プリキュアオールスターズ ~Mahjong for survival~ 作:りろぶこん
これからは活動報告にて近況等を報告して参りますので、よろしくお願いいたします。
終わった。命のやり取りが、終わった。
あかねは重く息をつくと、脱力して天を仰いだ。
(また一人……でも生きるため、仕方ないんや……)
あかねもなぎさと同様、『人殺し』に対する『慣れ』を懸念してはいた。だが決定的に違うところは、なぎさがその『慣れ』を恐怖し、あかねは受け入れたことだった。
なぎさのように『慣れ』を拒否すれば、この状況に慣れないようにさらなる刺激を求めることとなる。結果的にワンマンプレーに走ったり、衝動的な行動に移る可能性も否めない。だがその分勝利への執着心は凄まじく、その気迫で相手を圧倒できるかもしれない。
対するあかねはこれ以上自分が殺人マシーンにならないよう、今起こるすべての事柄を『仕方ない』で片付ける。
勝利への執念と冷静な心。どちらが最後に笑うのか……。
「じゃ、お疲れ様でした」
沈むあかねとは裏腹に、何事もなかったかのように祈里が立ち上がる。続いて無言で咲が腰をあげ、ふらふらと部屋に戻っていった。
ぼんやりと天井を眺める。木製の茶色い壁が目に入った。それを遮るように、祈里が顔を被せてきた。
「どうしたのあかねちゃん?もう勝負は終わったよ?」
「ああ……せやな……」
どうしたもこうしたもない。人が目の前で死んだのだ。それも友人の一人で、自分が手にかけて……。
いや待て。逆になぜ目の前の祈里は平然としている?フレッシュチームとして、あかねよりも近い仲だったはず。だが勝負の最中はこれといったチームプレイも見せず、あかねの見解では互いに足を引っ張り合っていたようにも見えた。
何か、あかねは腑に落ちなかった。
「じゃあね、あかねちゃん」
笑顔すら見せて、祈里はその場を立ち去ろうとする。その足を鋭い声が射止めた。
「待ちいや」
ザッ、とあかねが立ち上がる。その目にはもう先ほどまでの弱さはない。
「ん?何かな?」
「祈里はん……正直に答えてや。美希はんこと……どう思っとったん」
「どうって……そうだね、大切な友達、かな」
「本当にそない思っとんなら」
一旦言葉を切る。
「なんで……笑っていられるんや……!」
祈里の顔に浮かぶ笑顔。それも無理した様子もなく、ごく自然な笑み。
それが、あかねには許せなかった。
「友達なんやろ!?同じプリキュアなんやろ!?同じチームなんやろ!?なのに!なのに!」
「あかねちゃん」
激昂するあかねに対し、祈里はいたって冷静に自分のペースを貫いた。
やんわりとたしなめるように、それこそ本物の姉のように優しく……そして残酷に。
「いちいちね……人の生死に一喜一憂してちゃ……この先大変だよ?」
スウッ、と一気に体温が下がった気がした。熱された鉄のようだったあかねの心が、氷水をかけられたかのように冷えきる。
それだけ、祈里の言葉には破壊力があった。
「じゃあね」
よろよろと力なく椅子に座り込むあかねを尻目に、祈里は対局前と変わらぬ足取りで階段へと足を向ける。
と、あかねはぼんやりと卓に目を向けた。対面には血飛沫。そして所々赤く染まった牌……。
「……」
ふと、無造作に散らされた牌の中に、倒された祈里の手牌と捨牌が目に入った。
特になんの違和感もない、少なくともそうあかねの目には映った……のだが。
(なんや……この妙な感覚……なんでこんなに気になるんや……?)
どこにも不審な点はないはず。強いて上げるなら局の終盤にしてはあまりにも手が悪すぎて……。
(……!?な、なんやこの切り方!)
ガタッ、と椅子を弾き飛ばす勢いであかねは立ち上がり、ずかずかと大股で祈里の背後に詰め寄る。
そして乱暴に肩を掴むと、力任せに振り向かせた。
「んっ……痛いよあかねちゃん」
「黙りいや」
低く、脅すような声色に、さすがの祈里も二の句が継げずに黙りこむ。
祈里の瞳に映るあかねの顔には、明らかな怒気が含まれていた。
「ちょいとな……聞きたいことがあるねん」
「……何かな」
「まあ卓まで戻ろか」
有無を言わせぬ迫力で、あかねは祈里に背中を向ける。それを追うように祈里も雀卓へ歩みを進めた。
「いらん前置きなしで聞くで?祈里はん……あんた、美希はんのことをどない思っとったん」
「んー……大切な友達、かな」
「……」
あかねはここでひとつ、間を開けた。今口を開けば何を言い出すかわからない自分がいたから。
「……ふぅ……ほんまに、そう思っとったんやな?」
「もちろん」
祈里の顔には笑顔が浮かんでいる。だがそれが明らかに貼り付けたような笑みだということに、あかねは気づいていた。
今すぐにでも胸ぐらを掴みあげたい気持ちを抑え、そしてこれが最後だと自分に言い聞かせて、問う。
「もしかして……美希はんのこと……邪魔だった、とか考えとったか?」
スッ……と祈里の目が急に冷たくなる。だが相変わらず口元には小さく笑みが浮かべられ、
「そんなこと……あるわけないよ」
「やったら!」
ダンッ、とあかねは卓に思い切り拳を打ち付けた。鈍い痛みがあかねの心に火をつける。
「それやったら!どうして援護せえへんかったんや!ずっとワンマンプレー貫いて、あげくの果てにはウチまで利用して!」
「利用……?やだなああかねちゃん、言いがかりも……」
「とぼけるのも大概にしい!そんならこの切り方はなんなんや!」
あかねが卓を……正確には祈里が座っていた場所を指差した。
「祈里はん……これ、そのまま真っ直ぐ打っとったら普通に筒子の清一聴牌やで?明らかに美希はんが同じように筒子の清一狙っとるのをわかってあえてこんなに手がボロボロになるまで筒子を切った……その理由を聞かせてもらおか」
「もう、あかねちゃんったら……切り方には人それぞれの考え方があるんだよ?私が美希ちゃんの清一よりあかねちゃんの方を警戒してた可能性だって……」
「ありえへんな」
あかねはきっぱりと言い切った。
「ウチの狙いは純全ゆうことは見え見えやろ。美希はんは最下位っちゅうこともあって周りを見てく余裕はなかったかもしれへんけど、祈里はん、あんたは別や」
「……」
「ドラの一筒が生牌、加えて明らかな筒子の清一狙っとる相手が一人。もう片方は待ちが狭くなりがちで、加えて高得点も期待しにくい純全。どっちを警戒すべきかは素人でもわかるで」
祈里はじっとあかねの目を見つめている。そこから一切の感情を捨て去って。
「あんたは美希はんを消したいとでも思っとったんちゃうか?点数を削りたい、でもあまりやり過ぎると何をするかわからへん。やからウチを使って直撃させた……ちゃうか?」
「具体的に……どういう風に?説明できる?ただの偶然じゃないって」
「ウチも初めは偶然て思っとったわ。せやけどな、あんた何回か美希はんから直撃取っとったやろ?あれは後々自分を少しでも警戒させるためやったんやな」
「……さあ」
「共闘できるなら二人はお互いに無警戒や。でもそれやと美希はんは突っ走る可能性もある。やからある程度点数を奪っておいて意識を向けさせた。そうすればあんたのリーチも当然警戒するけんな」
犯人を追い詰める警察のように、あかねの眼光は鋭く。
「そして最後、あんたは聴牌せずにリーチをかけた。美希はんにとってはもう『敵』のリーチや、当然意識しながら打つことになるやろ。そこで捨牌は筒子が多い、なら筒子は切っても大丈夫……そう、思たんやろな」
「筒子の清一だったんでしょ?それじゃあ切るのも筒子しかないじゃない」
「いくら切羽詰まっとっても周りが見えとればウチが純全ゆうくらい気付くわ。最悪回してでも張り替えくらいは出来る……それをさせへんかったのがあんたのリーチやけどな」
「……ふふっ……」
いたずらが見つかった妹のように、祈里は口元を抑えて笑った。
否、笑ってはいるが……目は一切笑っておらず、あかねはその冷たい眼光に一歩退いた。
「よく気付いたねえ。あかねちゃんがそんなに頭いいなんて思わなかったよ」
「……」
「だってさあ、美希ちゃんってばいっつも『あたし完璧』とか言ってるけど一人じゃなーんにもできないんだから。前々からずーっとイライラしてたんだ」
「そんな、理由でか……」
「いやー自分でやったら色々面倒でしょ?あかねちゃんはよくやってくれたよ」
「あんた……最低やな」
絞り出すようなあかねの声に、祈里は一切の悲壮感を持たずぴょんと飛んで近寄る。
そして口元には笑みを浮かべつつ、
「信じても……救われないよ?」
重く、のしかかるような一言だった。
ふとあかねが目線を上げると、すでに祈里は二階へ続く階段を昇ろうとしているところだった。
もう追う気もない。行ったところで何も言うことがない。
「信じる者は救われない……」
あかねの言葉が、虚しく響いた。
まずはここまで読んでくださった皆様に感謝を。
前回と間がかなり間が空いてしまって申し訳ありません。以後気をつけますので……。
さて例に習って接続章。今回は祈里がやや複雑な戦法をとっていたので、その解説章としての意味合いもあるこの章。果たして上手く説明できているかどうか……。
今回はこの辺りでお別れです。機会があればまた次話でお会いしましょう。