【完結】雨上がりの向こうへ   作:桜ノ宮雨

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 友達のトラウマを聞く話。


十二滴目 パーティ探し

「ああああああーーーー!!!負けたぁーーーー!!!」

 

 夏も終わりに近い昼下がり。

 

 蒸し暑さが和らぎ、涼しい風が吹く屋外の飲食ペースにて、一人の青い少女がテーブルに突っ伏して叫んでいた。

 

「ルリ、うるさいよ……他のヒトに迷惑でしょ」

 

 その向かいに座り、悠々と『100%果汁たっぷり!』と書かれたオレンジ色のジュースを飲む少年が嗜める。

 

「だって悔しいじゃーーん!!自分からした勝負に負けたんだよ!?わたしもあとちょっとだったのにぃ!!」

 

「でもきみもB-になったじゃないか。これで望み通り『フレンドと一緒にリーグマッチ』出来るよ。良かったね」

 

「それはそうだけどぉ……」

 

 ムムムとルリが納得していない顔でぼやく。

 相変わらず、この子は背後の感情の色を見なくてもすぐに感情がわかるな……それはそれでわかりやすくて助かるけど。

 

 

 オレのウデマエはあのバトルで二段階も上がった。

 

 後で調べたところによると、どうやら格上の相手に勝ったり、連続で勝利をしていたりしていると、そういうことが稀にあるらしい。恐らくマニューバーの彼以外にもガチパワー(ガチマッチでの強さを表す数値)が高いヒトがいたのだろう。

 

 兎にも角にも、オレは運良くルリとの勝負に勝った。その報酬が今飲んでいるジュース、ということだ。

 

 

「あ!そうだ!」

 

 ぽんっと、ルリが思いついたように手を叩く。

 

 ……嫌な予感しかしない。

 

「せっかくならさ!4人集めてリーグマッチやろうよ!フルパーティーだよ、フルパ!楽しみ〜!!」

「は?4人?あと3人もいるんだよ?それは別に君の勝手だからいいけどさ……アテはあるの?」

「え?シオンくんいるからあと2人でしょ?」

「せっかく自然に抜けようと思ってたのに、やっぱりオレも頭数に入ってるんだね……」

 

 不思議そうにこちらを見るルリに、オレは頭を抱えた。

 

 確かに気の合う同士でパーティーを組めば、勝率は格段に上がるだろう。

 

 しかし、それは『チームパワー』という、別のカテゴリーで実力が示される。

 

 それは『オレ自身がどれだけ強くなったか』の指標には到底なり得ない。

 

 オレが難色を示す理由はそこにあった。

 ウデマエが上がって、新しいブキにも慣れてきたんだ。もっと一人でガチマッチに行きたかったんだけど……。

 

「一人はぜっっったいに一緒にやりたいヒトがいるんだよねー。でも、もう一人はなかなか思いつかなくて……。シオンくん、誰かいる?」

 

 そうルリが聞いてきた。

 

 ルリに『一緒にバトルをやりたいヒトがいる』ということに驚いたが、こんなにごうい……もとい、フレンドリーな性格なら一人ぐらいフレンドはいるだろう。

 

 少し考えて、オレはふと思い出した。

 

「…………一人、心当たりがある」

 

 オレにもいるじゃないか。ちょうどお礼もしなきゃいけない人物が。

 

 

「……というわけで、一緒にリーグマッチ行くの、どうかな?」

 

 その日のバイト後、オレはもう一人のフレンド───ツバキに声をかけた。

 

「えっ……なんで俺を……?」

 

 ツバキはびっくりしたように言った。

 

「この前アドバイスくれてすごく助かったからお礼もしたいし、純粋に君と一緒にバトルをしたいんだ。……難しいかな?」

「それは………」

 

 ツバキは俯いてギュッと拳を握りしめた。

 

 背後の色は──青色。

 

 何かに怯えているような、そんな雰囲気を感じた。それだけで何かしら嫌なことがあったのだと、想像がついた。

 

「嫌ならちゃんと言ってくれて構わないよ。バトルが苦手なヒトもいるし、無理はしないでほしい。

 

 それに君は強いし、オレはまだ初心者だ。君の負担が大きくなることは確定だし……」

 

「いやっ!!そういうわけじゃないんだっ!!」

 

 いきなり大声で叫ばれて、オレはビクッと肩が跳ね上がる。

 大声を出した本人もビクッと体を震わせていた。

 

「………あっ、いや…その……シオンとバトルしたいってのは……俺も同じなんだ。だってシオンは初めて出来たフレンドだし……俺を怖がらないでいてくれるし……

 

 ただ、その……少し、バトルが怖くてさ…」

 

「バトルが……?」

 

 ツバキはそこまで言うと、グッと口を噤んだ。握りしめられたままの拳は震えている。

 

 

「俺───イカが苦手なんだ」

 

 

 振り絞るようにポツリ、ポツリと、彼は話してくれた。

 

「昔、俺……イジメられててさ。家族は庇うとか、そんなもの無いし。むしろ兄貴や姉貴、両親に『お前が悪いヤツだからだ』って言われるし……。

 

 それ以来、イカが苦手になった。

 

 バトルに出ると『アイツは本当は俺のことウザく思っているんじゃないか?』、『俺が足手まといって思われているんじゃないか?』って、他のイカの目線が気になってしまって……バトルに行くのが怖くなった」

 

「それは……」

 

 正直、どう声をかけていいかわからなかった。

 

 『大丈夫?』って簡単に声かけるのも違う気がするし、『そんなの気にしない方がいいよ』って言うのは無責任にも程がある。

 

 聞いたことがない世界だった。

 

 そう思うと、なんてオレは恵まれた環境だったのだろう。

 

「ぶっちゃけると……今も『いつかシオンに嫌われるんじゃないのか』って、すごく怖いんだ。だってこんなウジウジしてるヤツ、誰だってイヤだろ?

 

 オレは……シオンに嫌われるのがイヤだ。

 

 それにシオンの他の、フレンドのイカだっているんだろ?オレがいたら、余計迷惑になるんじゃ………」

 

「いや!そんな事はないっ!!」

 

 二人して体を飛び上がらせる。()の声だ。こんな大声を出すなんて、自分でも驚いた。

 

「………ツバキ、それは絶対ありえない。()だって、ツバキはこっちに来て初めて、こんな気兼ねなく話せるフレンドなんだ。僕が絶対にツバキを嫌うことなんてない。

 

 ………君の過去について、僕は何も言えない。慰めとか同情とか、そんなの思う資格無いって思うし……でも、今の君についてはハッキリと言える。

 

 ────ツバキはとても強くて優しい、僕の自慢のフレンドだ」

 

「っ!!」

 

 ツバキが目を丸くする。僕はそれを見てニコッと微笑んだ。

 

「それにルリ──僕のフレンドのことだって、特に問題ない。あの子はとてもフレンドリーな子だ……ちょっと距離無しだと思うけど、良いイカであるのは間違いないから。安心して」

 

 なるべく優しく、母さんが僕に言い聞かせるように話した。

 母さんの言い方なら、少なくとも嫌な気持ちにはさせないだろう。もちろん、話したことは僕の本心だ。

 

「……………わかった。信じるよ。シオンのこと」

 

「────ありがとう、ツバキ」

 

 しばしの沈黙の後、ツバキは僕のことを信じてくれた。それがたまらなく、嬉しかった。

 

 

 

「そういえば……」

「ん?なに?」

 

「シオンって普段『オレ』なのに、今は『僕』なんだな」

 

「………………あ」

 

 ツバキの指摘に、オレは頭を抱えてツバキから視線を逸らす。

 顔が熱い。すっかり忘れてた。

 

 父さんを意識するから、せっかく『オレ』に変えていたのに。

 

「あー………ごめん。そのことは忘れて。いやホントに。ちょっと熱くなりすぎただけたから……」

「そう……なのか?べ、別にいいけど……」

 

 ツバキは困惑しながらも、それ以上突っ込まないでくれた。

 

 

 ホント、バレたのがツバキで良かったよ……。

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