「ああああああーーーー!!!負けたぁーーーー!!!」
夏も終わりに近い昼下がり。
蒸し暑さが和らぎ、涼しい風が吹く屋外の飲食ペースにて、一人の青い少女がテーブルに突っ伏して叫んでいた。
「ルリ、うるさいよ……他のヒトに迷惑でしょ」
その向かいに座り、悠々と『100%果汁たっぷり!』と書かれたオレンジ色のジュースを飲む少年が嗜める。
「だって悔しいじゃーーん!!自分からした勝負に負けたんだよ!?わたしもあとちょっとだったのにぃ!!」
「でもきみもB-になったじゃないか。これで望み通り『フレンドと一緒にリーグマッチ』出来るよ。良かったね」
「それはそうだけどぉ……」
ムムムとルリが納得していない顔でぼやく。
相変わらず、この子は背後の感情の色を見なくてもすぐに感情がわかるな……それはそれでわかりやすくて助かるけど。
オレのウデマエはあのバトルで二段階も上がった。
後で調べたところによると、どうやら格上の相手に勝ったり、連続で勝利をしていたりしていると、そういうことが稀にあるらしい。恐らくマニューバーの彼以外にもガチパワー(ガチマッチでの強さを表す数値)が高いヒトがいたのだろう。
兎にも角にも、オレは運良くルリとの勝負に勝った。その報酬が今飲んでいるジュース、ということだ。
「あ!そうだ!」
ぽんっと、ルリが思いついたように手を叩く。
……嫌な予感しかしない。
「せっかくならさ!4人集めてリーグマッチやろうよ!フルパーティーだよ、フルパ!楽しみ〜!!」
「は?4人?あと3人もいるんだよ?それは別に君の勝手だからいいけどさ……アテはあるの?」
「え?シオンくんいるからあと2人でしょ?」
「せっかく自然に抜けようと思ってたのに、やっぱりオレも頭数に入ってるんだね……」
不思議そうにこちらを見るルリに、オレは頭を抱えた。
確かに気の合う同士でパーティーを組めば、勝率は格段に上がるだろう。
しかし、それは『チームパワー』という、別のカテゴリーで実力が示される。
それは『オレ自身がどれだけ強くなったか』の指標には到底なり得ない。
オレが難色を示す理由はそこにあった。
ウデマエが上がって、新しいブキにも慣れてきたんだ。もっと一人でガチマッチに行きたかったんだけど……。
「一人はぜっっったいに一緒にやりたいヒトがいるんだよねー。でも、もう一人はなかなか思いつかなくて……。シオンくん、誰かいる?」
そうルリが聞いてきた。
ルリに『一緒にバトルをやりたいヒトがいる』ということに驚いたが、こんなにごうい……もとい、フレンドリーな性格なら一人ぐらいフレンドはいるだろう。
少し考えて、オレはふと思い出した。
「…………一人、心当たりがある」
オレにもいるじゃないか。ちょうどお礼もしなきゃいけない人物が。
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「……というわけで、一緒にリーグマッチ行くの、どうかな?」
その日のバイト後、オレはもう一人のフレンド───ツバキに声をかけた。
「えっ……なんで俺を……?」
ツバキはびっくりしたように言った。
「この前アドバイスくれてすごく助かったからお礼もしたいし、純粋に君と一緒にバトルをしたいんだ。……難しいかな?」
「それは………」
ツバキは俯いてギュッと拳を握りしめた。
背後の色は──青色。
何かに怯えているような、そんな雰囲気を感じた。それだけで何かしら嫌なことがあったのだと、想像がついた。
「嫌ならちゃんと言ってくれて構わないよ。バトルが苦手なヒトもいるし、無理はしないでほしい。
それに君は強いし、オレはまだ初心者だ。君の負担が大きくなることは確定だし……」
「いやっ!!そういうわけじゃないんだっ!!」
いきなり大声で叫ばれて、オレはビクッと肩が跳ね上がる。
大声を出した本人もビクッと体を震わせていた。
「………あっ、いや…その……シオンとバトルしたいってのは……俺も同じなんだ。だってシオンは初めて出来たフレンドだし……俺を怖がらないでいてくれるし……
ただ、その……少し、バトルが怖くてさ…」
「バトルが……?」
ツバキはそこまで言うと、グッと口を噤んだ。握りしめられたままの拳は震えている。
「俺───イカが苦手なんだ」
振り絞るようにポツリ、ポツリと、彼は話してくれた。
「昔、俺……イジメられててさ。家族は庇うとか、そんなもの無いし。むしろ兄貴や姉貴、両親に『お前が悪いヤツだからだ』って言われるし……。
それ以来、イカが苦手になった。
バトルに出ると『アイツは本当は俺のことウザく思っているんじゃないか?』、『俺が足手まといって思われているんじゃないか?』って、他のイカの目線が気になってしまって……バトルに行くのが怖くなった」
「それは……」
正直、どう声をかけていいかわからなかった。
『大丈夫?』って簡単に声かけるのも違う気がするし、『そんなの気にしない方がいいよ』って言うのは無責任にも程がある。
聞いたことがない世界だった。
そう思うと、なんてオレは恵まれた環境だったのだろう。
「ぶっちゃけると……今も『いつかシオンに嫌われるんじゃないのか』って、すごく怖いんだ。だってこんなウジウジしてるヤツ、誰だってイヤだろ?
オレは……シオンに嫌われるのがイヤだ。
それにシオンの他の、フレンドのイカだっているんだろ?オレがいたら、余計迷惑になるんじゃ………」
「いや!そんな事はないっ!!」
二人して体を飛び上がらせる。
「………ツバキ、それは絶対ありえない。
………君の過去について、僕は何も言えない。慰めとか同情とか、そんなの思う資格無いって思うし……でも、今の君についてはハッキリと言える。
────ツバキはとても強くて優しい、僕の自慢のフレンドだ」
「っ!!」
ツバキが目を丸くする。僕はそれを見てニコッと微笑んだ。
「それにルリ──僕のフレンドのことだって、特に問題ない。あの子はとてもフレンドリーな子だ……ちょっと距離無しだと思うけど、良いイカであるのは間違いないから。安心して」
なるべく優しく、母さんが僕に言い聞かせるように話した。
母さんの言い方なら、少なくとも嫌な気持ちにはさせないだろう。もちろん、話したことは僕の本心だ。
「……………わかった。信じるよ。シオンのこと」
「────ありがとう、ツバキ」
しばしの沈黙の後、ツバキは僕のことを信じてくれた。それがたまらなく、嬉しかった。
「そういえば……」
「ん?なに?」
「シオンって普段『オレ』なのに、今は『僕』なんだな」
「………………あ」
ツバキの指摘に、オレは頭を抱えてツバキから視線を逸らす。
顔が熱い。すっかり忘れてた。
父さんを意識するから、せっかく『オレ』に変えていたのに。
「あー………ごめん。そのことは忘れて。いやホントに。ちょっと熱くなりすぎただけたから……」
「そう……なのか?べ、別にいいけど……」
ツバキは困惑しながらも、それ以上突っ込まないでくれた。
ホント、バレたのがツバキで良かったよ……。