アルハラ、ダメ、絶対。
筆者との約束です。
「盃を
「乾杯と読む!!」
「「乾杯!!!!」」
高らかに挙げられた音頭と共にエリモスは目の前のオニ族の女性─ホシグマとジョッキを打ち合わせた。そのまま腕を酌み交わすといわゆるドイツ式乾杯のポーズを取り、中のビールを一気に飲み干した。
「うぼっはああああ!なんぼのもんじゃああああい!」
「ははっ!流石、なかなかいけるじゃないか、エリモス。」
飲み干したジョッキを机に叩きつけると、即座に再びジョッキにビールを注ぎ足される。継ぎ足した本人であるホシグマは彼のその様子にご満悦であった。
「そりゃそれなりにはいけるさ。…おい、待てホシグマ。その手に持ってるのはなんだ?」
「
「飲めるかあ!…おいやめろ、それを近づけるなせめてまだ別のを飲ませてくださいなんでもしますから!」
「ほう、言質はとったぞ。」
「やっべ。」
酔ったはずみで軽々しく約束をしてはいけない。エリモスは近い未来に訪れる試練から目を逸らすべくジョッキを傾けた。
飲み会。人によっては死ぬほど嫌いなものであり、人によっては好き好んで開くものである。そしてどちらかと言うとエリモスは後者であった。
ロドス内で開かれた重装オペレーターメインの飲み会。まああくまでメイン、というだけであって今回は
…ところでマドロックはどうするんだろうか。一応誘ってはおいたが、どうするかはわからない。
「唐揚げうめえ。」
「鶏は揚げたらうめえんだよ。」
「マジで世界の真理だよな。揚げた鶏にハズレはねえんだよ。」
始まってすぐ、エリモスはスポットとノイルホーンの2人と酒を酌み交わしていた。彼らは数少ない重装男子組として交流を持っているのだ。
「それヴィクトリア人の前で言うなよ。あいつらは揚げ物ですらうまく作れんからな。」
「…いや、お前もヴィクトリア人だろうが。」
マジであれはギットギトで食えたものじゃねえよ、と吐き捨てたエリモスに、スポットが突っ込んだ。
「俺はいいんだよ。揚げ物以外も下手くそなんだから。」
「なんでちょっと自慢げなんだ。」
「流石厨房出禁リスト入りした男だな。面構えが違げえ。」
これに関してはヴィクトリア出身者のほとんどが該当しているのだがそこは言わないお約束である。
「…これでもスラムの頃はチビ共に飯食わせてたんだがなあ。なんでか料理は上達しなかったんだよ。」
「聞くだけで悲惨すぎる。」
「子供たちがかわいそうだ。」
「うるせえぞ2人とも!お前らも人のこと言えないくらいには大概下手くそだろうが!」
お前よりマシだわ、と言う反論を聞き流しながらやけになってビールを呷る。勢いよく飲み干すと、少しだけぬるくなった液体が喉を通り抜けていった。
「おーいい飲みっぷり。」
「景気いいな。」
「いいだろういいだろう。…景気いいといえばなんか景気いい話ないのかお前ら。」
ドン、とジョッキを机に叩きつけてエリモスは2人に尋ねた。…まあ片方に関してはネタは上がっているのだが。
「俺はねえな。新しい漫画が手に入ったくらいだ。」
即答したのはスポットだった。彼がいわゆるヲタクだというのはオペレーター内では割と有名な話である。
「よかったじゃねえか。」
「どこのやつ?極東?炎国?」
「極東。読み終わったら貸してやるよ。」
「助かる。…ノイルはどうだ?」
「あん?…あー、俺もなにもねえよ。」
どうやらシラを切るつもりのようだ。彼の自供にスポットとエリモスは一度アイコンタクトを取ると、同時に口を開いた。
「「ダウト」」
「……んだと?」
ピクリと眉を顰めたノイルホーンに(食事中だからか彼は今珍しくマスクを外している)、2人は淡々と知り得た情報を畳み掛けた。
「お前がヤトウとうまくいったって情報は入ってんだよ。」
「いやあ羨ましいですなあノイル君?同部隊に彼女がいてさあ?」
「まったくだ。」
「…知ってんのかよ。」
2人の追求にノイルホーンはため息をついた。
「そもそも前々から噂にはなってたからな。」
「正直ようやくか、って感じだけどな。…いいなあ、俺も彼女欲しい。」
「…それお前ずっと言ってるよな。」
「ずっと言ってるね。」
今度はエリモスがため息をつく番だった。
「今何連敗だ?5くらい?」
「えーっと…チェンさん、シュヴァルツ、スルト、リード、ニアールさん…5連敗だな。」
「聞く限りかなり濃いメンツだよな。」
「強い人が好きとかいう好みがマジで透けて見えるメンツだよな。」
「強い人っていうよりかはそう簡単に死にそうにない人って感じなんだけどな。」
一度ジョッキを呷って中身を空にすると、即座にノイルホーンが追加のビールを注いでくる。ありがたく受け取ると、エリモスはまた口を開いた。
「あと顔。」
「…………そうか。」
お前の好みなど知るか。スポットはそうバッサリ切り捨てると少しだけ冷めた唐揚げに手を伸ばした。
「どうだ、飲んでるか?」
「……ホシグマ。」
それからも男3人でチビチビとやっていると、ビール瓶を抱えたホシグマがフラリと現れた。飲み始めてからそれなりに時間が経っているだろうに、顔色は何一つ変わっていない。
「なに、そんな怖い顔をするな。別にとって食おうというわけでもないのに。」
「…自分が過去に俺に何したかを思い出せよお前。」
ホシグマは相棒であるチェンですら彼女の酔ったところは見たことがない、と語るほどの酒豪。そんな彼女に酔い潰された者はロドスでは数えきれない。ホシグマがオフモードの時は特に、だ。そしてエリモスもまたその被害者の1人だった。
「ただ酒を飲ませただけだろう。大したことは何もしていないぞ。」
「量を考えろよ量を。なあ、2人と、も…?あれ?どこ行った?」
エリモスが2人に同意を求めたが、返事がない。どころか、姿すら見当たらない。辺りを見回す彼に答えを告げたのはホシグマだった。
「あいつらならさっき同隊の奴らに呼ばれてどっか行ったぞ。」
ほらあそこだ、と指を差した先には確かにA4とA6の連中に混ざる2人の姿が。彼らはこっちを見ると静かに一度敬礼をして、再び輪の中へと戻っていった。
「(あいつら俺を囮にして逃げやがった!)」
今さら気付くももう遅い。すでにエリモスの肩にはホシグマの手がガッチリと回されていたのだから。
「なに、寂しく思う必要はないぞ。私がお前の相手をしてやろう。」
「…お手柔らかに頼むぜ。」
今度訓練の時にあいつら殴ろう。その決心と共にエリモスは死地へと足を踏み出した。
そして30分後。そこには限界を迎えたエリモスの姿があった。あたりには酒瓶が転がっており、この短時間でどれだけ飲んだかが窺える。
「…もう無理。」
「なんだ、もう終わりか?」
「…鬼のお前と一緒にするなよ。」
これでも人よりは飲める方だぞ、と絞り出すかのように言い返すと彼は机に突っ伏した。飲みすぎたからか、視界がおぼつかない。そんな彼の目の前に、コトリと音を立てて1つのグラスが置かれた。
「水だ。飲んでおけ、エリモス。」
「ああ、あんがと…。」
水を置いてくれた白髪のサルカズにお礼を言うと、エリモスは一気に水を飲み干した。これだけで一気に気分がマシになった気がする。
「え、いや、ちょっと待っていただきたい。見ない顔ですが、あなたは…?」
何故かホシグマが慌てているがどうしたのだろうか。ホシグマを心配する余裕はないのでひとまず放っておくことにする。
「ああ…生き返った…。ありがとよ。」
「この程度なら礼を言われるまでもない。…それにしても飲みすぎなんじゃないのか、エリモス。」
「自分から飲んだんじゃねえ。飲まされたんだよ。」
気がつけば周りがざわめき始めている。そしてその視線は自分と、目の前のサルカズに向けられていた。
「それにしても、お前来れたんだな。」
来ないものかと思ってたぜ。彼女が差し出した追加の水を飲みながらエリモスは言った。
「ああ、たまたま定期検診が重なってな。それで遅れたんだ。」
「なるほど。そりゃ仕方ねえわ。ま、来れたなら何よりだぜ、
その名前を出した途端、会場の空気がピシリと固まった。そして数秒後、爆音が2人を襲うこととなる。
「「「「「「「「マドロックだとおおおお!!!???」」」」」」」」
「うおっ?なんだ、急に。」
「うるせえ…頭に響く…」
宴もたけなわ。まさにその状態のロドスオペレーターたちに新たな爆弾が落とされた。
エリモスの印
古びたモンキーレンチ。技師として、そして戦士として。彼の全ての始まりの一品。
【第四資料】
権限記録
獅子は如何に育とうとも生まれた時から獅子なのだ。そのことを忘れるな。
─ケルシー