『明日、会ってほしいヒトがいるの』
突然、彼女からそうメッセージが届いた。
(珍しい。カイから『会ってほしいヒト』なんて)
そう感じて俺───リクは少々の驚きを持ってそれを受け取った。
メッセージを送ってきた彼女───カイは俺の幼馴染だ。
その紅くて鋭い目付きと冷たい物言いから第一印象は“冷徹なヒト”なんて思われがちだが……実際はとても優しくて面倒見が良く、超がつく程のお人好しだ。
『カイから会ってほしいヒトがいるなんて珍しいな。どうしたんだ?』
『珍しいって……ちょっとひどくない? アナタの中で、私はどれだけボッチなのよ』
『だってカイ、人見知りじゃん』
『……ヒトに向かって失礼ね。今度そのよく喋る口、つねってやる』
しかし幼馴染ゆえか、彼女は俺に対しては非常に言葉使いがトゲトゲしい。……まぁ実際には彼女はとても穏やかな性格なので、正直そこまでトゲトゲしいものでもなかったが……そんなところも信頼されていることを実感して、俺は少し嬉しかった。
俺はそんな彼女に──実はというと惚れていた。
彼女は強いヒトだ。
優しい言葉や行動の裏に、いつも真っ直ぐ芯の通った意志を持っていた。俺のことを何度も助けてくれたし、何度も引っ張ってくれた。
それにたまらなく憧れた。惹かれたんだ。
しかし、俺はこの関係が終わってしまうのが怖くて───この想いを、伝えることが出来ないでいた。
『いやぁだって……最近遊びに誘っても、家から全然出てこなかったじゃねぇか。俺は俺なりに心配してたんだぞ?』
『それは……』
突然、彼女からのメッセージが止まる。
どうしたんだろうか? 何かあったのだろうか?
しばらくして、彼女からまたメッセージが始まった。
『……男の子、拾ったの』
「……はぁ!?」
思わず、現実の口からも大声が出る。
隣の部屋から「うるせぇぞ!」と壁をドンドンされた。
『で、今私の家に住まわせてる』
『住まわせてる!?!? その前にヒトを拾ったって……そんな捨てウミウシ拾うみたいな!? しかも男!? 本当に大丈夫なのか!?!?』
『なんで? ウミウシ可愛いじゃない』
『いや、そこじゃなくてぇ…………!?』
いまいち話の通じない彼女に俺は頭を抱える。
今、彼女は一つ屋根の下で、得体の知れない男と2人っきり…………?
ダメだダメだ! そんなのダメだ!
彼女が騙されている予感しかしない!!
『……だって、めちゃくちゃ怪我してるし、路地裏で倒れてたし……ちょうど、部屋も空いてたし』
『いやいやいや! だからって安易に拾うものでもないだろ!? お兄さん達のことは残念だったけど、そんな無謀な……!?』
『別に貴方に許可なんかいらないでしょ……なんでそんなに突っかかるのよ』
『それは……』
いやだって、そりゃあ何か言いたいことも出るだろう。
好きな子に、身に危険がありそうなことがあるなんて……流石に看過できない。
『それでね、そのヒトに会って、服とか日用品とか一緒に見てほしいの。……女の私が色々するのは限界があるし、同じ男のリクならわかるかなって』
さらに彼女はとんでもないことを言ってきた。
彼女と同棲しているヤツの服や日用品を、俺が一緒に買う?
いや無理だろ!!
何より俺の心が持たない!!
『…………いや、それはちょっと……』
『…………ダメ?』
『だ、ダメというかぁ…………!!』
上目遣いに見てくる彼女の姿が、頭の中に脳内再生される。
可愛い。いやそうじゃなくて。
う~~~~と散々考えた結果、
『…………わかった……手伝うよ…………』
俺は彼女に折れた。
『本当? ありがとう!』
彼女から可愛いウミウシのスタンプが送られてくる。
こうやっていっつも最後には、彼女のことが好きな想いに付け込まれて……言うことを聞いてしまうのだ。そして恐らく、彼女は無意識に。
はぁと溜め息をついて、俺は覚悟を決めた。
こうなったら相手がどんなヤツか、俺がとことん見極めてやる……!!
◇ ◆ ◇
次の日、俺は彼女と、彼女と住んでいるというその男に出会った。
ゲソも目も驚くほど黒く、顔には薄ら笑いを浮かべている。左頬には謎の痕まである。
得体の知れない男だ。やはり彼女は騙されているのではないだろうか?
「アーティくん、紹介するね。彼はリク。私の幼馴染だよ」
「おさななじみ……?」
「昔から一緒にいる
カイからの『友達』という言葉に少し傷つく。
そう、友達。
彼女の認識では、俺は『友達』という認識なのだ。
「……おー! アンタがアーティか! これからよろしくなー!」
複雑な感情を抱えながら、一応表面上はニコッと笑顔を浮かべ、手を差し出した。
しかし、彼はその手を見て、何故か困惑している。
「あぁ。リクは『握手』をしようとしてるのよ」
「あくしゅ……?」
彼女の説明に、その男は疑問を浮かべる。
───握手を、知らない……?
「『仲良くしよう』ってこと。ほら、アーティくんも手出して」
恐る恐る彼も手を出してくれる。俺はその手をギュッと握った。彼はそれにビクッと身体を跳ね上がらせた。
───もしかして、彼は本当に何か訳アリなのか?
「…………よろしくな!」
俺は改めてニシシッと彼に笑いかけた。
そんな俺に、彼は少しホッとした表情を見せた。
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それから俺は彼の買い物を手伝った。
彼は例えるなら、
何も知らない。見た物全て、表情を輝かせる。
当たり前なことでさえ、彼は非常に驚いた表情をした。
まるで子供だ。そりゃあカイがほっとけないのも頷ける。
彼はとても不安定で、危なっかしかった。
そんな彼に、俺もいつの間にか警戒心を解いていた。教えること全て、興味津々で聞いてくれるんだ。教える側からしたら嬉しいことこの上ない。
それに、気づいてしまった。
カイが───彼女が、アーティに恋をしていることを。
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最後に向かったのは、『サス・オ・ボン』というフク屋。ここはバトル用のギアを売っているところだ。
どうせならアーティと一緒にバトルがしたいと、そう思ったからだ。
俺とカイが話している間、アーティは『F-190』というフクを見つけたようだった。
『F-190』は白いワイシャツに、ファーの付いた緑のコートを合わせたフクだ。メインギアはヒト速で、デザインはいいんだがいかんせん今はイカ速重視の環境なため、あまり使われていないギアだった。
それに今から暑くなってくるしな。こんな暑いギアを付けてバトルとか、誰でも嫌だろう。
でも、そのフクを身につけた彼は──非常によく似合っていた。彼が不思議な雰囲気を纏っているからかもしれない。
黒いゲソや目も、暗めの色を基調とした『F-190』では気にならなくなっていた。
ちなみに…………アーティがカイにネクタイを結び直してもらっていた所に、少し嫉妬したのは内緒だ。
「せっかくだし、そのフク買っちゃおう! これでナワバリバトルも出来るし!」
「え、でも……それは2人に申し訳ない気が……」
「だぁいじょうぶだって! これは言わば先行投資だ! アーティがナワバリバトルにハマってくれたら嬉しいし、俺も一緒に遊べるフレンドが出来てやり甲斐があるしな!」
「そうよ。私はもうバトルはやってないけど……他の人のバトルを見るのも好きだし、それでアーティくんが楽しんでくれたら、もっと嬉しいもの。……もし気になるなら、バトルしてオカネ稼いで、少し返してくれればいいし」
俺はカイと一緒にアーティへ笑いかけた。
彼は、それはそれは大事そうに、ギュッとそのフクを掴んでいた。