毎日戦隊エブリンガー ~最強ヒーローの力で異世界を守ります~   作:ケ・セラ・セラ

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04-03 田舎者

 四人揃って馬車を降りる。

 走り去る馬車の窓から身を乗り出して、心配そうにこちらを見ているカーラに手を振ってやった。

 馬車の影も小さくなったところで身を翻し、先ほどの集団の方に歩き始める。

 途中の店で地味な外套を買ってヒョウエとリアス、カスミに着せた。

 

「もうそろそろこの格好じゃ暑いんですけどねえ・・・」

 

 季節は乙女の月に入った所。もうそろそろ初夏である。

 

「お前らみたいな目立つ奴らがうろついてたら一発でばれるだろ」

「モリィさんはいいんですの?」

「恨むならそんな派手な格好をしてる自分を恨みな」

 

 モリィは豊満な体つきを除けば、よくある斥候(スカウト)風の革の上下。

 対して他の三人は派手なローブに派手な白鎧にメイド服。

 恨みがましげなリアスの視線に、ニヤニヤしながらモリィは答えた。

 

 

 

「星の騎士ー!」

「グランさまー!」

 

 二街区(ブロック)ほど戻ったところで集団の端っこに接触した。

 周囲の群れはミーハーや野次馬の類のようで、歓声がひっきりなしに飛んでいる。

 

「人気だなあ・・・まあわかるけどよ」

「サインでも貰ってきますか?」

「よせやい、本物ならいざ知らず」

 

 モリィが肩をすくめる。

 そんな無駄口を叩きつつ、一行はしばらく行列についていった。

 

 先頭に「星の騎士」と数人の騎乗した男。その後ろに行進曲を奏でる数人の楽士。

 それに続くのはおそろいの青いマントと星形の止め具をつけた冒険者らしき男たち。武装はまちまちだが金属鎧を着ているものや、腕の立ちそうな連中はほとんどいない。

 

「・・・」

 

 ちらり、と仲間の三人に視線を飛ばす。

 モリィが再び肩をすくめ、リアスとカスミは無言で首を振った。

 

 更に一街区を東へ進み、行列は北へ曲がった。

 メットーは基本的に北の方へ行くほど金持ちや身分の高い人間が住んでいる。

 

「どこかの豪商か貴族に呼ばれたんでしょうかねえ」

 

 更に一街区半を進み、そこで騎乗した数人が貴族の館らしき敷地に入っていく。

 冒険者風の男たちは外で待機し、野次馬たちを散らす。

 

「ほれほれ、『星の騎士』さまはお貴族様と会見だ! もうしばらく出てこねえよ!」

「ちぇー」

「あーあ」

「・・・!」

 

 残念そうに散っていく野次馬たち。

 その中でヒョウエと仲間達が僅かに目をみはっている。

 

 ウィナー伯爵邸。

 つい先ほどまでヒョウエたちがいた場所だった。

 

 

 

 ウィナー伯爵。

 つい先日、冒険者ギルドに面倒な依頼を持ち込んだ男だ。

 貴族としても、商売人としても、軍人としても優秀な男だが、後ろ暗い噂が絶えない。

 

「魔道具にも造詣が深く、魔導技師としての知識と技術は極めて高いというのが同業者の間でのもっぱらの噂です」

 

 姉弟子から聞いた話を思い出す。

 そんな男からの依頼は貴重品の警備。秘密厳守、最低緑等級以上、拘束期間数ヶ月。

 受ける冒険者がいなくて困っていたギルドが泣きついたのがヒョウエ達だった。

 割増料金付きで請け負ったが、結局仕事は一週間で終わった。

 

「この『星の騎士』の来訪と何か関係が・・・」

「あのー、もしもし?」

 

 僅かに物思いにふけっていたらしい。

 後ろから肩をつつかれ、ヒョウエは振り向いた。

 

「あの、これは何かのお祭りなんですか?」

 

 四人の後ろに、大柄な男が立っていた。

 一見して田舎の純朴な兄ちゃんと言った雰囲気の青年である。

 体つきはたくましいが武術の心得があるようには見えない。

 野暮ったいが貴族街を歩いていてもぎりぎり見苦しくない程度に服装は整っていた。

 

(田舎の村長の息子さんとかでしょうかね)

 

「ああいえ、ライタイムの『星の騎士』さんがメットーに来てましてね。そこの伯爵家に入っていったところですよ」

「へえ、星の騎士! すごいなあ、一目見たかったなあ! いや僕もね、ライタイムの方から来たんだけど。もうちょっと早く出発してたら一緒に旅できてたなあ」

「へーえ。それは残念でしたね」

 

 ちらり、とカスミの方を視線だけでうかがう。

 極々僅かにカスミが頷いた。

 

「そう言えばメットーへは何の御用で? あ、僕はヒョウエです」

「これはご丁寧に。僕はロージ。用は・・・物見遊山かなあ。一応受け取らなきゃならないものもあったりするけど、ついでにあちこち見て回ろうかな、なんて」

「アトラからいらしたんですか? 向こうに比べるとメットーの町並みは物珍しいでしょう」

 

 ライタイム王国の首都アトラ。

 900年前の大地震で崩壊したメットーと違い、地盤の安定した地域にあるアトラは真なる魔法文明の時代からの古都だ。

 王国の名前は何度も変わったが、都は変わらず古代の建築様式を色濃く残している。

 冒険者族によって整然と再設計されたメットーとは、雰囲気がまるで違うはずだ。

 果たして青年が笑顔で、勢いよく頷いた。

 

「いや本当に驚いたよ! あっちは路地がごちゃごちゃしててね。

 メインストリートですらまっすぐじゃないし、幅もここの大通りの半分くらいしかない! いやあ、先進的な町だねえ!」

 

 それからもメットーのこと、ライタイムのこと、『星の騎士』のこと・・・話は弾んだ。

 その途中、くう、とヒョウエの腹が鳴る。

 

「あははは、失礼」

「いえいえ・・・おっと」

 

 ぐぎゅるるる、と今度は青年の腹が盛大に鳴る。

 一瞬顔を見合わせて、二人は笑い出した。

 少女たちが揃って苦笑を浮かべている。

 

 

 

 五人は少し南に下り、繁華街の屋台が並ぶあたりに来ていた。

 中華料理の屋台(無論オリジナル冒険者族が持ち込んだものだが、こちらの世界風に大分アレンジがかかっている)に腰掛ける。

 

「おやっさん、炒飯大皿と鶏排、春巻、エビチリに葱油餅、香草茶と食後に仙草」

「アイヨー!」

 

 馴染みなのか手慣れた様子で注文するヒョウエに、石炭かまどで両手用の中華鍋を振っていた親父が威勢よく返事する。

 

「他に何か食べたいものあります?」

「いや、取りあえずはそれ位でいいかな・・・仙草ってなに?」

「香草で黒く色づけした寒天を四角く切って、甘味のある蜜で食べるデザートです。

 油ものの後に食べるとさっぱりして美味しいですよ」

「へーえ」

 

 運ばれてきた点心をつまみながら話を再開する。

 この頃になるとヒョウエだけではなく、モリィ達も話に加わるようになっていた。

 

「この屋台も許可制でしてね。毎年免許を更新しないと商売できないんですよ」

「へー、そうなのかあ。ディテクは色々違うなあ」

 

 ぽつぽつした語り口で、話がうまいというわけではないが反応が率直で素直。

 野暮ったくはあるが好青年と言っていい人物だった。

 

「そういやあロージ、最近ライタイムの方はどうなんだ? 何か大事件とかあったりするのか?」

「いやあ・・・特にはないと思うよ。もちろん冒険者の人はゴブリン退治やら猫探しやらで毎日忙しいみたいだけど」

「その辺はこちらとお変わりないようですね・・・」

「『星の騎士』がこっちに来てるのは何故か、ご存じですか?」

「うーん、わからないな。そもそも星の騎士がライタイムを出たって言うのも、国境を越えてから知ったし」

「ふむう」

 

 『星の騎士』はライタイム最強の冒険者の一人だ。

 つまり、国家防衛の要の一つでもある。

 そうそうたやすく国を出られる身分ではない。

 到着した鶏排(鶏のスパイス揚げ)をかじりつつ、ヒョウエが唸る。

 話に唸っているのか、味に唸っているのか、多分両方だろう。

 

「それじゃあ・・・」

 

 ヒョウエが何かを言おうとしたときだった。

 

「!」

 

 一瞬だが、ロージの目に別人のような鋭い光が宿る。

 

「オヤジさんごめん!」

「ヒエッ!?」

 

 かまどで両手鍋を振っていた店主に手を伸ばし、鍋を引っこ抜いて後ろを振り向く。

 同時にカスミの聴覚が宙を切る音を捉え、モリィの目がこちらに飛んでくる五つの、拳ほどの石つぶてを捉えた。

 

「やべ・・・」

 

 警告を発しようとするが既に遅い。

 ヒョウエも素早く立ち上がっていたが、振り向く前に石つぶてが着弾する。

 その時。

 

「!」

 

 ロージが両手で持った中華鍋をくるりと回転させる。

 ただそれだけの動きで、こちらの卓を狙っていた石つぶてが全て弾かれた。

 五つのつぶてがそれぞれ石畳や街路樹に当たって止まる。

 

「きゃっ!」

「わっ!?」

 

 驚きの声がいくつか上がった。

 

「おお・・・!」

 

 リアスとカスミが感嘆の声を上げる。

 そして《目の加護》を持つモリィにはそれ以上のことも見えた。

 正面から防いだら貫通するであろうそれを、鍋の曲面で全て受け流す。

 それを誰にも当たらないように、しかも真昼の通行人の多い大通りでやってのけた。

 鉄製とは言え、ただの薄い鉄板でしかない中華鍋にはへこみ一つない。

 

(ナニモンだこいつ・・・!?)

 

 呆然と警戒が入り交じった視線で男を見る。

 そいつが振り向いて笑顔を向けてきた。

 

「やれやれ、危ないことする奴がいるもんだ・・・うわっちぃぃぃぃ!?」

 

 ロージが絶叫して鍋を放り出した。

 両手が真っ赤になっている。

 

「いや兄ちゃん、火に掛けてた鍋を素手で掴んだらそりゃそうなるヨ」

 

 涙目で両手に息を吹きかけるロージに、店の親父が呆れたように言った。

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