俺の同僚の顔が良すぎる
「彼女が欲しいんだよ。」
「…それをなんで私にいうんだ。」
「いや、こんなこと言えるのマドロックくらいしかいないからさあ。」
ロドス本艦、その中の訓練室にて2人の人物が訓練後の熱気も冷めないままに話をしていた。そのうち1人はくすんだ金髪をした
「…そもそもどうしてそうなったんだ、エリモス。」
マドロック。そう呼ばれたパワードスーツの方が、エリモスと呼ばれたアスランに尋ねた。
「いやーそれなんだけどさあ。大した理由じゃないんだけど。」
エリモスはそう言って一度息を吸った。
「
「…言いたいことはわからなくもないが。」
それでいいのかおまえ。いいに決まっているだろう。そう言った2人の間に妙な沈黙が落ちた。
ロドスは今日も平和である。
少し俺─エリモスについて話をしよう。
エリモス、はコードネーム。本名は××××××。出身はヴィクトリア、のスラム。親は知らない。幸いなことに、
そして大切なことに、おれは前世の記憶、とやらを持っている。それもこのテラではないどこかで過ごした記憶、というものが。
これは役に立つ時もあるし立たない時もある。ただ、平和な時代を何も考えずに生きていた、という幸福は今の自分からしたらあまりにも羨ましいものではあった。が、基本的にこれは役に立たない。なにせ今の俺からしたら異世界の知識な訳だからな。
そして、この記憶を遡るに、俺は一つの結論に至った。
それこそ、『この世界の住人は顔とスタイルが良すぎる』ということである。
考えてみてほしい。前世ではありえないほどに整った顔立ち、及びスタイルの女性が、ちょっと考えがたい程の露出度の服装で肌を晒してその辺を歩いているのである。そんなの色々と性癖が歪むものだろう。
つまり長々と話したが今この俺、エリモスは。色々と「持て余している」状態なのだ。
「…そんな精神で彼女を作っても長続きはしないんじゃないか。」
「一理ある。」
滴り落ちる汗を拭いながら、エリモスはドリンクを口に運んだ。
「それでも俺は彼女が欲しい。それがたとえひと時の夢であっても…!」
「人の夢、と書いて儚い、と読むらしいが。」
「うるせえぞマドロック!どうせお前は強くてモテるからそんなことが言えるんだ!」
「いや私はモテないが。」
軽く煽られてふぎゃあと食ってかかるが、悲しいかなエリモスの力ではマドロックのパワードスーツは揺るがせない。ただしこれはエリモスが非力という意味ではない。むしろ彼は戦闘オペレーターという意味ではかなりの怪力をしているはずなのだが、マドロックが規格外に強いだけだったりする。
「うるせえ!お前もどうせそのマスクの下はたいそうなイケメンなんだろう!?エンカクとか社長とかファントムみたいな!あんな耽美系イケメンなんだろう!?」
「いや、違うが。」
「うわああああああん!俺もイケメンに生まれたかったよお!」
「…………話を聞いてくれ、エリモス。」
汚い高音を上げながらぐわんぐわんと揺さぶってくるエリモスにも構わずマドロックはため息をついた。同じ重装、土を扱うアーツの使い手ということもあって親しい2人だが、実はマドロックは諸事情あってエリモスに素顔を晒していないのである。
「うるせえええ!ちくしょうううう!俺もイケメンに生まれて美女美少女からチヤホヤされたいいいいい!」
「…顔よりもむしろそういうところじゃないか?」
ついに涙が混じり始めた。あまりにもみっともない。その様にマドロックは割と心の底から呆れたが、よく考えるといつものことだったので軽く流すことにした。
「はあ…エリモス。愚痴なら聞くから頼むから騒ぐのをやめてくれ。周りの目が痛い。」
「…マドロックが今晩一緒に飯食ってくれるなら。」
「なに?私と食事?本気か?」
「本気だ。」
聞き返したマドロックにエリモスはピタリ、と涙を止めるとその視線をマドロックの顔の方へと向けた。
「お前は感染者だのなんだの気にしてるのかもしれないがな。俺はその辺気にしねえよ。ってか、知り合って時間も経ってて、しかもこんなに色々話してんのに飯の一つも一緒に食ってないなんざ寂しいだろうが。」
「………。」
「ただ素顔がイケメンだったら奢らせるからそのつもりで。」
「……まさか、最初からそれが狙いか?」
「それこそまさか。」
そう言って彼はニヤリと笑った。
「ただ俺はお前と飯を食ってみたいだけだよ。」
その後。流石に今まで素顔を隠し続けてきたマドロックが人前にいきなり顔を晒すのは厳しかろう、という判断で2人はエリモスの部屋で飲むことに決め、今エリモスはその準備を行なっていた。
「酒は…こんなもんでいいだろ。あーでも、サルカズって強いんだっけ?もうちょいあったほうがいいか?」
ぼやきながらガサゴソと酒瓶を机に並べていく。すでに酒瓶は5本は並んでいるのにまだいるというのだろうか。
「まあ酒とツマミはあいつも持ってくるらしいし、足りるか…?ほんで足りなかったらクロージャのところ走るか。」
皿とコップも構えたし、あとは待つだけ…となったところでエリモスの部屋のチャイムが鳴った。マドロックが来た合図だ。
「お、来たか。時間通りだな。」
その音に反応して玄関へと向かう。オートロックというのはこういう時に「開けてるから入ってくれ」ができないのが不便だった。そしてカギを開けて扉を開け放つと、部屋の前に立っているであろう人物を迎え入れる。
「よう、来たなマドロッ………!?」
「ああ、邪魔をするぞ、エリモス。」
が、ガチャリ、と扉を開けた先にいたのは予想だにしない姿の人物。その隙にエリモスはピタリと動きを止めてしまう。
「エリモス?エリモス?どうした?」
「……どうした、もなにも。え、マドロック、だよな?」
「?ああ。私はオペレーター、マドロックだが?」
「え?え?、まじで?」
エリモスの知る限り友人、マドロックの特徴は身長190ほどで、ゴツいパワードスーツを着ていて、声はくぐもっている。おまけにかつてはレユニオンで小隊を率いており、今でも普段から戦鎚を振り回しているのだから、当然ムキムキの男だと思っていたのだが。
「お前女だったのかよおおおおおお!!!!!?????」
「え、そうだが…」
目の前にいるマドロックは身長160ほど。シミひとつない白い肌に、抜けるような白髪。ほっそりとした手足にルビーのような赤い瞳。顔立ちは人形のように整っていて、いま小首をかしげる様が似合うこと似合うこと。そんな彼女は今黒いワンピースを着て、エリモスの部屋を訪れていた。
一方エリモスはマドロックのことを当然のように男性だと思っていたのに、実際は超がつくほどの美人が出てきた結果。彼は今フリーズしてしまっていた。
「お、お、お、…」
「お?どうした、エリモス、大丈夫か?」
「だ、大丈夫なわけあるか!お前も…」
彼は静かに天を仰いだ。
「お前が美人だなんて!俺は全く聞いてない!!!!」
友人に愚痴って心の負担を減らすはずが逆にとんでもない事実を知ってしまって。彼の心は今とんでもなく大荒れだった。
エリモス
名前の由来はギリシャ語で「砂漠」。砂系のアーツを使うアスランの重装。彼女ができない愚痴を友達に吐き出すつもりが、その友達がまさかの女性、しかも超美人だったことに衝撃を隠せない。
マドロック
多くの方を驚愕の渦に落としたオペレーター。強い。好き。