【完結】雨上がりの向こうへ   作:桜ノ宮雨

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 なんでもない日の話。


十四滴目 日常

「四つ葉のクローバーって良いよねー!“幸運の証”だし、なんか見つかると嬉しいし!」

 

 ルリがキラキラとした表情で話しかけてくる。

 

「そう?オレはあまりクローバー好きじゃないけどね」

「えー?なんでー?」

「だって四つ葉のクローバーってヒトに踏まれた傷で出来るんだよ。そんなのが“幸運の証”って……普通に嫌でしょ」

 

「……シオンくんってさ、結構捻くれてるよね!」

「君も大概ハッキリと、的確に、遠慮なく、言葉吐くよね」

 

 こんな会話が出来るほど、オレはルリといつの間にか遠慮が無くなっていた。

 彼女のフレンドリーな性格のおかげもあるだろうけど、やはり一番はこの前のチームマッチのおかげだろう。

 

 なんせルリはオレの恩人である、リクさんの娘さん。

 

 でもそれだけではなく、彼女の人柄をなんとなく理解できてきたからこそ、『こんな対応をしても大丈夫』と線引きが出来るようになってきた。

 

 

 彼女の本質は、その懐の深さだ。これはリクさんから受け継いだものだろう。

 

 何事もポジティブに。名前に負けず、まるで瑠璃のように澄んだ青い海のように。たとえ波が荒れても、その波を味方に付けて、笑って立ち向かう。そんな強さが、彼女にはあった。

 

 ならオレも少しは自分の素を出さなくては、彼女に失礼というものだろう。

 実際オレが思ったことをそのまま言葉にしても、彼女どことなく嬉しそうに笑うのだ。

 

 『ありのままの姿で話しあう』。

 そんな関係に、彼女は喜んでいるようだった。たとえそれが辛辣な言葉であっても。

 

 

「ところで、なんで急に『四つ葉のクローバー』なの?」

「さっきバトル中に見たインクの形が四つ葉のクローバーっぽかったの!」

「あぁそう……」

 

 前言撤回。

 

 やっぱりこの子はよくわからない。

 

 

「それじゃあまた明日ね!今度はツバキくんも誘ってやろー!!」

「あぁはいはい、また今度ね。ツバキには一応伝えるだけ伝えておくよ」

 

 ブンブンと腕が千切れそうなぐらい、手を振るルリを見送る。

 まったく、あの元気が羨ましい。ちょっと分けてほしいぐらいだ。こっちは持病で少ししかバトルできないのに。

 

「さて。そんなことは一旦置いといて、と」

 

 ルリの姿が見えなくなった後、オレはある場所に足を向ける。珍しく、オレは浮き足だっていた。

 

 だってこの日はついに────

 

 

 

 

「これが、ジェットスイーパー……!!」

 

 グリップを青緑色の二つのポンプ圧縮機で挟み、そこから伸びた一本の真っ直ぐな銃身。大きさも重さも、黒ZAPの倍以上の重圧感。

 

 ここに来て唯一心惹かれていた、憧れのブキ───それが今、オレの手元に収まっていた。

 

 そう、今日はついにジェットスイーパーの適正Rankまで上がり、ブキチさんから許可を得て買うことが出来るようになったのだ。

 

「ジェットスイーパーはポンプ圧をブーストして、チャージャーに迫る飛距離を得たシューターでし!サブのポイズンミストで相手を牽制し、スペシャルのマルチミサイルで一気に戦況を……」

 

「ブキチさん!少し射撃場使ってもいいですかっ!?」

 

「え?いや別にいいでしが……」

「ありがとうございます!!」

 

 居ても立っても居られず、ブキチさんの言葉を遮ってブキ屋に隣接している射撃場を借りる。

 

 

 試しに撃ってみると、ドッドッドッと重低音を響かせて弾が発射される。

 黒ZAPより発射レートは遅く、インク効率も悪いが、何よりその長い射程は魅力的だ。

 一撃必殺のチャージャーと真正面から勝負するのはキツイだろうが、他の味方を狙っているチャージャーにちょっかいをかけて、ヘイトを分散させることは出来そうだ。

 

(これからまた練習や研究のし直しだけど、これからはもっと長く、バトルが出来る───!!)

 

 新品に輝く憧れのブキは、オレに対して新しい試練を与えてくる。

 

 けれど、それ以上に新しい道が見えて、オレはワクワクした。

 

「よしっ!やるぞっ!!」

 ギュッとジェットスイーパーを抱きしめた。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 それからは初めからのやり直しだった。

 

 黒ZAPは元々事前知識があったし、スペシャルも同じだったため短期間で習得することが出来た。

 

 でも、ジェットスイーパーはそうはいかない。

 サブもスペシャルも、撃つ感覚さえ初めて経験するものだ。一朝一夕ではいかないだろう。

 

 最初はバトルに出る時間より、射撃に篭る時間の割合を増やした。

 射程、インク効率、何発で相手をキル出来るのか……全てを感覚で把握出来るように、何度も何度も撃ち続けた。

 

 もちろん情報収集もした。黒ZAPの時と同じようにスポーツ雑誌を読み漁り、ネットで検索もした。

 

 

 しかし、情報収集と実践経験を繰り返して、このブキの致命的な弱点に気づいた。

 

「一人でバトル潜るのきっっっつ……」

 

 自分の部屋で寝転がり、天井をボーッと見上げる。

 

 

 そう、ジェットスイーパーはサポート寄りのブキ。いや、圧倒的長射程の暴力から一方的にキルすることは出来るんだけど。基本は仲間と連携を取ることを前提としたブキだ。

 

 一応野良のプレイヤーでも、連携を取れるようにボイスチャットが出来るようにはなっている。

 しかし、ボイスチャットを付けるどころか、その存在すら知らないヒトが多い。

 

 野良のプレイヤーは、味方でも動きがわからない。

 いや、味方の方がより明後日の方向に飛び出したり、考えなしに突っ込んだりするから、余計わかりにくい。これはオレの経験の差だろう。地道にバトルへ潜るしかない。

 

 

 その時、イカスマホが震えた。

 

(……?ルリからだ。なんだろう)

 

 オレは何気なく、彼女の連絡を見た。

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

「わーい!久々のリーグマッチーーー!!!」

 

 相変わらず元気に叫ぶルリ。それをオレは呆れて見た。

 ツバキは突然の大声にビクッと身体を飛び上がらせる。

 

 

 ルリからの連絡は、久々の『リーグマッチのお誘い』だった。

 オレはジェットスイーパーを買った日から数週間篭っていたし、ツバキはバイトで忙しかったから呼べなかったらしい。

 

 でも、ちょうど良かった。ジェットスイーパーで、信頼できる仲間と一緒にバトルをしてみたかったんだ。ルリの誘いは渡りに船だった。

 

 

「二人とも、オレのお願いを聞いて欲しいんだけど」

「んー?なにー?」

「どうした?シオン」

 

「───試してみたい戦術があるんだ」

 

 オレは二人に、自分のしたいことを打ち明けた。

 

 

 

 

「すっごーーーい!シオンくんすごいよ!勝率60%ごえ!!」

 ルリが興奮した様子でシオンに詰め寄る。

 

「お、大袈裟だよ……というかルリ、近いからちょっと離れて」

 グイッとルリを押しのける。

 それでも興奮冷めやらぬ状態でピョンピョンとルリが跳ねる。

 

「いや、本当にすごいよシオン。俺、バトルでこんなに勝ったの初めてだ……その前にめちゃくちゃ動きやすかったし。シオンには指令役の素質があったんだな」

「ツバキも褒めすぎだよ……オレはただ、リクさんの真似をしただけ。まだまだ未熟者だよ」

 

 

 オレが試したかったこととは───バトルの指示をオレに一任させてくれること。

 

 

 二人はすぐさま承諾してくれて、オレはために溜めた知識を駆使してバトルを進めた。

 三人でリーグマッチに入ったから一人は確実に野良プレイヤーになるんだけど……たった一人なら戦況に左右されにくい。

 

 そしてオレの考え方は当たっていた。

 

 慣れていないから時折ミスの指示を出してしまったが、二人は「気にするな」と慰めてくれた。やはり通信が出来る仲間がいて、オレの意図が伝わるってのは良いものだ。

 おまけに勝った時の達成感も大きい。そして体力の消耗も少ないから、今までより多くバトルをすることが出来た。オレにはこの戦法が合っているらしい。

 

 

(やっぱりジェットスイーパーを買って正解だった。これなら、もっとこの道を極めることも───)

 

 

 

 ぐぅ~~~~~。

「…………え?」

 

 突然、大きなお腹の音が鳴り響いた。

 

 

「アハハハハっ!いっぱいバトルしたからお腹空いちゃった!!」

「ご、ごめんシオン。俺も……」

 

 ルリはニシシッと、ツバキは申し訳なさそうにしている。

 それを見て、僕は大きな大きな溜め息をついた。

 

 ・

 ・

 ・

 

「何か作るから、ちょっと待っててよ」

 

 お腹が空いたとうるさい二人を鎮めるべく、オレは一番近かった自分の部屋へ連れて行き、すぐさま台所へ向かった。

 

 二人には今日オレの我儘を聞いてもらったんだ。少しでもお礼はしとかないと。

 それにちょうどご飯が余っていたし、テキトーにチャーハンでも作れば大丈夫だろう。

 

 

 

 ────しばらくして、

「お待たせ。こんな簡単なものしかないけど、文句は無しだよ」

 ツバキの分は多めにして、オレは三人に取り分けたチャーハンをテーブルに置く。

 

「やったーー!いただきまーす!!」

「ごめんシオン。いただきます」

 

 

 しかし一口食べた後、二人は唐突に固まった。

 

 

「……どうしたの?食べないの?」

 あんなにお腹の音を鳴らしていた二人は、チャーハンをジッと見つめて動かない。

 

 何かおかしなところでもあったかと一口食べてみると、特に問題はない。いつも通り、普通の味。

 

 

 しばらくして、二人は黙々と食べ始めた。

 

「え、なにその無言。怖いんだけど。特にルリが無言とか、明日雨でも降るんじゃないの。何かまずかった?」

「いや、そうじゃないけど……なんというか……」

 

「シオンくんって料理できたんだね!!」

「は?」

 

 予想外の言葉に、オレはポカンと口を開ける。

 

「しかもめちゃくちゃ美味ぇし。こんな美味い飯、食ったことねぇよ……」

「す、すごいよシオンくん!お店出せるよ!!」

「え?いやいや大袈裟でしょ……一人暮らしなら普通でしょ?」

「そうなの?」

「ちげぇよ!!少なくとも、俺はこんな美味くできねぇ!せいぜいスーパーでやっすい惣菜買って食うのが精一杯だわ!!」

 

(そ、そうなのか……)

 

 オレは父さんが仕事であまり家にいないし、母さんの目の代わりをしたりで、家の手伝いを小さい頃から手伝っていた。だからこれが普通だと思っていた。

 

 

 そういえば、両親共に料理が好きだった気がする。二人が楽しそうに料理をするから、仲間外れにされた気がしてムッとした記憶がある。慌てて妹と一緒に手伝いをしに行ったものだ。

 

 

 

 

「ねーねー!二人は兄弟とかいるの?」

「は?兄弟?」

「い、いきなりだな……」

 ご飯を食べ終わった後、ルリが突然話しかけてきた。 

 

「わたしはねー、お姉ちゃんがいるんだ!とっても優しくて、バトル強くて、優しくて、チョーサイコーにイカしてる自慢のお姉ちゃんなんだ!」

「今、『優しい』が2回入ってなかった?」

「へぇ……でも意外だな。ルリって一人っ子だと思っていた」

「でも、ルリが妹ってのは納得するよ。その……天真爛漫なところとか」

「シオンくんは?兄弟いる?」

「え、オレ?」

 

 急に視線を向けられてオレは戸惑った。

 

「えっ、と……妹が一人、いるかな」

「妹!?妹がいるの!?」

「あー。っぽいな。シオン、面倒見いいし」

「え、そうなの?」

「そうなのって……自覚なかったのか……」

「いや自覚はしてたけど、いざ他人から言われると現実味が無いというか……」

「ねーねー!どんな子?どんな子?」

「そうだね……」

 

 少し頭を巡らせて、シエロのことを思い出す。

 

「別に。普段人見知りで大人しい癖に、オレに対してはいつもワガママ言ってくる奴だよ」

「例えば?」

「例えば……全然好きな柄じゃないのに、オレと同じ物欲しがったり、ご飯作ってる時、危ないのに包丁持ちたがったり……とにかく、甘えたでワガママなんだよ」

「そう、か……」

 

「へー!シオンくんの妹ちゃん、シオンくんのことが大好きなんだね!」

「え?」

 

 オレは予想外の言葉に目を見開いた。

 

「だってシオンくんと同じもの欲しがったり、同じことしようとしてくるんでしょ?

 

 そんなの、お兄ちゃんが好きじゃないと絶対しないよ!わたしがそうだもん!!」

 

「そうだな。オレも思うよ。……兄妹の仲がいいなんて、羨ましいな」

 ツバキが眩しそうに、目を細めて言った。

 

 その言葉は哀愁が漂っていて、背景の色も青色。

 

(……混み合った事情があるんだろうな)

 少し気になったが、彼のために踏み込むことはやめた。

 

 

 

「ねーねー!ツバキくんは?兄弟いるの!?」

 ………いや、この場にとんでもなく空気が読めない奴がいた。

 

 オレはバレないように頭を抱えた。

 

「お、俺……は………」

 ツバキはぐっと口をつぐむ。

 

 

 見るに耐えて、オレはツバキに助け舟を出すことにした。

「ツバキ、無理して答えなくていいよ。こんなのはただの……」

 

 

「俺、は………兄貴と姉貴、2人いる……」

 

 

 ツバキが苦しそうに、言葉を絞り出した。

 

「へー!そうなんだ!どんなヒト?」

「俺のこと、『ダメなヤツだ』って……ずっと笑ってた。殴られたし、気まぐれに大声で怒鳴りつけられたりもした………」

 

 俯いて、拳を膝上で握りしめている。身体は震え、

奥歯を噛み締めている。

 

「あ……ご、ごめん!わたし、ヒドイことしちゃった……」

「……別に。大丈夫だよ。今はあのクソみたいな家から出て、自由気ままな一人暮らししてるしな!おかげでシオンとルリにも会えたし!

 

 俺───今が一番楽しいんだ!ありがとうな!」

 

 ニッと笑うツバキ。その背景の色は───さっきよりも深い、深い青色。

 

 

 その日はそのまま、解散の流れとなってしまった。

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