【完結】雨上がりの向こうへ   作:桜ノ宮雨

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 父親の本当の気持ちに気づく話。


二十二滴目 衝撃

「───それから、僕らは警察に通報し、バトロイカ社に身柄を保護された。

 

 表だってはいないが……バトロイカ社は黒インクやその他特殊なインクに悩まされているヒト達を保護する仕事もしていてね。僕らはそのヒト達に助けられたんだ。

 

 ……ちなみに、フリージアはすでにバトロイカ社に保護されていたよ。

 

 そして彼女は研究所の話を提供する代わりに、僕を探してもらうよう頼んでいたらしい……やっぱり、彼女は賢い子だ」

 

 父さんは少し口元を緩めた。

 

「僕は全てを打ち明けた。フリージアより詳しく、研究所のことや黒インクのこと。路地裏であったこと……

 

 最終的に、僕の研究所での行動は、『自己防衛』と判断された。罪には問われなかった。

 

 …………けど」

 

 そこで、父さんがギュッと拳を握りしめる。

 

 

「確認はしていないけど、僕は───()()()()()だ。犯罪者なんだよ」

 

 それは、強い意志を持った──悲しい瞳だった。

 

 

「……それから、僕とカイはバトロイカ社から安全や人権を保証する代わりに、今住んでいる地域へ引っ越すことを提案された。

 

 この事件は、世間から徹底的に隠されることになったから。

 僕らはハイカラシティには居られなくなったんだ。

 

 そして平穏を望んだカイと僕はその提案を受け入れ、今の家を与えられた…………

 

 ちなみに、リクはバトロイカ社にスカウトされたようで、そのままハイカラシティに残った。

 ────彼の意図は、なんとなくわかっていたけどね」

 

「そんな、ことが……」

 

 予想もしない話に、オレは愕然とする。

 

 

 だってこんなこと、普通わからないだろう。

 

 スケールが、あまりにもデカすぎる。

 

 

「確か倒れる直前に、『感情が高ぶって抑えられなかった』と言っていたね。それは恐らく、黒インクの影響だ。

 黒インクは負の感情を増幅させ、性格を攻撃的にさせる。

 シオンのせいじゃないよ」

 

 

 あれは……黒インクのせいだったのか。いや、それでも“全て黒インクのせい”とは言い切れない。

 

 

 あれは───間違いなく僕の本音だった。

 

 

「また、その腕のアザは……黒インクの『浸透率が上がった』という証拠だ。『浸透率』とは、『黒インクの侵食率』と言い換えてもいい。

 

 つまり、もう───」

 

 そこで父さんは苦々しい顔して、ふーっと息を吐いた。

 

「突然こんな話をしてごめんよ。受け入れられないのは無理もない。自分を責める必要はないからね」

「……どうして、この話をしてくれたの」

「シオンはもう大人だ。それにこれは君の安全にも直結する話だからね。いつか話さなければならないことだったんだ。

 

 …………ビックリ、しただろう?」

 

「………………まぁ」

 

 

 沈黙。

 

 

 話す前は夕日で染まっていた赤色が、気づけばこの空気と似たような重苦しい色をしていた。

 

 それはまるで先程の話のような変わりようで、心が苦しくなる。

 

 

「本当は……君の父親になる資格が無いと、僕はずっと思っていた。

 

 正当防衛と判断されたとはいえ、僕の手は汚れてしまっている。

 

 それに僕はずっと妹と特殊な環境で育ってきたから……“普通の家庭”というものが、わからない。君とどう接していいのか……よく、わからないんだ────

 

 シオンには、本当に迷惑をかけたね」

 

「そんな、こと……」

 

 

 父の顔から目を離せずボーッと見ていると、父はいつもと同じように少し微笑んで、いつもの『淡い青色』を出した。

 

 

(あぁ、そうだったのか)

 そこで()は、ようやく気づいた。

 

 父がいつも『淡い青色』を出していたのは、僕への憐れみでも蔑みでもじゃない。

 

 

 ただ、僕に対して『()()()()』だったのだ。

 

 

 父はいつも自分を責めていた。僕はこの体質のことなんて全然気にしてないのに、父はずっと気にしていた。

 

 

「母や僕達の人生を狂わせてしまったのではないか?」と。

 

 

 僕達のことだけじゃない。今となってはわからないが……ヒトを殺めてしまったかもしれないことさえも、気にしていたのかもしれない。

 他人から許されはしたが、自分自身には許せなかったのだ。

 

「こんな汚れた自分が、幸せになっていいのか?」と─────

 

 

「これで、僕の話は終わりだ───最後に、一つだけ言わせてくれ」

「………………は? 最後、って……」

 

 突然思いもよらなかった言葉を聞いて、僕は驚く。

 

「さっきも言ったけど、シオンはもう大人だ。

 

 ──────僕のことをどう思おうが、構わない。

 

 自由に生きてくれ」

 

 

 そう言って父は鞄を手に取り、僕に向かって背を向けた。

 

 

「まっ、待ってよ! なんだよそれ! まだ話は終わってな……」

 

「────それじゃあ、シオン。元気で」

 

 一言だけ振り返って話すと、父はいつものように微笑みながら部屋を出た。

 

 

 パタンとドアの音が響き渡る。

 僕は静寂に1人、置いていかれた。

 

「…………なんだよそれ……また、一方的に────」

 

 僕以外いなくなった部屋の中で、ギュッと拳を握りしめる。

 

 

 明かされた真実と、父さんの強い想いに僕は打ちのめされて……その場から動けなかった。

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