俺のヌメルゴンがなんか病んでる 作:鋼タイプが好こヴィラン
ハバタクカミと戯れた次の日、俺はシンオウ地方にある育て屋に来ていた。
ゲームにおいて育て屋というのは重要な役割を持つ。対戦において強い個体を作り出す為にメタモンを使ってタマゴを産ませる場所。高個体値を持つポケモンが産まれるまで延々とタマゴを産ませる行為、これを厳選という。
まあ、それが許されていたのはゲームの中の話であって、実際この世界でそんな凶行に及ぶ奴なんていないんだけどね。幸か不幸か、未だに俺は俺以外の転生者に会ったことはない。そのため、そんな厳選行為を見たことがない。
第一、ゲームと違ってポケモンがタマゴを産むまで普通に時間がかかるし、タマゴもそんなすぐに孵る訳もないのでコスパが悪すぎるとしか言いようがないのだが。
そもそもこの世界ではポケモンのタマゴに対する研究があまり進んでいないため、ポケモンにタマゴを産ませて強い個体を作り出すという発想を持つトレーナーがいない。故に厳選行為などこの世界では決して生まれないのだ。
じゃあこの世界における育て屋ってなんなの? という方に説明すると、文字通りポケモンを預かり育てる店だ。
ゲームにおいてトレーナーはパソコンのボックスにポケモンを預けている。しかし、この世界においてトレーナーがポケモンをボックスに預けた際、あらかじめ設定した場所に転送されることになる。例えば、自宅や博士の研究所のような場所に送られることになる。
では、家を持たないトレーナーや自宅にこれ以上ポケモンを置けないトレーナー、そして博士と特に繋がりのないトレーナーのポケモンはどこに送られるのか?
その答えは育て屋だ。トレーナーがボックスを使用してポケモンを預けた場合、あらかじめ設定しておいた育て屋に転送される。実際、エリートトレーナーやベテラントレーナーのようなポケモンの大会にて上位に入る実力者たちはメインで使うポケモンたちの他に2軍、3軍メンバーを持っているトレーナーが多い。
アニメでのサトシくんのリザードンがドクターストップを受けていたり、ハズキさんのバシャーモがリザードンとの戦いの疲れで全力を出せずに敗北するなどといった描写を思い浮かべてくれればわかりやすいだろう。ああいった事態を防ぐために控えのポケモンを用意しておくのは、大きな大会に出るようなトレーナーにとっては常識なのだ。
なので有料であろうが育て屋が利用されることは多い。
俺もこのシステムを利用してポケモンを育て屋に2匹預けている。ちなみに最後の1匹は国際警察本部の元にいる。あのポケモンは本当の意味で訳アリだからそう簡単に外に出せないのだ。種族の厄介な特性に見合わず良い子なんだけどね。
……今の俺は3体しかポケモンを保有していない。トレーナーが持てる最大のポケモン数は6体であるため、預ける意味がそんなにない。なら何故2匹預けているのかというと、それは預けている1匹に原因がある。
まず、そのポケモンは人から貰ったポケモンだ。だからと言って嫌われているという訳ではない。むしろメガシンカまで手に入れている以上好かれていると言っても過言ではないだろう。
問題はそのポケモンを渡したトレーナーにある。おそらく、そのトレーナーは俺がそのポケモンを持っていればエスパーの力で場所を特定してすぐさま俺の元にやってくるだろう。今もハバタクカミの力でジャミングしてもらっているところだ。仮に、向こうから来なくてもそのポケモンを使って俺を連れていくぐらいは確実にする。
でも今の俺は覚悟を決めた。もし、そのポケモンの元の持ち主がやってきてもちゃんと話し合うことにする。逃げ回るのはもう終わりだ。
「ミィ?」
「ああ、大丈夫だよ。既に覚悟は決めてある」
ハバタクカミが心配そうにこちらを見つめてくる。ポケモンに心配をかけてしまうなんて俺もまだまだだな。……にしても昨日からヌメルゴンとマスカーニャがやけに大人しいな。大丈夫だろうか……。
まあ、ヌメルゴンとマスカーニャに関してはこの戦いが終わった後に様子を見ておこう。
さて、そんなこんなで育て屋に到着。老夫婦に金を払い、預けていたポケモンを返却して貰う。
「ごめん、待たせたな。キュウコン。そして……サーナイト」
「コン!!」
「サア……」
ボールから出てきたのはほのおタイプのキュウコン、そしてカトレアちゃんから貰ったサーナイトだ。
「キュウウウン!」
ボールから出てきたキュウコンはすぐさま俺に飛びつき押し倒し、ペロペロ顔を舐め始める。久しぶりに触ったけど本当にもふもふだなこの子は。触ってるだけで癒される。これが人をダメにする尻尾か……。
聞いた話によるとこの子の尻尾を許可なく触った者は1000年祟られるらしい。怖〜っと思う反面、触っても怒ったりしない程度には信頼が築けていると確信できてなんだかむず痒い。
「キュウ……?」
突然キュウコンの動きが止まる。俺の体に鼻を擦り付けて何やら匂いを嗅いでいたようだが、次第にその表情が険しくなっていく。
「コォォン!!」
何かを責めるように吠えられているのだがさっぱり心当たりがない。もしかして迎えに来るのが遅すぎたのだろうか?
「ごめん、俺がもっと早く迎えに来るべきだったな。遅くなって悪かった」
「フシュウウウウ……」
どうやらその件に関して怒っているのではないらしい。むしろ見当違いなことを言ったせいで怒りが増して目つきが非常に険しくなっている。
ヤバいなこれは……。怒りのボルテージがマックスまで一歩手前といったところか。
しかし、迎えに来るのが遅れたことを除けばキュウコンが何を怒っているのか本当に分からない。
仕方ない、ここはサーナイトに頼もう。
「サーナイト、お願い」
「サア……」
今までずっと沈黙していたサーナイトが呼び掛けに応えて一歩前に出る。片方の手を俺の額に、もう片方の手をキュウコンの頭に置く。こうすることでキュウコンの考えていることをテレパシーとして直接俺の脳内に送り込むことが出来るのだ。
……しかしこれは便利である反面、直接エスパー技を俺の脳に当てているためサーナイトの負担も大きくなる。超能力者ならまだしも、ただの一般人の脳は脆弱であるためエスパー技を流し続けるのは危険なのだ。そのため、エスパーポケモンを使ってポケモンと会話する方法はポケモンの精密な技コントロールが求められる。それが出来るポケモンはほぼいないだろう。
故に、その精密コントロールを短時間とはいえやり遂げられるサーナイトは実にすごいポケモンなのである。
さて、それではキュウコンは一体何を考えていて何に怒っているのか……。
『臭い……。酷い臭い……』
嘘でしょ……。俺の体臭そんなに酷すぎるの……?
ナナカマド博士とか臭ってたなら教えてくれよ。あ、本来なら気にならない程度の匂いでもキュウコンは鼻の良いポケモンだからより一層感じとれちゃったのかも。
サーナイトには礼を伝えてテレパシーを解除して貰う。流石にこれ以上テレパシーを続けるとサーナイトの方が持たない。
にしても匂いかぁ……。そりゃ嫌がるよな。
「ごめんな、キュウコン。そんなに臭かったのか。嫌な思いさせちゃったな。すぐにシャワー浴びて匂いを落としてくるよ」
「コン!!」
キュウコンもやっと分かってくれたか……という表情を浮かべている気がする。まあ実際どう思っていても怒りは治って落ち着いたようだ。
とりあえず近場で一旦シャワーでも浴びて来ようかな。
そんなことを考えていた俺の前にスッとサーナイトが現れる。いや、大丈夫だ。言いたいことは分かっている。
「シャワー浴びてから必ず会う。だからもうちょっとだけ待っててくれないか?」
「サナ」
その言葉に嘘はないことを見抜くと、サーナイトは静かにボールの中へと戻って行った。
さて、サーナイトがボールに戻りトレーナーがシャワーを浴びに行った時、残されていたのはハバタクカミとキュウコンだ。
ハバタクカミとキュウコンは互いに睨み合って視線を外さない。外したらその瞬間に相手が襲ってくることを理解しているからだ。
そして先程のキュウコンの思考、実をいうと続きがあるのだ。
『臭い……。酷い臭い……。……あのムウマ擬きの嫌な臭いがべったりついている。それによく嗅いでみれば新入りやマスカーニャの臭いもする……。私をここに置き去りにしている間にその3匹とずっと過ごしていたの……?』
『そんなの酷い。私をここに置いて行ったのはサーナイトを止める為じゃなくて厄介払いをするため? 私のことを捨ててその3匹に乗り換えるつもりなの?』
『……許せない』
だが、トレーナーはその臭いを落としてくると言った。つまり、3匹の臭いは無理矢理付けられたものであって望んで付けた訳ではないこと、洗い終わって元のトレーナーに戻った際にその3匹ではなくキュウコンの臭いをつけて良いということを意味しているのだ。
よく考えれば、トレーナーがキュウコンを捨てるはずがないとキュウコンはこの時考え直したのだ。
だからこそ一度トレーナーを許して手打ちにした。
しかし、臭いの元であるハバタクカミやマスカーニャ、ヌメルゴンを許すとは言っていない。
キュウコンは一度受けた恩は決して忘れない。必ず恩は返す。
キュウコンは自身へ攻撃を加えられた場合も決して忘れない。必ず呪い殺す。
キュウコンはトレーナーを自身のモノであると認識している。故に、この行為はキュウコンに対する宣戦布告と受け取った。
自身の留守中を狙ってそのトレーナーに嗅ぐに耐えない悪臭をなすりつけた3匹を許すつもりはない。
ハバタクカミとキュウコンの睨み合いはトレーナーが帰ってくるまで続いた。