プリキュアオールスターズ ~Mahjong for survival~ 作:りろぶこん
多くを語る必要はないかと、ではまた後書きで。
第一話~地獄へその足を踏み入れる者・前編~
突然の通告だった。
「三十分で……またあれを……」
なぎさは悪夢を見ているようだった。えりかの悲鳴が再び鮮明に思い出される。
『死』が間近に迫った者が発する恐怖、絶望、苦痛……。
助けられなかった。一番の先輩として、後輩を―否、友人が苦しんで死んでいくのを、ただ見ているだけしかできなかったのだ。
「なぎささん……」
声をかけてきたのは九条ひかりだった。慌てて目尻に浮かんだ涙を拭き取り、無理矢理取り繕った笑みを顔に貼り付ける。
「ひ、ひかり?どうしたのかな?」
「……」
しばしの沈黙の後、年上のなぎさに対してまるで姉のような口調で諭すように言う。
「無理して……笑わなくてもいいと思います」
「……っ!」
なぎさは唇をぐっと結び、気を抜けば溢れそうになる涙をこらえた。そして絞り出すように、
「私が……しっかりしなくちゃいけないんだ……みんなの先輩だから……!」
「……」
いい終えた所で涙腺が決壊した。大粒の涙がなぎさの頬を伝い、洋館の床を濡らす。
ひかりは少し戸惑いながらも、意を決して一歩前に出る。
「確かに……なぎささんとほのかさんは一番最初にプリキュアになりました。責任感はあると思います……でも私達、まだ中学生です。一人で背負わなくても……いいんですよ?」
優しい姉のように、ひかりはなぎさの肩に手を添えた。年下に慰められるというのは経験したことがなかったが、不思議と嫌とは思わなかった。
「ありがとう、ひかり……ごめん、少し一人にして」
「……はい」
一瞬迷ったようだが、ひかりはそれ以上何も言わずなぎさに背を向けた。
(ありがとう……ひかり……)
ひとつ、深呼吸。いつまでも泣いていられない。気を引き締め、階段を降りようとした時だった。
コツン―と、わざとらしい靴音が背後から聞こえた。
普段なら特に気にならないだろう。だが今回は……なぎさの意識を無理にでも向けさせるような圧迫感があった。
「……舞」
足音の主は、美翔舞だった。年齢的には同じだが、プリキュアとしてはひとつ後輩にあたる。同性のなぎさから見てもハッとさせられる程の美少女で、やや内気な性格とプリキュアとしての使命がなければ今頃充実した学園生活を送っていたことだろう。
(別に敵じゃない……じゃあ今のは……?)
なぎさが困惑している理由がわからなかったのか、舞は首をかしげながらなぎさに近寄った。
「どうかした?」
「えっ、いや、ううん何でもない」
明らかに挙動不審だったが舞は言及しなかった。代わりに片手をなぎさの肩に手を置く。奇しくも、それはひかりの行動を思い起こさせた。
「辛いとは思うけど……」
「うん、大丈夫」
余計な心配は無用とばかりに、なぎさはしっかりとした声で返す。対する舞は微笑を浮かべ、
「そう……よかった。何かあったら大変だもんね、『先輩』」
「先輩はやめてよ……恥ずかしい」
苦笑しながらなぎさは返した。こうして笑顔が出るというだけ、心に余裕が出てきている証拠だった。
「これからは甘さを捨てなきゃね」
「え?」
舞の言葉に一瞬なぎさは固まった。短い発言だったが、恐ろしく『冷た』かった。まるで人間の奥底から伸びてきたような……。
固まるなぎさに構わず舞は続ける。
「少しでも隙を見せたら……」
だんだんとなぎさから表情が消える。肩に置かれた掌から生気が吸いとられているような感覚。
そして、決定的な一言。
「生き残れないよ」
トンッ……っとやんわり手が離れる。何も押された訳でもないのに、なぎさは二歩三歩と身体が前に出た。
すれ違い様、わずかに見えた舞の横顔は―人を人とも思わない、凍てついた悪魔の顔だった。
『残り十五分です』
残り時間がカウントされる。もう既に許された時間の半分を使いきったことになるが、誰一人として卓につく者はいなかった。
ふらつく足取りで一階まで降りたなぎさは、すぐさまほのかに呼び止められた。
「なぎさ……どうする?後十五分だよ……って、どこ見てるの?……舞がどうかした?」
目線の先には不安そうに会話する美翔舞の姿。だがあの可憐な容姿に隠された悪魔の部分を、なぎさは身をもって実感している。
「……何でもない」
先程の恐怖を振り払うようにほのか向き直る。
「ならいいけど……なぎさ、私決めた」
「決めたって……何を」
何か大勝負に出るような雰囲気で、ほのかは告げる。
「私……卓につくよ」
きっぱりと、ほのかは断言した。その目に迷いの色はない。
「……!」
普段なら親友の決断を受け止め、最大限協力するだろう。だが状況が状況だ。対戦表情通りに進行するなら、結果的に殺し合いをしなければならなくなる。しかも、
「同じ卓……だよね、あたし達」
親友と命懸けの勝負はできればしたくない。だがしなければ両方死ぬ。
すると、ほのかは呆れたように手を腰にあて、
「何よ、チームを組めばいいじゃない」
「チーム?」
予想外の一言に、なぎさは呆けた表情を浮かべる。
「そう。何もチームを組んではいけないってルールはなかったわ。意外とね、麻雀って個人戦だけじゃないのよ」
何か確証を得たように、ほのかは口角を上げた。
『残り五分です』
事務的に彼女らの命の残り時間が告げられた。するとそこで、人混みからほのかが声を張り上げた。
「質問!五分以内に『どれか』の組が対局を始めればいいのね!?」
『はい。どれか一卓でも対局の開始を確認できれば、カウントダウンは中断されます』
よし、とほのかは心の中で握りこぶしを作る。
まず第一の関門はルールの確認だった。すべての卓が対局を開始しなければならないとあれば、嫌でも全員卓につきたがるだろう。だがそれでは駄目だ。追い込まれたネズミは何をするかわからない。
そこでほのかは自分らの組だけが対局を開始するように仕向けた。
「なぎさ!」
ほのかは相方の名前を呼ぶ。
「さて……と」
二人は手近な雀卓を挟むように座る。丁度お互いが正面を向き合うように。
「さ、ここはあと二人だよ」
「誰だったかしら?」
不安な心を押し潰し、努めて冷静に他の少女達に声をかける。
少女達の視線が、残りの二人―星空みゆきと緑川なおに向けられる。視線は全員こう言っていた。お前達が行け、と。残り四人を出すより二人を引きずり出す方が手っ取り早い。
「なんなら力ずくでも引っ張ってこようか?」
体育会系のなぎさが両拳を打ち鳴らす。まだプリキュアとして経験の浅い二人にとって、大先輩のこの行動が決定打となった。
「……!行こう、みゆき」
「うう……なおちゃん……」
唇を固く結んだなおと、恐怖一色に染め上げられたみゆきが前に出た。
「じゃあ座って」
ほのかが冷徹に言い放す。なおは意を決したように、みゆきは心底嫌そうに腰を下ろす。
そしてあの拘束具が姿を見せた。
「ふぅー……」
「んっ……」
「直球……勝負!」
「うう……おうちに帰りたい……」
独特の機械音と共に、卓上に牌が並ぶ。それと同時に、あの『声』が、
『対局の開始を確認。カウントダウンの中止、及び対局者を拘束します。対局者以外は私語を慎んでください』
本当の戦いが、幕を開けた。
まずはここまで読んでくださった皆様に感謝を。
なんと言いますか……はい。前回の後書きで『序章が一番長くなりそう』とか舐め腐った発言をしておりましたが……。
どうやら一本書いてみたところ、序章を遥かに超える量となり、急遽前後分け+後編の無駄な箇所の削ぎ落としに着手することとなりました。恐らくそんなに間は開かないと思います。
ちなみに今回も相当サブタイに苦労しました。多分自分は将来ネーミングセンスゼロの親になるのではないでしょうか。
それでは今回はここまでとして。また機会があれば次話でお会いしましょう。