俺の同僚の顔が良すぎる   作:チキンうまうま

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この作品は今回のイベントの内容を含みます。お気をつけください。






職場の赤竜の顔が良すぎる

 

 ロドス・アイランドに夏が来た。気温は連日35度を優に超え、日差しを遮ることのない甲板上ならばそれをはるかに上回る。エアコンの多少は効いている艦内でも、暑さに弱い地域のオペレーターたちが溶けたかのように落ちている時期だ。

 

「失礼しまーす。」

 

 そんな中、エアコンをガンガンにかけた執務室でドクターが書類仕事に励んでいた時のことだ。乱雑なノックの後、1人の黒い装いに身を包んだ獅子人(アスラン)が姿を見せた。

 

「おや、エリモス。こんなに暑いのにそんな格好をしてどうしたんだい?」

「…俺にも事情がありましてね。まあそれは置いといて、これを受理して欲しくてきました。」

 

 普段のロドス制服とは違う、黒いスーツを着たエリモスはそう言ってドクターに何枚かの書類を差し出した。内容はなんてことない、施設利用許可証。ただ、その場所が問題だった。

 

「…本気かい?」

「言いたいことは分かりますが…まあ、俺にも考えがあるんですよ。」

「いや、死ぬよ?マジで。」

 

 苦笑いするエリモスをドクターは問いただした。それもそのはず、彼が使おうとしているのは、この真夏の、しかも真昼の甲板なのだから。冗談抜きで今の気温では、今のエリモスだと死にかねない。

 

「その辺はまあ大丈夫ですよ。アスランは暑さに強い種族なので。」

「…マドロックとかホルンさんに付き添い頼んだほうがいいと思うよ。」

「あ、今回はそれダメです。絶対。」

 

 ブツクサ言いながらもドクターは渋々許可証に判を押した。それを受けとったエリモスはあっさりと踵を返す。

 

「…何をする気だい?」

「約束を果たしに、ですかね。」

 

 投げかけられた問いにそうとだけ答えて、エリモスは執務室を後にした。後に1人残されて、再び書類に目を通し始めたところでドクターは気づく。

 

「あれ、さっきの格好って…。」

 

 エリモスの着ていた黒いスーツ。今さっき見た時はそうとしか考えていなかったが。よく考えるとあれはスーツではない。あれは─

 

「喪服か。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パチリ、パチリと音を立てて火の粉が飛んだ。真昼間であるが故に音以外に目立つことなかったそれが、空中で虚しくも消えていく。

 

「うあっつぅぅぅ…………。」

 

 そしてその傍で、昼間から火を起こしている男─エリモスが1人。彼はこの昼間から、炎天下の中で焚き火をするという地獄の所業に徹していた。

 

「ああああ…ビール飲みたいぃ……部屋に戻りたいぃ……。」

 

 暑さに強いアスラン。そう自称しつつも、この暑さの中では弱音しか出てこない。文句を垂れながらそばに置かれた何箱もある段ボールから燃料である雑誌を取り出し、どんどんと火にくべていった。

 

「…うわあ。何してるの?エリモス。」

「…うぇ?ああ、ドクターですか。」

 

 そんな彼の元に近寄る影が一つ。それはいつも通りの不審者ルックに身を包んだドクターであった。ドクターはエリモスに冷えたスポドリを放り投げると、持ち込んだパラソルを立てて見物し始める。

 

「…ただ雑誌燃やしてるだけなんで楽しいもんじゃありませんよ?」

「それは見たらわかるけどね。…てか、なんの雑誌?」

「あ、ちょっと!」

 

 エリモスの制止も間に合わず。興味本位で段ボールのなかをドクターは覗き込んだ。

 

 中身はピンクな雑誌しか入っていなかった。

 

「……え?」

「ドクター!勝手に見ちゃダメっすよ!」

「いやいやいや!」

 

 もう一度確認する。やっぱりピンクな雑誌しか入っていなかった。

 

「……あのさあ。」

 

 あまりの衝撃に天を仰いで、ドクターは声を絞り出した。

 

「…何やってんの?お前。」

「違いますからね!?これ俺のじゃねえですからね!?」

 

 真夏の昼間からアレな雑誌を処分する成人男性。あまりにもその姿が悲しすぎて額に手をやるなか。エリモスの切実な主張だけが誰もいない甲板に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…つまり、なんだい?」

 

 数分後。ことの次第を聞いて落ち着きを取り戻したドクターがパラソルの下で口を開いた。

 

「これは先日亡くなった君の友人の遺品で、その処分を任されたと、そういうわけかい?」

「だから最初からそう言ってるじゃないですか…。」

 

 ゲンナリとした様子のエリモスが答えた。その原因は明らかに暑さのせいだけではないだろう。

 

「いやあ、君にはあまりにも前科があるものだから、ついね。」

「酷いつい、もあったもんだ。大体ですねえ、ドクター。」

「なんだい?」

「間違ってもらっては困りますが、俺は電子派です。」

「聞いてないよそんなこと。」

 

 真剣な顔をしてそんなことを言い出したエリモスの主張をバッサリ切り捨てて、ドクターは火元へと目をやった。熱気に煽られて、燃え損ねた紙切れがふわりふわりと空を舞う。

 

「危ねえ。」

 

 その紙片がエリモスのアーツにより一瞬で塵になった。いくら何でも流石にこれを公共の場に残すことはできないという判断だろう。エリモスのアーツによって解読不可能になった塵は、すぐに風に吹かれてどこかへと消えていった。

 

「…最初からそうすればいいんじゃない?」

「正直それはアリなんですけどね。」

 

 再び段ボールから雑誌を取り出して、火に放り込んだ。古びた雑誌とカビと埃の匂いが一瞬だけして、でもそれはすぐに熱でかき消される。

 

「あいつ…これの持ち主に言われたんですよ。『あっちでも読めるように出来るだけ燃やしてくれ』って。」

「…その相手は、極東出身かい?」

「よくお分かりで。で、まあそういうわけで今俺はこうやって重労働に勤しんでるんです。」

 

 そっか、なんて声がドクターから漏れた。

 

「今の時期だと昼間は甲板に誰も来ないもんね。」

「ええ。穴場ですよ穴場。何せ下手すりゃ普通に死にますからね、ここ。ドクターも適当に帰ったほうがいいですよ。」

 

 汗を拭い、冷えたドリンクに手を伸ばそうとする。そんな彼らに、コツコツと甲板。叩く音が聞こえてきた。それが聞こえたのだろう、伸ばされかけたエリモスの手が中途半端なところでぴたりと止まった。

 

「ドクターに…エリモス?」

「え…リード?」

 

 この暑さもなんのその。平然とした顔で灼熱の甲板を歩いてきたのは赤竜(ドラコ)、リードだった。彼女を見てその動きを止めたまま、マジで?なんてエリモスがつぶやく中。パチリ、と焚き火の爆ぜる音だけがやけにひびいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、エリモス。」

 

 数秒の硬直の末、最初に口を開いたのはリードだった。

 

「…ああ。なんだ?」

「これ、何を燃やしてるの?」

 

 色々思うところがあるのだろうか。僅かに緊張を含んだ声音のエリモスに対して、リードはおそらく何も考えずに今もなお燃え盛る焚き火を指差して尋ねた。そしてエリモスの目もそれに合わせて動き─

 

「ふうぅぅぅぅん!!!!」

「うわああああ!?」

 

 ノータイムでアーツを起動した。おそらくアーツユニットを兼ねているのだろう左の義手が輝いたかと思えば、放たれた光条によって一瞬で焚き火が段ボールごとかき消される。後に残るのは甲板につけられた痕と、風に吹かれる塵だけだった。

 

「何するんだ急に!てか約束はどうした!」

「この状況でそんなこと言ってられるか!それよかリードにこれ見られるほうが俺にとってもあいつにとってもまずいでしょう!」

「ならせめて私に一声掛けてからやってくれ!心臓に悪い!」

 

 文字通り目の前を通り抜けたアーツに腰を抜かしながら、ドクターとエリモスが醜く言い争う。そんな2人に、リードは首を傾げた。幸いと言うべきか、何を燃やしていたかについては気づかれていないようだった。

 

「えっと、お邪魔だったかな。」

「いや、気にするな。それよりリードはアレか?ドクター探してた感じか?俺席外そうか?」

「ううん、大丈夫。」

 

 冷や汗を流しながら場所を移そうとしたエリモスだったが、その言葉にその足を止めた。そして、リードの方を向く。

 

「リードさ。」

「どうしたの?」

「雰囲気変わったな。だいぶ。」

「…そうかな?」

 

 そのままポツポツと交わされる言葉。2人をよく知るドクターにとっては、その光景は珍しいものだと言えた。

 

「そうだろ。昔はもっとこう…ツンケンしてた。」

「…ツンケン?してないと思うけど。」

「してたろ。」

「してない。」

 

 この2人がこうやって話すのはあの頃以来だろうか。当時のこのコンビは高い戦闘能力を持つリードをエリモスが補助する形でよく戦闘に駆り出されていた。

 

「それにまあ、武器まで変えちまって。槍はもう使わねえのか?」

「使わないわけじゃないけど…今はこれが必要だから。」

「必要?なんでだ?」

 

 首を捻ったエリモスに対して、ドクターはああ、あれかと頷いた。

 

「うん。私は一度、ヒロック郡に─ターラーに戻るよ。」

「…………。」

「その時に、あの槍のせいで正体がバレるわけにはいかないから。だから、この杖に変えたの。」

「……そうか。気をつけてな。」

「うん。」

 

 2人の間を熱された風が吹き抜けた。横でそんな2人を見守るドクターの喉を生唾が伝う。

 

「なあ、リード。1つ聞いてもいいか?」

「うん。なに?」

「…お前が俺を振ったのは、俺がアスランだからか?」

 

 エリモスは目を逸らしてそう尋ねて、それを聞いたリードは目を見開いた。

 

「ううん。そうじゃない。単に、私がキミの側に居られないって思っただけ。」

「…どう言うことだ?」

「エリモス。私の手はね、びっくりするくらいに赤いんだ。」

 

 寂しげにそう言って、リードは杖を握る自分の手を見つめた。

 

「キミが誰かを守ろうとしている時に、私は何人も、何人も、言われるままに殺してきた。そのことに気がついてしまったから。…そんな私じゃ、キミの側にいる資格はないって、そう思ったから。…それが理由。」

「…資格なんていらなかったのに。」

「キミはそう言ってくれるけど、私が気にするんだ。」

 

 そう言ったリードに対して、エリモスは悔しげに唇を噛み締めた。

 

「でもねエリモス。キミが私のことを好きだと言ってくれたのは、嬉しかったよ。」

「…終わった後でそう言われてもな。」

「それもそうだね。」

 

 苦笑いで返したエリモスに、リードも少し笑って返した。その顔は今まで見た中でもずっと穏やかで、そのことはエリモスにも、ドクターにもとても嬉しく感じられた。

 

「ねえ、エリモス。」

「なんだ、リード?」

 

 呼びかけたはいいものの、何かを言おうとして彼女は少し考えこんだ。きっとうまいこと言葉が纏まらなかったのだろう。10秒ほど考えて、そしてようやく口を開いた。

 

「……またね、エリモス。」

 

 紡がれたその言葉にエリモスは目をぱちくりと瞬かせて。そして口角を釣り上げた。

 

「ああ、またな。リード。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ、行っちまいましたねえ。」

 

 遠ざかっていくリードの姿を見て感慨深げにそう言うエリモスに、ドクターはため息で返した。

 

「…私空気だったね。」

「それは、その…すいません。」

 

 ドクターはこのクソ暑い中、2人の成り行きを見ていたのである。それに思い至ったエリモスの内心には罪悪感が押し寄せていた。

 

「いいよ、別に。それよりもだ。」

 

 クーラーボックスから冷えたドリンクを取り出して、ドクターは床を指差した。

 

「君のアーツ痕。そっちをどうにかしないとね。」

「…また修理しときますね。」

「うん。頼んだよ。」

 

 真夏の日差しが照りつける中、することの無くなった2人は荷物を纏め始めた。一仕事終えたとはいえ、まだ日は高い。艦内に戻ればやることはまだまだあるだろう。

 

「あー…風呂入ろう。すぐに。」

「うわいいなあ。私まだやることあるよ。」

「…手伝いましょうか?」

「いいの?ならお願いするね。」

 

 荷物を持った2人は、陽炎揺れる甲板を歩いていった。

 

 





リードさんのね。異格が実装されたんです。引きました。難産でした。ヤトウ貯金が消えました。悲しいね。でも後悔は無いです。ただハーモニーが1人も来なかったのは本当に謎。まあそのうちひょっこり来てくれるでしょう。多分。


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