【完結】雨上がりの向こうへ   作:桜ノ宮雨

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 戦い方を見つける話


十三滴目 憧れ

 数日後、ルリから日時と場所を指定され、オレはツバキと一緒に合流場所へ向かった。

 

 ツバキはすごくビクビクしていて、オレの服の裾を掴んでいる。側から見るとものすごい不審者だ。

 気の毒になって、オレはツバキに声をかけた。

 

「ツバキ、そう緊張しなくて大丈夫だよ。オレが付いてるから、ね?」

「そ、そそそそそうは言ってもさぁ……!? 俺、大丈夫か? なんか変なとこないか? というかシオンのフレンドさんに嫌われたらどうしよう…………!!?」

「そんな子じゃないから大丈夫だよ……じゃないと、そんな状態のツバキを紹介しないから」

 

 まるで怯えた小魚のようにプルプルと震えて、こちらを見てくる。よく見るとうっすら涙目になっている。

 

 これは……あれだ。誰かに似てると思ったら、妹のシエロだ。

 昔から、特に悪夢を見るとこうやってオレの服にしがみついて、『どうしよう、どうしよう』って泣いてたっけ。

 

 懐かしさのあまり、ついツバキの頭をポンポンと撫でていた。昔シエロにしていたのと同じように。

 ツバキは驚くことも気味悪がることもなく、オレが撫でたことで少しホッとした様子だった。

 よっぽど緊張してたんだな…………。

 

 

「あ、見えた。ツバキ、もうすぐ合流場所に───」

 

 合流場所にはすでにルリとそのフレンドさんがいた。

 

(珍しい。ルリが遅刻をしないなんて)

 

 待ち合わせの時は毎回遅れて来ていたのにと、考えた瞬間、そのフレンドさんに妙な既視感を覚えた。

 

 ルリと同じような青いゲソ。ルリより頭数個分も高い身長。片方のゲソを肩に流している、そのゲソ型。

 なんとなくルリと雰囲気を似ている彼は────

 

「お、シオンじゃねぇか! どうしたんだ? こんな所で」

「リクさんこそ、どうしてこちらに?」

 

 そう、リクさんだった。偶然会うなんて、珍しいこともあるものだなぁと考えていた矢先、

 

「あれ、シオンくん? わたしのパパと知り合いなの?」

 

 

「「………………え?」」

 

 

 ルリの衝撃的な発言に、オレはリクさんと声が被った。

 

 ・

 ・

 ・

 

「アッハッハッハッ!! ルリが最近仲良くしてるフレンドってのが、まさかシオンだったとはなぁ! いやぁこんな偶然ってあるものなんだな。世間って狭いよなー!」

「えぇほんと、そうですね……」

 

 なんとなく気まずくて、オレはリクさんから視線を逸らす。

 

 ルリと何度か会った時、確か『こんな我儘に育つなんて、この子の親の顔が見てみたい』とか思っていた気がする。

 それがまさか、恩人のリクさんだなんて……。

 

 確かに言われてみれば所々の雰囲気は似ている。顔立ちとか、笑い方とか。

 だが、なぜこんな聡明なヒトから、こんな強引な子が生まれたのだろうとか、めちゃくちゃ失礼なことをつい考えてしまう。

 

 

「あれ、そうなると……ルリが『どうしても一緒にバトルしたいヒト』って、リクさんのこと?」

「うん! そうだよー! パパはねー、昔すっっっごく強かったんだって!」

 

 うん、知ってる。だってリクさんが昔バトルしていたのは、本人から直接聞いたし。

 

「それで昔『バトルが出来るようになったら一緒にする』って約束してたから! でもどうせならナワバリじゃなくてガチマッチのルールで一緒にしたいなーって!」

 

 なるほど。そういうことだったのか。だからあんなにガチマッチにこだわっていたんだな。

 

「いやぁ突然『明日リーグマッチいこー!』なんて言い出すものだから、本当にビックリしたよ。流石に仕事あったから、『誘われた次の日に』というのは難しくてなぁ……どうしても調整に数日かかちまった。俺の都合で日時決めちまって悪りぃな」

「それは……いつもお疲れ様です……」

 

 なんだか不憫に思ってしまった。

 こうやっていつも振り回されてることが、なんとなく予想できる。多分、ルリの天真爛漫なこの性格は生来のものなんだろうな……。

 

 

「…………あの、えっ、とー……」

 

 突如、オレの後ろからか細い声が聞こえた。

 

 しまった。ツバキのこと、すっかり忘れてた。

 

「あー……ツバキごめん。このガールはルリ。そしてこの男性の方はリクさん。ルリ、リクさん。この子はツバキ。オレのフレンドで、今回のリーグマッチに参加してくれるんです」

「ツバキくんね! よろしくー!!」

「うわっ!? あ、えっと…………!?」

 

 ルリがいきなりツバキの両手を握り、ブンブンと握手? をする。それに案の定、戸惑うツバキ。

「ちょっ、ちょっとルリ! 待ってツバキは──」

 

「こら、ルリ。いきなりその態度は失礼だぞ。ツバキくんビックリしているじゃないか」

 

 ルリを止めようとしたその時、リクさんがルリを軽くこづいて叱った。

 リクさんって叱るんだ。

 まずそこに驚いた。

 だってオレが会ってきたリクさんはとても優しいヒトだったから。

 

「ツバキくん、うちの子がごめんな? ルリは誰とでも仲良くなろうとするから……行動が唐突になりがちなんだ。オレに免じて、許してくれないかな?」

 ツバキに視線を合わせて、リクさんが優しく声をかける。

 

「え、あ、いや……そんな、ちょっとビックリしただけ、ので……」

「そっか。ありがとな。さっきシオンから紹介されたけど、俺はリク。年齢の差はあるけどよ、気軽に話しかけてくれ。大丈夫。誰も怒らないし、嫌ったりしないから。な?」

「わ……わかり、ました……ありがとう、ございます……」

「いいって事よ! これからよろしくな!」

 

 ニシシッと笑うリクさん。

 まるでこういった対処に慣れているようだった。そんな優しい言葉と態度に、ツバキの緊張もいくらか解けたようだった。

 偶然だったとはいえ、ツバキにリクさんを紹介できたのは良かったかもしれない。

 

(リクさんって、やっぱり凄いヒトだな)

 

 改めてそう感じた。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「バトルは久々だから、足引っ張ったらごめんなー!」

 と、言っていたのに、リクさんはオレ達の想像以上に強いヒトだった。

 

 

「ルリ! お前は何も気にせず突っ込め! 大丈夫だ。俺がアシストする!」

「ツバキ! お前は防衛重視だ。エリアを取られないよう、しっかり見ててくれ!」

「シオン! お前はツバキのアシストだ! スペシャルを回すことを考えろ。それでチーム全体の生存率が上がる!」

 

 

 スピーディーに、そして的確に。

 リクさんの指示は、まさにその言葉がピッタリだった。

 

 彼は定期的にマップを一瞬だけ見て、瞬時に状況を把握し、「どう動けばいいのか」を的確に判断する。

 

 それに気づいてからは、オレもリクさんが指示を出すたびにマップを意識して見るようにした。

 

 なるほど、確かにマップを見れば、相手の位置や状況が予測できる。

 

 バトロイカ社のマップは優秀で、リアルタイムでバトルの様子を上空からの視点で反映するシステムだ。そのため、不自然に色が塗られていく所を見ると、そこに相手がいる事がわかる。

 

 また味方の位置がマップの片側に偏ってないか、エリアやガチヤグラなどの位置がどこにあるのかもわかるようになっている。今までの自分なら目の前の状況把握に必死で、マップを見ることは無かっただろう。

 

 しかし、もっとよく本人を見ていると、本人は決してマップを完全に信用している訳ではないようだった。

 気になる箇所や壁の塗られ具合、味方のスペシャルの状況などは、ちゃんと実際に見て判断している。こういった情報は、どうしてもマップでは確認することが出来ないからだろう。

 

 常に俯瞰的な視点で状況を見て、少しでも裏どりの気配がすれば後方のオレ達に指示を出し、おまけにルリのアシストまでこなす。

 

 また、たとえオレが失敗しても、

「ドンマイ、ドンマイ! 次頑張ろうぜ!」

 と、フォローをいれてくれる。

 

 一体、あのヒトはなんなんだろうか。色々と出来すぎではないだろうか。

 どこが「久しぶりだから足引っ張るかも」だ。

 むしろ実力はオレらの数段上だ。

 

 謙虚で、優しく、強い。

 

 まさに僕の理想する戦い方だ。

 

(────こんな強いヒトに、僕はなりたい)

 そう、強く思った。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

「ほら行こー!!」

「あっ。ちょっ、ちょっと待て……!?」

 

 強引なルリに連れられて、ツバキもジュースを買いに屋台へ向かう。

 ルリのことだ、きっとジュース以外も買ってきて時間がかかるだろう。

 

 数戦かバトルをした後、休憩のために屋外で屋台がたくさん並んでいる場所に来た。日除けの傘がついたテーブルに座り、ツバキとルリが走って行く様子を眺める。

 

 やはりツバキにルリを紹介したのも正解だった。すっかり打ち解けている。

 

 

 それにしても、『チームで戦う』というのも、案外いいものだ。

 最初はちょっと嫌だったけど、自分が性格を把握している相手との共闘が、こんなに楽しいものだったとは思わなかった。

 自己研鑽も大事だが、こうやって時々一緒にバトルするのもいいかもしれない。

 

 

「は──ー……やっぱ年だな。たった数戦でバテちまうなんてなー」

 ハハっとリクさんが笑う。

 

 逆にこれでまだ全力じゃないのか、とわずかに驚く。確かに指示を出すことが多く、あまり動いていないようだったが……少なくともオレよりはステージ中を行ったり来たりしていた。

 

 いや、オレが貧弱過ぎるだけなのか。少し泣けてくる。

 

 

「……ねぇ、リクさん」

「ん? なんだ?」

 

 リクさんと二人きりになったタイミングに、聞きたかったことを聞くことにした。

 

「もしかして───右脚、どこか悪いんですか?」

「っ!」

 

 リクさんが目を丸くしてオレを見る。

 

 ……以前から少し、気になっていた。

 

 リクさんは時々、右脚を庇う仕草をする。本当によく見ないとわからない、微かなものだったが……今回のバトルで確信した。

 

「……俺、そんなにわかりやすい?」

「いえ。ただ今回、オレは後方支援に徹してましたから……自然とリクさんの姿が視線に入るんですよ。それで少し、気になって」

 

 リクさんは少し俯いて考えこむ。

 その背景は、『緑色』。

 これは疑惑か、悩んでいる色だ。

 

 少々踏み込みすぎたか、と申し訳なく思って謝ろうとすると、

 

「これは────事故だよ。昔、事故にあってね。

 それから後遺症が残ってしまったんだ。ちょっと歩きにくいだけで今は日常生活に支障無いし、問題ないよ。心配してくれてありがとな」

 

 ニコッと微笑んでリクさんが答えた。

 

 その微笑みは──『これ以上は話さない』という強い意志を感じた。

 

 少し恐怖を感じた微笑みは、今までで初めて見た。

 背景の色も見えないし、相手の感情が本当にわからない。こんなことは初めてだ。

 

 露骨に隠された。

 

 いや、誰にだって知られたくないことの一つや二つあるだろう。これはオレが完全に悪い。

 

「いえ……すみません。不躾な質問でした」

「なんでシオンが謝るんだよ。そりゃあ知り合いが怪我してそうなら、心配ぐらいするだろ。シオンは優しいな」

 

 次の瞬間には、リクさんはいつも通りの明るい声音に戻っていた。

 ついホッと息を吐く。

 

 ふと、『これは母さんの両目が見えないことに関係あるのでは』と感じた。ただの直感だが。

 

 

 チラッとルリとツバキの方を見て、彼らの様子を確認する。

 まだ屋台でわいわいと悩んでいるようだ。ツバキは若干押され気味だけど、それでもルリとちゃんと話が出来ている。まだまだ時間がかかりそうだ。

 

 

「……リクさん。あと一つ、聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「おう! なんだ?」

 気を取り直して、オレはもう一つの質問をリクさんに尋ねる。

 

 

「オレと父さんって───そんなに似てますか?」

 

 

 ずっと気になっていたことだった。

 昔からずっと。

 ヒト型になれるようになってからはもっと。

 

 『父さんに似てきた』と色んなヒト達から言われてきた。意外なことに、本当に小さい頃はそれが誇らしかった。

 

 でも、いつからかそれは、オレの足枷になっていった。なんとなく、そう言われることが嫌になった。

 

 その『なんとなく』を晴らしたい。そういう一心だった。

 

 そして今までこの問題から目を逸らし続けたことに、区切りを付けたかったのだ。

 

 

 

「いや? シオンはアーティに似てないぞ?」

 

 

「……………………は?」

 

 

 

 そんなオレの深刻な想いとは裏腹に、リクさんはあっけらかんと言い放った。

 

 しかも、即答で。

 

「シオンがこっちに来てから実際に会ってみてよ、『やっぱアーティとは違うなー』ってひしひしと感じたよ。

 

 昔からしっかりした子だとは思っていたけど、すっかり頼もしくなってさー! バトルの戦い方も真逆だし、親子と言えども性格は変わるよなって……」

 

「え…………あ、いやだって……リクさん最初会った時、『ますます父さんに似てきた』って…………」

「ん? あぁ、あれはな? 第一印象だよ。

 

 だって親子なんだ。外見ぐらい似てて当然だろ? 

 

 でも予想以上にヒト型の見た目が似ててさー。めちゃくちゃビックリしたんだよ」

 

 リクさんの返答に、オレはぽかんとした。

 

 どうやらオレはヒトから評価された外見の見た目を、いつの間にか内面のことだと勘違いしていたらしい。

 

(……あれ、オレの悩みって、もしかしてそんなに───)

 

 

 

「おっまたせ──!! 面白そうな屋台、めちゃくちゃあってさ! すっっっごく悩んじゃった! ついでにお菓子も買ってきたから、一緒に食べよー!!」

「すい、ません……どうしても、食べ物に目が行ってしまって……気がついたらこんな量に……」

 

 突然目の前にドサっと食べ物が置かれる。

 

 いや、明らかに四人の量じゃないだろコレ。

 

 思わず先ほど考えていたことが頭から一瞬すっぽ抜ける。

 

「あははは!! いっぱい買ったなぁ! もちろん、これ全部俺の奢りだからな! 好きなだけ食べろよー」

「やった──ー! ありがとパパ──!!」

「えっ!? そ、それは申し訳ないというか……俺たぶん食べ過ぎると思うのでオカネを……」

「いいって、いいって! 俺は年長者だぞ? 遠慮すんなって!」

 

 ニシシッと豪快に笑うリクさん。

 オレはハァと息をつきながら、近くにあったミックスジュースを手に取る。

 

 

 賑やかにお菓子タイムを楽しみながら、仲良く話す三人。今日会ったばかりとは思えない仲良しっぷりだ。

 

(そういえばシエロや母さん……父さんは、元気にしてるかな)

 

 ジュースを飲みながら、その様子を見てフッと思いだす。

 

 

 気がつけば、オレの口元は優しく緩んでいた。

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