毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~ 作:ケ・セラ・セラ
「で、どこから探す?」
カウンターの裏、ギルドの事務所を通って酒場に戻りながらモリィが聞く。
「それなんですけど、モリィの目はどれくらいの範囲まで探せます?」
「猫だよな。野っ原なら4、5キロくらいならイケると思うけど・・・」
王都メットーは建築物の密集する、しかもさしわたし8キロにも及ぶ巨大都市だ。
いかにモリィの《目の加護》とはいえ、物体を透かして見る事はできない。
「ええ、だから障害物のないところから探せばいいわけで」
「?」
「うわ、うわ、うわああああああああああああああああああああああ!?」
モリィの絶叫が響く。
しかし、それを聞いている人間はヒョウエと鳥以外にいない。
二人は今王都の上空500mの空中にいた。
魔女のほうきのようにタンデムでヒョウエの杖にまたがり、空中に浮いている。
「おおおおお落ちる落ちる落ちるーっ!」
「落ちませんよ。念動の術でちゃんと杖に体を固定して・・・ぐえっ!?」
後ろからヒョウエの首根っこにかじりついたモリィの腕が綺麗なチョークを決めた。
パニックを起こしたモリィはそれに気づかず、ヒョウエは本日二度目の酸欠にジタバタしている。
このコントはしばらく続いたが、幸いなことにこれで制御を失って仲良く墜落死、などというまぬけな死に方はせずにすんだようだ。
モリィのパニックも収まり、杖にまたがった二人は王都の上を遊覧飛行していた。
落ち着いてみれば確かに見えない壁に支えられている感じがして、多少体を動かしても落ちそうにはない。
「で、上から探せばいいんだな?」
「ええ。これなら路地ものぞき込めるでしょう?」
狭い路地裏や生け垣の向こう、屋根や壁の上まで一目でのぞき込めるのである。
モリィの《目の加護》と組み合わせれば、なるほど効率が良かった。
「結構野良猫多いなあ。まあかなり特徴的だから、いりゃあ目立つと思うけどよ」
依頼書に添えられていた似顔絵?によれば灰色の美しい毛並みとすらっとした体型を持つ、我々の世界で言えばロシアンブルーに近い種である。
外国から輸入した品種で、この国では滅多に見かけない。
「まあその辺をうろついてるだけならそのうち見つかるでしょう。
問題は何者かに誘拐されてた場合ですけど・・・その時はその時で」
「オーケイ」
しばらくそのまま二人は王都の上を飛び続けた。
「しかし飛ぶってのも意外と気持ちいいもんだな。どうよ、ヒョウエ。その辺に"青い鎧"が飛んでたりしねえかな」
「・・・さあ、どうでしょうね」
"青い鎧"。
"青騎士"、"空飛ぶ青"、あるいは単に"あの青いの"などとも呼ばれる、ここ数年で王都に現れるようになった『ヒーロー』である。
刃傷沙汰、盗み、追い剥ぎ、火付け、人さらい、そして人殺し。そうした犯罪が行われているところに現れては犯罪者を打ち倒し、被害者を助けて去って行く。
確かに冒険者の中にも"
わずかではあるがそれで黒等級――"
しかし"青い鎧"はそれとは桁が違った。
王都のどこであろうともそうした犯罪が発生するたびに、知っていたかのようにその場に現れては犯人を打ち倒して警邏に突き出し、被害者が怪我を負っていれば魔法で癒す。
剣も魔法も跳ね返し、どんな凶悪な犯罪者であろうとも拳の一突きで打ち倒す。
彼に捕縛された犯罪者は数知れず、彼のおかげで命を永らえた人々もまた数知れない。
一年も経たないうちにその手の犯罪は激減し、今では警邏や"
どこから来たのか、何者なのか、誰も知らない。
しかし、王都に住む誰もが彼を知っている。
謎に包まれた最新の
「・・・・あっ」
「どうした?」
ゆっくりと王都の上空を移動しているさなか、突然ヒョウエが声を上げた。
「ええとその、野暮用でして」
「ションベンが近いなお前。ひょっとしてマジで女なのか?」
「男ですよ!」
むきになって反論しながらもヒョウエは手近の公園に降りていく。高さ15mの、王都でも屈指の高さを誇る時計塔のある公園。昔は見張り塔だったものを、都市の近代化を機に時計塔に改装したものだ。
平日ではあるが午前中の公園にはそれなりに人がいて、子供達の遊ぶ姿も見られた。
驚きの声が上がり、子供達が歓声を上げて駆け寄ってくる中で二人は着地し、ヒョウエはそのまま公衆トイレに駆け込む。
そう。この世界、大都市には大体公園があり、公園には公衆トイレがあるのだ。
都市の衛生政策の一環だが、冒険者族が絡んでることはいうまでもない。
「凄い!」
「どこから来たの!?」
「お姉ちゃんたち冒険者?」
「緑板? それとも黒板?」
「"青い鎧"のお友達なの?」
「あーうるさいうるさい、たかるなガキども。あたしたちは冒険者だけど、"青い鎧"とは関係ねえよ」
わらわらと寄ってくる子供達を突き放すことはせず、素っ気なくだが相手してやるモリィ。意外に面倒見がいい。
そうして適当に子供達の相手をしてやってるうちに、ぐらり、と地面が揺れた。
「わっ!」
「きゃあっ!?」
この地域では地震は珍しい。そして今のそれはかなり大きかった。
遊んでいた子供達の母親とおぼしき女性たちが慌てて子供達のところに駆け寄っていく。
とは言えさほどの間を置かず揺れは収まり、モリィも胸をなで下ろそうとして――絶句した。
時計塔が根元からひび割れて折れ、15mの塔が芝生にゆっくりと倒れ込む。
その下には恐怖に硬直する母子。
思わずモリィは走り出した。だが駆け寄るには余りにも遠い。モリィ自身も間に合わないとわかっている。
助けられない。
逃げる暇もない。
誰もがそう思ったその瞬間――ファンファーレが鳴った。
その場にいた人間は全員確かにそれを聞いた。
奏でるものなどいなくとも。
そこがたとえ荒野のただ中であっても。
ヒーローは、ファンファーレと共に現れるのだ。
倒れ込んだ塔が空中で止まっていた。
否、止められていた。
宙に浮かぶ、たった一人の人間の手によって。
深い青の騎士甲冑。ひるがえる真紅のケープ。
「青い鎧」。
ついさっき噂していた謎の"ヒーロー"を、モリィは呆然と見上げている。
長さ15m、太さ5mの塔が空中で停止し、しかもゆっくりと横に動く。
周囲の人々が慌てたように場所を空け、「青い鎧」はそれを確認してゆっくりと塔を地面に下ろす。
歓声が爆発した。
「うおおおおお!」
「わあああああああああああああ!」
それらの歓声にも反応を見せず、青い鎧は助けた母子の方をちらりと見て頷いた。
ついでモリィの方へ顔を動かす。
(・・・今あたしを見た?)
モリィが眉をひそめたのもつかの間、青い鎧は一瞬にして彼方へ飛び去り、同色の青い空に溶けて消えた。
歓声とざわめきが冷めやらぬころ、のんきな顔でヒョウエがトイレから出てきた。
「どうしました?」
「あー、ほれ、あの時計塔な。下敷きになりそうな奴を"青い鎧"が助けたんだ」
「あーなるほど」
ヒョウエが何やら考え込む。
「しっかし人気だよなあ。ガキどもがこれだけ騒ぐんだから」
「そうですね」
「?」
先ほどからどこかそっけないヒョウエに違和感を感じ、顔を覗き込む。
ヒョウエはそれに反応せず、杖を宙に浮かべた。
「じゃあ仕事を続けましょう。またがって下さい」
「ん、ああ」
二人を乗せた杖がふわりと浮くと、回りの子供達からまたどよめきが起きた。
「すげー!」
「浮いてる!」
「青い鎧みたい!」
「乗せて乗せて!」
「はいはい、あたしたちは今仕事中だからまた今度な」
ふと気がつくと、ヒョウエが生暖かい笑み(モリィ視点)でこちらを見ていた。
「・・・あんだよ?」
「いえいえ、なんでも。それじゃ行きますよ」
更に高度を上げる杖。
子供達の歓声をバックに、二人は再び猫探しを再開した。