一刀流の使い手の彼は武芸で褒められるがそれ以外の良しはない男。
三十路を迎えるにも関わらず浮いた話無く、休日にすることというと乞食達と酒盛り、野良猫の世話。長屋の者たちは気が狂ったと気味悪がる日常。
そんな中、顔なじみの町人の報せで昼を廻ると、そこには数多の野良猫と興じる女の姿があった。
伊藤黒介氏の傑作「おんな座頭市」のオマージュとなります。私の大好きな漫画です。いつか時代劇みたいなものも書いてみたいと思っていたので
この機に筆を起こしました。
こっちは不定期に更新していこうと思っています。
江戸後期、
一刀流の使い手の彼は武芸で褒められるがそれ以外の良しはない男。
三十路を迎えるにも関わらず浮いた話無く、休日にすることというと乞食達と酒盛り、野良猫の世話。長屋の者たちは気が狂ったと気味悪がる日常。
左官の娘である聾唖の母との間に生まれた彼は餓鬼の時分より苦境の人生であった。
下級役人の父は酒の勢いで母と子を成した後、遊郭の女と蒸発した。それ以来病床に臥せった母を救うために様々な職に就くも長く続かず、フーテンののち、いつものように長屋に戻ると手紙だけ。母の姿はなかった。
どうやら酒乱のかかりつけの漢方医とフーテンの倅に愛想を尽かして夜逃げしたらしい。翌朝心中した土座衛門の男女が近くの川で上がった。逃げた親とその男だった。自分の居場所がなくなった。そんな時に拾ってくれたのが平六親分だった。
それ以降平六の信条である“てめえは菩薩さんより優しくなれ”という、弱き者へのやさしさ“任侠”のために生きようと誓う。
×××
「おい、おめえさん、猫が好きかい」
橘は女に声をかける。女は隅で野良猫と戯れる。町人たちは新手の乞食が流れ着いたかと避けてゆく。昼廻り、町人に薄気味悪い女がいると報せが入り、向かう。
「へい旦那。なんの御用で?」
「瞽女さんかい、こんなところで日が暮れちまうよ」
女は笠を被った頭を声がする方へ向ける。
「旦那さん、ご丁寧に恩義有り難うございます。生憎ご推察失礼さんですがあたしは一芸も披露の手品はございません。転々方々を旅で回っております。座頭の市で一介の名は通っております」
「へえ女で按摩さんかい。珍しいねえ。なら俺も仁義を発しなきゃなあ。そうじゃねえとおめえさんの名に傷がつく」
橘は市に目線を合わせて中腰になる。
「俺は橘ってんだ。今昼廻りさ。いつもは
「こりゃあこりゃあ火盗付の同心様でしたか、こんなとこで世話になっちまうたあ悪いことしましたね」
「そうじゃねえよ市さんよ。あんたが
「市さん、腹減ってねえか」
橘は笑いながら声を発し続ける。
「雰囲気で察せられちまってるだろうが、俺は貧乏侍よ。よっぽど俺の目明しの野郎がたけえ銭こさえてるだろうよ。でもよお、俺はエンコ生まれよ、ばらまく銭は持ってんだよ」