薩摩ホグワーツってなんだよ。
すいません熱出して倒れてました。なんとか生きてます。
プルプルと震えた竿が、魚がかかったことを知らせてくる。それと同時に竿を握っていたエリモスは軽くアワせると、すぐに一匹の魚を釣り上げた。
「いいサイズだ。」
彼は釣り上げられた魚を見て満足げに頷くと、すぐに氷の入ったクーラーボックスに放り込んだ。そのまま彼は再び針に砂虫(ドクターの私室から奪い取って来たもの)をつけて、ポイントへと送り込む。この釣果によって晩酌のお供が変わるのだから、かなり真剣である。
その調子で彼が釣りを続けていると、後ろから誰かが桟橋を歩いてきた。釣り人だろうか、そう思ってそちらを窺うと、そこにいたのは予想外の人物であった。
「どうだ?エリモス。釣れているか?」
「…マドロック?なんでここに?」
彼の元へと来たのは、友人にして同僚、マドロック。その身に水着を纏った彼女は炎天の中わざわざビーチから少し離れたこの桟橋まで訪れていた。
ここはリゾート、ドッソレス。ロドスのオペレーターたちは今、最高に休暇を楽しんでいた。
「エリモスは釣りをするんだな。ヴィクトリアでもしていたのか?」
ぷかぷかとウキが波に揺られているのをエリモスの隣で眺めながら、マドロックが聞いた。
「こう言う時にちょろっとするぐらいだな。…あと釣りはロドスに来たばっかりの頃Aceに教えてもらったんだよ。ヴィクトリアにいた頃はそんな余裕なかったし。」
教えてもらったついでに道具も貰ったんだ。そう言ってエリモスはそばに置いてあった釣具一式を指差した。道具は種類も数も少なく、少し古びているがその手入れのされ具合から大切にされているのがよく分かった。
「Ace…私がロドスにくる前にいなくなった人だな。確かエリートオペレーターの。」
「そうそうその人。…いい人だったよ。訓練厳しかったけど。」
ちゃぷん、とウキが沈むのに合わせて彼は竿をあげた。竿先から垂れ下がる糸の先には、今まででいちばんの大物がかかっている。
「なかなか大きいな。」
小さく手を叩きながらマドロックはそう言った。生きている魚が珍しいのか、ビチビチと跳ね回るそれに視線が釘付けになっている。
「だな。このサイズなら刺身でいける。」
針から手際よく魚を外すと、再びクーラーボックスへと放り込んだ。一々締めるのが大変な時はこの手に限るのだ。
「刺身。…生で食べるのか。」
「引くなよ。馴染みはないかもしれないけど美味いんだぞあれで。」
「いや、カルパッチョならともかく、流石に生魚をワサビ?とか言うハーブで食べるのはちょっと…。」
「ハーブ…ハーブか?あれ。」
やはり生食に馴染みがない文化圏出身のマドロックは刺身に難色を示している。かく言うエリモスも幼い頃はヴィクトリアの食文化に馴染めなかったので人のことは言えないのだが。
「まあフライとかスープも作ってもらうから食べるならそっちにしとけよ。…マドロックも釣ってみる?」
砂虫を針にかけながら、ふと思いついたエリモスが聞いた。
「いいのか?」
「別にいいぞ。もう充分釣ってるし、見てるだけなのも暇だろ。」
「…なら、やらせてもらおう。」
そしてエリモスはマドロックの方を向いて竿を手渡そうとして─目を逸らした。
「どうした、エリモス。何があった。」
「………いや、今更なんだけどさあ、マドロック。」
急にそっぽを向かれてマドロックが戸惑うなか、エリモスは明後日の方向を見たまま聞いた。
「……なんで水着?」
「本当に今更だな?」
彼の発言にウキを放り投げたマドロックはため息と共に肩をすくめたが、エリモスが視線を逸らしたのも無理はないといえよう。それほどに水着姿の彼女は眩しかった。
そもそもが10人いれば10人振り返るような美女であるマドロック。そんな彼女が纏っているのは、シンプルな黒いビキニに腰から下を覆うパレオ。決して派手でないその服装こそが素材の良さを引き立たせ、出るところは出て引っ込むところは引っ込んだスタイルは露出の多い服装によってより強調される結果となっている。
そんな彼女の艶やかな肢体のあまりの眩しさに、エリモスがつい目を逸らしてしまったのも仕方ないだろう。
「まあ大した理由ではないんだが…せっかくのリゾートなんだからとリサや小隊のみんなに着せられたんだ。そのままお前を探してビーチからここまで歩いてきただけでな。」
「…だとしても上着くらい羽織れよお前…。流石に目のやり場に困るだろ…。」
そう言うエリモスの顔が赤いのは、決して日光の下に長時間居たからではないだろう。そんな彼の珍しい様子に、マドロックは少しだけ笑った。
「…なんで笑うんだよ。」
「ふふっ、すまない。意外とお前にも初心なところがあるんだと思ってな。普段はあんな感じなのに。」
「あんな感じとか言うなよ…。なんて言うか、こう…ここまで近くに水着の美人が居たことはないからな。流石に反応に困ってるんだよ。」
耳まで赤らめ、目を逸らしながらエリモスはそう言った。
「…そうか。」
「…まあ、はい。そうです。そんな感じです。はい。」
2人の間に奇妙な沈黙が訪れた。色白のマドロックの耳が赤くなっているのも、決して気のせいではなかっただろう。
それから魚が釣れるまで、2人はどこかぎこちない時間を過ごすこととなった。
「…それにしても。」
「ん?」
しばらくの後、エリモスは再び自分の元へと帰ってきた竿を操りながら、マドロックと話していた。時刻はそろそろ夕暮れ。夕陽が沈み始める頃合いである。
「エリモスがビーチじゃなくてここにいるとは思わなかったな。てっきり賑やかな方にいるかと思ってたんだが。」
「あー、それもそうか。まあ確かに普段ならそっち行ってたと思うぞ。」
タイプの娘探しにな。そう言ってエリモスは少し笑った。
「…普段なら?今回は違うのか?」
聞き返してきたマドロックに、エリモスは嘆息と共に答えた。
「んー、まあ、どうせすぐ分かるし、誰にも言うなとは言われてないからいいか。」
「…何があったんだ?」
わずかの間の後に、エリモスが竿を引き上げるが針には何もかかっていない。彼は竿にエサをつけながら、目線を合わせずに言った。
「ヴィクトリアに行く。1人でな。」
その言葉の後で、2人には沈黙が流れた。
そして、それを破ったのはマドロックだった。
「…エリモス、それは、ヴィクトリアが今どういう状態かわかってて言っているのか?」
「ん。まあな。」
エリモスは再び仕掛けを海に投げ入れ、ウキを見ていた。
「…チェンさんからドクター経由で連絡があってさ。あの人の昔の友達?がロンディニウムで人探してるんだってさ。そんでその人を探しに行くのと、あとはまあ、ロンディニウムの今を見てくるって感じ。」
「…それは、エリモスじゃないとダメなのか?」
「多分ね。」
まだウキを見続けるが、それは波に揺られるだけだった。
「ロンディニウムの壁を1人で越えられて、土地勘があって、それなりに戦える人材。そんなの俺しかいないでしょ。」
「………。」
「んな顔すんなって。こっちはロドスがロンディニウムに向かうって聞いた時点でそれなりに覚悟決めてんだからさ。」
再びウキが揺れるが、また針には何もかかっていなかった。とうとうエサが尽きたエリモスは釣りを切り上げることに決めて、竿をしまい始める。
「…んでまあ、ロンディニウムに行くってなったら急にAceのこと思い出してさ。久しぶりに釣り道具引っ張り出してきたってわけだ。」
「…エリモス。」
「ん?」
深刻な話題だと言うのにいつも通りにヘラヘラと笑っている友人に、美しき悪魔が口を開いた。そしてようやく彼女の方を向いたエリモスと、マドロックの目が随分と久しぶりに向き合った。
「帰って来てくれ。絶対に。」
「当たり前だろ。俺はまだ去年漬けた梅酒飲んでないし、それ飲むまでは絶対に死なないって決めてるんだよ。」
まあすぐに行くわけじゃないけどな。そう言って片付けを終えた彼は立ち上がった。そんな彼に続いてマドロックも立ち上がる。
「ほんじゃあ帰るか。今から捌いてもキッチンの使用時間には間に合うだろ。」
「…お前はキッチン出禁じゃなかったか?」
「俺は捌くだけで作るのはジェイだから
「そうだな、もらおうか。」
夕陽が街全体を照らす中、並んで歩きはじめた2人の影がどこまでも長く続いていた。
こんなことを書いておきながらヴィクトリア編はさらっと流す可能性が高い。あまりにも重いんですよねえ…。
マドロック
マドロックとラ・プルマの水着は絶対交換しておいた方がいい(ガチ)
釣った魚を即座に氷の入ったクーラーボックスに入れる
マジでおすすめ。1匹ずつ締めるのよりかは鮮度が落ちるが、手間が大いに省ける。
そろそろ釣りシーズン開幕なのでまだ釣りしたことない方は是非今年こそ釣りにチャレンジしてみてください。春メバルは簡単に釣れるし美味しいですよ。
エリモスの戦闘力
ロドス重装オペレーターでも割と上の方。ニアールとかサリア相手はさすがに厳しいがそれでもコンディション次第では勝ち目が多少なりある、くらい。
ただし胃袋を掴まれているのでマッターホルンには勝てない。
Ace
フィディア(ユーネクテスと同じ種族)なんかお前