俺の同僚の顔が良すぎる   作:チキンうまうま

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ヴィクトリア編以降のネタバレを含む可能性があります。お気をつけください。









ヴィクトリア編 砂獣疾走
砂獣疾走 1


 

「エリモス、今時間あるか?少しでいい。」

「おやシージさん。えっと、今なら…5分くらいは大丈夫です。どうしました?」

「…お前がヴィクトリアに行く前に、言っておかねばならないことがある。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリモスはん、()えへんなあ。」

 

 ロドス内の搬入口にて、ペンギン急便所属の牛人族(フォルテ)、クロワッサンは仲間であるエクシア、テキサスの隣でそうぼやいた。彼女たちペンギン急便は、そのトランスポーターとしての腕を見込まれて、今回エリモスをヴィクトリア近郊まで送り届ける役目を担っているのだ。

 

「ほんとだねー。何かあったのかな?」

「さっきシージと何か話していたのを見た。終わり次第すぐ来るだろう。」

 

 クロワッサンのぼやきにエクシアが同調し、チョコ菓子を咥えたテキサスが補足する。これから危険な任務に赴くというのに、彼女たちは極めて平然としていた。そんなペンギン急便所有の車の前で駄弁っている3人の元に、1人のアスランが近寄ってくる。

 

「へー?じゃあもう直ぐ来るかな…ってもう来た。」

「いやあ、すまんな待たせちまって。ちょっと話が長引いたもんでよ。」

 

 ようやくやって来たのは彼女らの同行者にして輸送対象、エリモス。彼は普段着ているロドスの制服ではなく、少し草臥れた、ヴィクトリアでよく見られる服を着ていた。おそらくは現地で怪しまれないようにするための処置なのだろう。

 

「一応は時間前やし、別に大丈夫やで。…でもま、揃ったことやしそろそろ行こか。」

「そうだな、早めに行くに越したことはない。」

「はい了解。そんじゃ、短い間だが旅の間よろしく頼むぜお前ら。俺の安全はお前らにかかってるんだからな。」

 

 テキサス、エクシア、クロワッサン、エリモス。今回行動を共にする4名が揃ったことで、依頼は開始された。全員が武器を持って車の方へと向かい、テキサスが運転席に座ろうとしたところでその肩を掴まれる。

 

「…なんだ?エリモス。」

「すまねえ。前言を撤回するようでなんなんだが…」

 

 彼女の肩を掴んで止めたのはエリモスだった。彼はテキサスの肩を掴んだまま、大真面目な顔で彼女の方を見ている。

 

「テキサス、運転は俺がやる。お前は助手席にでもいてくれ。」

「なんでだ?いつも運転は私がしているんだから、お前の方こそ後ろでゆっくりしていてくれ。」

「そうそう、それにエリモスはあたし達のクライアントみたいなもんなんだからさ、ゆっくりしてくれていいんだよ?」

 

 そんな運転席を巡ってバチバチと火花を散らす2人の間にエクシアが割って入った。流石は陽気なラテラーノ人である。

 

「なら、言わせてもらうけどな。」

 

 ため息と共にエリモスは言った。

 

「俺は作戦前に車酔いになるのは避けたいんだよ。」

「「ああ〜…。」」

 

 そんな彼の主張に、テキサスを除いたペンギン急便の2人は深い理解を示した。仕事仲間ではあるが、お世辞にもテキサスの運転は丁寧とは言い難い。まあ仕事柄交戦することもあるため仕方ないのだが、長旅で、しかも慣れていないのならばそれはかなり厳しいだろう。

 

「…テキサスはん、今回は譲ったり。慣れてない長旅でうっかり車酔いとかしたほうが大変やわ。」

「…仕方ないな。ただ、何かあったら私が運転するぞ。」

「おうよ。その時は頼むわ。」

 

 クロワッサンの仲裁もあって、エリモスは無事に運転席を手に入れた。乗り込んだ彼はテキサスから渡されたエンジンキーを回す。エンジン音と共に、車体が小気味良く震え始めた。

 

「…ところでなんだが、今の俺にはいい話と悪い話がある。どっちから聞きたい?」

「え、なになに?じゃあ、いい方からで!」

 

 フロントガラス越しにマドロックを見つけて、エリモスは小さく手を振った。マドロックも、エリモスの方に手を振って挨拶をしてくる。言葉こそ交わさなかったが、お互いにそれで充分だった。

 

「OK。いい話ってのはな、俺は免許をとってから無事故無違反ってことだ。」

「おお、本当にいい話じゃん。…で、悪い話ってのは?」

「…おい、エリモス。まさかだが…。」

「そのまさかさ。」

 

 正面の出入り口が開いていく。薄暗かった搬入口に、外の光が差し込んで、そちらを向いていた全員の視界が白く塗りつぶされた。

 

「俺は免許をとってから一度も運転したことがない。」

「…は?」

「え、ちょい待って?」

「…やはりか。」

 

 入り口横のオペレーターの合図に合わせて、全員の体が後ろへと沈み込んだ。車が動き出したのだ。

 

「シートベルトは締めたな?神様へのお祈りは?座席の隅でガタガタ震えて無事を願う心の準備はOK?」

 

 後ろでエクシアとクロワッサンが顔を青くしているのに気がつきながら、エリモスはアクセルを踏み込んだ。オフロード仕様の車が軽快にコンクリートを踏み締めて進んでいく。

 

「そんじゃ、行くぜお前ら!」

「仕方ない、か。」

「「嫌ーーーーーー!?」」

 

 乗っている者たち皆が絶望し、運転手だけが楽しそうに笑うなかで今彼らはテラの大地へと降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

「…納得できん。」

「何がだ?クロワッサン。」

 

 数日後。無事にヴィクトリア近郊へと辿り着いた彼らは簡単に食事の準備を行っていた。食事の準備とはいえ、缶のスープを温めて乾パンを袋から出すだけなのだが。

 

「あのフリからやったら、普通はすごい運転が下手なはずやん?」

「まあ、普通はそうだろうな。」

「…なんであんな運転上手いん?」

 

 彼らは無事にここに辿り着いたのである。途中で襲われはしたものの見事にパンクの一つもせずに、だ。普段なら何かしらのトラブルがあるのだが、今回はそれもなしにたどり着いている。

 

「なんでって…まあロドスでもフォークリフトは乗り回してたからな。ある程度のコツは掴んでるさ。」

 

 その原因としては主に運転手のエリモスだろう。彼は華麗なハンドルテクニックで出来る限りの障害物を避け、さらに荒地はアーツによって整地することで進みやすくして進んできたのだ。

 

「いやー、それにしては上手かったで?どや?テキサスはんの代わりに運転手せえへん?」

「コーテーは人使い荒そうだし遠慮しとく。……あ、沸いた。飯にするぞ。」

「え、もう沸いたん?エクシアー!テキサスはーん!ご飯やでー!」

 

 沸いたスープの匂いとクロワッサンの呼び声に釣られて、2人が寄ってくる。彼女らの背後には遠く離れたここからでも見えるほどに巨大な城壁が微かに見えた。

 

 そうして4人のヴィクトリア入り前、最後の食事が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっと。これで全部かな。」

 

 その日の晩21時。ついにエリモスがロンディニウムの城壁を越える時が来た。彼はヴィクトリアに紛れる服装をしたうえで、左手に盾を、腰には剣を吊っている。さらに肩からは色々な荷物の入った鞄を下げていた。

 

「…本当に行っちゃうんだね。」

「そういうお仕事だからな。…よし、全部持った。そんじゃあ行ってくるぜ。」

 

 ペンギン急便3人娘に見守られるなか、エリモスは全ての準備を終えて立ち上がった。それと同時に、彼の足元に砂が集まり始める。

 

「ああ、無事を祈る。」

「ほんまやで!またみんなで飲み会しよな。」

「そうだな。そうしよう。」

 

 集まった砂はエリモスの足元でサーフボードのような板状になり、大きさも彼が乗れるほどになる。それを確認して、彼は砂のボードの上に乗った。そうして彼はペンギン急便たちの方へと手を振って愛用のゴーグルをつけた。

 

「またな、お前ら。」

 

 その言葉を最後に、エリモスを乗せた砂のボードはどんどんと高度を上げていく。それはあっという間に地上に残された者たちから見えないほどにまで登っていった。彼はロンディニウムの城壁を、監視の届かない高度から侵入することで突破しようとしているのだ。

 

 エリモスの姿が見えなくなっても、彼女たちはエリモスの登って行った方をじっと見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィクトリアは工業都市だ。

 

 街のあちこちで煙が上がり、工場の灯りが夜でもあちこちで光っている。今は見えないが、きっと工場の中では工員たちが労働に勤しんでいるのだろう。

 そんなかつてよく見ていた光景は、エリモスにとって随分と懐かしいもののように思えた。

 

「…戻って来たんだな。この街に。」

 

 今彼がいるのはロンディニウム上空300メートル。宵闇と工場の排煙に紛れて、1人のアスランは確かにヴィクトリアへと帰還した。

 





ペンギン急便
 みんな大好き龍門のトランスポーターたち
 テキサス異格マダー?

エリモス
 「まあ確かに龍門で免許取ってからは運転してないがな。」
 「それまでに運転したことがないとは言ってないぞ?」
 「…左ハンドルだったらこうは上手くいかんけどな。」

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