【完結】雨上がりの向こうへ   作:桜ノ宮雨

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 ヘタレな優しい少年の話。


閑話3 幼馴染の心情

『明日、会ってほしいヒトがいるの』

 突然、彼女からそうメッセージが届いた。

 

(珍しい。カイから『会ってほしいヒト』なんて)

 そう感じて俺───リクは少々の驚きを持ってそれを受け取った。

 

 メッセージを送ってきた彼女───カイは俺の幼馴染だ。

 その紅くて鋭い目付きと冷たい物言いから第一印象は“冷徹なヒト”なんて思われがちだが……実際はとても優しくて面倒見が良く、超がつく程のお人好しだ。

 

『カイから会ってほしいヒトがいるなんて珍しいな。どうしたんだ?』

『珍しいって……ちょっとひどくない? アナタの中で、私はどれだけボッチなのよ』

『だってカイ、人見知りじゃん』

『……ヒトに向かって失礼ね。今度そのよく喋る口、つねってやる』

 

 しかし幼馴染ゆえか、彼女は俺に対しては非常に言葉使いがトゲトゲしい。……まぁ実際には彼女はとても穏やかな性格なので、正直そこまでトゲトゲしいものでもなかったが……そんなところも信頼されていることを実感して、俺は少し嬉しかった。

 

 

 俺はそんな彼女に──実はというと惚れていた。

 

 

 彼女は強いヒトだ。

 

 優しい言葉や行動の裏に、いつも真っ直ぐ芯の通った意志を持っていた。俺のことを何度も助けてくれたし、何度も引っ張ってくれた。

 

 それにたまらなく憧れた。惹かれたんだ。

 

 

 しかし、俺はこの関係が終わってしまうのが怖くて───この想いを、伝えることが出来ないでいた。

 

 

『いやぁだって……最近遊びに誘っても、家から全然出てこなかったじゃねぇか。俺は俺なりに心配してたんだぞ?』

『それは……』

 突然、彼女からのメッセージが止まる。

 どうしたんだろうか? 何かあったのだろうか? 

 

 しばらくして、彼女からまたメッセージが始まった。

 

『……男の子、拾ったの』

「……はぁ!?」

 

 思わず、現実の口からも大声が出る。

 隣の部屋から「うるせぇぞ!」と壁をドンドンされた。

 

『で、今私の家に住まわせてる』

『住まわせてる!?!? その前にヒトを拾ったって……そんな捨てウミウシ拾うみたいな!? しかも男!? 本当に大丈夫なのか!?!?』

『なんで? ウミウシ可愛いじゃない』

『いや、そこじゃなくてぇ…………!?』

 いまいち話の通じない彼女に俺は頭を抱える。

 

 

 今、彼女は一つ屋根の下で、得体の知れない男と2人っきり…………? 

 

 ダメだダメだ! そんなのダメだ! 

 

 彼女が騙されている予感しかしない!! 

 

 

『……だって、めちゃくちゃ怪我してるし、路地裏で倒れてたし……ちょうど、部屋も空いてたし』

『いやいやいや! だからって安易に拾うものでもないだろ!? お兄さん達のことは残念だったけど、そんな無謀な……!?』

『別に貴方に許可なんかいらないでしょ……なんでそんなに突っかかるのよ』

『それは……』

 

 いやだって、そりゃあ何か言いたいことも出るだろう。

 好きな子に、身に危険がありそうなことがあるなんて……流石に看過できない。

 

『それでね、そのヒトに会って、服とか日用品とか一緒に見てほしいの。……女の私が色々するのは限界があるし、同じ男のリクならわかるかなって』

 

 さらに彼女はとんでもないことを言ってきた。

 

 彼女と同棲しているヤツの服や日用品を、俺が一緒に買う? 

 

 いや無理だろ!! 

 

 何より俺の心が持たない!! 

 

 

『…………いや、それはちょっと……』

『…………ダメ?』

『だ、ダメというかぁ…………!!』

 

 上目遣いに見てくる彼女の姿が、頭の中に脳内再生される。

 可愛い。いやそうじゃなくて。

 

 

 う~~~~と散々考えた結果、

 

『…………わかった……手伝うよ…………』

 俺は彼女に折れた。

 

『本当? ありがとう!』

 彼女から可愛いウミウシのスタンプが送られてくる。

 

 こうやっていっつも最後には、彼女のことが好きな想いに付け込まれて……言うことを聞いてしまうのだ。そして恐らく、彼女は無意識に。

 

 はぁと溜め息をついて、俺は覚悟を決めた。

 

 

 こうなったら相手がどんなヤツか、俺がとことん見極めてやる……!! 

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 次の日、俺は彼女と、彼女と住んでいるというその男に出会った。

 

 ゲソも目も驚くほど黒く、顔には薄ら笑いを浮かべている。左頬には謎の痕まである。

 得体の知れない男だ。やはり彼女は騙されているのではないだろうか? 

 

「アーティくん、紹介するね。彼はリク。私の幼馴染だよ」

「おさななじみ……?」

「昔から一緒にいる()()、ってこと」

 

 カイからの『友達』という言葉に少し傷つく。

 

 

 そう、友達。

 

 彼女の認識では、俺は『友達』という認識なのだ。

 

 

「……おー! アンタがアーティか! これからよろしくなー!」

 複雑な感情を抱えながら、一応表面上はニコッと笑顔を浮かべ、手を差し出した。

 

 しかし、彼はその手を見て、何故か困惑している。

 

「あぁ。リクは『握手』をしようとしてるのよ」

「あくしゅ……?」

 彼女の説明に、その男は疑問を浮かべる。

 

 ───握手を、知らない……? 

 

「『仲良くしよう』ってこと。ほら、アーティくんも手出して」

 

 恐る恐る彼も手を出してくれる。俺はその手をギュッと握った。彼はそれにビクッと身体を跳ね上がらせた。

 

 ───もしかして、彼は本当に何か訳アリなのか? 

 

「…………よろしくな!」

 俺は改めてニシシッと彼に笑いかけた。

 

 そんな俺に、彼は少しホッとした表情を見せた。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 それから俺は彼の買い物を手伝った。

 

 彼は例えるなら、()()()だった。

 

 何も知らない。見た物全て、表情を輝かせる。

 

 当たり前なことでさえ、彼は非常に驚いた表情をした。

 

 

 まるで子供だ。そりゃあカイがほっとけないのも頷ける。

 

 彼はとても不安定で、危なっかしかった。

 

 

 そんな彼に、俺もいつの間にか警戒心を解いていた。教えること全て、興味津々で聞いてくれるんだ。教える側からしたら嬉しいことこの上ない。

 

 それに、気づいてしまった。

 

 カイが───彼女が、アーティに恋をしていることを。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 最後に向かったのは、『サス・オ・ボン』というフク屋。ここはバトル用のギアを売っているところだ。

 どうせならアーティと一緒にバトルがしたいと、そう思ったからだ。

 

 俺とカイが話している間、アーティは『F-190』というフクを見つけたようだった。

 

 『F-190』は白いワイシャツに、ファーの付いた緑のコートを合わせたフクだ。メインギアはヒト速で、デザインはいいんだがいかんせん今はイカ速重視の環境なため、あまり使われていないギアだった。

 それに今から暑くなってくるしな。こんな暑いギアを付けてバトルとか、誰でも嫌だろう。

 

 

 でも、そのフクを身につけた彼は──非常によく似合っていた。彼が不思議な雰囲気を纏っているからかもしれない。

 黒いゲソや目も、暗めの色を基調とした『F-190』では気にならなくなっていた。

 

 

 ちなみに…………アーティがカイにネクタイを結び直してもらっていた所に、少し嫉妬したのは内緒だ。

 

 

「せっかくだし、そのフク買っちゃおう! これでナワバリバトルも出来るし!」

「え、でも……それは2人に申し訳ない気が……」

「だぁいじょうぶだって! これは言わば先行投資だ! アーティがナワバリバトルにハマってくれたら嬉しいし、俺も一緒に遊べるフレンドが出来てやり甲斐があるしな!」

「そうよ。私はもうバトルはやってないけど……他の人のバトルを見るのも好きだし、それでアーティくんが楽しんでくれたら、もっと嬉しいもの。……もし気になるなら、バトルしてオカネ稼いで、少し返してくれればいいし」

 俺はカイと一緒にアーティへ笑いかけた。

 

 彼は、それはそれは大事そうに、ギュッとそのフクを掴んでいた。

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