を踏み出した。
あとがき
これにて今小説は終了です
本編の完結から、なんだかんだとダラダラ続きましたが、これにて完結
……といいつつ、なにかあれば一話短編、みたいなのが生えるかもですが
ラストはいつものねこみオチでも良かったんですが、それは本編でやったので
『ねこみ視点ギャグ落ち』だったのに対し、こちらは『ぼっち視点真面目に』と対比してみました
おかげでねこみも原作の外側に行くという決意も決めて一歩を踏み出しました
(※ひとりと付き合ってる時点で改変もいいとこですが
これからも何度も♂に戻ってまた♀に落とされるを繰り返すことでしょう
色々と語りたいこともありますが、これ以上の蛇足もアレなので
約三ヶ月の間ですが、感想、ここすき、お気に入り登録、誤字報告、ありがとうございました
おかげでモチベーションも好調のまま完結、と相成りました
どこかで見かけた時はまたよろしくお願いします
今後も二次創作含めて、ぼざろがどんどん盛り上がりますように。