自分よりゴツイ大男だと思っていた同僚が実は可憐なる美女だった。
お前は何を言ってるんだと思われるだろうが、事実なのである。ロドスオペレーター、エリモスはその真実にしばし天を仰いだ。
「…まさかマドロックが女だったとは…。」
「すまない。言い忘れていた。」
玄関での衝撃的な邂逅から数分後。もっきゅもっきゅと酒とつまみを頬張りながら2人はなんだかんだで夕飯にありついていた。
「いや軽いな?いや別に俺はお前がどうだろうと良いけどさあ。」
これは紛れもなく彼の本心であった。そもそもエリモスはマドロックの顔が何ひとつわからない時から友人をしているのである。それを素顔がどうとかで態度を変えるのはあまりにも失礼だろう。
「それはありがたい。…いけるな、このチキン。」
「お?それか、美味いよなそれ。ロドスキッチンお手製の一品なんだけどさ。」
「なんだ、エリモスが作ったのじゃないのか。」
「残念。俺は料理できないんだよ。」
もひ、とローストチキンを一口つまんだマドロックが驚いた。それほどにこれは絶品であり、キッチンの惣菜に並ぶたびに即売り切れる人気商品である。たまたまではあるが今日手に入ったのは運が良かった。
鶏をつまみにビールを呷ると、ゴク、ゴクと音を立ててキンキンに冷えた苦味のあるアルコールが喉を通っていく。勢いに任せて一気に飲み終えると、空になったジョッキが机とぶつかり合って小さな音を立てた。
「ほう、なかなかいい飲みっぷりだな、エリモス。」
「だろ?まだまだあるからマドロックも好きに飲んでくれ。ビール以外にもウイスキーもウォッカもあるぞ。あと俺が漬けたやつでよければ梅酒。」
「梅酒…?」
聞き慣れないのかマドロックが首を傾げた。梅酒は前世持ちである自分には馴染みがあるものだが、確かにヴィクトリアでは酒はあまり飲まれていなかった。というかそもそもよく考えるとそもそも梅は東の方の植物のような気がする。
「そう、梅酒。極東の梅…っていう果物を漬け込んだ酒。美味しいぞ。」
「ふむ。ならそれを貰おう。オススメの飲み方は?」
「個人的にはロックだなー。」
言うが早いがグラスに氷を適当に放り込んで梅酒を漬けていた瓶の蓋を開けると、梅特有の香りがほんのりと漂った。注いで一混ぜしてからマドロックへとグラスを差し出す。
「む、これが梅酒か。」
「そそ。極東だとよく飲むらしいぞ。個人的にも割と好きなんだけど…どう?」
そう言うと、マドロックは梅酒をちびりと舐めるように飲んだ。
「…今まで飲んだことない味だな。」
「そりゃ馴染みはないか。」
「ああ。だが…。」
もう一口を口に含んで、マドロックは微笑んだ。
「美味しい、な。これは。」
「…そうかい。」
「ああ。…本当に、美味しい。」
両手でグラスを持って柔らかな笑みを浮かべたマドロックからほんの少し目を逸らして。エリモスはほてった体を冷やすべく冷たいビールに口をつけた。
「…む?寝たのか?エリモス。」
数時間後。しばらく2人で料理と酒を楽しんでいたのだが、酒を飲みすぎたのかエリモスは小さく船を漕ぎ始めていた。訓練の疲れがある上に、酒豪で知られるサルカズと同じペースで飲んでいたのだから仕方ないとも言えるが。
「まだ…まだ起きてる…まだいける…」
「そう言っている時点でダメだろう。」
もはや首がガクガクになりながらもいまだに酒を求めるエリモスから酒瓶を取り上げると、マドロックは彼を担ぎ上げた。うごっと小さく悲鳴が聞こえたが、そこは気にしない。気にせずにマドロックはエリモスをベッドへと適当に転がした。
「ほぶべっ。」
哀れにも放り投げられたエリモスからは潰れたカエルのような声が漏れ出た。
「はあ…エリモス。もう今日はやめておけ。これ以上は体に悪い。」
「もう手遅れだろ…」
ベッドの上で呻くエリモスに水の入ったグラスを渡すと、どうにか起き上がった彼はチビチビと飲み始めた。一応は飲みすぎた自覚はあるらしい。
「…まさかと思うが、エリモス。いつもこんな深酒しているのか?」
「それこそまさか。俺は普段ここまで飲まねえよ。」
マドロックの問いに、水を飲んでほんの少しだけ回復したのだろうエリモスが返した。
「ようやくお前とサシで飲めるんだ。そりゃあはしゃぐってもんだろうが。」
「…それは、どういう意味だ?」
「?どうもこうもないだろ。」
「友達と飯行ったら普通テンション上がるだろ?」
こともなげにそう言ったエリモスに、マドロックは一瞬だけ目を見開き、そして直ぐにクツクツと笑い始めた。
「…あれ。俺なんか変なこと言った?」
「いや、そうじゃない。久々に友人、ができたと思ってな。…そうか。友人か。」
「…え?あれ?これもしかしてお前のこと友達だと思ってたのと俺だけ?あっるぇ?」
未だに小さく笑い続けるマドロックに、エリモスはしきりに首を傾げた。彼の中ではマドロックはすでに大切な友人なのだ。
「いや、お前は私の友人だ。間違いなく、な。」
それを聞いて美しきサルカズは心の底から楽しそうに笑った。