俺の同僚の顔が良すぎる   作:チキンうまうま

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みなさん、上級資格交換にマドロックが来ましたよ。交換の準備はいいですか?


俺の同僚の顔が良すぎる 3

 

 午前2時。文字通りの真夜中に私たち、ドクターの率いる作戦実行隊はロドスに帰還した。

 作戦に参加していたオペレーターたちの中でもドゥリンやポプカルはすでに夢の世界へ旅立っており、それぞれヤトウやミッドナイトに背負われながら装甲車を降りて行った。そんな中、一際大柄である私は彼らの邪魔にならないように、ドクターや他のメンバーが降りた後でゆっくりと車外へと歩きだした。

 

 外へ出ると、真夜中であるにも関わらず搬出口には多くの人が集まっていた。特に多いのは医療部のオペレーターたちだろうか。彼らは降りて行ったオペレーターたちに怪我の有無と、それから鉱石病(オリパシー)の進行具合を慌ただしく確認して回っている。私のところにも見覚えのある医療オペレーターがきたので、何も問題ないと告げておいた。やはり夜間だからだろうか、そう告げるとまた精密検査してくださいと言われただけで終わったのはよかったと言っていいだろう。

 

 そんな中、ロドスオペレーターに支給されるコートを来た一人の長身の男が私の目に入った。そのくすんだ金髪の男はなにやらノイルホーンやスポットと話していたが、私に気がつくと2人から離れてこっちへ歩いてきた。

 

「よう、マドロック。調子はどうだ?怪我はないか?」

「ああ、私は大丈夫だぞ、エリモス。」

 

 その男の名はエリモス。彼は真夜中であるにも関わらず、私たちを迎えにきていたらしい。

 

「そうか、そいつは何よりだ。」

 

 彼はそう言って笑った後、拳を差し出してきた。

 

「おかえり。マドロック。」

「ああ。ただいま、エリモス。」

 

 私も拳を差し出して、それに答えた。

 多くの人で賑わう搬出口で、私たちの拳がぶつかる音だけがやけに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 コツ、コツと2人分の足跡がリノリウムの通路に響いた。ロドスは医療施設ということもあり、夜中でも明かりがついている通路が多い。今、そんな空間をエリモスとマドロックは連れ立って歩いていた。

 

「どうだった。作戦は。」

「いつも通りだ。ドクターが万全の指揮をとってこちらの被害はなし。相手は報告通り感染者が暴徒化した集団だったから、無力化して捕縛した後に警備隊に引き渡した、と言ったところだな。」

「なるほどな。本当にびっくりするほどいつも通りだ。」

 

 味方に被害無し、という吉報を聞いてなお、2人は喜びを顕にせず、ただ淡々とその事実を受け入れているかのように見えた。

 

「ああ。…ただ、な。」

「うん?」

 

 そこでマドロックの声が低くなった。

 

「…暴徒、と言ったはいいものの、奴らの装備はその…お粗末、なんてものではなかった。規模こそかなりのものだったが、龍門ならその辺のゴロツキの方がいい装備を持っているだろうな。」

「それは…。」

「そうだ。本当に生活に困った挙句に徒党を組んでの犯行だったのだろうな。」

「……ああ、そういう感じか。」

 

 救われない。彼はその言葉を口に出す寸前で飲み込んだ。ロドスは感染者と非感染者との差別を撤廃するべく活動しているが、それでも秩序を乱す者に対してはそれなりの手段を取らざるを得ない。…そしてマドロックは、目の前の友人はかつて望まざるとはいえそちら側にいた人物だ。

 

「ああ、救われない。彼らはただ生き抜こうとしただけなのにな。」

 

 だが、マドロックはさらりとそれを口に出した。そのことにエリモスは驚いたが、マドロックは特に気にした様子もない。

 

「…実はロドスの名と同じくらい私の名は彼らにも知られていたようでな。散々なじられたよ。『なんで感染者のお前が俺たちの敵に回るんだ!』とな。」

「…それは、大丈夫だったのか?」

「ああ。問題ない。」

 

 ここにきて2人の足音が一度止まった。彼らの今いるところは階段へと差し掛かる分岐路。エリモスの居室はここより上、マドロックの居室はここより下となる。

 立ち止まったままマドロックは階段の下を、あるいはその先を見つめた。

 

「私は戦友たちを救うために戦うと決めた。…なんと言われようとも、覚悟の上だ。」

「……強いな、お前。」

 

 エリモスの賞賛を受けて、マドロックが小さく笑った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、だ。マドロック。」

「?どうした、エリモス。」

 

 数分後。まだマドロックと共にいたエリモスは彼女に尋ねた。

 

「…お前、なんで俺の部屋にいるんだ!?今夜中の2時半だぞ!?」

 

 なぜかあの後マドロックは自室へと戻らずに、エリモスの部屋へと訪れていた。すでにスーツはその辺に脱ぎ捨てており、動きやすそうな服装に身を包んだ姿で、素顔を晒している。

 

「いや、実は移動中に変に寝たから今妙に目が冴えていてな。今から眠れそうにもないし暇だからエリモスに相手してもらおうかと思ったんだ。…確かシージが言っていたんだが、アスランは夜行性なんだろう?」

「え、いや知らん。そうなのか?」

 

 確かにそう言われてみるとシージは昼間よく寝ている気がする。とはいえ同じ種族でも個人差は当然存在する。同じ夜間に活動できる兎人族(コータス)でもアーミヤは昼間に活動していることが多いし、逆にアンセルは夜間に活動していることが多い。そういうのはあまり当てにならない、というのが実際のところだ。

 

 彼は口ではそう言いながらもエリモスは律儀にコーヒーと茶菓子を用意していた。前世の影響を受けてかスラム育ちのくせに無駄に舌の肥えた彼の部屋にはお菓子が常備されているのである。

 

「ミルクと砂糖はいるか?」

「いや、ブラックで大丈夫だ。…酒じゃないんだな。」

「生憎と今日は休肝日だ。身体が資本なんでな。」

 

 淹れ終えたコーヒーとバター茶風味のクッキーをマドロックの前に置くと、エリモスもまたコーヒーを啜った。どうせ明日、というか今日は非番。ならこの時間を楽しもうではないか。

 

「あー…沁みる。なんかわからんけど夜中のコーヒーってやたら美味いよな。」

「分からなくもない。…そうだ、エリモス。聞いたか?」

「何をだ?次の作戦か?砂漠地帯での作戦なら俺頑張るぞ?」

「違う、()()だ。もうすぐ貰えるらしいぞ。」

 

 休暇。それを聞いたエリモスは顔を歪めた。それを見て、予想していたのと違う反応にマドロックは首を捻る。

 

「…嫌なのか?休暇だぞ?」

「いや…休暇かぁ。そりゃ嬉しいんだけどよ。」

 

 ああ、そうか。お前初めてだもんな。そう言って彼は苦々しくコーヒーに口をつけた。

 

「覚えておけ。ロドスの休暇はハプニングがつきものだ。しかも毎度それで予定が潰れるんだよ。」

「…なんだと?」

「これはマジだ。前シエスタ行った時なんかありゃ酷かったぞ。何が楽しくて休暇中に馬鹿でかいオリジムシと戦わにゃならんのだ…。」

 

 あの時は突然休暇中に仕事が入ったりだとか、ナンパしたシュヴァルツにはあっさり振られたり、ヤケになって砂浜に作ったアートが5分で壊されたりとかで散々だった。とりあえずシエスタには二度と行きたくない。

 

「…大変だったんだな。あと、休暇の前に重装オペレーター内での飲み会するらしいぞ。」

「ああ、それは聞いてる。割と楽しみなんだよな。」

「なんだ、知ってたのか。ただこれを聞いたブレイズが参加したいって言ってたから他のポジションからも参加者が出る可能性はある。」

「あの酒豪来るのかよ!?嫌だぞ俺あの人に吐くまで飲まされるの!」

 

 あれは酷かった。ホシグマは笑いながら俺のジョッキに酒注いでくるしブレイズとニェンはコールしてくるし俺が断ったらメイリィ(未成年)が飲まされそうになるし。今まで生きてきて吐くまで飲んだのはあれが初めてだった。ついでにあの3人は次の日ケルシー先生にバチボコに叱られていた。

 

 …というかさっきからひどい思い出しかでてこない。もしかしてロドスはブラック企業なのではなかろうか。

 

「ふふっ。そこはエリモスが頑張るしかないだろう。」

「いや無理無理無理無理!頑張るとかじゃないんだよあの人は!」

 

 飲み会には行きたい。でも潰されたくはない。葛藤するエリモスを見ながらマドロックは1人カップを傾けた。

 

 賑やかな声が部屋を埋める中、月だけが2人を静かに見つめていた。




【第三資料】
「俺のアーツですか?そんな変なものでは無いと思いますが。別に体が砂に変わる、とかでも無いわけですし。」
 彼自身は自身のアーツについてこう語るが、それについて一部の術士オペレーターたちからは反論が上がっている。彼らは、エリモスのアーツの真髄は砂の操作では無いことに気がついたのだ。
「エリモスさんのアーツは砂、というよりかは…うーん、乾燥?いや、これも違いますわね。なんと言えばいいのでしょうか、とにかく砂を操れるのは一つの側面に過ぎませんわ。」
 スカイフレアは彼の戦いを見てそう言った。
「ただ、彼の本来のアーツがどんなものかは全くわかりませんの。彼自身もわかっていないのなら、私にはお手上げですわ。もしかしたらとんでもなく危険なものなのかもしれませんわね。」
 彼女はそう言ったが、彼自身は自身のアーツを作戦時以外には砂場で子供達と遊ぶ時くらいしか使っていない。彼の本来の力が発揮される時は来るのだろうか。

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