【完結】雨上がりの向こうへ   作:桜ノ宮雨

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 不器用な男の話。


閑話4 父親の責任

(シオンが────帰ってくる──?)

 

 届いたメッセージを見て、幸の薄そうな男──アーティは少し驚いた表情をする。

 

 数日前、リクからシオンの体調悪化を聞き、慌ててハイカラスクエアへ行ってきた。

 それから自身の過去を話し、「自由に生きてほしい」とシオンに伝え、今の自分の居場所へ帰ってきた。

 

 

 もう、自分(アーティ)に囚われないで欲しいと願って───

 

 

(……どうして、帰ってくるのだろう)

 純粋に疑問に思い、アーティは首を傾げる。

 

 

 彼は──シオンは、自分のことが嫌いなはずだ。

 

 

 頑張って距離を詰めようとしたけれど、最近はいつも彼に突っぱねられてしまった。

 それでもその身体の弱さが心配で、ついお節介を焼いてしまう。そしてまた、怒られる。その繰り返しだった。

 

(母さん──カイやシエロに、会いに帰ってくるのだろうか)

 その点、母親であるカイにはとても友好的に接していた。

 それは「カイの両目が見えないから手伝いたい」という、シオンの優しさゆえだったのかもしれない。

 

 

 しかし、それにしては送られてきたメッセージは“自分宛て”のみだった。

 

『今から帰る』

 

 その、一点のみ。

 

 

「どうしたの? アーティくん」

 不意に、横から穏やかな声音で声をかけられた。

 

「…………カイ」

 それはシオンの母親──カイだった。

 

 今はもう夜中。カイは先に寝ており、自分もそろそろ寝ようかとベッドに腰掛けたところだった。

 

「すまない。起こしてしまったかい?」

「ううん。……ちょっとだけ、アーティくんを待ってたから。実は起きてたの」

 

 ふふふっと恥ずかしそうに笑う彼女。それを見て、アーティは少し口元を緩める。

 

 

「それで? 何かメッセージでもきたの?」

「……あぁ。実は……シオンから、『今から帰る』って……」

「そう……今から?」

「うん。そうらしい」

 

 アーティの話を聞いて、カイは少し考える素振りを見せる。

 

「今からハイカラスクエアから帰ってくるとなると……ここに着く頃には夜明け近くになるわね。どうしたのかしら。何か……困ったことでも起きたのかしら」

「どうだろう……よく、わからないんだ。伝えたいことは、全部伝えたつもりなんだけど……」

 

 アーティも同じように考えこむ。

 

 

 伝えなければいけないことは伝えた。何かしら、不備でもあったのだろうか。

 シオンから積極的に自分に関わろうとするのは久しぶりだったため、アーティは息子の真意を測りかねていた。

 

 

「ちょっと待って。……アーティくん、ここに帰ってきた時、『自分の過去のことを話した』って、教えてくれたわよね」

「うん。カイにはそう話したね」

 

 

「その後、()()()()()()()()()?」

「………………えっ」

 

 

 考えもしていなかった問いに、アーティは本当に驚いてカイの方を見る。

 アーティの声音から、カイは大きく溜息をついた。

 

「はぁ…………それでもう一つ。アーティくんはシオンへ、最後になんて言ったの?」

「…………えっと、『これからは自由に生きてほしい』って……僕なんかに囚われず、自由にって…………」

 

 アーティの答えに、ますますカイは大きく肩を落とした。

 そんな彼女の態度に、アーティはおろおろと様子を見る。

 

「もう、貴方ってヒトは…………」

「…………カイ? その……僕、何か悪いことをしたかい……?」

 

「…………あのね、アーティくん」

 いつもと違う声音の彼女に、アーティはビクッと身体を震わせる。

 

 この声音は…………怒っている時の彼女だ。

 

「自分のことを一方的に話して、相手の話も聞かず、一方的に突き放すのは、『話し合い』じゃないのよ? 送り出す時に私、言ったわよね? 『シオンと話し合いをすること』って」

「つ、突き放したつもりは……それに、伝えなければいけないことは全部伝えたはずなんだけど……」

「それは、『話し合いをするための前提』。だってそれを話しておかないと、話し合いすら出来ないでしょう? だから『話し合いを』って念押ししたのに……」

 

 また彼女は大きく溜息をついた。アーティはそれにビクッとまた身体を縮こませる。

 

「いい? アーティくん。シオンは大人の年齢になったとはいえ、まだまだ子供。

 ……あの子は優しいから、昔から察する能力は待ち合わせていたけれど……だからといって、何十年も一緒にいる私と同じレベルの察する能力や、経験によって培われる思慮深さを求めるのは……あまりにも酷だわ」

 

 カイの正論に、アーティは何も言えなくなる。

 

「貴方は昔から言葉足らずなのよ……どうせ、『自由に生きてほしい』しか言わずに、その裏の気持ちとか伝えてないんでしょう?」

「うっ…………」

 

 図星を突かれ、アーティは冷や汗をかく。

 

「もう……私は知らないからね───シオンのお迎えはちゃんと、()()()、駅まで行ってあげてね。私は絶対に行かないから」

 

 ぷりぷりと怒って、カイは背中を向けて寝てしまった。

 

 

 

 アーティはカイの言葉に寝付けず、そのまま夜更けを過ぎてもジッと考え込んでいた。

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