「今日も絶っっっ好調だな!!」
「あぁ、バカな初心者ばっかりで助かるぜ」
相手のリスポーン地点から地続きの入口で、2人のボーイが待ち構えていた。
ナワバリバトルのステージはモズク農園。
真四角なマップで、農園だからか上には柵の通路が張り巡らされている。
そこで黒ZAPを持った1人は少し離れた壁後ろに、スプラシューターを持ったもう1人は柵の上に座り込んでいた。
「しかも今回はよく突っ込んでくる大バカがいるから特に気持ちいいぜ。オレ達に敵わない癖して、ちゃっちいワカバ必死に撃って、そして悔しそうに無駄なデス繰り返してさぁ」
「ってか、その黒手袋くんしか来てなくね? 他はもう諦めてんだろうなぁ。それなのにノコノコやってきちゃって」
「他にも入口あるのに、バカ正直にこっちからしか来ないもんなぁ。オレたちは動かなくていいからラクだけど」
「これだから初心者をキルするのはやめられないんだよなぁ!」
スプラシューターのボーイが大笑いする。釣られて黒ZAPのボーイも笑う。その笑い方は、お世辞にも上品とは言えない。
その時、
「おい!」
突然、大声がその場に響いた。笑っていた2人はその声の方へ顔を向ける。
そこには黒手袋くん──シオンが立っていた。
「あァ? なんだ、黒手袋くんじゃん。何? なんか用?」
「もしかして『ごめんなさ〜い! もうかんべんしてくださ〜い!』って言いに来た?」
2人のボーイはくすくすと彼を嘲笑う。
しかし、シオンはそれに臆せず、2人に向かって言い放った。
「お前ら、2人で1人をボコボコにするって、結局その程度なんだな。数で勝ってないと、たった1人の初心者にも強気に出れないんだろ? 本当、小心者だよね」
「「……はぁ!?」」
思わぬ発言に、2人は揃って声を荒げる。シオンは構わず続けた。
「だってそうだろ? 前見た時からずっと2人だし。仲間がいないと初心者狩りなんて、怖くて出来ないって証拠じゃん」
「なっ……」
「お、おまえぇ! 黙って聞いてりゃあ、何ゴタゴタぬかしてんだ!!」
「そうだ! 調子乗ってンじゃねぇぞ!」
図星だったのか、馬鹿にされたのが恥ずかしかったのか、大人気なく2人が大声で吠える。
「悔しいならオレを追いかけてキルしてみろよ。今までみたいに、さ!!」
最後の言葉を言い終わると同時に、シオンは中央へ駆け出した。
「くそっ、バカにしやがって!」
「そこまで言うならお望み通りキルしてやんよ!!」
シオンを追い、2人も中央へ走り出した。
1対2の追いかけっこが始まった。
シオンは弾を撃ち、インクの道を作っては潜って走り、作っては潜って走りを繰り返す。
それを見てシオンが走る方向へ、黒ZAPのボーイはキューバンボムを投げた。ボムはシオンの頭上を通り過ぎ、ちょうど彼が潜ろうとしたインクの道を遮った。
遮られたシオンは壁を塗って中央の高台へ登る。
「やりぃ!」
そこへ柵を伝って中央の高台へ来たスプラシューターのボーイが、シオンに向かって弾を撃った。
「くっ…………!」
少し当たってしまったシオンは苦痛に顔を歪めながら、高台からジャンプで飛び降りる。
「はーい残念! オレたちの勝ち!」
そこを下から詰めていた黒ZAPのボーイが影から体を出し、銃口をシオンが着地した箇所に向ける。
しかし、
────キィぃぃぃン、
「……へ?」
「っ! おいバカ後ろ下がれ!!」
いち早く音に気づいたスプラシューターのボーイが大声で叫ぶ。
その途端、黒ZAPの足元でスプラッシュボムがはじけた。
(まさか、オレが下から詰めることを予測してボムを転がして……?)
黒ZAPのボーイはインクを大量に被って一つの可能性を叩き出した。
「あのヤロウ! 舐めやがって!」
「オレが追いかけるから、オマエは回復しながら付いてこい!!」
大ダメージを受けた黒ZAPのボーイに命令を出し、スプラシューターの彼はシオンが辿った道を追いかける。
(だがその先は───!!)
スプラシューターのボーイはニヤリとしながら立ち止まる。
目の前には同じように立ち止まって、コチラをキッと睨むシオンの姿。その肩は大きく上下に動いている。
「おおっとー? これは運が尽きたのかなぁ? 勇者くーん?」
シオンの背中と左側には壁。右斜めにある、登ることが出来る壁も、塗っている間は無防備になる。下手に動くことはできない。右側に道はあるが、その先は相手のリスポーン地点。
「や──っと追いついた! もう逃げられねぇぞ!!」
そして、その唯一の逃げ道には黒ZAPのボーイが陣取った。
完全袋小路。絶体絶命。
スプラシューターのボーイはフンッと嘲笑って話しかけた。
「あんなにイキがってたのに、やっぱり口だけだったねぇ? めちゃくちゃ息上がってんじゃん。だっっさ!」
「もう許さねぇ! ボムなんて小細工使ってオレたちをコケにしやがって! タダじゃすまねぇからなあァ!?」
「しかも逃げた先が行き止まりなんて……もしかしてマップの構造、頭のナカに入ってなかったのかなぁ? 無知って罪だよねぇ?」
ピキピキと音が聞こえてきそうな勢いで、額に血管が浮き出ている黒ZAPのボーイ。
勝ち誇った顔でコチラを見るスプラシューターのボーイ。
そんな2人を見て、シオンはふぅーと息を深く吐いた。
「ぁあ? こんな時にため息かよ? オマエこの状況わかってんの?」
「……ん? あぁ、分かってるよ」
「ほーう? ようやく諦めたか。そうだよ、オマエはここで──」
「───ここまで来たら、オレ達の勝ちだ」
「…………はぁ!?」
スプラシューターのボーイの声を遮り、シオンは勝利宣言をした。
「なっ、何言ってんだオマエぇ! どう考えても詰みだろ詰みィ!! 道はオレたちが、残りは壁だ! どうやってオマエがここから勝つってんだよ!!」
「気でも狂ったか? それとも、ここからオレたちをキルでもするつもりか? 今までできなかった癖に?」
2人は呆れてシオンにそれぞれ言葉を投げる。
「あぁ、もちろん」
シオンはニヤッとだけ笑った。
「お前らをキルして勝つんだよ!!」
シオンの大声が響き渡ると同時に、スプラシューターのボーイの上が暗くなった。
「────ぁ?」
見上げて声をあげる間も無く、上から落ちてきた質量に押し潰されて虚しくインクの染みになる。
彼を押し潰した本人は短いゲソを揺らし、ニヤッと黒ZAPのボーイの方を見る。
「う、うわああああああぁ!!?」
相方が一瞬で居なくなったことに動揺し、黒ZAPのボーイは自分のインクの方へ逃げようとする。
すかさずその先へ、シオンはスプラッシュボムを投げつける。
「わっ、わわわ!?」
突然現れたボムに尻餅をつく黒ZAPのボーイ。ボムから逃げようと反対方向へ顔を向ける。
そこには半透明で四角な銃口。
「じゃあな」
最後の一言がはっきり聞こえた後、彼の意識はそれっきり途切れた。
・
・
・
黒ZAPのボーイをキルした後、シオンは緊張が抜けてその場に倒れ込んだ。
こんなに死に物狂いで走ったのは久しぶりだ。だって最近の戦法は潜伏しての奇襲が多かったのだから。
「お──い、だいしょーぶー?」
「なんとか、ね……」
倒れ込んだシオンの顔を、スプラシューターのボーイを奇襲したルリが覗き込む。
ルリの立てた作戦はこうだ。
シオンが今の場所まで2人を誘き出し、ルリがローラーの奇襲で1人を倒す。そしてもう1人を2人がかりでキルするというもの。
まぁもう1人がたいっへん臆病だったおかげで、2人じゃなくてもキル出来たわけだが。
「とりあえず、作戦は大っ成功だねっ! ナイスファイト!」
「───そうだね。ナイスファイト」
ニシシッと笑ってルリが手を差し出してくれる。
シオンはフッと口元を緩め、その手を取って起き上がる。
その瞬間、バトル終了のホイッスルが高らかに鳴り響いた。
◇ ◆ ◇
バトルの結果は約15%ほどの差を付けてこちらが勝利した。
オレが走り回っていたころ、残りの2人がせっせと走り終わった箇所を塗ってくれていたし、また初心者狩りをしていた2人は味方にも暴言を吐いていたようで、その2人以外のやる気はだだ下がり。ほとんどバトルに関与していなかったそうだ。
ちなみにバトルが終わった後、初心者狩りをしていた2人の姿は無くなっていた。どこに行ったかは知らないが、もう会うことはないだろう。ザマァみろ。
そしてこのバトルの後、オレはルリとフレンド登録をした。
ほぼ勢いに押された感じだけど……まぁさっきは彼女の作戦で助かったのは事実だし、悪い子ではなさそうだし、フレンドになっても問題ないかなと判断した。初めてのフレンドにちょっと心が躍ったのは気のせいだ、たぶん。
「ねーねー! せっかくRank10になったんだし、一緒にガチマッチに行こーよー!!」
「いや、フレンドとガチマッチするのはリーグマッチって方だし……そもそもウデマエがB-にならないと行けないし」
【ナワバリバトル】がカジュアルにするバトルだとしたら、【ガチマッチ】はその名の通りバトルにガチのイカ達がするバトルだ。Rank10になれば参加することができる。
ルールはガチエリア、ガチヤグラ、ガチホコ、ガチアサリの4種類があり、それぞれC-〜S+のウデマエが設定されている。さらにその上のXというウデマエもあり、ウデマエXのバトルは配信や大会も開かれるレベルで、もうプロの領域だ。実はオレの憧れの選手も、ウデマエXの持ち主である。
そしてそのガチマッチをフレンドとするためのルールが【リーグマッチ】。リーグマッチはガチマッチの4種類のルールのうち、どれか1つでもウデマエがB-になれば参加出来る。
そして先程のバトルでオレとルリはRank10になったので、ガチマッチに参加する権利がある。しかし、一度もガチマッチをしていないオレ達のウデマエは、当然最低ランクのC-。リーグマッチには参加できないのだ。
「えー!? そんなのつまんなぁい!! シオンくんと一緒にガチマしたいのにぃ〜〜!!」
「そんな我が儘言っても仕方ないでしょ……というか君、いつもそういうこと言ってない?」
「あ! そうだ!!」
急にポンっとルリが手を叩いた。
嫌な予感がする。
「じゃあさ、勝負しようよ!
どのルールでもいいからさ、『先にB-になった方が勝ち! 負けたら何かおごる!』ってのはどう!?」
「…………はぁ?」
唐突に何言い出すんだこの子。
いや、この子はそういう子だった。
「なんでそういうことになるのさ!? ウデマエ競いたいのは少しわかるけど、そういう事じゃないでしょ!?」
「だって勝負にした方がモチベ上がるし! 早く一緒に出来るじゃん!!」
「だから早くしたいのはわかる。けど急ぐ必要は──」
「じゃ、そういうことだから! 負っけないよー!! またあとでねー!!」
「だからっ! ヒトの話をっ! 聞けぇぇぇぇぇぇ!!!!」
一方的に約束を取り付け、一方的に去っていく。何回このやり取りをしたのだろう。
オレはらしくない大声をあげ、その声は虚しく空中へ散っていった。