【完結】雨上がりの向こうへ   作:桜ノ宮雨

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 知識で戦うお話。


十一滴目 特訓の成果

 それからオレはすぐにカンブリアームズを訪れ、『N-ZAP85』を購入した。ランクも余裕、値段も手頃で、まさにオレの全ての悩みを解決した。

 

 久しぶりに手に持った黒ZAPはすんなりとオレの手に収まり───昔と比べてなんだか小さく、軽く感じた。

 

 そしてオレはひたすら練習をした。

 

 練習場で射撃練習をし、ネットで情報を集め、過去に集めた知識と比較をし、実際にバトルで使用した。

 

 最初は思ったより上手くいかなかった。

 

 黒ZAPはシンプルゆえに、奥深いブキだ。わかばシューターと違い、テキトウに撃っても相手には当たらない。

 弾がバラけ具合が全く違うからだ。まずはそれに慣れることから始めた。

 

 また、キルすることに偏らせた分、スペシャルを溜める速度も違う。相手をキルするだけでは無く、今までより意識して道中以外を塗るようにした。

 

 

 次に取り組んだのは、サブであるキューバンボムの扱い方。

 

 キューバンボムは投げた箇所に張り付き、時間が経つと爆発するサブウェポンだ。壁に貼り付けさせれば壁を塗ってくれるし、爆破範囲もスプラッシュボムよりも少し広い。

 

 しかし、爆発するまでに時間がかかり、インク消費もバカにならない。迂闊に使いすぎると肝心の撃ち合いでインクが切れ、逆にキルされてしまうという可能性がある。

 

 プロは爆発時間を計算してキューバンボムを罠のように投げておく、といったことも出来るらしい。しかし、僕が真似したところでどうせ付け焼き刃だ。失敗する確率の方が高いだろう。初心者は初心者らしく、壁や別の箇所を塗るために使用する程度に留めておこう。

 ま、爆発時間は体にできる限り叩き込んでおくけど。

 

 

 そして最後に、()()()()()()()()()()

 

 今まではわかばシューターの射程が短いため、センプクという戦法を取っていた。しかし逆を言えば、それは近距離においての火力が高かったから出来た、ということでもある。黒ZAPで同じことをしても、ほぼ意味は薄いだろう。

 

 だから黒ZAPの射程を体に覚えさせ、その射程で撃ち合うことを意識した。

 そして黒ZAPの射程の中で、味方を援護することを意識した。

 

 黒ZAPとわかばシューターの違いは、その戦闘でメインになれるかどうかだ。黒ZAPは明らかにメインではない。連射は高いが低い火力。それを補うには味方の存在が必要だ。

 

 言い方は悪いかもしれないが、味方には囮になってもらい、オレがその支援をする……

 もっとも、わかばシューターもメインにはなりにくいのだが。

 

 

 

「……っ、はぁ……はぁ…………」

 

 練習の成果が出たのか、伸び悩んでいた時期が嘘のようにメキメキとウデマエは上がっていった。

 特にガチエリアは特定のエリアを塗って取り合うという、ナワバリバトルに近しいルールだったためか、ウデマエが一番早く上がった。ガチエリアの今のウデマエはC。あと2段階上がれば、目標のB-に上がれるだろう。

 

 そんなことを一瞬考えて、それを吐き出すようにフゥーと息を吐いた。今はそんなことを考えている場合じゃない。

 

 

 なぜなら───今はそのガチエリアのバトル中だから。

 

 

 ステージはハコフグ倉庫。

 縦に長く、遮蔽物と脇道が多いステージだ。

 

 肝心のエリアには凹型の遮蔽物があるが高台があるため見晴らしが良く、基本的に長射程ブキが活躍しやすい。長射程ブキがいると一方的なバトルになり、両方のチームにいる場合は硬直状態になる。しかし、今回は運良く味方にも相手にも長射程持ちはいなかった。

 

 つまり、純粋な撃ち合い。

 キルを取れば取るほど、バトルに貢献出来るシンプルなもの。今まで練習してきた成果を存分に発揮する、絶好の機会だった。

 

(落ち着け……大丈夫。まずは状況把握)

 

 息を整えるために深呼吸をし、シオンは遮蔽物からこっそりと中央のエリアを観察した。

 

 バトルの経過はちょうど半分をきったところ。キルを取り取られ、バトル状況が目まぐるしく変化する。

 

 ガチエリアはいかに早くカウントを進められるかが勝敗を分ける。

 今回は珍しくお互いのチームの実力が拮抗しており、エリアのカウントも大体同じぐらい。

 

 強いて言えば相手チームの方が強いぐらいか。しかし言い換えれば───どちらも攻めあぐねていた。

 

(あっちのチームでヤバそうなのは……あのマニューバーかな。さっきから速い動きでキルを取りまくってて、こっちの味方が全然動けてない。逆にこっちのチームで対抗出来そうなのは──)

 

 チラリと後ろを振り返る。そこにはリスポーンをしてきたばかりのスプラローラーコラボ。

 

「あはは~ごめんねぇ。やられちゃったぁ」

 えへへと笑いながらマイペースにオレへ寄ってくるボーイ。

 

(……本当に大丈夫なのか?)

 

 思わず怪訝な表情をして見つめる。

 「“彼”にチームの勝利を託していいのか?」と考えてしまう。

 

 でも黒ZAPのオレがマニューバー相手にキルを取れるとは思えないし、仮に出来たとしてもまだ練度が足りない。それならば、一撃でキルできるローラーの方がチャンスがあるだろう。

 

 だから彼のブキに託すしかない。そんな状況なのだ。こう見ても、彼はこちらのチームでは一番活躍しているボーイだ。

 

「いやぁごめんねぇ? デスばっかりしちゃって〜」

「そんなことないですよ。相手の方がガチパワー(実力を表す数値のこと)強いですし」

 

 オレの横に追いついた彼は話しかけてくる。少しビックリしたが、オレは社交辞令的に返した。

 

 ニット帽とマスク型のギアで隠れているが、近くで見るとよく整った顔をしているボーイだ。テレビに出ていてもおかしくないじゃないだろうか。

 

「それにしてもキツイねぇ……なかなかエリア取れないやぁ〜」

「そうですね……あのマニューバーの彼をどうにか出来れば、戦況はこちらに傾くと思うんですけど」

「そうだねぇ〜。彼によくやられてるもんねぇ……あ! そうだぁ! ねぇきみ、一緒にあの子倒そうよぉ!」

「え? ……いやまぁ、そのつもりではありますけど……どうしてオレに?」

 

「え、だってきみ、よくぼくのことフォローしてくれてるでしょ〜? おかげでいつもよりチョーシが良いんだぁ。ありがとね〜」

「っ! そ、れは……どうも」

 

 気づいて、くれていたんだ。

 

 オレの戦い方はサポートに変化した。サポートはキルをして目立つアタッカーより貢献度が分かりにくい。だからその性質上、相手にも味方にも気づかれにくいと諦めていたんだけど。

 

 彼はそれに気づいてくれた。思えば意外と周りを見ているし、鋭い嗅覚で確実にキルを重ねている。ただ少し、ほんの一歩だけ、相手の方が上をいっているだけで。

 

 しかしその一歩を、オレが埋めることが出来たら───? 

 

「あ、そうだ。名前言ってなかったねぇ。ぼくはアマ。よろしくね~」

「オレはシオンって言います。……よろしくお願いしますね」

 

 オレはブキ相性ではなく、彼に託すことにした。

 

 そのために、全力でサポートしよう。

 

 ・

 ・

 ・

 

「よっしゃ! もう1キルぅ!」

 

 エリアから左の広場で、マニューバーのボーイが歓喜の声を上げる。

 

「今回のバトルはチョーシええなぁ。やっぱガチマはナワバリより楽しいわ!」

 

 マニューバーで相手を下した彼は、訛りのある口調で独り言を大きく喋る。

 程よく日焼けした健康的な肌。燃え上がる炎のようなゲソ。明るく喋るその声音からは快活な性格が窺える。

 

 そんな彼が調子に乗った独り言も実際その通りで。ほとんどのキルは彼が独占し、彼のチームはわずかだがエリアのカウントが勝っていた。

 

「さて、そろそろ中央のエリアの様子を───」

 

 ふっと彼が中央に顔を向ける……と、その時、

 

「っ!!」

 

 突然、小さな物陰からローラーコラボ──アマが飛び出してきた。

 

「あっぶ、ねぇ!!?」

 

 咄嗟にスライドで避けるマニューバーの彼。スライドした状態ですぐに反撃しようとするも、

 

「わ、わ、失敗しちゃったぁ!」

 アマはすぐに同じ物陰へ隠れる。

 

「くそっ! 待てや!」

 急いで物陰へ回り込む……その時、中央から彼に向かって弾が飛んできた。

 

「くっ……!」

 

 慌てて見ると、中央のエリアにヒト影が立っていた。

 

「こっちの対処が先か!!」

 

 アマを追いかけるのはやめ、彼は中央のエリアへ急ぐ。

 

 弾を撃ってきたのは黒ZAP──シオンだった。

 

 気づけば中央のエリアは半分塗られ、カウントはストップしていた。マニューバーの彼はカウントを進められないように、エリアを塗りながらシオンを追いかける。

 

 そんなシオンはエリア中央の障害物を行ったり来たり、時には上へ登ったりしながら、塗り状況が均等になるように逃げる。

 

「おっまえ……ちょこまかと……!」

 

 少し苛立ちを覚え、マニューバーの彼はシオンを追いかける。

 

 時折シオンのチームの味方が彼に向かって突っ込んでくるが、とても彼には敵わない。ピンクのシミが出来た途端、そこを青色でシオンが塗りつぶす。スライドを駆使しても、青色に少し足が取られる。

 

(こいつ、逃げ方がうめぇ……予測する力に長けてんのか?)

 

 マニューバーの彼は少し冷や汗をかきながら、それでもシオンを追いかける。シオンを放っておけば、エリアを取られるのは確実だからだ。

 

 

「……っ。はぁ……はぁ……」

 

 ふと、シオンはいきなり別の行動を取った。中央で逃げ続けることに限界を感じたのか、右側の広場へ駆け出したのだ。

 

「逃さんっ!!」

 すかさずマニューバーの彼もその姿を追いかける。

 

 シオンは右側の広場にもあった小さな物陰をスルーし、その先の壁の向こうへ姿を消した。

 

(しめた……っ!)

 

 壁の向こうは遮蔽物の無いただの一本道。もし壁をぐるっと一周したとしても、マニューバーのスライドなら弾が届く。

 

「そこやっ!!」

 

 スライドして一気に壁向こうへ照準を定める。

 

 

 

「─────は?」

 

 目の前に現れたのは手こずった黒ZAPではない。

 

 大きな棒を上に振りかぶった───最初の不意打ちローラーの姿だった。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

「クソッ! やられたっっ!!」

 

 悔しそうに太ももを叩くマニューバーの彼。

 

 いつの間にか、エリアのカウントは大きく相手側へ進んでしまっている。ここから巻き返すには、以前大きくカウントを進めていたハンデとして追加された秒数含めて、かなりの時間相手を圧倒しないといけない。

 

(まずはあのローラーをなんとかせなあかん)

 

 黒ZAP使いは黒ZAP使いで厄介だが、マニューバーでじっくり追い詰めれば対処は可能だ。

 

 しかしローラーはそうもいかない。また先ほどと同じように不意打ちでペースを乱されれば、一気にデスへ持っていかれる。

 

 

「よっしゃ、マルチミサイル発射!」

 

 デスで減らされたスペシャルを貯め直し、マルチミサイルを発射する。

 マルチミサイルは相手にミサイルを飛ばす使用上、ついでに相手の位置まで分かってしまうのだ。

 

「よし、左側に2人ぃ!」

 

 左側の広場に2人いることを確認した彼は、すぐさまそちらへ向かった。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

(ビンゴっ!)

 

 そこには自分をキルしたあのローラーコラボと、相手の陣地から地続きの高台に黒ZAPがいた。

 

(2対1やが、仕方ない!)

 

 マニューバーの彼はローラーに向かって突進していった。

 

「う、うわ、わ、わ! は、早いよぉ〜!」

 

 ローラーのアマはマニューバーのスライドに翻弄されながら、必死に弾を避ける。

 

 しかし、それを見ても黒ZAPのシオンはただ高台から弾をばら撒くだけ。

 

(黒ZAPのヤツは降りてこんか……白状なヤツやなぁ。ま、こっちは助かるけどな!)

 

 マニューバーの彼はアマのみに狙いを集中する。1対1なら、充分に勝機があった。

 

 しかし、

 

(なんやこれ……クッッッソ動きにくい……!!)

 

 ローラーは神出鬼没。ヒト型になったと思えばすぐにインクに潜って場所がわからなくなる。

 

 対処しようとスライドをすれば、すぐに相手のインクに足を取られる。なんなら背後からボムの警告音すら聞こえてくる。

 

(あの黒ZAP……ただ弾をばら撒いてるだけかと思いきや、ローラーの足場を作ってんのか……!!)

 

 それに気づいた彼は自らの不利を悟る。ただの2対1よりも、こういったコンビが一番厄介だ。

 

 『このままだと時間だけが取られる』。そう思ったその時、

 

 

「もうムリ〜! げんかい〜!」

 

 アマがイカスフィアを発動させ、中央へ逃げた。

 

「っ! 逃すかっ!!」

 

 待ってましたとばかりに、マニューバーの彼はアマを追いかけた。

 

(そのイカスフィアを爆発させた瞬間! 速攻でキルしたる!!)

 

 中央のエリアは双方のチームが相打ちしたのか、ピンクと青がまだらに塗られて誰もいない。カウントはストップした状態だ。イカスフィアが爆発した瞬間、カウントはマニューバーの彼がやられた時と元通り、青色チーム側で進むだろう。

 

(それをキルして止める……!!)

 

 彼はイカスフィアが爆発寸前なのを確認し、その中央へ照準を向ける。

 

(もらった…………!!)

 

 

 

 

 ───────パリン。

 

 

 

 

 響いた音は、弾が弾かれた音。

 

「───────は?」

 

 

 イカスフィアが爆発した瞬間、中にいたアマはインクアーマーに包まれていた。

 

「くっ…………!」

 

 アーマーが割れた瞬間、振り下ろされるアマのローラー。

 それをスライドで間一髪避けるが、至近距離だったために振られたインクの余波を受けてしまう。

 

(これは一時撤退やな……!)

 

 ダメージを受けながら、マニューバーの彼は中央を見渡せる高台の裏へ目指す。そこなら少しは一息を───

 

 

 

「───え?」

 裏に逃げ込んだ彼の目の前に現れたのは、灰色の細い銃口。

 

 

「───ここに来るって、わかってましたよ」

 紅い瞳のボーイがニヤリと笑って、引き金を引いた。

 

 

 ピンク色が青色に弾ける瞬間、カウント終了のブザーが鳴り響いた。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

「フゥ────…………」

 

 シオンはバトル待合室のベンチにもたれかかって、深ーく息を吐く。

 

 今回はキツかった。

 なにしろ格上相手の入ったバトルだ。より体も、頭も使わないと勝てなかった。もしローラーコラボを担いだアマさんがいなければ、今回の作戦は成り立たなかっただろう。

 

 ローラーコラボのスペシャルはイカスフィア。サブはジャンプビーコンだ。

 ジャンプビーコンというサブウェポンは、2回までそこへスーパージャンプを出来るという性能だ。それをマップ上に三つまで設置出来る。

 

 だからアマさんには右側広場の壁裏に一つ、左側広場の高台に一つ、そしてもう一つを相手陣地の高台横……金網の下に置いてもらっていた。

 

 このマップには高台のすぐ横に、中央を見渡せる金網の高台もあるのだ。最後のビーコンは壊される可能性もあったが、逃げる状況に追い込めば気にする余裕は無いと踏んだ。

 

 それらを使ってアマさんとマップを左右に行き来し、マニューバーの動きを先回りした。思いのほか上手くいって良かった。

 

 

 その後、アマさんからは『こんな戦い方があるんだねぇ〜。きみのおかげで楽しかったよぉ! じゃあねぇ〜』と簡単に別れを済ませた。

 

 また、マニューバーの彼からは『お前らのコンビネーション凄かったな!! 次はぜってー負けねぇからな!』とメッセージがきた。

 

 2人とも良いヒトだった。またいつか会えると嬉しいんだけど。

 

 

「さて、オレのウデマエはどれくら、い───」

 ロビーのデバイスで自分の詳細を確認し、オレは固まった。

 

 

 

 そこに表示されたガチエリアのウデマエは────『B-』。

 

 二段階も、上がっていた。

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