この話はヴィクトリア編のネタバレを含む可能性があります。
そういえばみなさん、『東京アニメセンター』で行われるアークナイツ展のポスター見ました?アーミヤとチェン、スルトに並んで我らがマドロックがポスター入りしましたよ。やったぜ。まだ見てない方はアークナイツ公式Twitterからでも見れるので、是非見てみてください。
朝がきた。この日は曇った日の多いロンディニウムにしては珍しく晴天。地面もぬかるんでいない、歩きやすい状況である。
(まずは『ハイディ・トムソン』氏を探して、ロドスに無事に到着したことの報告か。確か彼女の住所は…)
活気の無い街を歩きながらエリモスは出発前に叩き込まれた情報を思い出す。当然だが万一に備えて情報を紙に書いておくわけにはいかないのだ。
(…それにしても、俺が大手を振ってロンディニウムのメインストリートを歩く日が来るとはな。いや、密入国だから別に大手は振れてないのか?)
目指すのはケルシー専属のトランスポーター、ハイディの自宅。幸いにも、周りの目を気にしながら歩いたところで、みんながそうしているのだから目立つことはない。そこらじゅうを歩いているサルカズ傭兵たちの注意を引かないようにだけ注意しながら、エリモスはハイディのもとへとその足を進めた。
こいつは驚いた。
エリモスはハイディという女性を見てそんな感想を抱いた。彼は事前にケルシーから彼女についての情報を簡易的に得ており、その際に『高貴な雰囲気を纏ったフェリーンの女性』と知らされている。
ところが現実はどうだ。
「ケルシー先生から貴方のことは伺っています。よくロンディニウムにまで来てくださいました。」
今エリモスは、事情が事情ということもあって手土産の一つも持っていないにも関わらずハイディに歓待されていた。
「そう畏まらないでください、ハイディさん。我々ロドスとしてもこの一件は見逃せませんし、それにこのロンディニウムは一応俺の故郷でもあります。一度離れて以来寄り付かなかった場所ではありますが、それでも見捨てるにはあまりにも思い入れがあるのです。」
「なるほど。それで今回は貴方が1人で。」
これが本当にあの得体の知れないDr.ケルシー直属のトランスポーターか?眼前にいる女性に対して、エリモスは素直にそう思った。それほどに彼女はか弱く、そして危険がなさそうに見えたのだ。
そしてそれと同時に、彼はこうも思った。
『この服装で高貴は無理では?』
いや待つんだ。言いたいことはわかる。そもそも相手を前にして、且つこの非常事態においてお前はなに平然と煩悩に塗れているんだという誹りは当然といえよう。だがそれでも俺は声を大にして言いたい。『その服装で高貴は無理でござるよ』と。いや、この事実はあのスケスケ女医の主観によるものであることを考慮に入れるべきだったのかも知れない。
そもそもテラにおいて、高貴な雰囲気の女性、という評判はあまり当てにならない。ロドスだとそんな評判を得ているのは…確かパゼオンカとカンタービレあたりか。彼女らに関しては、パゼオンカは室内で水着…だよな?を着たドゥリコンのやべーやつ。カンタービレは腋、長手袋、太ももベルトを完備したロドス太もも四天王の一角である。…ここまで来れば聡明な諸君にはお分かりいただけるだろう。そう、つまり高貴な雰囲気の女性というのはテラ性癖欲張りセットなのだ。
考えてみると、前世において高貴な雰囲気の女性の格好は…まず前提として露出が少なかったはずだ。女性らしさを出しつつも、衣服をもってその肢体を隠す。それがエレガントの大前提なのだ。この時点でテラと前世の違いが見せるか見せないかという根っこの時点で現れてくる。さて、果たしてロドスにそんな人はいるだろうか?マドロックくらいじゃ無いか?露出がない女性って。…ああ、ジェシカがいたか。狙撃手のくせに重装顔負けのフル装備をして訓練に来た時は目を疑ったものだ。
ここまでの思考に一瞬で辿り着いたエリモスだったが、ようやく自分が任務の最中であることを思い出した。そして自分が今、あのケルシーの懐刀の目の前にいるということも同時に思い出した。彼が思考の海に沈んでいたのはほんの1秒程であったが、考えていた内容を悟られないように一つ咳払いをして、話題を戻した。
「…ええ。それにロドスで最もあのロンディニウムの地下スラムを知り尽くしているのは俺です。そして今回の目的である自救軍の本拠や、捜索対象である『リタ・スカマンドロス』中尉の潜伏場所はそこである可能性が高い。ただでさえ入り組んだあのエリアを動き回るなら、単独行動の方が都合が良かったのですよ。」
ハイディの淹れた紅茶で喉を潤しつつ、エリモスはそう言った。彼は根っからのコーヒー派で、紅茶はほぼ飲んだことがないが、この紅茶は美味しいと素直に思った。
「そのような意図でしたか。…それで、今回は貴方の到着をケルシー先生にお伝えすれば良いのですね?」
「ええ。これからは通信機器が使えませんからね。…それともう一つ、伝えていただきたいことがあります。」
「なんでしょう?」
ハイディはエリモスの目を見て尋ねた。彼女の美しく、そして恐ろしいほどにまっすぐなその目線を受け止めて、エリモスは答えた。
「『いざとなれば【釘】を使う』。Dr.ケルシーにそう伝えてください。」
「【釘】?それはなんだ?」
同時刻のロドスアイランド。偶然であるが、ドクターとケルシーの間でエリモスの持つそれについての話題が登っていた。
「エリモスの切り札、ということになっているものだ。」
恐ろしいほどに濃いインスタントコーヒーを啜りながら、ケルシーはドクターからの問いに答えた。長らく寝ていないのか、彼女の目の下には隈ができている。
「現物は私も一度見ただけだが、詳細については書面で報告を受けている。初めに見た時は正直、あいつは頭がおかしいんじゃないかと思ったが。」
「…そんなに酷いのかい?私はそれ知らないんだけど。」
「隠していたんだろうな。おそらくはロドスでそれを知っているのは直接報告を受けた私と、あとは直属の上司であるサリアくらいのものだろう。」
ケルシーはそう言って、取り出した端末を叩いた。するとすぐに、ドクターの端末が何かを受信したことを知らせてくる。
「見てみるといい。今送ったものが、エリモスの【釘】についての詳細だ。」
その言葉に従ってドクターは送られてきたデータに目を通していく。報告のタイトルから彼は眉間に皺を寄せていたが、読み進めていくに従ってその皺はどんどんと深くなっていき、最後に読み終える頃にはうちから湧き出る怒りを抑えるので精一杯だった。
「…ケルシー。」
「なんだ。何が聞きたい?」
「これは本当にあのエリモスが作ったのか?」
「そうだ。」
眉間に深い皺を刻んだままのドクターに、ケルシーは端的に返した。
「これは数年前、エリモスが家族─共に暮らしていた子供達を立て続けに亡くして不安定だった時に作ったものだ。あの時ほど、あいつがこれを作れるほどの技術と知識、そして設備を持っていたことを恨んだことはない。」
吐き捨てるかのように彼女はそう言った。
「こんなものは窮地を切り抜けるための切り札でもなんでもない。地獄をまた別の地獄に変えるだけの、ただ悪趣味にも程があるだけのものだ。あいつがこれを使わないことを私は祈っている。」
「それではハイディさん、お世話になりました。何かあったら、その時はお願いします。」
「ええ。私としても、あなたが良い知らせがあることを期待しています。」
エリモスがハイディのもとにいたのは30分もない短い時間だった。彼らにはやることが山のようにある。ならばこれ以上長居するわけにはいかないのだ。
「ありがとうございます。…このご時世です。貴女も身の回りには警戒してください。」
「それは、貴方もですよ?」
「俺は別にいいんですよ。戦うのが仕事なんですから。…それでは。」
一礼してハイディに背を向けると、エリモスは歩き出した。向かう先はヴィクトリアの地下にある工業地区にしてスラム。彼の
(そういえば、このルートはジジイの墓の前を通るな。)
活気の無い通りを歩きながらエリモスはそのことに気がついた。
墓、と言っても遺体を埋葬したわけではなく、ましてや墓石があるわけでも無い。スラムの感染者の末路がそんなに上等なわけがないのだ。
(どうせ通り道だし、一瞬だけ寄ってみよう。…何も残って無いんだろうけど。)
彼は周りの目を掻い潜って裏路地へと入り、ついに地下へと潜り始めた。ここまでくれば一応は一安心、と言ったところか。
地下道を歩くたびに足音が地下道に響き、耳を叩いた。埃とカビの臭いが鼻をつく中、それを気にせずに彼は目的地へと歩いて行く。
(…もう一回、ジジイに会いたいな。)
それが叶わないのは彼がよく知っている。二度目、なんて奇跡は本来あってはならないものなのだから。いや、彼の場合は奇跡、なんて素敵なものではなく、二度目の生は呪いのようなものなのだが。
(まあ俺の場合はそれ以前の話だけどな。)
仮に─本当にあり得ない仮定の話だがもしジジイがいたとしたら、エリモスは絶対に顔を出せなかっただろう。育ての父である男を殺したのは、まだ生きていけるはずの彼を死に至らしめたのは、間違いなくエリモスなのだから。
誰もいない地下道に、エリモスの足音だけが響き渡った。
ハイディ
その格好で気品は無理でしょ
ロドス太もも四天王
個人的にはスカジ・グラニ・カンタービレ・ユーネクテス
異論は認める
重めの話のときは性癖を開示する。これは紳士の嗜みです。
そしていい加減気がついたと思いますが、私は骨のある大人の女性が大好きです。