この話はヴィクトリア編のネタバレを含む可能性があります。お気をつけください。
【すごく雑な人物紹介】
シージ
カリスマのある方のアスラン。大体いつも酸っぱい飴を咥えている。
エリモス
カリスマのない方のアスラン。大体いつもアレなことを考えている。
マドロック
エリモスのマブダチ。白髪赤目はオタクによく刺さる。筆者の性癖その1。
リード
エリモスとちょっと色々あったドラコ。尻尾がよく動く。
ホルン
エリモスの現在の協力者。筆者の性癖その2。
『おや珍しい。あなた、この本読むんですか?』
彼と初めて話したのはロドスへ来てすぐの頃だった。鉱石病と怪我の治療が行われていた当時の私にとって、図書室は数少ない楽しみだった。ロドスの図書室は多くのオペレーターのために多種多様な蔵書が取り揃えられており、私を退屈させることがなかったのだ。
その日も私は、読む本を探して図書室内を彷徨いていた。そのまましばらく歩いたのち、私がたどり着いたのはヴィクトリア文学のコーナー。その一角の目立たないところで、私は一冊の本を見つけたのだ。
それはヴィクトリア人の詩人によって書かれた詩集。少し前に発表され、王都では人気を博していたそれは、私がいた環境も相まって読むことができていなかったものだ。私は少しの歓喜と共にその本を手に取った。
さて、私が彼に声をかけられたのはその本を手に取って、中身をパラパラと見ていた時だった。急に声をかけられた私が驚いて肩をびくつかせたのを見て、彼は慌てながらもぺこぺこと頭を下げた。
『すみません、急に声をかけてしまって…。確か、あなたは最近入ってきた新人さんですよね?ヒロック郡から来た。』
そうだ、と簡潔に私は答えた。別にこの男に素性を明かす気はなかったからだ。だが男の方も別に私の素性に興味はないのか、その本の方に話を振った。
『それでですか。図書室で初めて見る顔なんで物珍しくてつい声をかけてしまいました。驚かせてしまったのは…ほんとすみません。』
構わない、と返した。それと同時に、その男の耳と尻尾が、私と縁深いもののそれであることに気がついた。とはいえ向こうが私の種族に気がついた素振りはなかったので言及することはなかったが。
『おっと名乗っていませんでしたね。俺はエリモス。戦闘部所属の重装オペレーターにして、後方支援部所属エンジニアの1人でもあります。もし装備のことで何かあれば是非ご一報を。』
エリモス。その名前はヴィクトリアらしくない名前だな、と言う感想しかなかった。後から聞いた話だが、実際にGreek、というヴィクトリア語ではない言葉からとったらしい。
『ところで、あなたの名前は?お伺いしても?』
名乗られたのならば名乗り返さなければ。そう思って私は自分の名前を彼に教えた。
自分の名前はリードである、と。
この時以来、私はちょくちょく彼と話すようになり、同じ作戦に組み込まれることも多くなっていた。短い時間ではあったが、最後の方は、友人と、そう呼んでもいい関係だっただろう。
エリモスのそばは心地よかった。彼はよく笑い、誰よりも前へ出てみんなを護り、少しでも多くを救おうとその足を進め、手を伸ばす男だったから。私も、彼のそばでは誰かに強いられた役割ではなく、素顔を晒せた気がしたのだ。…だからこそ、最初に私は気づくべきだった。そうしておけば、彼のあんな顔は見なくて済んだのだろうから。
砂漠で葦は暮らせない。私はそのことに気づくべきだった。
”助けてくれマドロック。”
エリモスは拠点の中で遠いところにいる友人にそう願った。彼はつい先ほどまでありあわせの材料からクロスボウと弓を作っていたのだが、その作業の手を止めてまでである。そんな彼の視線の先には現在の同行者にして、現地協力者、ホルンの姿がある。彼女は工具を片手に、自分の装備の整備に精を出していた。
”本当に助けてくれマドロック。”
そんな彼女の背中を目で追いながら、エリモスは心の中のイマジナリーマドロックへと助けを求める。
”このままだと俺この人のこと好きになってしまう!”
お前本当にこの非常事態に何をやっているんだ。ほかの人に知られたら確実にそういわれそうなことをエリモスは考えていた。
だがそれも仕方ないのだ。このホルンという女性、恐ろしいほどにエリモスの好みど真ん中なのである。彼女は強く、賢く、不屈の精神を持ち、かつ輝かしいほどの美貌を兼ね備えた傑物である。ついでに言うと動きやすいように改造されたその制服がどちゃくそ好みだったりする。
ついでなので彼女の着ている服装について語るとしよう。彼女の服装はこう、なんというか、基本的には戦闘用の上着を纏っているのに、要素要素が露出しているのがそれが余計にメニアックさを引き立てているのである。例を挙げるならゴツ目の上着の下にタンクトップを着ていたりとか、なぜかボトムスがホットパンツ?とサイハイブーツだったりとかである。上着は上着で丈が短く、実質的に半袖といってもいいレベルなのだ。加えて言うと、ええ、どこ見ているんだと言われそうだがその胸元の謎ベルト。それいります?いや、ちゃんと落ちてこないように何かを支えてはいるんだろうけど、そこじゃなくてもいいじゃん。そこじゃなくてもいいじゃん?場所変えよう?
総評すると、ただでさえ全体的にこう、アーミーな感じなのに要素要素で女性らしさが見え隠れする、素晴らしい服装なのである。さすがヴィクトリア、我が第二の故郷にして変態紳士の跋扈する国である。彼らが軍人に対してもその精神を発揮していることに賞賛を隠せない。ぜひ服飾担当者とは話してみたいものだ。この状況だし生きているか知らんけど。仮に生きていたらロドスに勧誘する。絶対にだ。
まあ少し話がそれたが、何が言いたいかというとこのホルンという女性がありとあらゆる面でエリモスの好みドストライクという事実である。そんな人と狭いセーフハウスで一緒に暮らしているのだ。彼がそんな思考にたどり着いてしまうのも仕方ないといえよう。
「…どうしたの?何か問題でもあった?」
「あ、いえ、なんでもないです。少し考え事をしていただけで。」
少し長く手を止めすぎたからか、ホルンもまた作業の手を止めてエリモスに尋ねた。正直、こんなことで作業を中断させたのがあまりにも申し訳なさすぎる。
「そう。…私の方はもう直ぐ整備が終わるわ。弾薬が足りないのがネックだけど…こればかりはどうにもならないわね。」
「流石にここで源石を加工して弾薬を作るのは無理ですね。あるものを切り詰めるしかなさそうです。」
「なら基本的にはクロスボウを使うことになりそうね。いくつできた?」
「クロスボウが4に弓が6です。矢もそれなり、と言ったところでしょうか。…用意したのは遠距離武器ばかりですが、よかったんですか?」
「ええ。例え兵士を助け出せたとしても彼らは弱っているはず。なら、下手に前に出すよりも後ろから射撃に徹させた方がいいわ。」
「なるほど。」
そう言ってホルンは整備を終えた装備を持ち上げた。それは盾にして砲。個人携行用の武装でありながら、要塞の如き威容をたたえた武器である。彼女がそれを身に付けたのを見て、エリモスは作り上げた武器をバックパックの中にしまい込み、自身の剣と大盾を身に付けた。
「エリモス、とりあえずはハイディ氏の元へ向かうのでいいの?」
「ええ。まずはハイディ氏の元へ行きます。そこで連絡を済ませ、自救軍の情報を得たのちに彼らと接触。軍の生き残りを捜索しつつ、彼らと接触します。」
金属の触れ合う音を立てながら、2人はセーフハウスの外へ出ていく。今の時刻は夕方、灯りの少ないスラムではこれから本当の暗闇が広がる時間帯だ。だからこそ、人目を避けた行動ができるのだ。
「ハイディ氏の元へは俺が先導します。地下の道筋が分かりますし、種族柄、夜目が利きますからね。」
「流石は
刻一刻と闇の濃くなるスラムへと2人は歩き出した。ホルンはヴィクトリアを奪還するために。そしてエリモスはこれ以上の犠牲を出さないために。
かつてこの国のために戦った英雄たちと同じように、獅子と狼は自らの命を賭けた戦場へと足を踏み入れた。
「やあ、ヴィーナ。ちょっといいかな。」
「ドクター?どうしたんだ?」
「いや、少し聞きたいことがあってね。」
ロドス艦内。ドクターはあることを尋ねに、シージと接触していた。それも人払いの済ませた執務室で、である。
「聞きたいこと?私とドクターの仲だ。なんでも聞いてくれ。」
「そうかい。なら聞くんだけど…。」
『君とエリモスはどういう関係なんだい?』
彼のその問いにシージは目を細め、数秒の沈黙ののちに口を開いた。
エリモスとリード
意外にも仲が良かったらしい。実際にはそうならなかったがもしこの2人が付き合い始めたら、シージとケルシーは胃痛で倒れていた。
ヴィクトリア軍の服飾担当
ロドスに来てくれ。お前の力が必要だ。
シージとエリモス
別に仲がいいわけではない。基本的には整備士と顧客の関係である。