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キ
サ
ス
来
ま
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これを見てくださっている方々にも、テキサスやペナンスのみならず、推しのオペレーターが来てくれることを切に願います。
あと今回は後書きに旧エリモス時代の小ネタがありますが、興味なければ読み飛ばしてください。
鼻唄を歌いながら、エリモスはその手に握ったナイフを動かした。危なげなく操られたナイフは真っ赤に熟れたリンゴに当てられており、器用にも一切皮が途切れることなく皮を剥いていく。
「…ほい、剥けたぞ。」
「ありがとう、エリモス。」
皮を剥いたリンゴを切り分け、小皿に乗せてマドロックへと差し出した。昨日に比べて随分と顔色が良くなった彼女はそれを受け取って、小さな口でしょりしょりと咀嚼する。その様子に内心で安堵しながら、エリモスはゴミの処理に勤しんでいた。
「にしても、前も思ったんだが。」
「なんだ?」
「料理できないって言う割には鱗獣捌いたり、リンゴを剥いたりはできるんだな。」
「俺のことをなんだと思っていらっしゃる?」
ベッドから上体だけを起こして、ロドスの病棟服を着たマドロックは感心したようにそう言った。
「これでもちゃんと自炊経験はあるんだぞ俺?昔はチビ達のために料理とかもしてた訳だし。」
「でも上達はしなかった、と。」
「…悲しいことにな。」
ため息をついて、エリモスは今度はフルーツの缶詰を取り出した。あくまで彼のイメージだが、病人にはリンゴと缶詰である。少なくとも遥か遠い記憶の中の、かつての母は己にそうしてくれたのだ。
「まああの頃は材料も酷かったし、レシピ本も酷かったからな。なにせ手本にしたのが『ソースには白胡椒を使ってください。もちろん味という面では黒胡椒でも問題はありませんが、それをしてもいいのは見た目を一切気にしない不精者だけです。』とか書いてる本だぞ?」
「ヴィクトリアのレシピ本、口悪くないか?」
「そりゃそうだろうな。…覚えておけ。
呆れたようにそう言ったマドロックに、嫌なことを思い出したのか吐き捨てるようにエリモスは返した。もはやロドスでの日常と、自救軍の善良なるヴィクトリア市民たちに慣れて忘れつつあるが、基本的にスラムの人間とは一般市民からすると人間扱いはされない存在なのだ。
「じゃあエリモスはかなり珍しいんだな。」
「俺には上手い皮肉を捻り出す頭がないだけさ。さて…。」
話題を変えるためか彼は一度頭を振ると、取り出した缶詰を手に持って尋ねた。
「いるか?これ。」
「いや、今はいい。そこまで食欲があるわけでもないからな。」
「そうか。いや、そりゃそうだな。ならまた今度食べてくれ。」
エリモスは再び缶詰を袋の中にしまった。実はこれは先程購買部で調達して来たものだが、その際店番をしていたクロージャから非難がましい目で見られたことを追記しておく。というかあの人仕事多過ぎじゃなかろうか。
「…よし。マドロック、何かしたいことあるか?」
「したいこと、か。」
む、とマドロックは少し考えた。考えて、何かを思いついたのか口を開いた。
「着替えたい。」
「……はい?」
その言葉にエリモスの動きが止まった。よほどの衝撃だったのだろうか、ギシ、ギシと軋んだ機械のような動きになっている。
「いや、昨日は熱があったから、私は汗をかいているだろう?」
「…はい。そうですね?」
「だから、ちょっと今ベタついていてな。そろそろ服を着替えたいんだ。」
そう言ってマドロックは無意識なのか、入院服の胸元を軽く引っ張った。そのせいで先程まで隠されていた真っ白な鎖骨が、そしてその深い谷間が見えそうになり─
「ふううううん!!!」
「エリモス!?」
エリモスは最後の理性を総動員して、全力で自分の頬を殴りつけた。それも義手の方で。勢いよく金属が人体にぶつかる鈍い音が病室に響き渡り、マドロックが心配そうな声を上げた。
「エリモス?エリモス!?大丈夫か!?急にどうしたんだ!?」
「…ああ。問題ない。ちょっと世界平和について考えていただけだ。」
「絶対嘘だろう!?」
血の味が口の中一杯に広がるのを押し隠して、エリモスは努めて平気を装った。マドロックが心配そうな顔をしているが、それは一旦スルーする。彼は席を立つと、扉の方へと歩いていった。
「…じゃあ、ちょっと俺医療部の誰か呼んでくるわ。着替えだけでいいのか?」
「あ、ああ…。本当に、大丈夫か?」
「
とりあえず詰所へ行けば誰かいるだろう。そう考えてエリモスは病室を出ると歩き始めた。
余談だが、この後彼の左頬を見た医療部のオペレーターたちに彼がこっぴどく怒られたことは当然と言えるだろう。ただし彼はこの行動をとったことをかけらも後悔していないとかなんとか。
「……………。」
午後。左頬にガーゼを貼ったエリモスが、ベッドの横の椅子でうつらうつらと船を漕いでいた。おそらくは鉱石病の症状か。そう思ったマドロックは、とりあえずタオルケットを彼の膝にかけておいた。大したものではないが、それでもないよりはマシだろう。
「失礼します…あれ、エリモスさんもいるんですか?」
そんな中、ノックの後で病室に1人のペッローが入って来た。腕章から見ると、きっと医療部の誰かなのだろう。彼女はマドロックよりも、横で眠るエリモスの方に驚いた様子だった。
「ああ。昨日から看病をしてくれていてな。」
「そうなんですか。」
マドロックの返答に、意外にも淡白な返しをしていくつかの器具を取り出した。どうやら体調を調べに来たようだ。
「じゃあ、熱測りますね。頭痛とか、吐き気とかないですか?」
「もう無い。大丈夫だ。」
「そうですか。それはよかったです。」
医療オペレーターは検温を終えると、忙しなくカルテに何かを書き込んでいく。この辺りは医療知識が全く無いマドロックには何をしているのかさっぱりだった。マドロックがその様子を黙って見ていると、突然に沈黙が破られた。
「…エリモスさん、誰かの看病とかするんですね。」
「…ああ、エリモスは昔は働きながら子供達の看病をしていたらしいからな。その手には慣れていると言っていた。」
ほとんどの作業は医療部がやってくれているとはいえ、流石に迷惑をかけている自覚はあった。ただそれを見越してか、エリモスは『溜まりに溜まった有給消化のチャンスができた』などとほざいているのだが。
「いえ、そうではなく。」
カルテから目を離さずに、医療部オペレーターは告げた。
「この人、例の子供達はともかく、そこまで誰かの看病とかしてるの見たことないですよ、私。」
「……え?」
「これは本当の話で。私それなりに長い間ロドスで働いてますけど、この人がこんなに誰かの病室につきっきりでいるのは初めて見ました。お見舞いとかは割と来てるみたいですけどね。」
「…………そう、か。」
なんだろう。これはあれか。特別扱いと見ていいんだろうか。そんなことを思ったマドロックが、顔が熱くなるのを堪えてエリモスの方へ視線を向けると、彼はマドロックの心境など知らずに穏やかに寝息を立てていた。そんな彼を見て、わずかに口角が上がるのを感じながら呟いた。
「それは悪く無い、な。」
静かな病室に、マドロックの呟きがよく響いた。
以下おまけ。読まなくてもなんの問題もございません。
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彼女に出会ったのは偶然だった。
その日、俺─コードネーム『メルヴィル』─は、ドクターに頼まれてある荷物を運んでいた。それは人が抱えられるほどには小さいが極めて重く、人の手では運び難いが、機械を使うにはいささか大仰な代物。だからこそ、俺のような常識はずれの怪力を持つ存在が運ぶのが一番都合が良かったのだ。
それはさておき、俺がその荷物を小脇に抱えて、鼻唄を歌いながらロドスの廊下を歩いていたときだ。少し離れたところにあるソファに1人のサルカズの女性が座っているのを見つけた。そして彼女もまた、俺が来たことに気がついたのか伏せていた目を上げてこちらを向いた。俺と彼女の視線がぶつかり合う。
彼女の髪は夜に輝く星のように白く銀の光を帯びていて、瞳はまるでルビーのように紅かった。俺の髪と目も、手術の影響で白く、そして赤いが、彼女のものとは全くの別物だ。サルカズという種族の特徴である角は、彼女の側頭部から2本、天を衝くかのように生えている。サルカズの角には個人の特徴がよく現れるが、彼女のそれは今までに見たことない角だった。
とは言えロドスは広いので、初めて顔を合わせる人がいたとしても不思議ではない。名も知らぬ彼女は動きやすそうなよく言えばラフな、言い方を変えれば些か露出の多い服装に身を包んでいて、その服装こそが彼女の女性らしい肢体をより艶やかに見せている。体表にはいくつかの源石結晶が浮かんでいたが、そんなものが欠片も気にならないほどに彼女は美しく、魅力的だった。
そんな彼女は俺と目が合うと、小さく微笑んだ。その笑みを見て、俺の心臓が激しく動悸する。今までに俺は幾度も命の危機を切り抜けて来たが、その時でもこれほど激しく心臓が高鳴ったことはなかった。それほどまでの衝撃だった。
それからのことはよく覚えていない。多分慌てて彼女に会釈かなんかをして、そして荷物を抱えて走ったんだろう。気がつけば俺は自室に備え付けられた、体格に見合わない大きさのベッドの上で寝転がっていた。
「…うおお…。」
呻きながらゴロン、と寝返りをうつと、ベッドにおさまり切らなかった身体が床に落ちた。派手な音がしたが、大して痛くはない。それよりも今は、火照った身体に床の冷たさがありがたかった。
「ぬおお…」
ベッドから落ちてもなお、呻きながら俺は床を転がり続ける。身長が2メートルを超す、筋骨隆々とした大男が床をのたうち回る様は、側から見れば非常に気味の悪いものであるだろう。それでも、俺は止まることができなかった。それほどまでに、彼女の存在は一瞬で俺の中に刻まれたのだ。
その日、俺は彼女に鮮烈なる一目惚れをしたのだった。
「マドロック、お前に聞きたいことがあるんだ。」
翌日。俺は目の前で岩をいじって人形を作る友人、マドロックにに例の女性について尋ねることにした。例の女性はサルカズ。ならば彼女の素性を探るならサルカズに聞くのが一番良いのではないかという結論に俺は至ったのだ。
「どうした?私に答えられることなら答えるぞ?」
「助かる。」
マドロックは俺に一度目を向けると─いや、パワードスーツ越しなので本当に向いているかどうかはよくわからないが─再び手元で作業をしながらくぐもった声で答えた。あいも変わらず素顔のよく見えない男である。
「人を探しているんだ。」
「人?どんな人だ?」
「とんでもない美人だ。サルカズの。」
「………なに?」
俺がそう言った途端にマドロックの手が止まった。やはりこいつも男だったか。美人と聞いてつられるとは、割とその辺に淡白な奴だと思っていたが俗なところもあるじゃないか、がはは。メルヴィルは友人の健全な反応に心底安心した。それはそれとして彼女は渡さないが。というかなんか不機嫌なのは気のせいだろうか。
「サルカズの美人?どんな人だ?」
「身長は160前後。髪色は銀のロングで、瞳は紅色。」
「…なに?」
「髪は枝毛なんて一本もないほどにサラッサラで滑らかだったし、めちゃくちゃ輝いてた。目もでかいし、澄み渡っていて─」
「いや、いい。もう喋るな。」
彼女について語っていると、マドロックがそれを遮って来た。悲しいことだ。この程度では語り足りないと言うのに。
「‥それで、角はどうだったんだ?相手がサルカズというのなら、それが分かればかなり早いと思うが。」
ふむ、一理ある。サルカズやヴィーヴルといった角持ちたちは、それを個性として非常に大事にする傾向にある。だからこそ、マドロックはそれが気になったのだろう。
「ああ、それだ。俺もそう思ったんだが…見たことない形でな。2本の黒い角が、側頭部から生えてて、前に向かって伸びた後、曲がって上に伸びてるんだ。」
「………なに?」
マドロックの手が止まる。ははあ、こいつ何か知ってるな?
「それともう一つ。お前が彼女を見た時、どんな格好だった?」
「動きやすそうな格好だったな。スポーツ系、とでも言えばいいのか?それにしては飾り気はなかったが…それがいい。」
「そんなことは聞いてない。」
嘆息と共にマドロックは立ち上がった。こいつもまた、俺と同じくらいの、つまり2mを超える背丈の持ち主で、ロドスで1、2を争う体格をしている。そんなマドロックと俺が共に並んでいるというのは離れてみれば相当な威圧感がある光景だろう。
「…とは言え、私はその女性に会ったことはことないな。」
メルヴィルから少し視線を外して、くぐもった声でマドロックは答えた。その様子にメルヴィルの狩人としての勘が囁く。
「本当かあ?お前なんか知ってそうな感じしてるぜ?」
「………いや、知らないな。」
「ええー?本当でござるかあ?」
最近知った言葉を使って揺さぶるも、マドロックの返答はつれない。本当に知らないのだろうか。
「まあいいや。ロドスにいるのはわかってるからな。そのうち会えるだろ。」
「可能性は高いだろうな。…と言うか、メルヴィル。」
「うん?」
「その人に会って、どうするつもりだ?」
メルヴィルには何故か分からなかったが、いやに真剣な声音でマドロックが尋ねた。
「どうするもなにも。とりあえずはお友達から、ってやつだ。」
そしてそれにメルヴィルも真剣に答えた。例え動機がどれほど不純であろうとも、この気持ちには真摯であろうと決めている。
「…そうか。うまくいくといいな。」
「おうさ。吉報、期待しとけよ。」
パシュ、と音を立てて部屋のドアが開いた。そこから部屋に入ってくるのは、極めて大きな体躯をもつ、全身にパワードスーツを纏った人物─マドロック。マドロックは自室に入ると、兜に手をかけた。
「…ふう。」
もわ、と熱気と共にマドロックの─いや、『彼女』の素顔が明らかになる。真紅の瞳に、銀糸のロングヘアー。側頭部から突き出た、2本の天を衝く黒い角。それは奇しくも、先程メルヴィルが語った女性の特徴と合致していた。
「……。」
がじゃん、と今度は鎧を脱ぎ捨てる。そこからは女性らしさを残しつつも、よく鍛えられた肢体が現れた。そんな彼女は先ほどまで2mを超えるパワードスーツを着ていたとは思えないほどに、極めて一般的な女性の身長をしている。今の彼女を見て、先程までのマドロックと同一人物だと察するのは不可能であろう。体表にはいくつかの源石結晶が現れているが、それが気にならないほどには美しい体であった。そんな彼女は、鎧の下に動きやすそうな、ラフな服装にその身を包んでいた。
「…おど、ろいた。」
誰も見ていない自室で、彼女は1人呟いた。心なしか、その頬は赤く染まっている。
「まさか、メルヴィルが言っていた人は…」
そうだ。確かに昨日遠くからメルヴィルを見た。話しかけようとも思ったが、その前に彼がぎこちなくどこかへ去っていってしまったのでそれは叶わなかったのだ。なのに、まさかこうなるなんて!いや、メルヴィルのことが嫌いとかでは無いが、今までにそう言った経験がないからこそ、彼女は非常に困っていた。
「これから、どんな顔して会えばいいんだ…?」
オペレーター・マドロック。元アビサルハンターにして現ロドスオペレーター・メルヴィルの友人にして、彼が知らないうちに彼の想い人になってしまった美しきサルカズ。羞恥と興奮を胸に頬を赤く染めながら、彼女の苦悩はまだまだ続くのであった。
【メルヴィル】
元アビサルハンター。スカジの後輩。
エリモスからスケベさを抜いて、戦闘力を跳ね上げた感じ。
【マドロック】
推し。旧バージョンからこの人のポジションは変わっていない。