俺の同僚の顔が良すぎる   作:チキンうまうま

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 おいでませペナンス。なぜおいでくださらないテキサス。




職場の吸血鬼の顔が良すぎる

 

 その朝目が覚めた時、私はわずかに違和感を覚えた。違和感、と表現したが、実際は、不調と言った方が良いかもしれない。頭にはわずかに靄がかかり、普段よりも思考が鈍っている感じがする。

 

 昨日まではそんなことはなかったのに、なんでこうなったのか。私は少し考えて、そして一つの答えを導き出した。そう言えば最近眠りが浅かったな、と。近頃は色々と考え事が多くて、今までよりも安眠できていなかったのだ。だからこそ今回の不調は起こってしまったのだろう。

 

 さて、私はその事実に気がついたが、それを気に留めることはなかった。傭兵であった頃はこれ以上の不調なんてものはよくある話だったし、それに今感じているものも些細なものだ。だからこそ私は特に何も気にせず、温もりを抱えたベッドから身体を引き摺り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Aセットで、卵はサニーサイドアップでお願いします。」

「あ、うちも同じので。」

「俺もAセットで、卵はオーバーハードで。」

 

 朝食を取ろうとする人でごった返すロドスの食堂。エリモスは偶々遭遇したホルンと、そしてバグパイプと共に朝食を取ろうとしていた。彼らの目の前では多くのキッチンスタッフたちが目まぐるしく動き、熟練した動きで卵をフライパンに割り入れていく。

 

「オーバーハード?エリモスは固いのが好きなの?」 

「生卵が苦手なんです。あのドロっとした感じが。」

「あー、そう言う人は割といるべ。うちの友達にもいるいる。」

 

 2人の分に対して、エリモスの分は最も長く火を通すために遅れて渡された。それを受け取って席に着くと、食前の祈りを捧げた後に揃って口をつける。─真面目に祈る2人に対して、神など欠片も信じていないエリモスの祈りは上辺だけ真似たものであったが。

 

「うーん…おいしい〜!」

 

 彼らの朝食はパンに目玉焼き、サラダにスープというシンプルなメニュー。それに口をつけて、すぐにバグパイプは幸せそうな声をあげた。

 

「本当に美味しそうに食べるわね…。」

「いや本当に。まあいいことですけど。」

 

 卓を囲むのは一応の同郷3名。彼らの食事は談笑から始まり、時に真面目な仕事の話、そして祖国の話へと移りながらも和やかに続いていく。

 

「─へえ、じゃあエリモスはしばらく出撃ないの?」

「ええ。まあ体調のこともありますけど、それよりも今エンジニア部が忙しいですからね。今日も昨日も明日も明後日も…俺含めてエンジニア部の奴らはみんなそっちにかかりっきりです。」

「それって、私たち(ヴィクトリア軍)絡みのことで?」

「いえ。単にロドスを増築するとかなんとかで。こうなると電気配線から排水設備から全部いじるんで大変なんですよ。」

 

 ため息をつきながらエリモスは器用にサラダを飲み込んだ。と、その時彼の視界に銀光が走る。

 

「…お?」

「あら?知り合い?」

「いや、知り合いかどうかでいうなら俺はロドス内の大体が知り合いになりますが…。」

 

 歴の長さ故か無駄に顔の広い男である。

 

「そっか。エリモスはロドス古参だもんねえ。挨拶でもしてくる?」

「…ええ、じゃあお言葉に甘えて。ただ、それよりも…。」

 

 促され、席を立ちながらもエリモスは訝しげな声をあげた。そのまま人混みの中を歩いて行き、1人のサルカズに話しかける。

 

「よっす。」

「ああ、エリモスか。おはよう。」

 

 話しかけられたマドロックは、わずかに普段よりも頬を赤く染め、エリモスの方を向いて微笑んだ。そんな彼女の様子にエリモスはある確信を抱いて、わずかに目を細めて口を開いた。

 

「…おう、おはようマドロック。…ちょっといいか?」

「?ああ、なん、だ…?」

 

 その言葉の後のエリモスが取った行動に、マドロックの声が上擦った。突然エリモスが自身の本当に目の前に立ったかと思うと、彼の手が自身の額に当てられたのだ。突然の、本当に突拍子もない行動にマドロックがあ、とかうあ、とかの声にならない声を上げる中、エリモスは悲鳴のような声をあげた。

 

「マドロック!」

「な、なんだ?」

「お前熱あるじゃねえか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結論から言うとしよう。」

 

 それから30分ほどの後、食事も何もかもほっぽり出して、血相を変えたエリモスによってマドロックが医療部の元へ連れ込まれ、入念な検査を受けた後のことだ。

 

「…どうだった?」

 

 今回マドロックを診察したのはワルファリン。彼女によって、一応の付き添い人となったエリモスに容体が説明されようとしていた。彼女は眉を顰め、深刻な顔をするエリモスに対して、手元のカルテを眺めながら口を開いた。

 

「なんのことはない。単なる風邪と、それによる発熱だ。」

「…それだけ?」

「ああ。ただ、咳は無くとも熱は高いな。あと頭痛も多少はあるようだ。平然としておったのが信じられんくらいだ。」

「…まあ、俺が遠目に見てもわかるくらいだったからな。」

 

 エリモスは獅子耳を伏せながら答えた。そんな彼に、呆れたような声がかけられる。

 

「いや、正直妾たちは見ただけでは体調不良かどうかわからんかったぞ。そうであるのに体温計差したら高熱だったから驚きはしたが。」

「は?いや分かるだろ。」

「それができるのはお主だけだ。」

 

 ため息と同時にワルファリンはカルテから目を離してパソコンの方へと向き直ると、キーボードを猛烈な勢いで叩き始める。

 

「お主はあの子達の看病も長かったからな。全くと言っていいほど不調が顔に出んマドロックの異変に気がついたのはそのおかげもあるだろう。」

「…なるほどな。」

 

 まあそれを抜きにしても気がつけたのはお主くらいだろうがな。ワルファリンはそう言おうか一瞬迷って、やめた。そういうのは趣味じゃない。

 

「まあ良い。容体がわかったのならマドロックの元に行ってやれ。自分が病人であることを自覚した途端に弱りはじめたからな。」

「ああ、そうさせてもらうぞ。」

 

 一応は深刻な状態では無かったからだろう。明らかに先ほどよりも安堵の表情を見せたエリモスが立ち上がると、つい、と言った感じでこぼした。

 

「…にしてもただの風邪でよかった。これなら医療部に連れてくる必要もなかったか。」

「何を言っておる。今回連れてきたのはファインプレーだぞ。」

 

 エリモスの呟きは、ワルファリンからしたら許容できるものではなかった。苛立ちを込めて言い返す。

 

「…どう言うことだ?」

「どう言うことも何も。マドロックの鉱石病(オリパシー)の進行度を考えると、医者に見せるのが確実、と言う話だ。」

「…それは経験から言っているのか?」

「…妾は今まで、ただの発熱だと、ただの風邪だと勝手に自己判断した後に急変して亡くなった患者を見ておるから、余計にそう思うんだがな。」

 

 そう言ってワルファリンは、何かを誤魔化すかのようにこめかみを揉んだ。きっと今、彼女の脳内には今まで見て来た患者の顔が浮かんでいるのだ。

 

「…なら、今回はそうじゃ無くてよかった、と言うところか。」

「ああ。違いない。特にマドロックは、あれで相当に感染が進んでいるからな。」

 

 ワルファリンはそう断言して、マグカップを探す。しばらく手がデスクの上を彷徨った後、自分のデスクの上に常にあるはずのカップがないことに気がついた。ここは自分のデスクではなく、診察室なのだ。あろうはずもない。ワルファリンはそのことに気がついて、ため息をこぼした。

 

「話が長くなったな。早く行ってやれ。」

「…ああ。」

 

 短くそうとだけ返して、エリモスが去っていく。ワルファリンもまた、黙って手を振るだけで彼を送り出した。今日もまた、途方もつかないほどに忙しくなるであろう診察室。束の間ではあるがそこにわずかな静寂が広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マドロック、寝てるか?」

 

 マドロックの病室。病状に対して大袈裟ではあるが、万一に備えて割り当てられたその部屋に小声で語りかけながらエリモスが入ってきた。

 

「…寝てる。」

「起きてるじゃねえか。」

 

 帰ってきた答えに苦笑いが溢れてくる。そう言えばチビたちがいた昔はよくこんな会話をしたものだ。

 

「寝とけ寝とけ。ワルファリンが言うことにはただの風邪らしいからな。栄養とって寝れば治る。」

「風邪、か。しばらく引いていなかったんだがな。」

「それでも風邪ってのは引く時は引くもんだ。…寝れないなら何かいるか?リンゴとか持ってくるぞ?」

「…いや、必要ない。ただ、一ついいか?」

「ああ。なんだ?」

 

 横になるマドロックの顔を覗き込むようにエリモスが立っている。そんな彼にマドロックは薄く開けた目を向けた。

 

「…私が寝るまで、そばにいてくれ。」

 

 その言葉にエリモスは目を丸くして、すぐに小さく笑った。

 

「お安いご用だ。」

「……ん?」

「…この方が、俺がいることが分かるだろ。」

 

 直後、自分の手に温かい何かが当たる感触。それがエリモスの手だと認識するのには数秒もかからなかった。義手の、鋼の掌ではなく、生身の、幾つものマメがあるゴツゴツとした手を、マドロックは少しだけ力を込めて握りしめた。

 

「…今日は休みだからな。1日空いてるし、することないからここにいるさ。」

「…いいのか?仕事とかあるんじゃ。」

「どうにかするだろ。クロージャが。」

 

 これこそ上司に仕事を押し付ける、ダメな部下の鑑だ。冗談めかしてそう言ったエリモスにマドロックは笑って、それから目を閉じた。目を閉じても繋がれた手のひらから、彼の温度が伝わってくる。

 

「…おやすみ、マドロック。」

 

 繋がれた温もりと、耳朶を打つ聞き慣れた声。体調は相変わらず悪いけれど。それでも今日は、昨日までよりもずっとよく眠れるに違いない。そんな確信を持って、マドロックは夢の世界へと落ちていった。

 

 





 異格テキサスとペナンスさんが実装されました。以前コメ欄にいらっしゃったらテキサス待機勢の方が無事にお迎えできたことをお祈りしています。私はペナンス3名、テキサス0でした。偏りがすごい。でも本当に最近のループスは的確に僕の性癖を差してくる。ホルン、パゼオンカ、そしてペナンス。全て僕の癖にあっています。僕はね。信念のある大人の女性が大好きなんだ…。

 そして今回のアプデで、星6指名券が販売されていますね。みなさんは誰にされましたか?僕は今回はホルンさんです。マドロックは前回来てくれたので、その分今回はホルンさんの番となりました。重装女子大好き。と言うわけでペナンスも好きなんです。黒コートミニスカニーハイ絶対領域吊り目意外と物腰柔らか裁判官とかいう属性の塊。しかもピアス開いてる。控えめに言ってbig love…。自分の正義を持ってるところも好きだし、それで迷い続けてるのも好き。俺、生まれ変わったらヴィジル君になりたい。

 そして完全に余談ですが前回チラッと言った原案エリモス(アビサルハンター)は身長2メートル超えで、アビサルハンター特有の白髪赤目とか言う今とは割と別物の存在です。モデルは白鯨(マッコウクジラ)。名前も今とは違うものでした。
 こいつを没にしたのは、こいつを主人公にしてしまうと、アークナイツの世界に花山薫が爆誕してしまうことに気がついたからです。それはそれで楽しそうですが。

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