Q. ロドスで文化祭をします。なにかやりたいことの希望があれば書いてください。
A.カーディの回答
「お化け屋敷!」
《楽しそうでいいと思います》─後方支援部
A.エアースカーぺの回答
「感電体験会」
《需要はどこですか?》─後方支援部
A. エリモスの回答
「コスプレ喫茶。詳細は付属した別紙に。」
《まさか8ページに及ぶ資料がついてくるとは思いませんでした。》─後方支援部
ロンディニウムのあるスラム。その一角にある小さな粗末な小屋の前で、エリモスは1人佇んでいた。どうも手持ち無沙汰なのか、その手にはレンチが握られており、暇を潰すためか時々くるくると回されている。
と、そんな時だった。目元をゴーグルで隠した、角のあるサルカズの男性がエリモスの方へと近づいてきたのである。その男はエリモスの横に立つと、不機嫌さを隠そうともせずに口を開いた。
「…『黒いタイツは?』」
サルカズのその発言を聞いて、男とは対照的にエリモスは上機嫌さを隠そうともせずに片頬を吊り上げた。そのままで朗々と、とてもとてもいい声でその続きを紡ぐ。この場合、いい声の理由は声帯の質ではなく、心の持ちようの問題だ。
「『いいタイツ』だ。うーん、いつ聞いても素晴らしい合言葉だな。」
「俺はこれを考えた奴の頭も、採用した奴の頭もイカれていると思うがな。」
サルカズの男、Miseryは満足そうなエリモスに対してそう吐き捨てた。なお、この合言葉を考えたのも勝手にこれを採用したのもエリモスである。
「酷いな、Misery。そんなに不満なら他のに変えるか?『無いなら反れ、あるなら丸まれ』とかどうだろ「もういい、黙れ。」はい了解。」
なおこの『無いなら反れ、あるなら丸まれ』は前世におけるエリモスの人生に大きな影響を与えた人物の残した名言である。彼女からは後々彼の人生におけるメニアックの精神を学んだものだった。皆もツンシュンをすこっていけ。
「本当にお前は…こんな状況でなんでそんないつも通りなんだ?」
「今はホルンさん寝てるし、焦っても何もできないからな。あ、そうそう情報提供ありがとな、Misery。お前の情報無かったらホルンさん見つけるのにあと1週間くらいかかってたかもしれんわ。」
「構わない。それが俺の仕事だからな。」
ロドスのエリートオペレーター、Miseryは当然とばかりにそう言った。さすがはロドス屈指の仕事人である。エリモスがロンディニウム入りしたと言う情報を手に入れた彼はホルンのいた基地をエリモスに伝え、そこからエリモスはホルンの行動を予測して、救助へと繋げたのだ。
「だとしてもだ。この1週間はでかいぜ、ありがとよMisery。」
「そうか。なら受け取っておくとしよう。…今は、彼女は寝ているのか?」
「おう。死ぬほど疲れてるみたいだからな、できれば起こさないでやってくれ。」
「わかった。では挨拶は別の機会にしておこう。」
そう言い残してMiseryはエリモスへと背を向け、足音を立てずに歩いていく。そんな彼の方を見ずに、エリモスは尋ねた。
「行くのか?」
「ああ。俺にはやるべきことが残っているんでな。」
Miseryはそれに歩きながら答えた。エリートオペレーターとしてやるべきことの多い彼には、無駄な時間など許されないのだ。
「そうかい。死ぬんじゃねえぞ。」
「お互いにな。」
それを最後に、エリモスの周りには再び沈黙が訪れた。くるり、くるりとレンチを回して、エリモスは1人再び動き出す時を待ち続けた。
その日、ホルンは日差しが差し込む固いベッドの上で目を覚ました。遠くからは羽獣の声も聞こえてくる。
「ここ、は…?」
まだ開ききっていない目で周りを見渡すが、確認できるのは粗末な作りの壁と、床に置かれた自分の装備だけだった。見覚えこそ無いが、そこは今まで彷徨っていた下水道のとは違う、明らかなら住むことを前提とした場所。それを認識したあたりで、ホルンの頭は徐々に動き始めた。
「そうだった、私は…」
思い起こされるのは昨日起こった怒涛の展開。基地から脱走に成功したはいいものの、下水道を彷徨うしか無かった自分が出会った謎の人物。そしてバグパイプに頼まれて自分を探しに来たと言う彼に連れられて、私は─
「セーフハウス、ね。こんなのがあるなんて。」
ベットから上体を起こして、ホルンは呟いた。このセーフハウスにたどり着いた後、治療とシャワー、そして温かい食事を終えてからの記憶が彼女には無い。おそらくその直後に眠ってしまい、ベッドまで運ばれたのだろう。…シャワーの際、自分でも悲鳴をあげるほどに汚れが出てきたのは内緒だ。…と言うか、この状態で私は彼に支えられていたのか。非常事態だから仕方なかったとは言え、1人の女性として大切なものを失った気がする。そんなことをホルンが考えていると、扉が3度叩かれるとともに小屋の外から声がした。
「ホルンさーん、起きましたー?」
「ええ、すぐそっちに行くわ。」
「ゆっくりで大丈夫ですよー。」
外から聞こえてきたエリモスの声に応えて、ホルンは身体にかかっていた布団を跳ね除け、立ち上がった。
「おはようございます、ホルンさん。ちゃんと眠れました?」
「ええ。お陰様でずいぶんと久しぶりに眠れたわ。」
「そいつは上々。突然寝落ちした時はビビりましたが…まあそれだけ疲れてたんでしょう。」
ホルンの現在の同行者にして協力者、エリモスは小屋の外にいた。彼はホルンが出てくるまでレンチで手遊びをしていたが、彼女が起きてきたのを確認すると荷物の中からレトルトの
「味気ないレトルトですが、食べますか?流石に普通の食事はまだ厳しいでしょうし。」
「ええ、頂くわ。貴方はどうするの?」
「俺はもう食べてますから大丈夫です。今温めますから、少し待ってくださいね。ついでに食べながらでいいので、これからの話をしましょう。」
そう言った彼は横に置いていた荷物の中から携帯コンロを取り出し、そこで何かに気付いたのかホルンの方を向いて、口を開いた。
「あ、それとですが、今って小屋の中入っても大丈夫ですか?」
ふつふつと沸いたお湯の中に入れられたレトルトの袋と横に置かれたビタミン錠を見ただけで、ホルンの胃袋は過敏に反応した。この数ヶ月碌なものを食べていない彼女にとっては、ビタミン錠剤と麦粥ですら、途轍もないご馳走なのだ。
「一先ずしなければならないことですが、まずは人を集めます。現状我々は2人ですが、このままではサルカズに戦いを挑むどころか、小隊にすら何もできずに負けるでしょうから。…うわ熱っ!」
温まった袋のフチを切って、ホルンに手渡しながらエリモスは言った。
「熱ぅ…それと、俺の私用にはなりますが、貴女が無事に見つかったとロドスに連絡を入れなければなりません。それから俺がまだしばらくロンディニウムに残ることも。」
「ええ、それならこの後すぐにそうするとしましょう。誰かトランスポーターでもいるの?」
「ええ、ロドスの協力者がいます。彼女に頼んだらどうにかなるはずです。」
コンロをしまい、今度は地図を取り出してホルンに見せながらエリモスは続けた。地図には印のようなものは何も書かれていない。
「それからもう一つ、今ロンディニウムには『自救軍』と呼ばれる抵抗組織があるようです。おそらくは同じ目的を持つものとして、できるだけ彼らとは関わりを持っておきたいですね。俺たちは直接行動をともにせずとも、後続のロドス本隊が関わる可能性がありますから。」
「なら、彼らを探すのもしなければならないと言うことね。…やることが多いわね。」
「何もできない、よりはマシでしょうよ。」
頭を抱えたホルンに、エリモスは笑った。彼は地図をホルンに押し付けるようにして渡すと、今度は荷物の中からコンパクトな工具箱を取り出した。
「あとは…貴女のその装備を整備しましょうか。このしばらく碌な整備もできてないでしょうし、流石にガタがきているでしょう?」
「貴方、整備までできるの?」
「任せてください。これでも本職は機械工ですよ、俺は。」
そう言ってエリモスは不敵に笑った。
数分後、そんな彼がホルンの装備のあまりの複雑さに悲鳴をあげたのはまた別の話である。
「おのれヴィクトリア軍!こんなに技術力が高いなんて聞いてないぞ!」
「…まあ普通に考えてそういう情報って軍事機密よね。できないなら工具だけ貸してちょうだい。私が整備するから。」
「あ、はい。おなしゃす。」
彼らが動き出すまでは、まだしばらく時間がかかりそうだ。
妖狐×僕SSはいいぞ
ホルンの装備はあのクロージャですら驚くほどに複雑らしい