ホルンさんにコーデがきたあああああああ!?
見てない人!早くググるのです!普段とのギャップやべえから!
先刻まで怒涛の勢いでの砲撃を行っていた城壁は完全に沈黙した。なんの動きも見られないそれを見て、血を撒き散らしながらも安堵のため息をついたエリモスは、一呼吸おいて再び剣を握りしめた。
─まだ、これで終わりじゃない。
彼女は沈黙した城壁を、そしてそれを睨みつけるかのように剣を構える戦友を見て、足を止めた。急に止まったことで、先ほどまで運動を続けていた心臓が急に存在を主張し始める。それを無視して、彼女は首を振って周りを確認した。
─敵影、なし。
─味方の負傷、概ねなし。
─装備の損耗、無し!
歴戦の兵士として訓練を積み重ねてきた彼女は的確にその判断を下すと、己の装備の最大の特徴であるその大砲を起動した。
「総員、撤退だ。」
彼方で輝きを増し続ける黄金の光を見て、マンフレッドは苦々しく命令した。
「撤退の邪魔になるのならば荷物は捨てていけ。ただし、今回の試射の結果だけは持っていくように。」
「将軍!お言葉ですが、その…アレはもう良いのですか?」
そんな冷静に指示を出す彼に、一人の部下が尋ねた。彼は先ほどから砲撃を行っていたうちの、主軸のメンバーである。そんな彼に、マンフレッドは本当に、本当に嫌そうな顔をして言った。
「…良くはない。良くはないが、今はそれどころではない。なにせ、あのアーツが直撃すれば、我々はひとたまりもないのだから。」
他に何か言いたいことがあるものは?マンフレッドがそう聞くと、残りの部下たちは沈黙を保った。その様子に一つ頷くと、全員が城壁から離れるために移動を始める。
そして、それはその時に襲いかかった。
ある者が城壁から下に向かうための階段に向かおうとした時、突如城壁全体を揺らさんばかりの爆音と、そして振動が襲いかかった。あまりの衝撃に全員が一度目を瞑り、そしてもう一度目を開けて周りを見渡して全員が絶句した。
ほんの一瞬目を離した隙に、先ほど階段に一番近かった人物は、今や瓦礫の中に紅い花を咲かせていた。そのことに驚く中、またしても彼らを同じ衝撃が襲う。何度も、何度もだ。
「攻撃…!?どこからだ!?」
彼方で今も輝きを増すアーツではない、新たなる脅威がこの期に及んで彼らに襲いかかった。
「攻撃命中!敵被害1!」
今も煙を上げる砲に次弾を装填しながら、ホルンは観測主を務めるロックロックのその声を聞いた。彼女の装備には射程の底上げとして、本来ならロックロックが操っているはずのドローンが非常エネルギー源として使われている。
「そう。向こうの様子は?」
「混乱してます!少なくとも足止めには成功!」
「わかったわ。…次弾発射まで、あと5秒!」
「了解!」
先ほど城壁の上にいたサルカズ傭兵たちを襲った攻撃を行った人物こそが、ホルン。現状の自救軍側が誇る最高戦力の一人である。彼女は今、サルカズたちにもう残弾がないことを察して、攻勢にでたのだ。
「3秒!」
故郷を蹂躙された怒り。今までに受けた屈辱に対する怒り。そして、それ以上に彼女の心を占めているのは、
「発射!!」
よくも私の部下を。
怒りと、使命を背負って彼女は砲撃を放つ。様々な思いを乗せた砲弾もまた、彼女の狙い通りの場所に着弾、周囲を吹き飛ばした。
「命中!敵被害2!」
「了解、次弾装填するわ。」
壁上でサルカズたちが混乱に陥るのを確認しながら次弾を装填する中、視界の端でついに夜を消し飛ばすかの如く金の光が一層の輝きを放った。
あれは、ホルンさんの大砲か?
壁上で爆発が起こるのを見ながら、エリモスはそんなことを考えていた。彼の手に握られた剣は、今やその負荷に耐えられず、少しひび割れ、ギチギチと音を立てている。それほどまでに強大なアーツを彼は操ろうとしていた。
正直な話、俺があの大砲を吹き飛ばしたところで結局は変わらない。新しいのが作られて終わりだ。
それがわかっていてなお、エリモスはそれをすると決めた。例え1週間後にまた作られようとも、明日泣く人がいないように。
ここから壁上の大砲までは少なくとも1キロは離れている。それは本来ならばこちらの攻撃が絶対に届かない距離。だが、代償を払った今なら当たる。当ててみせる。吹き飛ばしてみせる。その意思に呼応して、アーツが剣の元へ収束していく。
一個人が操るにはあまりにも莫大なアーツがエリモスを内側から襲う。剣を持つ手の血管が引きちぎれ、皮膚が弾け飛ぶ。彼の周りには赤い霧ができていた。それでもなお、エリモスは剣に込める力を欠片たりとも緩めない。それどころかさらに力を込め、裂帛の気合いを込めて勢いよく振り下ろした。
─ガワだけ見れば聖剣なんだけどなあ。
痛みも何もかもがどこか遠くに感じながら、エリモスは砕け散る自分の愛剣に対して最後にそんなことを思った。そんな彼の握る剣は、今や世界のどの宝剣よりも眩い輝きを放っている。そしてそれと同時に、その輝き全てが解放された。
これまでとは比べものにならないほどの極光が弾け、城壁を飲み込んだ。
その光条は今までの砲撃を消し飛ばしてきたものよりも大きく、強かった。
それは放たれると同時に城壁に到達、すぐに全てを塵へと変えていく。今までヴィクトリアを見守ってきた城壁も、人々に牙を剥かんとしていた大砲も、そしてその上の傭兵たちも、その全てをだ。ホルンの砲撃によって逃げ遅れた彼らは、碌な抵抗もできずに消えていく。今まで彼らが人々にそうしてきたように。何の痕跡も残さず、塵となってこの世界から消えていった。
その中にはマンフレッドもまた、例外ではない。城壁の上にいた彼も、部下たちと同じようにその光に呑まれようとしていた。彼はアーツで応戦、防御にあたったが、悲しいかな展開した防御障壁はすぐにひび割れ、その役目を終えようとしていた。
そしてその時、彼の周りを赤黒いナニカが覆い隠した。それは一瞬のうちにマンフレッドの周りを包み込むと、すぐに黄金の光に呑まれていく。光が消え去ったとき、そこに彼の姿はどこにもなかった。
城壁の上は、一つの影も残らず完全に静寂を取り戻した。
「エリモスがやったわ!」
その様子を見て、ホルンが叫んだ。いや彼女だけではない。その場にいた自救軍の全員が叫んでいた。
彼が成し遂げたのはただサルカズ傭兵の一団に勝利しただけではない。迫り来る脅威そのものを、放っておけばきっとこれから人々を恐怖のどん底に陥れていたであろうものを吹き飛ばしてみせたのだ。
そのことに自救軍が沸き立つ中、ホルンは努めて冷静に指示を飛ばした。
「全員医薬品をあるだけ出して!今彼には何が必要か分からないわ!あと足に自信がある人は私についてきて!彼を迎えにいくわよ!」
その声に全員が慌ただしく動き始めた指示を飛ばしてホルンでさえも、最低限の装備を残してまで、急いで彼の元に駆けつけようと機動力の確保をしようとしている。
「何としてでも、私たちは彼を見捨てない!今度は私たちが彼を助ける番よ!」
上手くいったか?
手に持った剣が砕け散り、その柄の感触だけを感じながら、エリモスは静かに目を閉じた。
もはや目を開けることすらおぼつかないエリモスには、城壁がどうなったかがわからない。その身体からは力が抜けていき、砂埃を立てて地面へと倒れこんだ。碌な受け身も取れない身体に衝撃がダイレクトに伝わっていく。
ああ、クソ痛え。なんだこれ、全身がやばい。
全身が信じられないほどに痛い。なんでだ?ああ、そうか。【釘】のせいか。そうだ、これ抜かないと。そう思って彼は最後の力を振り絞って左手を首元の釘へと持っていき、そして
音もなく左手が砕け散った。
もはや悲鳴すら出ない。もはや痛みとかそんな問題ではなかった。本来ならば溢れ出てもおかしくない血が、なぜか傷口から霧のように消えていく。
ああ、畜生。ここまでか。
限界を越えたのか、痛みを感じなくなってきた。そして何より寒くて、眠い。その中で必死に右手で釘を抜こうとするが、身体がいうことを聞かない。必死に動かそうとした右手は肩まで届かず、ただ虚しくノロノロと空を切り続けた。
嫌だ。死にたくない。
全身をよじって、無様に足掻き続ける。
帰りたい。あいつに、会いたい。
もはや枯れ果てたのか涙も出ない。その状況で、必死に僅かでもあろうとも生を掴もうともがき続ける。そんな彼の元に、突如どこから現れたのか一つの足音が近寄ってきた。
「…死ぬんじゃねえぞ、とか言っておきながら随分なザマだな。そんな悪趣味なものを使うからだ。」
近寄ってきた人物はそう言うと、エリモスの首に刺さっていた釘を抜いて手早く全身の傷に処置を始めた。もはや相手の姿を確認することもできないが、その声、そしてその手つきには覚えがあった。この声は散々今まで聞いたものだし、動きはロドスの研修で散々に叩き込まれた動きだ。
お前は…そう言おうとしたが、喉が枯れて声が出ない。ただ意味のないヒューヒューとした音を出し続ける彼に、近寄ってきた人物はああ、と尋ねた。
「合言葉は必要か?」
ロドスの本隊がロンディニウムに入ろうとした時、彼らを周囲ごと城壁からの砲撃が襲った。市民も、建物も、その全てを無差別にだ。そのことに彼らが驚き、必死の抵抗を行っていた。だが、根本的な打開策がなければこの場を凌げないだろう。
指揮官であるドクターがそう判断し、必死に頭を働かせていた時だ。突然に風が吹いて、かと思えば砂嵐が吹き荒れた。
「…砂嵐?ロンディニウムで?」
急に吹き始めたそれは勢いを増していき、かと思えば城壁全てを覆い隠し始める。こうなれば砲撃も行われないだろう。そのことに戦っていたものたちがそれにどよめく中、ドクターの背後から複数の足音がした。
「お久しぶりです、ドクター。」
背後から聞こえてきたのは随分と聞きなれた声だった。その声を聞いてドクターが声の方を向くと、そこには一人の金髪の男がいた。彼は全身に手当ての跡を残し、右手に見慣れないアーツロッドを持って上着の左手の袖をはためかせながらそこに立っていた。そんな彼の側には金髪のループスの女性が彼を守るかのように立っている。
「エリモス…!」
私が彼の名を呼ぶと、それを聞いてエリモスは静かに微笑んだ。
これで、エリモスのヴィクトリア編は終わりです。多分次からはロドスに帰るんじゃないでしょうか。
この後は多分エリモスがドクターの指揮下に入って終わりなので大体本筋通りです。仮にイベントが増えるとしたらマンドラゴラと戦って能力相性的に完封したり、ブラッドブルードの大君とドンパチしたりするくらいですね。お前余命また減らす気か?
そしてこんな突然に性癖を暴露し出しても読んでいただけたこと、本当に感謝しております。みんなも曝け出していこうな。
さて、こんな拙い作品ではありましたが、読んでいただき誠にありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。