ぼっちちゃんを雌にするつもりが雌にされた元男(♀)の話 作:樽薫る
ただし、やはり中身は男、
本物の野原ひろしっぽくなっちまった……。
ともあれ、私からすりゃ男は恋愛対象にはいらないし、恋愛対象の女の子だってリードしなきゃいけないわけであって、なわけであるが……。
「最近おかしいな……」
私は、“一人暮らしに丁度良い”1Kのアパートの部屋にて頭を抱えた。
カーペットの上に敷いた“
後藤ひとりと出会って、そこから今に至るまでの経緯を、だ。
―――そもそもだ。私はひとりと上手くやってたはずだ。なんならパーフェクト。
「にも関わらず、なぜ……」
ひとり相手にどうもたじたじになっちゃうし、挙句に学祭じゃ……あ、あっ、あ……あんなことにっ。
そう、思い出すのは学祭の時の“アレ”だ。
「あ、あっ……あ゛ぁ゛あ゛ぁぁぁ~~~っ!」
うつ伏せになって、ソファに顔をうずめて絶叫。両足をバタバタして羞恥に悶えている。
それぐらいさせてもらわないと心が持たない。
―――ひ、ひとりとその、き、キスをしてしまったのは、まだいい、良いんだが、問題はそちらじゃない……。
「なんなんだろぉなぁ、ホント……男らしくなぃ」
ひとりをリードしてなんぼだと思ってたが、上手くいかない。
なんなら“原作”を知ってるぶん、リードする以外に選択肢なんてない、なんて思っていたのに蓋を開ければこれ、最近は私の方がひとりに……な感じだ。
ナンパから助けられたり、こけそうになったのを受け止められたり……そもそも、その前ぐらいから一緒に歩いてたらさりげなく道路側歩かれたりっ、重そうなもの運んでたら手伝ってもらっちゃったり……あと学祭のあとの結束バンドと星歌さんときくりさんとの打ち上げに参加すれば、“あの事故”のせいでひとりに話しかけ辛い思いしてた私に気を遣って、先に話しかけてくれたり!
納得いかない。これは納得いかない。バランスが取れてない!
―――真島さんもバランス取らなきゃって言ってただろぉがッ!
だがふと、無意識に、自分の唇に触れる。
「でも、最近かっこいぃんだよなぁ、ひとりぃ……」
……って!!?
「何言ってんだ
再びソファに顔をうずめて叫ぶ。
とても普段使いできないような汚ねぇ声だとは思うが、仕方ないことだろう。先に出た自分の声じゃないみたいな声で呟いてしまった気恥ずかしさのせいだ。反動で汚い声を出してプラマイゼロにしようという……やはり錯乱している思考。
こんなの私が思っていた私じゃなさすぎて、現実と理想の乖離に感情が追いつかない。
「う゛ぁ~なんだよ
なんて思っていれば、突然―――インターホンが鳴る。
「わひゃっ!?」
通販を頼んだ記憶はない、なんて思いながら……私は起き上がるなり玄関の方へと向かう。
「はーい……あっ」
もしも“勧誘系”だったら面倒だが、即座に声も聞こえてこないので一安心。
とはいえ、誰が相手か確認しなければ怖いんで、私は首を傾げつつドアの覗き穴を覗く……。
「は……!?」
そこにいたまさかの相手に驚きながらも、何も考えないまま急いでドアを開ければ、そこには……。
「ひ、ひとり……どしたの?」
「あ、へへっ、ね、ねこみちゃんっ」
時刻は19時、後藤ひとりがそこにはいて……。
で、その後ひとりを家に入れるなり、私は適当に座っておくように言ってお茶を汲む。
さすがに昨日の今日で、ひとりがわざわざ訪ねてくるなんて思わなかった。お互いの家の距離としては歩いたって五分も掛からないんだけど……。
秋と言うこともあり、
まぁ部屋の中は温かく、私も私でタンクトップにショートパンツだし、上にパーカー羽織ってはいるけど、比較的薄着。
すぐにひとりも熱くなるだろうとは思うが、とりあえず温かいお茶を持ってリビングに戻った。
「あ、そっか、ひとり新しいギター買いに行ってたんだっけ」
「う、うへへっ……か、カッコいいでしょ……?」
ギターをかけたひとりがそこにはいて、ぎこちない笑みを浮かべていた。
―――なに、それ見せにきたの? かわいいかよ……。
「うん。黒いのいいね……重厚感、っていうの?」
そう言いながら、お茶をテーブルの上に置いて私は思い出す。
今日はギターを買いに行った日、つまりひとりの“配信”での広告料、30万を受け取った翌日あたりというわけで……10万ぐらいのギターを買ったわけだ。
そして明日、でなくとも近々、虹夏ちゃんさんがひとりの家に行くわけだ。
―――それで、コイツやらかすんだよなぁ。
「あ、う、ど、どうしたの?」
「ん? ううん、なんでもない」
少しばかり難しい顔をしていたらしい、ひとりが不思議そうな顔をして私を見ている。
「そうだ、それじゃなんか弾いてよ」
「あ、うん……」
別にひとりが家でギターを弾くのはそれほど珍しいことでもない。
ここは遮音性の壁だし、今まで苦情が来たこともないのでひとりとしても安心して弾けている。と思いたい。
私の音楽への興味は一般的なそれを超えはしないと思うが、それでもひとりのギターは上手いと思うし……なにより、私自身、こうしてゆっくりとひとりのギターを聴くのも好きだ。
ギターのチューニングをするひとり。
「あ、なにが良い? なんでも大丈夫だよ」
「ん~アキレス健ドロス、とか?」
配信の方で有名曲は大体網羅していることもあって、ひとりは大概なんでも弾けるので、お気に入りのをお願いしておく。
頷いたひとりが、ギターを見ながら演奏を始めようとする……のだが。
「そっ、それじゃ……うへへっ」
「え、なに、突然笑い出して……?」
「あっうっ、そ、その、ひ、久しぶりにねこみちゃん家で、ねこみちゃんに、き、聴いてもらえるなぁって……」
確かに、夏頃に一度聞いたぐらいで久々に感じる。
ふたりきり、というのもそうだが……ともすれば、色々と思うとこが無いでもない。
それを意識し始めると、妙に顔と体が熱くなるので、私は暖房を弱めようかとも考えたが、羽織っていたパーカーを脱ぐぐらいにしておく。
テーブルの上で頬杖をつき、ニヤつくひとりを見る。
「そ、それじゃ……」
私も覚悟を決める。最近の傾向からしてどうなるかわからないから……。
―――落ち着け私、別に普通だ。普通のはずだ
最初のライブのあと、ひとりのギターを聴いてもなんともなかったはずだし、うん、大丈夫。
……まぁ、結果としては普通だった。
安心感があり、なおかつ昂揚感を掻き立てるひとりのギターを聴いて、気分が上がった。
しかし、初ライブや学祭の時のような“状態”にはなっていないし……。
「ど、どうだった?」
「うん、素人の意見だけど、初ギターでも変わってないように思う。いつものひとりだよ」
「そっ、そうかなぁ、へへっ……」
ただ、あれが無いのは少し残念な気が……って!!?
いいだろなくって! あんな変な感じっ、私のアイデンティティが崩壊する音しか聞こえねぇわッ!!
「ね、ねこみちゃん?」
「へっ、ああ悪い、ちょっと考え事しちゃってた……どした?」
「その、次のライブね……き、来てほしいなって」
どうした改まって、というのが私の感想だ。行くに決まっている。
「もちろん、あ、今回はちゃんとチケット代払うから」
「えっ、いやそれはそのっ……お、お金かかるし、ねこみちゃん、ば、バイトとかしてないし」
それもそうだ。一人暮らし、バイト無し、そりゃお金がないと思われても不思議じゃないが……一応コスメとかも買ったり、友達付き合いで飯行ったり、外食だってする。仕事の都合で転々としている親からの仕送りで、さほど問題はない。
まぁ、ひとりにそういう話はしないから……ていうか、私からお金取るのなんでそんな嫌がるんだ。チケット代なんだから全然良いだろ。
―――よし、最近は
「ん~お金に困ったらかぁ、確かになぁ」
「で、でしょ? わ、私が来てほしいからっ、わ、私がはらっ……」
なにそのかわいい理由、やっぱりひとりって私のこと大好きかよ。
先に惚れさせた方の勝ちって言うし私やっぱり勝ってんじゃん……よっしゃ!
畳みかけて久々にしっかりとひとりを弄ってやる!
「大丈夫大丈夫~、そしたらパパ活でもやってみるってぇ~♪」
「パッ!?」
よし効いてる効いてる!
「ほら、私の容姿なら……結構稼げそうじゃない?」
「なななななっ!!?」
くらえ、妖艶な笑み! ふふふ、動揺してる動揺してる……。
まぁかなり良い値段を張れる気がする。相場知らんけど……そもそも誰がするかパパ活、私がそんなんしたらエロ同人一直線すぎるわ!
私の身体は未だ清い! てか一生清いまま終わるぞこれ、ひとり早めに告ってこいよ!
てか、ひとりとくっついても私はタチだからな! バリタチだからなぁ! フフフッ、私が処女膜から声が出なくなるのはいつになるやら……!
「……ね、ねこみちゃんっ!!」
「ひぇあっ!?」
思考が深く陥っていたせいで、ひとりが目の前に来ていたのに気付かなかった。しかもらしくない大声を出されてかなり驚いてしまった。
「どどど、どした!?」
さすがに動揺する。ビックリ系は良くない……そういうとこだぞ海外のホラー。
「ぱぱぱ、パパ活するならっ、わわ、私が買うからっ!」
「へ?」
―――なに言ってんのこの子……。
「ににに、二十万ありますっ!」
なにそんな大金出してくれてるんですか……相場しらないけど流石に出しすぎなんじゃぁ。
「ねねっ、ねこみちゃんみたいにかわいい子だと、た、足りない!?」
いやそうでなくってね? てか、かわいいとは思ってるんだな。どちらかというと綺麗って言われたいがまぁ良い……えへへっ♡
でなくて! こいつ正気か私相手に20万出すとか、好きすぎない? これ実質告白では?
……違うか、ひとりのことだ、友達がそんなことしてると全力で止めるな。だが、しかし……。
「えぇ~♪」
フッフッフ、存分に弄んでやるぜ!
私は立ち上がってひとりから少し離れ、ベッドに腰掛ける。
「ひとりのお金なんて申し訳ないし、なんもしないでお金もらうとかなぁ~」
「え、えとっ、そ、そのっ……!」
「やっぱしっかりと……」
「だ、だめっ!」
―――突如、景色が変わる。
二の句も言えないまま、気づけば私は使い慣れたベッドに倒れ込んでいて、私の視界一杯にひとり。
その後ろには不似合いにも万札が舞っていて……両腕は、私の顔の横、しっかりひとりの腕に握られてて……。
「ひ、ひと、り?」
「だっ、ダメ……」
な、なんで押し倒して……やっ、力強っ……。
「ね、ねこみちゃんがっ、し、知らない人に……さ、触られるの、い、いや、だっ……。」
「ひ、ひとりっ、ちょ、ちょっと待っ……」
「だ、誰でもいいならっ、わわ、私が、ねっ、ねこみちゃんをっ……!」
や、ヤバいっ、眼がぐるぐるしてるっ! これ絶対に錯乱してるやつぅッ!
「だだだ、大丈夫! 20万あるからっ、お札数えてたらすぐっ……お、おおっ、終わるからっ!」
「20枚じゃん!? ま、まってひとり、とりあえず深呼吸っ、か、顔崩れろよせめて、顔!」
こんなひとり
てかまさかヤられる!
ま、待って初めてだしっ、
「だ、誰にも、ね、ねこみちゃんはっ、あげないっ……」
「うぁっ♡ ひ、とり……っ♡」
あ、だめだこの感じ……っ。
カッコいいこと言って、カッコいい顔して、力強く私の両手握って……っ。
「あっ……ひ、とりぃ♡」
「ね、ねこみちゃん……か、かわいい。かわいいっ……」
だめだっ、流されちゃダメなのにっ……はぁっ♡
良いかなって思っちゃってるっ……男なのにっ、ひとりをリードしなきゃなのにっ……。
「ひ、とりっ……♡」
「あっうっ、ね、ねこみ、ちゃ……っ」
少しずつ、ひとりの顔が迫ってきて、次の瞬間───携帯が鳴り響く。
「うひゃっ!?」
「ぴあ゛ぁ゛っ!!?」
そして、ひとりが―――弾けた。
文字通りの爆発四散。まぁ10分もすれば元に戻るだろうけど……。
うん、
勿体なかったなんて考えてないし、迫ってくるひとりを思い出してドキドキもしてない!
なぜなら私はバリバリの攻めだから! 総受け(当社比)のひとりに迫られてドキドキするわけがない!
でも……
「今度から、ひとりと一緒の時はマナーモードにしとこ……っ」
ってなに考えてんだ
あとがき
今回はちょっと日常回的な感じの短編
次回は結束バンドメンバーとの絡みを書く予定
ちゃんと攻めになってきたぼっちちゃんと、ちゃんと受け入れだすねこみ
ねこみの雌化が著しいんですが、これでよい
これくっつくまで秒読みな気がする……
移行はちょっと毛色を変えてきたいとこで
あと2話ぐらいは書けそうですわ
では次回もお楽しみいただければと思います